イラスト入り
多くの方が書いておられますが、このラスト最高ですね。
甘くて心地のよい“痛み”の余韻が…。
BLで甘くて心地のよいラストにならちょくちょく巡り合うことができますが、そこに痛みを伴わせることができるのは木原音瀬さんならではだと思いました。といっても、バッドエンドではありませんし、誰にとっても不快さは一片もありません。
そこにあるのは、誰もが知る、純度の高いシンプルで幸せな恋の痛みです。
リアル日常生活では(私は)味わえない感情なんだけど、味わいたいからBLを読むんだよなァと思います。木原さんありがとうごさいます!ちなみにこれ、男女じゃダメなのよ。男女だとちょっとイラッとするから、どうしても純度が下がるw
主役二人は大人です。
前半は40代の攻め視点、後半は受け視点。攻めはリストラされて枯れてて弁当屋で、受けはエキセントリックだけど外資系の会社で働く有能な男。
前半と後半で、それぞれのキャラクターがまったく違う側面を見せてくれます。しかも、キャラクターの性格が変化したわけではない。
前半では身勝手さと嫌味ったらしさを「欧米流の率直さ」という都合のいいオブラートで包んだような性格の受け。それが後半でめちゃくちゃ可愛くなるんですよ。
木原音瀬さんは、みっともなさや滑稽さ、失敗が萌えになることを本当によくご存知だと思います。
とくに受けがきのこを包丁で切る場面は、プライスレスでしょう!受けの生真面目な性格や緊張や、みっともないところを見せたくないという気持ちが高まって、必死で滑稽で可愛くてどうしてくれようって気持ちになる。攻めもきっと同じ気持ちです。惚れてなくても惚れるに決まってる。
まるで初恋してる思春期の少年のようだなァと思ってふと気付いたのは、まさに受けにとったらこれが紛れもなく初恋だということでした。木原さんもあとがきに「タイトルは最初「初恋」にしようと思っていた」と書かれてて、ですよねー!と拳を握りました。
ちなみに枯れたオッサンだと思ってた攻めへの感情も、後半で大きく変わります。違う時間軸の中で、使えない歯車かもしれないけど、きちんと自分自身を生きている魅力的な人だ。先にレビューした人も書かれてますが、私も若いときなら彼をダメ人間だと判定したかもしれない。でも、ちゃんと働いて生きてるから素晴らしいんだよ。彼には勇気を貰えますw
あー、ぐだぐだ書いてたらやっぱ文字数足りないや。
コノハラーで良かった!
大人の男たちの切ない恋のお話。
温厚で多くを求めない谷地、冷徹で向上心の塊の榛野。二人は、リストラされた者とリストラした元上司。
真逆な二人が静かにゆっくり近づいていくのがよかった。
表紙イラストも、片思いする榛野と戸惑う谷地の関係をよく表しているなあ、と思いました。
とても好きで、読み返すたび、じっくり眺めてしまいます。
表題作の「深呼吸」では、谷地と榛野がやっと友人のようになったと思ったら、榛野は谷地から遠く離れてロンドンに行くことを決め、自爆のように想いを告げます。後日談の「深呼吸2」では、半年後に谷地がロンドンの榛野を訪ね、一緒に観光したり料理をしたりといい雰囲気に。小さな波乱はあるものの最後は恋人同士に。
「深呼吸」は谷地の視点で書かれていて、一読目は、榛野がなぜ、どのように谷地を好きだったか分からなかったのですが、「深呼吸2」で種明かしのように榛野の気持ちが書かれているので、あらためて「深呼吸」を読み返すと、榛野が驚くほどいじらしい人物に見えました。榛野の気持ちを思い出しながら読み返すと、すごくドキドキします。
一番好きなのが、野良猫にエサをやる谷地の話。
猫にエサをやるのは自己満足のためかと問う榛野に、谷地は、自分が野良猫ならその時だけでもお腹いっぱいになりたいし、誰かがエサをくれると期待するのは希望ではないか、と答えます。
谷地の深い優しさに触れて、榛野は「猫なんかじゃなく自分を見てほしい、自分に優しくしてほしい」と切なく、自分の恋心を自覚したのですが、ロンドンに発つ前、谷地には「そういう考えの人もいるんだと思いました。」と、淡々と話しています。
こういうことがあったから、あなたを好きになった、と素直に言えなかった。
猫みたいに素直に甘えられない榛野が、すごく可愛い。
猫が、この二人を結ぶ小さなキーワードのようです。
日本で、夜遅くに谷地の家を訪ねたいことがあったときも、榛野は「猫にも会いたいので」と口実にしていたし、ロンドンで谷地を誘惑しようと膝に乗り上げても気づかない谷地に、「猫の真似です」と。
ハラハラしましたが、最後、両想いになれて、よかった。
谷地は榛野の家の冷蔵庫を食材で満たしてからロンドンを発っていきます。
榛野がそれに気づいたのは、谷地を空港に送り一人寂しく帰宅してから。料理が苦手な榛野のために、そのまま食べられるものをたくさん。日本にいた時より痩せた榛野を心配して。
谷地は本当に榛野を好きなんだな、と分かるエピソードの一つなのですが、正直言えば、谷地がなぜ榛野を好きになったのか、もっと知りたいと思いながら読み終えました。
ネットで、その後の話は何かないかしら、と探していたら、「plus story」を電子書籍で読めると分かり、思わず喜びの声をあげてしまいました。
それを読んだら谷地の気持ちが分かり、「深呼吸2」を読み返したくなり、また「深呼吸」に戻り、続きの「深呼吸2」、「plus story」を読むという無限ループにはまり…。
何度でも読み返したくなります。
何度も読んでしまう私の中の一冊。
執着具合とか、なぜか私のドツボ。短いスパンで4度目の再読。
読むものがなくなると、ついつい読んでしまう不思議な作品。
そしてほっと〇っとの前を通ると、想像して楽しんでしまう変態な私。
攻め様の懐の深さなのかな、私を捉えて離さない理由。大人なんだよな~
自分にリストラを言い渡した相手なのに...その受け入れ方が...(私なら受け入れられない)
なんかね、胸がきゅっと苦しくなるのです。
谷地さんが怪我をしたバイトの代わりに夜のシフトになり、榛野さんが来て「夜の時間帯に勤務を変えたのは、私のせいですか?」の場面、息苦しくて死ぬかと思いました。執着具合がたまりません!
木原さん、素敵な作品が多い。でも、この作品は上位ではないのですね。
私的には木原作品断トツのNO.1なんですがね(笑)
多くの人に読まれるといいな。
木原さんはダメオヤジをとても魅力的に描くのがうまいですよね。
『B.L.T』の大宮雄介・痴漢二股男にしろ、
『NOW HERE 』の仁賀奈正敏・昔の恋が忘れられない50歳の童貞枯れオヤジにしろ。
そしてこの話の攻めも本当にダメオヤジ!
仕事にしても人生にしても全く向上心が無く、43歳にして会社をリストラ。
ただ今、24h営業のお弁当屋でアルバイト生活。
バイト生活8ヶ月目にして正社員の誘いがあるも、「考えさせてくれ」と返事。
将来に少しの不安はあるも深く考えず。
私の周りにいたら絶対にイライラしそうなのですが、こんなオヤジを木原さんの手により癒し系のおっとりオジサンと化してしまい、読んでいて何だか自分自身が癒されていくようでした。
二人の関係がゆっくりゆっくりと変化していくのですが、リストラ宣告した上司と部下から弁当屋の店員と客から、本を貸し借りする友人、毎週末には家を訪れる関係、お互いがいることが自然な空気になり、離れていても手紙や国際電話をし合える関係になり、休暇を一緒に過ごし気持ちを伝え合いと、飽きさせることなく一気に読めてしまいました。
そして、なんといってもあの終盤!
両思いになって幸せなはずなのに、込み上げる涙。
谷地が買っておいてくれた榛野にとっての思い出のりんごをかじって出る涙。
そして、後々気づくことになる自分の気持ち。
普通、気持ちが通じて幸せになって終わる話が多いなか、それ以上の現実を描き読後は何とも言えない寂寥感に駆られる。
もう、絶対続きが読みたい!
今度はどの本を読もうかなー、ちょっとリラックスしたい気分。「深呼吸」というタイトルは、正にそんな私に打ってつけのそれに思えて手に取りました。お話ごとに視点が変わるというのは木原先生お得意の手法。ですが、皆様も仰っておられますように、視点が変わることにより、ここまで作品の印象がガラッと変わる作品も珍しく、驚き戸惑いつつも楽しく拝読致しました。あらすじは割愛させて頂きます。気づくと長文になってしまい、文字制限に引っかかってしまうため。 (〃⌒ー⌒〃)ゞ アー、マタヤッチマッタ
目次
深呼吸(谷地視点)
深呼吸2(榛野視点)
● 深呼吸
まず、タイトルの「深呼吸」ですが、この単語が出て来たのは作中ただの1度きりでした。私はこの作品を読む前は、きっと作中の人物たちがいろんな所で溜息をついては深呼吸するシーンが、山ほど出てくるに違いないと思っておりました。ところがそんなシーンは皆無に等しく…。たった1度きりの深呼吸、それはこんなシーンでした。
会社を変わり海外赴任することになった榛野が、谷地を前に、リストラした経緯を語り始めます。榛野は谷地に対し、実に露骨に無能の烙印を押した後カミングアウトするのですが、その直前、唯一の「深呼吸」のワードがもたらされます。
―――榛野は大きく、深呼吸してから谷地の目を見た―――
この深呼吸をした後の告白で、ようやく榛野の本心をうかがい知ることになります。でもそれまではどこか心の冷たい嫌な人物に見えておりました。年配だけど温厚で優しい谷地とは正反対。本当にこんな二人が恋愛関係に発展するのだろうか。第一こんな冷血人間の様な榛野に感情移入など出来るものではない。そのように思っておりました。この時はまだ谷地視点で見ていたため、余計にそんな気持ちを強く持ちました。
ところが谷地自身が榛野から告白された後、「この男を嫌いにはなれない」と思い、「この男に、自分はどう見えているんだろう」と興味を持ち始めたことで、私も谷地同様どんどん興味が沸いてまいりました。何が面白いと言って、好きになった者も好きになられた者も、どちらもその理由が分からないと言う事。
最初は「そんなバカな」と驚いた私。でも…そもそも人を好きになるって案外そう言う事。理屈じゃなく、不思議だけど気付いたら好きになっていた、そう言う事だと思うのです。むしろ打算的じゃなく、逆にこの方が本物だと思えるのです。男女の恋愛はとかく打算的で、それが本当の愛なのか計算なのか分からなくなることがあります。BLを好きになったのも本物の愛を体感したくなったから。それゆえ、好きになった理由が分からないってアリだと思えるのです。
話を戻します。海外赴任することになったため、お別れの前にカミングアウトをした榛野。その際、谷地が可愛がっていた「別宅の猫を、いただけませんか」とか、谷地の所有する「本をください」などと言うのです。榛野のそれまでを見て来た私からは想像もできない意外な面が次から次へと現れ、面白ーい!ナニコレ?と思った頃、「深呼吸」は終わります。おぉ!これからと思った矢先に「END」 (>_<)
● 深呼吸2
こちらは榛野視点。よって今までは分からなかった榛野の気持ちが手に取るように分かり、私の中でも、冷たい人間から血の通う温かみのある人間に変化していきました。
―――日本語と同様、英語でも谷地の喋り方はゆっくりしていて、音の取り方がいい。響が心地よい。ずっと聞いていたくなる―――
これは榛野の心の中の言葉。谷地の流ちょうな英語、私も聞いてみたいと思った瞬間です。そう言えば、谷地の元職場は外資系。英会話が得意でも何の不思議もないのですよね。
―――谷地は男前というほどではない。けど女を引き寄せる。これまで一人でいたのが不思議なぐらいだ―――
とありますが、私も同感です。観光名所などを歩いていると、案外あちらこちらに日本人の姿をお見掛けします。こちらの小説でも例外なく声をかけてくる女性の存在が。すると女性の視線が谷地に注がれ…榛野の何気ない嫉妬の気持ちが手に取るように分かり、可愛いと思える瞬間がありました。
思うに谷地は、恋愛事情には疎い方だったのではないでしょうか。そんな谷地も榛野によってドンドン開発されていきます。とはいえ、どちらかと言えば榛野の方が谷地によって翻弄されていたような気がします。
―――「私は死ぬまでに、一度ぐらいあなたと寝ることができるんでしょうか」―――
こう言いながら、榛野は谷地を襲い始めます。ところが拒絶はなかったものの、受け入れられているわけでもなく、途中から愛の行為は尻すぼみになってしまいます。落ち込んだ榛野が「地球が滅亡すればいい」とか、「記憶喪失になりたい」などと一人涙を流すシーンが可愛いく、思わず笑ってしまいました。
でも、何から何まできっちりしている谷地は、成行きで体を結ぶのではなく、きちんと話し合い、合意の上でお付き合いをしたかったようで…まどろっこしいけど、決して榛野を拒絶したわけではなかったのですよね。それを証拠にその後は甘い甘い抱擁が待って居りました。もちろん、当然の成り行きとして最後まで行くのですが、それまでのじれったさが嘘のように目茶苦茶に甘いのです、これが。
何か…大人のラブロマンスを見せつけられた感じです。ほんわか甘くってスイートで、私の心もグチャグチャにとろけてしまいました。