表題作恋愛時間

同時収録作品恋人時間

広瀬明弘
会社事務員、28歳
有田学
会社員、課長、30歳

同時収録作品兄の恋人

広瀬明弘
会社事務員、29~30歳
有田学
会社員、課長、31~32歳

同時収録作品海岸線

広瀬明弘
会社員、30歳
有田学
会社員、課長、32歳

あらすじ

「貴方が好きです」有田学はある日突然、会社の後輩・広瀬明弘から告白される。仕事は遅いが、裏表がなく素直で真面目な広瀬と友人づきあいを続けるうちに、有田の心は少しずつ動いていく。しかし、有田には同性同士の恋愛を受け入れられない事情があり…。

作品情報

作品名
恋愛時間
著者
木原音瀬 
イラスト
紺野キタ 
媒体
小説
出版社
のはらの星
レーベル
Ripika novel
電子発売日
4.4

(19)

(12)

萌々

(3)

(4)

中立

(0)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
6
得点
84
評価数
19
平均
4.4 / 5
神率
63.2%

レビュー投稿数6

どうしようもないもどかしさ

四編構成・四者視点の一冊。最初の二編でハッピーな結末かと思いきや、わだかまりを残しながらも一緒にいたいという話になり、モヤモヤの残る終わり方。ただ、これ以上の追求は藪蛇感があり、どうしようもないもどかしさがあった。

ノンケ男が同性の部下に告白されるところから始まるお話。有田は過去の経験から元々ゲイへのマイナス感情があり、だからこそ広瀬を過度に気にして心を乱され、絆されていったと思う。自身の恋心に気付く描写は秀逸。

その後、広瀬視点に移り謎の四角関係になり、あんなに遠回りするとは思わなかった。それにしても、川上と磯貝は出向先の社内で何度修羅場ってるのか、外でやれと笑った。有田との関係は、結局広瀬の頑張り次第なとこが切ない。

三編目は広瀬の弟視点で、兄カップルを別れさせようと画策するお話。この誤解は物語が終わっても解けることはなく、有田の中で広瀬は浮気二股男のまま。それでも良いと心を決めるのは感動的だけど、辛い気持ちは読後も残る。

でも有田が真実を知るってことは、広瀬の家族が自分たちの仲を裂こうとした事実を突きつけられるということで、それはそれであっさり別れを選んでしまいそうな気がする。どうしようもないこの現実は、ひたすらに同情を禁じ得ない。

気持ちはどちらも重いけど、二人の関係がどうなるかは、広瀬の行動にかかっているのかな。この先の二人の話も読んでみたいと思った。

0

日常のドラマ

この作品の主人公、広瀬は不思議な魅力がありますね。
だからこそ、有田も知らず知らずに心を動かされてしまったのかもしれないし、本社で出会う磯貝も片思いしちゃったんじゃないだろうか。

時間の流れが人より遅い、、、というか広瀬の好きだと気づくまでの長さは6年。
男性を好きなのかも、そうなのかな、でも女性と付き合ったりもしてみるけどしっくりこない。同性に惹かれるタイプの人って、最初はそんな感じなのかなって思ったりします。その心情の揺れがリアルに感じられる。
好きだと告白される側の有田も、広瀬の優しさや実直さには好感を持っていて、それが恋愛感情に変化してしまった様が読んでいるとよくわかります。
ましてや弟の一件があって、ストッパになっているはずなのに、それをも超えてしまうってことは、相当なんですよね、実はきっと。

木原さんの作品は腰を落ち着けてじっくり時間をとって読むようにしているんですが(笑)、この作品はスッと読めちゃいました。純情の合間にのぞき見る性衝動も上手く入っています。等身大っていうか。確かに切なさもあるけれど、痛くも辛くも重くもない!木原さんへの入り口、BLへの入りとしても良いかもしれません。
ですが、ちゃんと木原イズムというか、読ませる深さがあるなって感想です。
♯次に読む作品よっては!!!ってなるかもですけど

後は、やはり時代を感じたのは“フロッピー“。
今は実物見たことない人たくさんですよね。私が読んだのはアイスノベル版ですが。新しいのだと“USB“とかに表現変わってたりするのかな〜
そんなことが気になっちゃいました

0

熱と深淵

私が読んだのは2002年発売のアイス文庫版ですが、そちらに書き込めず誘導されました。
何と2020年に電子で出てたんですね。
電子版では電話のシーンがスマホに変わっているというウワサ。
私が読んだ版では、社員寮で共有の電話がひとつ、電話があると呼び出されて気を使いながら短時間話す、という昔懐かしい設定でした。

「恋愛時間」
「恋人時間」
「兄の恋人」
「海岸線」
という4つの短編で構成されています。

コノハラ作品としてはそれほど痛くはないです、一見。
でもやっぱり愛の痛みというか、愛に関する不条理というか、意志ではどうにもならない何か、それらが迫ってきます。
何をするにも時間がかかる広瀬は、職場の先輩・有田が好きになってそれを言葉にする。
有田は強烈に拒絶する。
広瀬は決して迫ったりはしてこないけれど、強い芯を持って有田に接している。
一方有田はある時は露骨に嫌がり、なのに後輩として可愛がったり、なんか揺れています。
そして結局は広瀬を受け入れるのです…というか自分から広瀬を煽るような。
その有田の心の流れがあまり書かれてないので読者的には愛の不思議を読むような感覚。
人を好きになる。
その事に明確な理由だの言い訳だの、そういうものじゃないんだよ、と差し出されるような。
「兄の恋人」は、広瀬の弟の視点です。
広瀬は家で家族にカミングアウトします。当然みんな驚愕。特に妹は激怒して広瀬と有田の仲を裂こうとします。
「海岸線」はそれによる波乱の後、やはり離れがたい2人の姿が描かれて、愛の深さは苦しいことでもあると示されるような。
これはもう同性だからとか全く関係なく、男女でも、また傍目に祝福一択に見える2人でも、違う個人同士が添う事の深淵のようなものを感じさせる一編でした。

1

色褪せないBL小説

SNSにて先生ご自身が初期作品で心に優しくストレスなく読めるのではと勧めてくださったのでkindleにて入手しました。
私はBLビギナーなので知らなかったのですが最初の出版は97年とのことでもう20年以上前の作品とは驚きました。現況に合わせて多少改訂しているとはいえストーリーは色褪せていません。

内容紹介にもあるように会社の先輩と後輩の一途な大人の男の恋愛の話で4章に分かれています。

「恋愛時間」
後輩の広瀬が先輩の有田に告白するところから始まり有田が広瀬の気持ちを受け入れるまでの苦悩や葛藤が有田視点で描かれています。
 
どうしても広瀬に感情移入してしまうので同性に告白され困惑する有田の思考や行動に慨嘆してしまうのですが有田の立場でよく考えてみるとわからなくもないところがあります。一途で健気というのは配分間違えると場合によっては嫌悪感になるなんてことは現実ではよくあることだし、有田の弟はゲイばれした後家族が揉めた過去があるわけだし。。だけど広瀬の人間性の魅せ方が絶妙でグイグイ引き込まれます。。無意識に有田の意地悪ー!!ってなります。
時の流れととも有田の心情にも変化が表れ『仲の良い会社の先輩と後輩』以上『恋人』未満?の関係になっていったのがとっても心に優しかったです。

「恋人時間」
広瀬が1年間の東京本社での研修中のお話で広瀬視点で描かれています。

広瀬は真面目で堅実だけどちょっと鈍いところがあるので本社での研修でもすんなりいくはずもなく案の定同僚と揉めます。
研修に来る前にやっと有田との距離を縮められた事もありステップアップとはいえ不本意だった広瀬は着任早々辛い日々を送ることになります。
広瀬への気持ちに気付いた有田はこの章では積極的なのに対し臆病で有田の気持ちを確かめることができない広瀬にモヤモヤさせられます。
同僚とのもめ事も研修の事も恋愛の事も結果的に有田にサポートしてもらってます。でもこれらを機に広瀬は大きく一歩を踏み出し成長するので有田との関係が成就した時は心から嬉しかったです。

「兄の恋人」
広瀬が本社での研修を終えて地元にもどり有田と同居し始めた頃の話を広瀬の弟の視点で描いています。
広瀬が実家で同性の恋人との同居をカミングアウトするところから始まるので正直この章が一番重くて辛かったです。
家族に受け入れられないだけでなく広瀬を慕う妹から猛烈な反対にあいます。まだ高校生の弟としても到底理解できるものではなく気の強い姉(広瀬にとっては妹)の言いなりになって二人を分かれさせる手伝いをさせられます。この別れさせる方法というのが幼稚でアナログなんだけど有田と広瀬の受けるダメージが弟の視点であるにもかかわらず強烈に伝わってくるので読んでる私も思わずこの妹への怒りでカー!っとなってしまいました。
ここでヘタレ気味の弟が有田を偶然みかけたときの様子や広瀬との会話で気持ちに変化があり姉の言いなりになっていた罪の意識に苛まれ兄の背中を押すのです。ちょっと遅いよって突っ込みたくなりましたが…。
この章で唯一男前だったのは広瀬家の豪快な長男さんですね。最終的に妹を言い聞かせ広瀬を見守ってくれたのですから。。ほんとこの長男さんに救われましたよ。

「海岸線」
最後は広瀬の妹の策略で有田が広瀬に別れを告げ追い出した後、弟に背をおされ広瀬が戻ってきた時のお話を有田視点で描いています。

いつの間に有田がこんなにも広瀬を愛していたのかと思うと涙が出そうになるほど切なくなりました。広瀬が浮気なんてどう考えたってありえないじゃない!って読み手は思うけど有田はそうじゃなかったんですね。。広瀬と同居しているから家で泣くこともできず一人映画館で泣いたり苦しんだりしていたなんて。。。理不尽な出来事に巻き込まれ、追い出した広瀬が突如早朝に戻ってきて海岸に連れ出され、抱きしめられ心のこもった気持ちを告げらて、、やっぱり広瀬なしでは自分はだめだと有田は泣きながら受け入れるんだけど、、すごく切なかった。。だって誤解が解けた後じゃないからこれ(涙。

ハッピーエンドではありますが広瀬も何の理由もなく理不尽に追い出されただけに誤解が解けた後の二人が見たかったな。。
でも優しい二人だからこの妹弟の気持ちも理解して苦しんだりしちゃうのかな。それは辛い。絶対ないけど有田の家族へのカミングアウトとか考えるだけでも胃がキリキリしちゃう。

っというわけで先生がおっしゃるようにストレスなく…というのは私のように糖度高めの作品ばかり愛読している新参者にはまだまだ難しく、、修業が必要のようですが心に残る神作品でした。

6

切ないけれど、何度も読みかえしたくなる

初版の後に文庫化され、絶版になっていた作品でした。ずっと読みたいと思っていたので、今回の電子書籍化は本当に嬉しいです。スマホでは文字が小さくて、パソコンで同期させて読みました。
木原さんのツイートによれば、現代寄りに少し手直しされたとのこと。スマホやSNSが取り入れられています。木原さんの作品にときおり描かれる乱暴な描写や病的な執着はない、ノンケの普通のサラリーマン二人の切ない恋模様です。

仕事は遅いけれど真面目で素直な広瀬は、自分を見捨てず仕事を教えてくれた先輩・有田に片思いをします。飲み会の帰りに「好きです」と告白してしまうところから物語が始まります。有田には男と駆け落ちした弟がいて、同性愛を嫌悪していたのですが、広瀬の裏表のない穏やかな優しさに触れるうち、いつの間にか恋に落ちてしまいます。

「僕は人よりも生活時間が長いんです」という広瀬は、恋愛もゆっくりで、有田への気持ちが恋だと気づくのに6年もかかりましたし、後に有田が恋愛感情から触れてきても好かれていることが分かりません。驚くほど鈍いですが、告白で嫌われているのを承知で体調の悪い有田を気遣ったり、性格の悪い同僚の窮地に手伝いを申し出たりする、そういう見返りを求めない優しさがあります。
一方、有田はそんな広瀬の優しさにきちんと気付いていて、コツコツ仕事をする誠実さも認め、落ち込む広瀬に「お前の仕事が遅いのは愛嬌だよ」なんてユーモア交じりの慰めが言える思いやりがあります。

二人ともうわべでない人柄の良さがあって、だから余計に、二人が家族のことや世間体で悩んだり泣いたりするのが、切なくて悲しいです。
すれ違いの末にやっと恋人同士になっても、有田は「家族には言わない」と涙し、広瀬が家族に打ち明ければ妹が反対して、二人を別れさせようと弟を巻き込んで横やりを入れてきます。広瀬がどんなに有田を好きか知った弟が、妹に「僕らが壊しちゃいけないんだ」と言うセリフに救われる気がします。

広瀬の転勤にかこつけて、有田が広瀬にキスを許す場面は、まだ恋の始まりで、読んでいてドキドキしました。素直に自分の気持ちが恋だと認められない有田が「餞別に欲しいものを言え」と強気に誘い、もっとキスしていたくて広瀬の袖口をつかんだり、広瀬がいなくなってからはどうしていいか分からず地団駄踏んだり。恋に戸惑う有田が可愛らしくて。作品中で一番好きな場面です。

二人で積み重ねていく時間が、いつか二人の涙を払ってくれたらいいなと思いました。
浮気を疑った有田にマンションを追い出された広瀬は、ある朝、有田を海辺に連れ出します。二人で歩いた足跡が波にさらわれて跡形もないことに有田が目をとめる描写が印象的です。二人で過ごす時間も、消えてしまった足跡のように目に見える形では残らないのでしょう。「恋愛」、「恋人」の先のステップは二人にはないからなおのこと。一緒に食事をし、一緒に眠る、そんな日常の積み重ねが、二人の心に確かな時間を刻んでいくよう、信じたくなります。二人の楽しいエピソードもいつか読んでみたい気がします。

紺野キタさんのイラストも素敵です。少し寂しげなトーンの表紙絵は、二人の恋の雰囲気をよく表しています。二人並んで広瀬の郷里の海を眺める挿絵は、穏やかな雰囲気でホッとしますし、満員電車で有田と密着して困る広瀬の表情がとても可愛いです。

読後は切ないけれど、すれ違いやときめき、悩み苦しみも含めて全部が広瀬と有田の恋なのだろうと思いました。繰り返し読んで味わいたくなります。

3

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