電子限定描き下ろし付き
死後の世界で出逢ったのは、恋していた君でした
「キミゲイザー」ってなに??と思ったのが第一印象でした。
読み進めていくと「ああ、そういうことか」と登場人物の態度から理解できました。
イギリスの音楽シーン発祥のスラング「Shoegazer」のもじりで、「君ばかり見ている」という意味だと思います。
「死」を扱っている作品ですが、重苦しくはなく、読み進めているうちに「あの世」であることを忘れるくらいに軽快です。
冒頭で主人公があっさり命を落としてしまうので面食らいますが、すぐに舞台が死後の世界へと切り替わり、生前と変わらない姿で元気に過ごすので悲壮感はありません。
ただし、エピソードの中に愛するペットとのお別れを経験したことがある者を泣かせにくるシーンがありました。
※ペットがこの世を去ることを「虹の橋を渡る」と表現することがありますが、それにまつわる描写。
主人公がたどり着いた場所にいる人たちは全員死者ですが、特殊なのはその空間と「オニヌ」の存在くらいで、現世と変わらない姿で俗っぽい言動のまま過ごしています。
この「オニヌ」は鬼と犬の混ざったような見張り番の動物ですが、ふじとび先生が描かれる小動物の安定の可愛らしさがスパークしていました。
ストーリーは完全なハッピーエンドではなく「未来」に限りなくハッピーエンドの余白を残して終わります。
こういう展開は民話のようで、題材からも現代風の日本昔ばなしのような印象の心に作品でした。
死後の世界で繰り広げられる、不思議でちょっぴり切ない物語。
別れはあるけれど、心温まるハピエンでした。
常に暴走しがちな瞬と、表情がわかりにくく終始冷静な紺野。
死後の世界から抜け出すために、2人で格闘していきます。格闘とはいいつつもほとんど瞬が頑張って、紺野はそれが心配でついていくような形ですが...
途中で瞬の「好きな人」も予想はつきました。けれどその部分を彩る不思議な死後の世界観は魅力的。
それらを堪能して合わせて楽しむことができます。
ふじとび先生作品の特徴の1つが、ぬいぐるみのように愛らしい生き物たち。
今回は、鬼犬という生き物が登場します。
死後の世界の番犬のような役割を果たしているのですが、個体それぞれに個性があり見た目も可愛くて癒されました。
脇キャラたちも楽しくて、ハートフルな展開に一役買ってくれます。
個人的には謎に満ちたオーナーが気になりました。
ちょっぴり不思議なBLが読みたいときにぜひ。