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主人公の野田の「私」という一人称からか全体的に文学っぽい印象を受けた。
臆病だからこそ自分の幸せを受け入れ切れない野田は、些細なことをきっかけにぐらぐらと揺れる。
対する若杉の優しさも野田の言うことを受け入れる優しさであり、逃げる彼を追わない優しさだ。
この行き違いがとても切ない。
そういう微妙で繊細なゆらぎを読ませてくれる作品だと思います。
結末は、正直そこで終わるの!!?とすごくびっくりしました。
ハッピーエンドはまだまだまだ先にある感じです。
二人の関係も不安定で脆そうで……だけど、だからこそすごく綺麗だ。
この曖昧さはすごく心臓にわるいけれど、その分印象深い。
あああ、もうなんだか上手く言えなくて悔しいです。
とにかくこれは読んでみて欲しい。
あなたの目で、心で確かめて欲しい。
そんな作品です。
文字も小さくないし、ページ数も多くない、だけれど、とても重い何かがこの作品には詰められていたとおもいます。
このお話は、単純に切ない恋というだけではなく、三十路を超えた、「社会」の枠組みの中に支配された一人間としてのリアリティーがとても重視されていて、まるで、自分が経験しているかのような辛さと憂いと喜びを感じられました。
両想いなのに片思い。素直になれない現実主義者の野田さん(受)と、いつまでもロマンチストで一途でさみしがり屋な若杉さん(攻)、そうやって言葉にすれば簡単に図式化できてしまうのに、そう、うまくいかない。お互いの気持ちがわからなくて、もどかしくて、人生に保守的になってしまって…。
それは、生きる人間特有のことだと思います。生きて、必死になって、もがいて、苦しんで、そうして経験して。そういった「生きる」ことをこの本の中の世界は表わしていて、だからこそ、厚みや重みがでるのかなと感じました。
そういった意味では、ホラーとも取れました。
まったく不明確な未来。真っ暗な世界。孤立した不変を望む社会。
それらすべてがのしかかって、幸せの絶頂にいるとおもえば、突然の崩落があり、そこから愛が芽生えれば、唐突にそれを覆されたり…。
正直、読んでいて「ここで読むのをやめたい」と思ったのは初めてです。次にくる真っ暗なものが怖くて、このまま二人を幸せのまま終わらせてあげたくて、何度も何度もため息をつきながら読みました。(良い意味です。)
それぐらいリアルで、投げ出したくなる本の中のキャラクターたちに何度も共感しました。つらかったです。でも、それがこの本の醍醐味というか、良いところなんだと思いました。
BLとしてはいまいちきゅんとするものだはありません。どちらかというと、そういう枠組みじゃないと思います。萌えるか萌えないかではなく、その世界に入るか入らないかみたいな印象を受けました。
ですが、とてもおすすめしたい一冊です。
少々お値段が高めになっていますが、買って損は絶対にありません。
この本を手にとったなら、ぜひとも開いてもらいたいです。
とても素敵な本と出会えてよかった。
ありがとうございました。
はて?37℃とはなんぞや?って思って手にしたんですけど
ちょうど人間にとって「熱がある」という頃合の温度ですよね。
男前で寂しがりの若杉と平凡で臆病な野田
ふたりは、学生時代に恋の病に罹って
ずっと長い間、病に冒されているって話なんじゃないかと思いました。
またこの37℃っていう温度が性質が悪いw
若かりし頃、一度は別れたふたりが30代という年齢になり
ふたたび身体を重ねる。
若い頃に見えなかったもの、見ようとしなかったものが
少しずつ見えてくるのが、ちょうどこのぐらいの年齢なのかもしれない
そうやって、ふたりの気持ちがわかりあえたときには
お互いの抱えている社会がネックになっている
そんな30代ですよ・・・
急速に物語は展開せず、酷く臆病な受けの“私”語りで綴られてて
ずるずると読みすすまなくてはいけません。
だがしかし!それが、まさに37℃!
じわじわ~と身体の芯から、熱に冒されるv
ちょっとけだるい雰囲気が、私にはしっくりきた。
心の中に、マーブル模様が渦巻き続けるような感覚を覚えた作品でした。
水と油のように、決して混じり合わないのに、複雑に絡みあって一つになる。
そして美しく繊細な模様になって、人の心に浸透してくる。
そんな二人の物語でした。
何だか久しぶりに読んでみたくなり、引っ張り出して読みました。
杉原理生先生は、本当に大好きです。
野田が大学生時代、共通の友人を介して知り合った若杉。
生真面目で繊細な空気を持ち、色白で本人的には平凡な見た目の野田。
人を惹き付ける外見と劇団脚本家としての才能を持ち、淋しがり屋で恋人が出来るたびに家へ転がり込む若杉。
ささやかな切欠で、周囲に内緒で同棲をはじめた二人。
本当はゲイの野田と、男女問わないバイの若杉。
肉体関係だけで繋がる二人。
片方の隠された性癖と、普段のあまりにも冷たい距離感の中で。
二人の精神は、少しずつ磨り減っていきます。
やがて時がたち。
野田は、別れてから十年間何の音沙汰も無かった若杉から、突然しばらく泊めて欲しいと頼まれます。
野田が今妻と別居中であると、噂を聞きつけたからでした。
若杉も若い恋人(男)と別れたばかりで。
二人は以前の関係とは違い、純粋に友人として暮らしはじめます。
そこから始まる、二人のお話。
読んでいて意外なのは、ええ加減そうな若杉は細かいところにきっちりしていて。
几帳面な野田は、意外と面倒ごとを先送りにするタイプでした。
この野田の性格が、後の様々なトラブルの根底に隠されています。
端から見たら水と油な雰囲気の二人ですが。
微熱を帯びた恋の病に溺れて。
溶け合うことは無くても、美しい模様となって絡み合い、決して離れられなくなっていく。
それが幸せなのか、不幸なのかは読み手によって感じ方が違うかもしれません。
私は好きだなぁ、と思う作品でした。
迷ったけどやっぱりすばらしい作品だと思ったので神評価で!
大人になってから、学生時代、体の関係だけ持った友人と再会するお話。
主人公の野田は屈折した性格で理解しがたく、非常に面白いです。
最初は若杉のほうが変わったキャラクターなのかと思いますが、読んでると次第に野田がどれだけ面倒なキャラかわかってきます…。
大人になって再会し、いろいろあって、学生のころのあれは恋だったと今更ながらに理解する野田。
けれど今若杉と恋人になろうとするには歳をとり過ぎていて、会社での地位の事、妻の事、それらを無視することは出来ないという大人の恋のお話だと思いました。
心の中の若杉を好きな部分は綺麗なもので、でもそれを素直に出せるには外の世界は厳しすぎて、現実と自分の心の内とでぐるぐると気持ちを持て余す、全体的に野田の心理描写を追った静かで綺麗な作品でした。
まだ色んな問題は残っていて、でもそこを安易に終わらせない所でこの作品の完成度が高まっている気がします。
少し物足りないのは、「体もなにもないものになっても相手を探し出せるか」という深いお話までする2人ですが、野田の一人称のお話なので、肝心の若杉の心理が野田ほどに理解できなかった事でしょうか。
でもこれは野田の綺麗な独白でこそ成り立つお話なので難しいところです…。