イラストあり・電子限定アフターストーリーつき
多種多様なカップルの恋愛が描かれている、昨今の商業BL小説界隈。どの作品も、どのテーマも非常に魅力的ですよね。
そんな中で、こんなテーマの作品が読んでみたかったという作品に出逢えました。
ハッピーエンドを迎えたカップルのその後が読みたくなってしまうたちなので、このお話はまさにその「読みたい」が詰まった1冊。
ハッピーエンドの向こう側を読んでみたい方、心理描写が丁寧な作品を読みたい方におすすめの作品です。
実を言うと、攻めの一心にも受けの藤島にも、とりわけ大きな魅力を感じたわけではなかったんです。2人の性格をものすごく好ましいとも、そうではないとも思いませんでしたし、このキャラクターのここが好き!ここが嫌い!なんてことも思わなかった。
つまり、キャラクター個人に対して熱量の高い萌えは感じなかったということなのですが…
なのに、没頭してあっという間にするすると読んでしまい、読後にレビューを書きながら自然とこちらの評価になりました。本当に不思議ですよね。
(キャラクターで言うのなら、藤島の弟が1番好きでした)
2人の出逢いまで遡るシーンがありますが、13歳の自由奔放な少年が6歳年上の真面目な家庭教師の青年に恋心を抱き、5年間も愛を捧げ続けた結果、ようやくカップルとなる。BL的にはこちらの展開の方がスタンダードなものでしょう。
と、この2人が恋人関係になるまでについては、現実味はなくともよくある設定のものなのです。
しかしながら、この作品の中では、タイトル通り出来上がっているカップルの「倦怠期」が描かれています。
2人の始まりは決してリアルじゃない。ただ、その向こう側はリアルでした。
こちらのお話、過去エピソードを除けば、作中での時間の流れは恐らく1ヶ月も経っていないんです。
読み終えてから気が付いて驚きました。もっと経っているかと思っていたので。
それくらい濃密に、じっくりコトコトと思い悩む40歳手前のゲイ男性の自問自答が、受けの藤島視点でこれでもかと丁寧に綴られています。
この悩みや不安というものが側から見れば犬も食わないというやつなのですが、藤島の中で繰り広げられる、長年の付き合いがある好ましい相手だからこその矛盾と、攻めの一心との会話ややり取りがなんだか生々しくて好きでした。
わかるなあと思うことがすごく多くて。
生活描写のあちこちに付き合いの長さがうかがえる部分があったりして、こちらの描写も丁寧で説得力がありましたし、ラストの落とし所も「こうなる」が分かりつつも読み心地が良いです。
素直な気持ちと言葉の持ち寄り、心のスキンシップが大事なのだと再確認。
共に年齢と月日を重ねていくがゆえの悩みをリアルに描きながら、暗くなりすぎず、それでいて読みやすさもある。夕映先生、本当に上手いなあ。
派手な展開はありません。きっと、2人の出逢いをメインに描いたものであればあったのでしょう。
15年間を共に過ごしたゲイカップルならではの倦怠期がテーマではありますが、これは家族だったり親兄弟だったり、幅広い関係性にも当てはまる部分があるかもしれないななんて。
例えば、長年の友人同士の間柄であっても「ああ、あの子からたまに感じるものと似ているな」「そういえば私はなんであの子と友達なんだろう」なんて共通するものが、もしかしたら作中でひとつくらい見つかるかもしれない。
長く一緒にいるからこそ見えてくる、好ましい部分と好ましくない部分というのかな。
それでもなんだかんだで付き合いがあるのであれば、それはもう「好きだから」というシンプルな理由でしかないですよね。
それから、日塔てい先生のカバーイラストが作品全体に流れる空気を見事に表現されていて好きです。
作中の挿絵もどれも本当に素敵なんですよ。
本編では着眼点と心理描写の巧みさに唸り、同時収録の後日談では長年連れそったカップルだからこその萌えが爆発する2度美味しい作品でした。
この作品は恋愛小説を読みたいという人には合わないと思います。タイトルからして倦怠期ですので。ですが、パートナーがいる(いた)人や絶賛倦怠期を感じている人には絶対刺さると思うし、なぜ相手を選んだのかを見つめ直すきっかけになる小説です(まさに私もその一人です)
両思いでハッピーエンドを迎えても実際はその先があって、そうなるとずっとドキドキしているわけにはいかないんですよね。生活とか価値観とか諸々の食い違いを受け流したり耐えたり、時には喧嘩してでもすり合わせをしないといけない。ずっと相性が良くてラブラブで常に新婚モードなんてこと、普通じゃ滅多にないです。
この作品はそこがリアルで、最初は許せていたものが次第に許せなくなっていくところなんて思い当たる人にはグサグサきます。
それでもやっぱり、相手じゃないとだめなんだと思い返したり打ちのめされたり惚れ直したりするものなんです。他所から見たら破れ鍋に綴じ蓋なんでしょうが、それでもいいんだなって読んでて思えました。
パートナーへの初心を思い起こしてくれたありがたい作品なので個人的に神評価です。
夕映さんのお話で一番好きなのはずーっと長いこと『天国に手が届く』だったんですけれど、この本がトップに躍り出ましたね。
表題作がすばらしい。
それは、
長く付き合ったふたりにいかにもありそうな喧嘩であったり、
また、そのなだめ方と言うか『うやむやにする方法』であったり、
長いこと一緒にいる為にちょっとした好意が言い出せない状況であったり、
こんな『あるある』の中には、2人の人生を重ねていく難しさや、恥ずかしさや、何年経っても成長しない自分へのもどかしさが溢れかえっていて、読んでいると「あああああ~っ」と叫びながら転がりまわりたくなるほど見につまされるんですが、その後に、それを上回る強さで「でも、その全てが愛おしい」という激しい感情に襲われました。
このお話、始まりと終焉は対比する様に響き合った構成なんです。
たたみかけるような終りの部分。
大きいお姐さま方にはかなり「クル」のではなかろうかと思います。
あたしは泣けた。
こんな風に感じられるのなら黄昏もまた一興。
そう思うほど、良い本でした。
33歳×39歳のカプで出会ってから20年。付き合ってからは16年というちょっと倦怠期?のカップルのお話。様々な萌えが詰まってました。
萌その1…出会った時が13歳×19歳で教え子と家庭教師という関係で出会った2人。最初は攻めの方が背が低かったのに途中で受けが追い越されるのって超萌える!(憂鬱な朝現象と私は呼んでいます)
その2…6歳も年上の受けがしっかりしてるようでいて結構可愛い。「40近くのおじさんなんてもう抱きたいって思わないんだろ」と卑屈になってますがそれは抱いて欲しくて仕方がないという気持ちの裏返し。なかなか素直になれません。
その3…受けの体がエロい事になっている。乳首が弄られすぎて肥大して人に見せられない状態で、後ろをいじってもらわないとイケない体になったのでもう攻めはできないとかサラッと結構すごい事書いてて「おおっ!」と思いました。年上だけど結局攻めにしか抱かれた事がなくて全部攻めに開発されたって所がまたイイ!
主に受けの萌えポインツばかりになってしまいましたが、南国の鳥のような髪色の攻めもカッコよかったですよ。自由人すぎて最初は受けが可哀想でイライラしたけど。でも受けは胃を壊すくらい思い悩んでも、神経質な自分とは違う攻めの自由さや人たらしな所に惚れちゃったので仕方ないよね。
また萌えとかエロの感想ばかりになってしまいましたが、なかなか泣けて感動できる良いお話でした。ハピエンで後味も良し。同棲ものが好きな方にはオススメです。
出会って20年、付き合って15年。
不変だと思っていた愛情も、その道のりの中で不満や心配や不信、疑心でもろくなる瞬間が確かにあって、そんな弱いところを切り抜いたこの作品。
男同士一生いっしょに生きる上で当然あるだろう色々な問題も、とてもリアルに感じられます。
主人公の藤島が迷って疲れて、諦めて、流されて、絆されて、でも愛情を確かなものに感じられず…とぐるぐるするのも、藤島が一心のひとことひとことに一喜一憂しているのも、感情移入してしまい、とても愛おしいです。
切なく涙にくれる展開ではありますが、何をどうしても「犬も食わない」ですから!
終盤には二度目の春で楽しませてくれます!そして最初は自由奔放で受け入れ難かった読者の一心への評価も、藤島が一心にほだされて愛情を再確認していくごとに「やっぱり良い男だった!」と変わってくること請け合いです。
自由でバカカワイイ年下攻めと真面目で堅物で可愛い年上受けの、また長い長い道のりに幸多かれと祈らずにはいられない、最高のお話でした!
おすすめです!