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炎が肌に刻んだ、一生ただ一度の恋
当たり前というか、さすがというか、
創作講座を開催しているだけあって、構成も文章も上手で模範的。
上手な表現と構成の効果で、読みながら登場人物たちの事情や情景が迫ってくる。
大正時代。
財閥と関連する貿易商の堂島家。
景は、15才、堂島家の使用人に就く。
館の火災で負った火傷の跡の為、景はやくざしか就けなかった。
体の半分を覆う赤い火傷跡を隠そうとしない景は、「半化粧の景」と呼ばれている
堂島邸の放火で10年服役した坊ちゃん、充洋。
坊ちゃんの服役開けを待つ、景と弟分の様子から始まる冒頭。
そして、主従逆転の展開。
景は、ちょっと複雑な生き方をしている。
先だって「松風の虜」を読んだ時、関連作として本作があげられていたので積み本から引っ張り出してきました。両書が関連していたとは知らなかった…
とはいえ、いざ読んでみると本作は大正時代が舞台で、終盤まで全くリンク部分が出てきませんので、未読でも全く大丈夫です。
この大正時代という設定が絶妙で、華族という「主」があって、使用人という「従」があって、従の階級には子供でも働いて字も読めない境遇も口減しもある、本物の貧乏があるという時代。
主人公の景は、15才の時に旧家堂島家に奉公にあがる。3才年上の堂島家の長男充洋は景が小さい頃から家族の為に働いて偉いと心から褒めてくれ、字の教本もくれる。景は充洋に忠誠心を抱くのです。
この後景の身の上に切ない事件があり、また堂島家に大事件が起こり、充洋は刑務所で10年服役、景の身体には一生消えない傷跡が残ります。そんな地獄の後、景を支えていたのは充洋の人生を再び光の側に戻す、そのためならなんでもするという決意。
それなのに出所した充洋は……
忠誠心と崇拝の気持ちが強すぎて充洋を遠ざけ、それでいて充洋の為に愛人稼業をする景と、かつて光の中にいた御曹司でありながら、景への償いの為に俠客になり景のそばにい続ける充洋の、すれ違う「主従恋」がドラマチックです。
そんな2人がついにこだわりを捨てるのが、あ〜これか。大正時代ならでは。設定が生きています。
そして、「半化粧の恋」というタイトルが大変良い!
半化粧の二つ名を贈られるに至る景の負った悲劇、それを乗り越える景の意志と生き様。
景は女の子のよう、と言われる可憐な容姿ですが、心の中は「漢」の凛々しい受けなのです。
支配と従属とは一味違う主従ものとして、おすすめです。
前半、景が身体を他の男に抱かれて、心とは裏腹に快楽を得る描写がありますので、そういうのが地雷の方は注意です。
鳩村さんならではの読み応えある1冊でした。
タイトルの”半化粧”、梅雨時にぴったりな半夏生を彷彿とさせます。過去の事件で半身に大やけどを負った美貌の主人公を象徴するタイトルです。
時代物、高倉健さんのイメージがびったりな硬派な黒髪一途攻め。道ならぬ恋と極道と、自分が好きな設定が多くて楽しめました。
不幸受けだけどなよなよしてないところが好感持てます。これは攻めもそうで、元は恵まれた家庭に生まれながら、不幸な事故で刑期を務めなければならなかったにもかかわらず、心は折れず一途に受けを思い続けるのです。
ただ、お互いを想う心は一途なんですが、レゾンデートルとしての二人のお仕事というか生き方の描写はなかったので、そこがちょっと物足りなく感じました。
まさに帯に書かれている通りの物語だなあと思いました。
時代も設定も私の好みで、主従逆転がこんなにも萌えるものだとは…(笑)
受け様の葛藤や過去への執着、また、攻め様の男らしさや潔さ、受け様を想う気持ちがよく書かれていました。
過去の回想が物語の合間にちょくちょく入ってきて、過去と現実のギャップがまた良かったです。
私がこうしてほしい、ああしてほしいという想いそのままに彼らが動いてくれたので大満足です。けど、受け様が他の男に抱かれるのに抵抗のある方にはあまりオススメできません。