イラスト入り
木原先生の作品としてはあまり評価が高くない本作品。どれどれ、どんな感じだと低評価になってしまうの?などと逆に興味津々、手に取りました。
目次
●無罪世界(攻・山村仁史×受・榊宏国)攻め視点
本編まるまる100%「無罪世界」!!いやはや、タイトルがタイトルなだけに、法廷ものかと勘違いしておりました。電書のため削除されることも多いイラストやあとがき。今回イラストはOKでしたが、あとがきは掲載されておりませんでした。ですが紙本であとがきを読まれた方から、タイトルの件で木原先生が悩んでいたとの情報を得ました。「無罪世界」の英訳「イノセント・ワールド」にすべきか否か。
そうかー…。「イノセント・ワールド」の方が心地良い響き。法廷ものとの勘違いも避けられ、適正だったかな?とはいえインスピレーションがピピピと来たのかもしれませんね。そう言えば、ミスチルの曲名にも「Innocent World」ってありました。大好きな曲です。
・あらすじ
悪徳訪問販売会社で浄水器の営業をしている山村仁史(攻め)は28歳。ギャンブル好きで、借金もあり、生活は楽ではありません。そんなある日、顔も覚えていない伯父の遺産相続の話が舞い込みます。弁護士と面会し、相続の条件を聞くことになりました。
その条件とは、亡伯父の息子の面倒を見ること。山村には従兄弟に当たる榊宏国(受け)は22歳。幼い頃に原始インディオにさらわれ20年をブラジルで過ごしました。そのため日本語をまったく解しません。
山村は借金が返せると棚ぼたの遺産を喜んでいました。でも宇宙人みたいな従兄弟の面倒がついてくると分かり意気消沈。いざとなったら大金を手にして逃げよう、そう思ったのも束の間、遺産は月々の分割払いと告げられます。であれば半年ほど面倒を見て、実績を作った後に前借りしてとんずらという手もある…。
・感想
もう!ほんっとーに!面白かったです。こんなに素晴らしい小説がなぜ低評価なのでしょうか。恐らくは受けの宏国が原始人みたいで、そこに萌えを感じられない方が大多数だったのでしょう。でも、なぜか私の感性にはピッタリでした!機知にとんだ設定と言い、深みのある文章と言い、笑いあり、涙あり、驚きあり、萌えもしっかりあって!また原始インディオや誘拐、アルミ缶や資源の無駄遣いなど、知らないことだらけで勉強になりました。
本書の攻め・山村は御多分に漏れず、しっかりと難のある性格(笑)それゆえ最初は嫌な奴と思ってしまいます。でも毎度のことですが物語の終わり頃には嫌な奴から大好きな人に変わってしまうから不思議です (˶′◡‵˶)
山村は中学の時に両親が離婚、母親に引きとられ育ちました。その母親も、高校2年の時に突然山村を置いて家を出て行ってしまいます。そうです。山村は文字通り捨てられてしまったのです。薄情な母親です。山村少年があまりにも可哀想で同情せずにいられませんでした。
ある時こんなことがありました。外出先から戻ると部屋には明かりが煌々とついているのに宏国がいません。母親が出て行った17歳の頃を思い出し、切り捨てられたと呆然とするのです。結局、宏国はユニットバスでシャワーを浴びていただけでした。がその時の恐怖と来たら…。私も山村の気持ちになり涙が出る寸前でした。山村は本当はものすごい寂しがり屋なんだなぁ… (TдT)
宏国マジキレの恐ろしいシーンがあります。最初の頃、山村が宏国を怒らせ、すごい反撃が返ってきたことがあります。宏国は身長が170cm程で山村の方が高い。それゆえ甘く見ていたのでしょう。山村は、宏国の横腹を激しく蹴り上げました。怒った宏国は「ホキァー」と大声で叫び、目覚まし時計で山村の頭に殴り掛かかってきました。山村は死の恐怖を感じ、その後失神。強い、強い、強い!宏国、強い!このことがあってから、山村は宏国に一目置くようになった気がします。
萌えに関してですが、萌えがなかったと言う評価が大多数の中…私は思った以上にドキドキしました。山村はゲイです。そして宏国はノンケ。でもインディオの男は嫁取りが大変で、結婚するまで男同士で仲良くするのはよくあることらしいです。最初は宏国がマスターベーションをするシーンを山村が偶然目撃してしまいます。
宏国の肌は浅黒く、細身だけど筋肉の発達した綺麗な身体をしています。何となく宏国を意識するようになった山村。別の日に宏国は、眠っている山村の太股でスマタを始めてしまいます。でも、山村はうとうとしかけていただけで、バッチリ起きていました。だんだんと宏国を意識するようになっていた山村。今度は山村が宏国に同じことをします。宏国は嫌がりませんでした。そしてある夜、とうとう…。うーん、木原先生の作品群の中でも結構エロイ方ではないかなー、などと思ってしまいましたよん…( ´˂˃` )
ちょっと物騒なシーンもありました。山村が売りつけた浄水器をめぐり、ヤクザから付け狙われることになりました。宏国を危険な目に遭わせたくない気持ちとは裏腹に、宏国ともども捉えられてしまいます。しかも!宏国は結局銃弾に倒れます。でも、文明の利器を使われるまで宏国は強かったです。山村を守りたい、助けたい、その一心でヤクザと戦う宏国。痺れました。山村も力はないものの宏国を想う気持ちがすごく強く伝わって来て、怖いけど素敵なシーンでした。
山村は最初こそ半年たったら遺産の分け前を前借りし、宏国を捨てて逃げようと考えていました。でもミイラ取りがミイラ、と言うのでしょうか。山村はいつしか遺産とかお金などいらない、宏国を愛している。彼と一緒なら生きていけると思うようになります。その心の変化が実に良い!私は読みながら何度も感動で心が揺さぶられました。こんな素敵な恋!何遍でも読み返したい作品となりました (*´~`*)
高校生で母親に捨てられ一人で生きてきた山村は、今は浄水器を高額に売りつける訪問販売をしていました。セールストークの巧みさで売り上げは上々ですが、趣味のギャンブルが過ぎて借金の返済に追われる日々。突然、従兄弟の宏国の面倒を見るという条件付きの遺産話が舞い込み、喜びます。宏国は幼い頃に家族で住んでいたブラジルで、原始インディオに誘拐され育てられましたが、父親の遺言で日本に定住することになったのです。山村は分割で払われる遺産目当てに宏国と暮らし始めますが、言葉も通じず、野性的な宏国の世話に疲れ、酷い風邪で寝込んでしまいます。山村の熱を引き受けるように宏国が発熱。医者嫌いの宏国を抱えて駆け込んだ診療所の医師・落合が、偶然にもインディオの文化に詳しく、宏国に日本語と生活習慣を教えてくれることに。ある夜、宏国からスマタを仕掛けられ、山村は宏国への欲望が止められなくなります。落合からは、部族によっては男性同士の関係を許容すること、日本語のような「愛している」という概念がないことを聞かされ、山村は自分だけが宏国を好きになっていくことに苛立ちを募らせます。そんなとき、山村が浄水器を売りつけた客の息子がヤクザだと発覚。ヤクザから山村をかばって宏国は大けがをしてしまい…。
宏国と山村が数少ない日本語でやり取りする描写が、面白くて仕方ありませんでした。特に、宏国がセックスすることを「食う」と言ったところは爆笑してしまいました。直球の言葉は胸の奥まで届くように感じます。ブラジル生息の蝶の標本を見た宏国が、「とぶ きれい」「いっぱい きれい」と言ったときは、故郷に帰りたい気持ちが伝わってきて、切なくなりました。
内省的な山村が、語彙の乏しい宏国を好きになったのは、分かるような気がします。嘘の言葉で生き抜いてきた山村は、面倒と言いながら、直接的で嘘のない宏国といるのが楽しかったのでしょう。でも、どんなに体を重ねても宏国の気持ちが見えなくて、言葉を求めてしまうところが悲しくて。言葉は便利だけれど、持ち過ぎるほど生きにくくなるのかもしれません。山村が同僚から詐欺にあってしまったのも、巧みな言葉のせい。
宏国が山村を好きになったのは、きっと理屈抜きの本能なのでしょうね。だから命がけで山村を守って。宏国の「好き」は、行動で表現されるから、言葉はいらないのだなあと、その力強さに圧倒されました。
アルミニウム採掘のためにアマゾンの密林が破壊され、インディオが移住を強いられている話が、衝撃的でした。自分の便利で細やかな世界が、自然と共に生きる誰かの犠牲に成り立っているとは。ネットで調べたら、確かにこの事実があって。せめて自分くらいビールはアルミ缶でなく瓶で、という落合みたいな気持ちを自分も忘れたくないと思いました。
ラスト1ページの落合の語りが、山村と宏国の幸せそうな暮らしを感じさせて、思わず笑みがこぼれました。宏国の弁護士が二人を5年間も探していたということは、宏国の怪我が治った後、二人は南の島へ逃げたのかもしれませんね。弁護士さん、山村ばかりを責めたことを反省したのでしょうか。
山村は喋りを活かしてツアーガイドをしているとのこと。自然豊かな島なら、宏国ものびのび暮らせそうです。二人はうまく折り合いをつけて生きているのでしょう。
言葉が無ければ、複雑な想いで相手を責めることもないのかもしれません。ただ相手をありのまま受け入れて、無邪気に愛せたらいい。そんな思いが、タイトルに込められている気がしました。
遺産目当てに、言葉も常識も知らないジャングル育ちのイトコを引き取り、すったもんだの挙げ句、結ばれる話です。
木原音瀬さんにしか書けない話です。
ジャングル育ちてw
裸で謎のダンス踊って病気を治そうとしたところなんて、笑いすぎてお腹がひきつけ起こすかと思いました。
主人公は、木原作品によくあるタイプの男です。刹那的で享楽的な生き方しかできない嫌味な男。人当たりはいいのに責任転嫁だけは上手いタイプ。木原さんは必ずそういう主人公を、作品の中でイジメます。これが私、好きなんだよねー。
大嫌いな隣人の小うるさいオバサンに、本当は母性を感じてたこと。鬱陶しい医者に、本当は父性を感じてしまっていること。こういうことが作品中ではっきり書かれるわけじゃないし、主人公は自分のそういう潜在意識に気づかないんですが、読者には分かるシカケになっている。木原さんが上手いと思うのはそういう部分だ。
純粋に萌えを感じるのは難しい作品です。萌えるには、主人公は嫌味だしジャングル育ちの男は奇妙キテレツすぎるし。
でも本当に面白かった。
思わぬ遺産相続に想像を絶するおまけがついていたので人生が大きく変わっていく男のお話です。
家族に恵まれず17歳でホームレスを味わい、今は詐欺まがいの訪問販売をして暮らしているゲイの山村。
ある日弁護士・有村に呼び出され、父親の兄が死に遺産相続の権利があるが、その代わりにブラジルの原住民に育てられ言葉も何も分からない従弟の世話を引き受けることが条件だと言われます。
無責任な皮算用をし、二つ返事で引き受けますが従弟の宏国は想像を絶するワイルドさで、世話をやいてやらないとご飯も食べられない状態なのにいちいちトラブルを巻き起こします。
手づかみ食べや裸生活、おかしな呪文や歌、力があるので押さえ込むこともできずに暴力を振るわれ、うるさいと隣のオバサンに怒鳴り込まれ、高熱を出して医者に見せれば暴れまくり・・・しかし、そんな生活の中でも少しずつ歩み寄っていく二人なのでした。(山村のお人好しに脱帽。)
ババアババアと言いながらも、隣のオバサンの人の良さに助けられ、ヤブ医者とけなしながらも、ブラジル原住民の言葉が少し分かる落合医師とは飲み友達になり、それまで入れ込んでいたギャンブルも控えめになり、収入は少なくないのに自堕落な生活で借金に追われていた山村の生活態度そのものが少しずついい方向に変わっていくのです。
しかし、それで終わらないのが木原節。最後の最後でどんでん返しされました。仁志田(山村の同僚)よやっぱりお前は・・・です。有村さんよアンタも冷たい・・・。だからなおさら、最後の2ページでボロ泣きですよ。
はぁ、よかった。
そういえば、エッチシーンについて何も感想を書きませんでした。だって、お話のほとんどがすったもんだの生活とそれに関係する道徳的な見解なので、エッチシーンがなくても一向に構わない(それは、あったほうが説得力のある部分もありましたが)精神的な愛を感じられればいいかなと思いましたからね。
生理的欲求のはけ口がどのあたりまでで、恋愛感情を伴うものがどのあたりからなのかははっきりわかりませんが、本編の中のセックスシーンより、この先の二人の幸せばかりが気になるのです。きっと幸せなんだろうなと思います。「あいして」
詐欺師まがいの職業で稼ぎ、賭け事好きで借金まみれの山村の元に転がり込んできた顔もしらない親戚からの遺産。
借金の返済がせまる山村は喜々として飛びつこうとするが、その遺産には大きなおまけがついていた。
幼いころジャングルで行方不明になり、原始インディオに育てられた従兄弟、宏国だ。
ずっとジャングルの奥地で育ち、日本語も日本の生活習慣もまったく知らない宏国の世話をすることがこの遺産を受け取る条件なのだ。
いざとなったら途中で放り出すつもりで彼を受け入れる山村だったが、その生活は予想以上の困難だらけで……
こんな設定の、BL。
何をどうすればここにラブが生まれるのかわからないところに愛を作ってしまうのが木原マジック。
今回も絶好調です。
好きだ嫌いだ以前に言葉がまったく通じず、意志の疎通が出来ない相手だし、そもそも常識というか生活習慣や生きてきた世界観が違いすぎる宏国は恋愛対象以前になにか別の生き物のよう。
主人公の山村はかろうじて共感できる部分がなくもないけど、典型的なダメ人間。
しかし前半彼がダメであればあるほど終盤、彼が弁護士の前で必死になるときの切なさが半端じゃないです。
そんな二人が築いていく心のつながり。
萌えとはちょっと違う気がするけれど、なんか猛烈に愛おしい。
ラスト。他人の伝聞で語られる彼らのその後の話が読みたいような……いややっぱり木原さんだったらこのままで終わってくれた方が幸せでいられるのか、そこが微妙に難しいところです。
木原さんの作品では、萌えなくてもイイッと思ってしまいます。