電子限定書き下ろしSS付き
尾上先生の作品は1945シリーズしか読んだことがなかったので、他のも、と手を伸ばした次第です。
本書「アヴァロンの東」と「ルドヴィカの騎士」は2冊同時刊行だったようで、一つのシリーズになっているとのこと。
架空の王国の史劇でした。魔女や奇跡の泉などが登場し死者が生き返ったりもしますが、ファンタジーと言うにはもう少し骨太な印象を受けます。
王政の両輪であるはずの王家と教会が対立し、王家に仕える騎士であるイグナーツと教会側の修道騎士ヨシュカが、恋人同士でありながら敵味方に分かれるというお話で、この設定だけで大変わくわくしました。
ですが実際に読んでみて、あれ?と思うことも多く、特に前半は骨太な世界観とBLらしさとの乖離が目立つように感じ、二人が隠れて逢い引きしてイチャイチャすればするほど、今そういうことをしてる場合じゃないなあとこちら側が冷めるという事態に。
せっかくの設定が勿体ないと思ったので、サービスシーンはもっと少なくしてもよかったかも知れないです。
ただでさえ姫感の強いヨシュカが男に見えなかったり、よがり過ぎだったり、個人的には残念でもありました。
ヨシュカが生き返ってからのイグナーツは少し駄々っ子が入っているようにも感じられ、アヒムの言動と末路も納得の行くものではなく、すみません、どうも首を捻りながらの読書になってしまいました。
巻末SS「されどそれも佳き日」は、料理のできない二人が可愛くて楽しかったです。
こちらではヨシュカも「面倒だから先に行って片付けて来い」と言うなど、男を感じられたのも良きでした。でも出来たらラストシーンでは失敗スープをつくったのはヨシュカ単独ではなくて、二人での方がよかったです。
尾上与一先生・奇跡の泉シリーズ、死者を復活させる《聖ルドヴィカの泉の奇跡》の「金」は、イグナーツとヨシュカ編。「銀」は、ヨシュカの兄編。
・・幼いヨシュカが登場する「銀」を先に読むべきだった
ルドヴィカは架空の地名。
泉で「蘇りの魔法」を行い、死んだ恋人を互いに蘇らせて、戦いから離れて旅に出るという流れ。
敵対しても、死別しても、互いを離さない、二人が貫く愛は凄みと迫力あります。
乱世に生まれた二人の悲恋の苦しみの描写が続いて、ハッピーエンドは、旅立ちの描写1行だけ。
じっと辛抱して悶えたい人向けの小説です。
二人は、戦闘から離脱して、アヴァロンの東へ向かう。
アヴァロンの東に行った後の二人についての小冊子が非売品なので、読了した人のネタバレがありがたいです。
★コミコミスタジオ2冊セット購入特典小冊子「風の噂に伝え聞くには」
金を読了。これから銀を読みます。
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調べもの:
ルドヴィカ:
「福者ルドヴィカ・アルベルトーニ」 (en:Beata Ludovica Albertoni』(1671年 - 1674年)
貧者に対する献身で人々に福者として崇められた、奇跡を起こし、空中浮揚や恍惚を体験した女性苦行者。
「アヴァロン」:(Avalon、またはアヴァロン島)
ブリテン島にあるとされる伝説の島。 アーサー王物語の舞台。
アヴァロンは美しいリンゴで名高い楽園、ケルト語でリンゴの「abal」に由来する「恵みの島(Isle of the Blessed)」
フレイヤ:(Freja, Freyja)
北欧神話の女神、美、愛欲、豊穣、魔法、戦闘、死を司る女神。
修道騎士:
中世のローマ・カトリックの修道会の修道騎士団のこと?
正式名称は「キリストとソロモン神殿の貧しき戦友たち(ラテン語: Pauperes commilitones Christi Templique Solomonici)」で日本語で「神殿騎士団」
・・それでなければ、多分、この物語のオリジナル。
初めて読む尾上与一先生作品です。大変人気の先生だと知っていたのですけど、これが最初ではない方が良かったのかな〜とも思う。
◾️イグナーツ×ヨシュカ 騎士
騎士やら精霊やらが登場するタイプの中世ヨーロッパ風ファンタジーです。舞台背景は嫌いじゃないものの、どうにも作り込みが浅い気がする…BLだから、という理由でこの辺で満足しておくべきなのか、あるいはもう少し求めても良いものなのか。
主役2人のビジュアルは好みです。中性的な受けも大歓迎。しかしながら、イグナーツには赤獅子王の名に恥じぬ豪胆ぶりを期待したのに、どうも小さく収まっていた感が拭えない。極め付けがヨシュカ拘束強姦シーン。あれ、必要あるのか?少なくとも自分は全く必要なかった。イグナーツの弱さを表現するにしても、そこの言及は薄い。
またヨシュカも、自分に悪意があるとしっかり気づいていたにもかかわらず、アヒム如きの小物の言葉に惑わされて、イグナーツを疑う始末。彼らは一体何をしているんだ。
命のやりとりをしている割には、軽いし浅はかなのが気になってしまった。残された家族も心配だな…特にイグナーツの家は、一家没落の可能性もあるかな…
中立〜萌
デビュー作の「二月病」以来、お互いを唯一無二として求め合うBLの根本的な関係性を書き続けて下さる作家さんだと思います。
「アヴァロンの東」もまた、生死を賭けたギリギリの設定が、しかしこじつけではなく豊かで美しく、「凄いものを読んだー!」という骨太な満足感を与えてくれる稀有な物語でした。
本当に多くの方に読んで頂きたいです!
命がけの危機が来た時、奇跡の泉で瀕死から助かるんだろうな・・・と、ぼんやり考えて読み始めていたら、とんでもない!そんなに甘くはなかったです!
尾上先生のお話は、生と死の狭間で、どちらに転ぶかわからない。そのギリギリのところを、どう生きていくか。ヨシュカがせっかく助かったのに、どう考えても裏切りそうなアヒムにジリジリと心が削られる感じでした。普通のBLに無いような緊張感がいいです。
そして口の悪さが戻ったヨシュカに「ああ・・・俺のヨシュカだ」というイグナーツが好きです