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丁寧な作りの文章に涙したストーリーです。
自分の出生に肉親から愛されていないと思い込み、ひねくれた性格と生活を送っている藍。
彼のバイトしているデリヘルの客として出会った成瀬は、白シャツ&ソックスフェチで、藍に何もしない。
そんな成瀬がただ何もせずに藍がそばにいることで満たされるというのを、突っぱねた態度と言葉で藍は否定しようとする。
でも、本当はその成瀬の言葉と態度はヒドイ客ばかり相手していた藍の心を揺り動かしていたんですね。
成瀬が心を伝えようと、昼間の藍のバイト先の古本屋に本を持ち込んだり(またその詩がじーんとくるのですが)プレゼントをしたり。
成瀬も自分の性癖を回りに隠して生活しているストレス、家族との軋轢などで本当の自分をさらけだせる、そして安心できる相手を求めていた。
彼のゆっくり、ゆっくり、相手をわかりあって好きになっていきたいという、自分も相手も思いやる態度がはがゆいものの、それは藍だけでなくて読者である自分にも暖かい気持ちを与えてくれました。
藍の周りに登場する人々も愛すべき人達です。
古本店主の佐藤には途中幻滅させられましたが、それでもやはりいい人なんです。
藍はそれらをみんな拒絶するような、本当にネガなひどい性格なんで、彼の心の声も葛藤しながらもあきらめの方向へ自分で勝手に進んでいる、そこがじっくりと書き込まれているので、終盤成瀬に別れを告げてしまうところで本当にバッドエンドなのか!?とハラハラさせられました。
先輩の野宮に背中を押されて、成瀬に気持ちを伝えに行くシーンに、藍は成長したよ、この気持ちを忘れずにこれからもっともっと愛されて、その愛情を遠慮しないで受け取って、自分も相手に与えられるようになればいいと、感動しました。
めちゃくちゃネガな藍に、いまどきいないだろというくらい誠実な成瀬の気持ちが繋がっていく様は、作者の丁寧な文章、過剰すぎない表現で切々と胸に訴えてきてスルっと自分に入り込んで行きました。
思わず涙腺が刺激されてしまいました。
切なく美しいお話を書くことに定評がある作者の朝丘戻。さんの作品です。
私はこの方の本が本当に好きで、よく読みます。
切なくて、透明感があって、綺麗なこの方の文章が、物語が、大好きです。
ですが、一つだけ不満がありました。
それは、物語の最後がハッピーエンドにならないということです。
正確に言うと、ハッピーエンドではあるけれど二人が一緒にならない。ですね。
とにかく受けと攻めが2人がくっつくことは極端に少ないんです。
そこが切なくてまたいいんですが、でもやっぱり二人には幸せになってほしい……。
ずっと思っていました。
そんななか読んだのが本作品!
今回は2人が無事にくっついてくれて、本当に安心しました。
途中まではいつも通りのくっつかないエンドまっしぐらな展開なんですよ。
「あぁ、やっぱり……この二人が少しでも幸せになってくれることを祈ろう。」と、思いました。
しかし、その後の展開が違います。
いつもの朝丘さんの受けなら、泣きながら「さようなら……」
なシーンですが、受けが攻めを追いかけに走るんですよ。
よくやった!と、声にだしそうになりました。
朝丘さんの作品には毎回切なくて泣かされてしまいますが、今回はよかったね、と涙ぐむ形になりました。
朝丘さんのハッピーエンド、予想以上に綺麗で、透明で、美しかったです。
呼んで絶対に損はない、と私は思います。
坂道のソラから朝丘さんの本を読むのは2冊目なのですが、読みにくいと感じること一切なく1日で読み切ってしまうほど良い作品でした。
主役の2人だけではなく、周囲の人間もひとりひとり魅力を感じました。店長も前まで優しく穏やかだった面もそれは必ず店長の一部であると信じていたかったと思えるようになった藍の心の変化など細かく表現されていて感情を自然とリンクさせながら読み進められました。
軽い気持ちで読める話ではないと思いますが、人に勧めたいと思う本でした
成瀬の性格のせいか、小説全体に優しさを感じた。
家庭環境のせいで淡々とした性格に育ち、身体を売る商売にも「単なる肉体労働で、引っ越し屋と同じようなもの」と言い放っていた無感情な藍。
彼が古本屋の店長の欲深さと成瀬の優しさの狭間で揺れ動くうちに愛情を学んでいく様が丁寧に描かれている印象。
一度信頼していた人間(この場合店長)に裏切られたぐらいでそこまで…?と思いもしたが。
後半に電話の会話だけで愉快であたたまるエピソードを入てきたり、形にとらわれない書き方もいい。
読後、売りの話にも関わらず汚さより至福感が残った。
昼は古本屋でバイト、夜は身体を売る仕事をして2年間過ごしていた藍。
ある日指名が入った相手からの指定は、白シャツに白い靴下。変態かと思いきや、抱きしめるだけで、それ以上はしてこない成瀬。
成瀬は藍を気に入り指名を繰り返すが。。。
夜の仕事に罪悪感はなく、暴力を振るわれても耐える藍が、唯一気に入っていた古本屋バイト。夜の事がバレて、店長に体を触られるようになり、信用していた人からの裏切り。読んでいて苦しかったです。藍にとって身体を売ること以上に、辛く感じることも悲しいし、店長が最後にしたことが、本当に酷い。
でも、朝丘先生の文章は、その酷さを明確に表現するのではなく、心情で伝えているので、読んでいて感じる辛さも、どん底ではなく、そこから成瀬とのやり取りが救い。
せつなくて、藍のマイナスな思考の意味もわかるからこそ、告白を断って分かれてしまった時には、不安になりましたが、予想外の救世主!私は宮野が店長と同じ類の人間なのかと疑っていたので、ここでやっと信用できました(笑)
夜の仕事の店長も、なんやかんやで藍を守ろうとしていたし、悪い人ばかりではないという終わり方が、私は好きです。
やっと掴んだ幸せを願わずにはいられない、せつないけれど、出会えたことの素晴らしさを感じられる、とても好きなお話でした。