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表題作雪よ林檎の香のごとく

国語の教師 桂英治
高校1年生 結城志緒

その他の収録作品

  • 手のひらにきみの気配が

あらすじ

中学受験も高校受験も失敗し、父の母校に進学する約束を果たせなかった志緒。今は、来年編入試験を受けるため、じりじりする気持ちを抱えながら勉強漬けの毎日を過ごしている。五月雨の降るある日、志緒は早朝の図書室で、いつも飄々としている担任・桂の涙を見てしまった。あまりにも透明な涙は、志緒の心にさざなみを立て―。静かに降り積もるスノーホワイト・ロマンス。期待の新鋭・一穂ミチのデビュー文庫。

作品情報

作品名
雪よ林檎の香のごとく
著者
一穂ミチ 
イラスト
竹美家らら 
媒体
小説
出版社
新書館
レーベル
ディアプラス文庫
シリーズ
雪よ林檎の香のごとく
発売日
ISBN
9784403521942
4.2

(321)

(212)

萌々

(41)

(25)

中立

(9)

趣味じゃない

(34)

レビュー数
66
得点
1308
評価数
321
平均
4.2 / 5
神率
66%

レビュー投稿数66

柔らかい執着が融かす凍った心

私がこの作品を読んで強く惹きつ付けられた部分、それはいろいろな形で表現されている「執着」です。

まず、高校生の時の桂先生の、葉子先生への情熱的な執着。
モノクロの世界に投じられた淡いブルー、桂先生の中に立った恋のフラグです。
「束の間の蜜月と嵐のごとき修羅場」という言葉で表現されていますが、当時の桂先生には葉子先生という存在だけが色を持ち、彼女を振り向かせることが自分の人生においての宿命であり、彼女と愛し愛される立場になることが人生の到達点のような感じだったのではないでしょうか。
でもそれは、宿命でもなく人生の到達点でもなかった。甘い蜜月の齎したものは、ひとつの新たな命と苦いやりきれない思いと自分の無能さ。
この哀しい結末が、彼の考え方や生き方を大きく変えていくのです。
誰からも執着されてはいけない、もしそういうことがあれば突き放す、何人も自分に関わってはいけないのだ、と。
そんな孤独な人生を選んだ桂先生にも、たったひとつだけ、自分を生かしてくれている希望があった。それが「ゆうき」。
そして「ゆうき」という名の生徒との、早朝の図書室での出会いが偶然だったのか必然だったのか、そこまでは書かれていません。
でも多分、桂先生は志緒ちゃんが朝早く図書室で勉強していることは知っていたんじゃないかなと思います(あくまで妄想です)。
複雑な気持ちを心の奥底に持ちながら、小さな希望を口にしたい思いがあったのではないかなと。
単に呟くのではなく、自分のクラスの「ゆうき」に自分の希望を重ね合わせながら。

次に、志緒ちゃんの執着。
彼は執着しなさそうに見えて、実は物語の中でものすごく執着しています。
父親の通っていた高校に対する執着…これは高校に執着しているわけではなく、父親の望みに執着しているんです。
本人も自覚していますが、半ば意地のようなものです。
ところが、母親の妊娠をきっかけに、様々な疑問や不満が現実となって自分に降りかかってきます。
その苦痛は志緒ちゃんの中に鬱積していき、どんどん膨らんでいきます。でも吐き出そうとしない志緒ちゃん。
そんな志緒ちゃんが唯一吐き出せた相手が桂先生だったのは、どうしてなのだろう、と考えた時、桂先生自身から『ゆうきの悩みや苦しみを解放してやりたいオーラ』が出ていたのではないかなーと思ってしまうわけです。
それは教師と生徒という関係から来るものではない、ということは明らかです。

志緒ちゃんは、もうひとつ執着していることがあります。
それは言わずもがな、桂先生です。
桂先生が志緒ちゃんに自分を重ね合わせ、似ていないのに昔のことを思い出し「つらかった」という場面がありますが、もし志緒ちゃんの桂先生に対する執着の仕方が、過去の桂先生の情熱的なそれと同種のものであったなら、このふたりは結ばれなかったかもしれません。
志緒ちゃんの、桂先生に対する執着が、なんとも言えず柔らかい優しい包み込むようなものであったからこそ、この恋は成立したのだと思います。
桂先生から「ゆうき」の存在を聞いた志緒ちゃんが、「ゆうき」の現在をこの目で確認したいと札幌へ旅立つシーン。
桂先生の過去が、たった今、札幌という場所で現在を生きて過ごしている。それを自分の目で確かめたい。
その行為自体、志緒ちゃんの桂先生に対する執着であり、桂先生を想う志緒ちゃんが桂先生の過去も現在もすべて受け入れたいという強い意志にも思えます。
先生の過去も現在も、遠くの地で生活している先生の過去の断片もすべて、志緒ちゃんは自分の目で見て確かめる。
確かめたからこそ、より一層、桂先生のことを好きでいたいと思う。
「先生のこと、好きでいてもいい?」
そのひとことに、志緒ちゃんの男気というか想いの強さをひしひしと感じます。
確かに志緒ちゃんは、桂先生に強い想いを抱いているけれども、決して同じ想いを抱いて欲しいと思っているわけじゃない。
けれども、志緒ちゃんの想いは、人との距離を縮めようとしなかった桂先生の心にすうっと沁み込んでいきます。
人から執着されることを拒んでいた桂先生が、志緒ちゃんになら執着されたいと思ったんじゃないかなーと、読んでいてすごく感じました。
元々情熱的な桂先生だから、「好き」と自覚したらそこからはガンガン燃え上がってきます。
実際は我慢するんですが、それでも言葉の端々に「志緒ちゃん大好き!」が溢れていて、読んでる側もニヤニヤしてしまいます。

あとひとつ、栫の執着の仕方もすごく気になります。不器用すぎて。

この1冊で、様々な執着や愛のかたちを感じ取れました。
そして、孤独のまま人生を終えようと決意していた桂先生の未来を、明るい色に塗り替えることができた志緒ちゃんの柔らかな執着と愛に、心が熱くなりました。

23

研ぎすまされた感性と、美しい言葉

言わずと知れた一穂ミチ先生のデビュー作を改めて振返ってみて
最初に読んだ時、目の覚めるようなあまりに清冽な文章と
確固たる人物造形に魅せられたことを、まざまざと思い出した……。
 
  ※今回、過去に評価だけ入れていた作品のレビューが書けるようにして下さったので
   この機会にアップさせて頂きます。 2014.7.8


本を読む楽しみには、
ストーリーの面白さや魅力的なキャラクターなどの要素も大きいが、
好きな文章を味わう喜びというのも、大きな要素だと思う。
その後の20数冊を読み繋いだ今振り返ると、
この作品はまだ十分に花開いていない蕾のような印象を受けるが、
でもやはり、言葉の連なりを読み進める事自体が心揺さぶる、
BL界には希有な作家さんだと思う。


もうひとつ、この作品にノックアウトされた理由。
今や忘れたふりをしている自身の10代の想いを、
一瞬にしてまざまざと甦らせるような「志緒」だ。
性別も違うし、私はもっと小狡くて、
あんなに潔く美しく魅力的に立ってはいらなかったのだが、
でも、エッセンスの部分で、あのどうしようもなかったミドルティーンの頃の自分が
確かにいる。


この作品は勿論この一冊でも頗る魅力的なのだが、
その後コンスタントに発刊されている同人誌が魅力を更に深めている。
本編だけでは不足な部分を同人誌が補っているというよりは、
まるで生き物のように、すでに作品として完成されていたものが、
さらに成長しているようなそんな感じを受けるのは、
作中の志緒と桂がリアルな年月と同じだけ成長し続けているから、
というばかりでもない。

最初に読んだ時に、結局桂が札幌での約束をはたせずに
フライングしてしまうのが不満だったのだが、
この6年の間に出た、本編では見えなかった彼らの時間を埋める同人誌を読んだ後では、
必然だったと受け取れる。
そんな彼らの、鮮やかな生きた存在感が、ある。


気楽に生きているように見せながら、
自分に罰を課すかのように孤独な生き様を決めていた桂。
その桂を突き動かした、志緒の純度の高いまっすぐな熱。
そして選び直した生き様……

白秋の短歌から取ったタイトル。
竹美家ららさんの挿絵もあって、繊細な美しいイメージが先行する作品だが、
描かれている世界は、実は研ぎすまされたナイフのような緊張感のある世界だ。

この歌が、決して幸せな恋の歌ではないことを本屋で志緒が知る場面。
初読みの時同様、ここで泣かずにはいられなかった。


18

ときめき盛りだくさんな心にしっくりくる神作品

タイトルに惚れてほとんど衝動買いでしたが、大当たりだったと思います。
こんなにしっくりくる作品は初めてでした。
てかときめきすぎて心臓もたなかった・・・。

辛い過去を持つ桂先生とその生徒で純情少年な志緒ちゃんのお話。
一見ポピュラーでありがちな設定で、たしかに私もそれに惹かれて買ったようなものですが、この二人だとなんか違うんです。
普通教師×生徒の作品って、話自体は萌えるものの、二人の間に本当の愛を感じることって少ないと思うんです(少なくとも私は、そのような教師×生徒の作品に出会っていないのですが)。
でも、この二人は本当に愛し合って、求め合って、時々不安になりながらもお互いを信頼しあってるんです。
桂の過去は絶対に志緒にとっては大きな壁のはずだし、桂には教師としての責任や、志緒の心情も気にかかっているはずです。
それでも、お互いに愛し合って、思いやっているところが素直に心に入ってきて、こちらまで幸せな気分にさせてもらいました。
そんな、二人の間にある形容しがたい硬い絆がすごくときめきました。
とにかく二人が愛しくて、ついつい感情移入しまくりでしたw

文章力はかなりあるし、描写や言い回しもかなり上手かったと思います。
ですが、それに慣れるまではちょっと読みづらかったです。
慣れればそれが良さに感じてくるのですが、慣れるまでは、同じ文章を三回読んでやっと理解できたようなややこしい文章もありましたし、あれ?と思うこともありました。
慣れてからは本当に文章が素敵で、するすると心に入ってきて、思わずポロリと涙が零れてしまいました。
志緒の純情さは反則だと思いました。

13

流れるような文章に引き込まれて

新人さんです、これがデビュー文庫のようですね。先生と生徒のカップリングでカップリング設定はありきたりなのですが、その、背伸びをしていない感じがかえって良かったんじゃないかなと思いました。

父親の母校の入試に失敗し来年編入試験を受けるために毎朝図書館での勉強を日課にしてる高校1年生の結城志緒は5月のある雨の日の朝、普段通り向かった図書室で現国の教師で担任の桂が本を読みながら泣いているところを目撃してしまう。
今まで入試に必要ないからと授業もまともに聞いてなくて、名前も苗字くらいしか知らないようなどうでもいい存在だった桂のことが図書室に行く度に顔を合わせその人となりを知るうちにしだいに存在は大きな物へと変化していく・・・

普段は飄々とした軽めの男が時々見せる憂いを帯びた表情、その過去を知って愕然とする志緒、そんな先生の過去の話も無理なくストーリーに溶け込んでいて、流れるような文章とタイトルの一部にもなっている北原白秋の短歌に込められたエピソードが切なさを助長する感じでいいんですよね。ラストでは思わずホロリと来てしまいました。

桂が志緒の努力を受け入れて認めてくれたことが嬉しかったように、桂は桂でつらい過去を乗り越えてきた自分の存在を嫌悪したり拒否したりするのではなく丸ごと認めてくれたことで桂にとって志緒は特別な存在になったんじゃないかなと思います。

これからにもますます期待がかかりますね~
楽しみが増えて嬉しいです^^

12

し、志緒ちゃん…

あーーーーーーーー
好き!!



久しぶりに大当たりな一冊でした。




年の離れた妹が産まれることへの嫉妬や動揺など思春期らしい悩みを抱えていた、等身大高校生志緒ちゃん。だったはず。

そんなスタートだったので、途中から落ち着き払い過ぎていることへの違和感を感じなくもないですが、でもでもそんなことは吹き飛ぶほどに桂を一途に想う志絵ちゃんがかわいーいー!

フラれた側だけれど、桂を思いやって「好きになったりしてごめん」って呟く志緒とか
初詣で自分達の幸せより妹のことを願っちゃう志緒とか
桂の「幸せにして」に本気で向き合っている志緒とか
桂の言葉にいちいち反応してしまう志緒とか
シオシオ言ってますが、本当にツボ。



おちゃらけていて、でも大人の桂と、素直で落ち着いているけど大人でも子供でもない特有な時期にいる志緒の掛け合いがいい雰囲気を出してます。

ナレーションの心情より2人でのセリフが多いので、関係性やそれぞれに対する思いがリアルに感じられて、ほっこり。



まーた読みたくなった!

12

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