だめだとわかっているのに――好きになってしまった

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表題作彼岸の赤

漆真下幸久 元ヤクザで刑務所を出たばかりの28才
東恋慈 悠徳寺の僧侶 25才

その他の収録作品

  • あとがき
  • 明日のはなし

あらすじ

刑務所から出所したばかりの幸久は、不慮の事故で僧侶である恋慈に怪我を負わせてしまう。償いのためとはいえ献身的な恋慈に付け込み身体を要求する幸久だが、そんな中、恋慈に心中未遂の過去があることを知り……。
(出版社より)

作品情報

作品名
彼岸の赤
著者
尾上与一 
イラスト
コウキ。 
媒体
小説
出版社
ムービック
レーベル
DolceNovels
発売日
ISBN
9784896018295
3.3

(34)

(6)

萌々

(13)

(6)

中立

(4)

趣味じゃない

(5)

レビュー数
12
得点
104
評価数
34
平均
3.3 / 5
神率
17.6%

レビュー投稿数12

BL版 仏教のすすめ 入門編 ~縁と業~

 坊さんには一切萌えを感じないもので、最初はためらっていたのですが、『二月病』があまりにも素晴らしかったので、勇気を持って読み始めましたら。

 夢中になりました。大変面白かったです。仏教の教えが大変わかりやすく書いてあり、しかも登場人物たちのありようがまさに深く仏教的なのです。

 「恋慈って変な名前だなあ…」って思っていましたら、その謎が彼の生い立ちによってわかり。恋慈が幸久を一見誤解で助けたつもりで怪我させて、一方的に恋慈が幸久に救われる話のように感じましたが、読後しばらくたって、いや、幸久もやはり恋慈によって救われていたんだなと思い直しました。幸久がいなければ未だ恋慈は自分を無価値な生き物として思い、それになんの疑問もなく生きていたのと同じように。
 幸久も恋慈に出会わなければ、また自分が望まないまま流転の人生を歩み続けたかもしれません。仏教的には多分幸久の業は恋慈と変わらない辛い重い業であるように思えます。
 でもだからこそ二人には因縁があり、出会い、影響しあうのでしょう。
 蓮の花は汚泥の中でこそ咲く。
 仏様は罪深い二人を救わんと願って、願い続けている。
 それがわかるのがラストのタイトルの由来です。

 恋慈は僧侶になって、一生懸命修業し、その姿は心うちますが、ご法話がみんなに響かない。それは彼が僧侶としてはもっとも重い罪を背負っていることに自分で未だ気が付けないからかもしれません。それは彼が過去にしてきたことではなく。
 仏智疑惑の罪。
 自分が仏さまから救いたいと願われている存在であることを信じられないこと。
 もちろん彼の過去を考えたら当たり前のことです。
 だからこそ、まわりのみんなに大切にされ、自分も大切にして。
 大好きになった檀家のおばあさんやおじいさんの葬儀をしなくてはならなくなったとき。恋慈はその悲しみを苦しみを呑み込みながら、それこそ人の心を打つ法話をするお坊さんになっていくのかもしれませんね。
 
 と、えらそうなことかいていますが。偶然、虎の穴さんでこの作品の番外編の同人誌を手にすることができて、読んで。
 恋慈に逆にやさしく諭された気持ちになったことが一つ。
 彼は幸久とのデートにおしゃれしてくることを指定され。
 ちょっと良い僧服を着てくるのです。
 最初、笑ってしまいましたが。次の瞬間、自分が恥ずかしくなりました。
 彼は自分が僧侶であることに、それを他者に知られることをちっとも恥ずかしいと思っていないのです。むしろ、誇りに思っているのです。無意識に。

 素晴らしい僧侶になるだろう恋慈の将来が楽しみです。
 他にも憲照がかっこ良すぎて。ずるいよ、本当。

 なんだか本当に知ったようなエラそうなことばかり書いてすいません。
 でも内容はわかりやすくて、『二月病』よりライトな仕上がりになっていますので、ぜひこちらもご一読頂ければ幸いです。
 大切な人を亡くしたことのある人なら、なお響く物語かもしれません。

 
 
 
 
 

5

エロい可愛い

尾上さんの作品の中で一番読みやすい作品の様に感じました。

セックスシーンは他の尾上さんの作品と比べても多く、描写も丁寧でエロかったです。しかし、エロいだけではなく、2人のやり取りもほのぼのとしていて、どちらかというと甘いお話です。
恋愛を主軸とした話の展開で本当にBLらしい作品の様に感じました。

しかし、テーマ性のある伏線は健在で、人によっては少し重く感じられるかもしれませんが、ストーリーもしっかりしているのでおススメです(・ヮ・)

3

ある日、屋上で

以前から読んでみたかったこちら、私には初の尾上与一先生のご本になります。
攻めは、刑務所から出所したばかりの元ヤクザ、幸久。受けは、可愛らしい容姿なのに鬱々とした僧侶の恋慈。これだけ見ても接点ゼロの二人がどんなふうに出会うのかというと、四階建て程のビルの屋上で、心機一転やり直しを心に誓っていた幸久を自殺すると勘違いした恋慈が、どうしたことか突き飛ばしてしまい、幸久は宙吊り状態から落下。死にかけるところから始まります。
人生詰んでる幸久と、違う感じにドン詰まってる感じの恋慈は、被害者と加害者の関係でセックスをし、住む所も無くなった幸久が寺に転がり込む形で話が進行していくのですが、これが面白かったです。
「彼岸の赤」のタイトルからシリアスな方向を予想しましたが、重くなり過ぎずに軽妙な雰囲気なんですね。
視点は主に攻めの幸久になりますが、攻め視点のエッチ場面がすごくエロ!男っぽさと優しさが伝わって、ドギマギもののエロさがあります。
ただ、幸久は別にヤクザでなくてもよかった気はしますかね。ストーリーが進むごとに常識的な好青年度が増してくるので。
そして受けの恋慈。恋慈は自虐的で鬱々とした感じが絶妙でした。ちょっとイラッとしそうでしないのです。
お坊さんだけど、どこかまだ違和感ある恋慈は、過去に男と入水心中してしまいまして、そこで時間が止まってしまってるんですね。
なんだかんだあって、幸久は恋慈への恋心を自覚して告白しますが、恋慈は死んだ男が忘れられないと断わります。
後半に明らかになる、心中の真相が鍵です。
二人がちゃんと結ばれてよかったなと、祝福したいエンディングでした。
あと、太郎丸というメッチャ強いニワトリ(♂)が出てきまして、私のハンネは霧笛丸でありますのでちょっと親近感が。太郎丸とはいい散歩ができるんじゃないかなー。
2012年出版のこちらは残念ながら、現在は電子のみになってますが、甘い読後感の良作です。

3

人生の愛し方を教わる幸せを感じます。

残念ながら新刊購入が出来ず、たまたま図書館で取り寄せが出来て読めました。
優しくて自分より周囲を優先するばかりで、人生の負のスパイラルから抜け出せなくなった挙げ句にどことも知れない岸にうち上げられてしまったような攻めが、愛されることを知らない寂しさに命をかけて愛を得ようとして失敗してしまい、悔やみと、心中相手だけを死なせてしまった罪の意識に縛られて死ぬ迄
ひたすら自分を責めている受けちゃんとの、再生のストーリーとして読みました。
攻めにしても受けにしても、悪いところのない人間で、「どうしてこうなってしまったかなあ」という悔恨が中盤迄の展開を覆っていて、逃れられない不幸といったワードが浮かぶような雰囲気か続きます。
暗めの雰囲気なのですが、受けちゃんの幼なじみにしてスパダリ属性を持つ裏の大寺の若様(当て馬ではありません。)やら、受けちゃんが飼っている凶暴極まるハクショクレグホンやら、生命力やら社会を生きるたくましさを供給してくれる存在のエネルギーにはかなり救われます。
鄙びた地域での受けちゃんの慎ましい暮らしぶりの描写なども楽しみながら読みました。
終盤、何とか受けちゃんを救い出したい攻め様が、持ち前のスキルと愛で無理に展開を早めるあたり、ハラハラして、何とか間に合った!というぎりぎり感がありました。
ハピエンです。
自分達の一歩一歩で進んでいく覚悟をそれぞれが固めて一緒に生きることを選ぶことで、過去に二人が陥っていた限界が消し去られて、プラスの回転に舵がとられたような迫力を感じます。
このあたりの多幸感は、先生の、より最近の作品、花降る王子シリーズ等に共通すると感じました。
「二月病院」を初読みして以降、先生の作品はいつも覚悟が要ります。それでも今作もやはり読んでよかった、読めてよかったです。

0

死んでしまった心の再生

元ヤクザと寺の僧侶との勘違いとトラブルから始まった切なくの甘いお話です。

攻め様は元ヤクザ、知り合いの罪をかぶって身代わりに捕まり刑務所を半年ぶりで
出所してきたのですが、組からは既にクビにされていて・・・
まぁ、ヤクザと言ってもなりたくてなった人ではなく、成り行きで拉致されるように
IT系にもそこそこ知識があった為に、末端の組員に違法AVコピーや経理なんかを
させられていた雇われヤクザみたいな感じなんです。
一緒に住んでいた友人に家財道具一式、金銭的なもの全て持ち逃げされ住むところも
所持金もない状態で出所した攻め様は、とあるビルの屋上で死んだ気持ちで一から
やり直そうと、タイタニックばりで屋上にいたところを、自殺志願者と間違われ
逆にぶつかられて勢いでビルから落ちて怪我をしてしまう。

そして、その相手が寺の僧侶の受け様なんですが、ここまでしなくてもと言うくらい
自虐的に平身低頭し過ぎ、攻め様に向かって何でもすると・・・
その態度に、意地悪な気持ちも働き、セックスの相手をなんて冗談で言うが
受け様は、まるでその辺の物を取ってと言われるのと変わらない感じで了承するんです。

そして、行く当てのない攻め様は受け様の寺で、怪我が治るまで居候することに
身体の関係もたまにしてもらいながらの同居生活が始まる。
そして暮らしていくうちに、攻め様は受け様の幸せを全て放棄しているような
暗く陰鬱としている様子に気が付いて、受け様の身に刻まれている傷痕も気になるが
聞けるような雰囲気もなく、しかし突然尋ねてきた女性の事がきっかけで
受け様が過去に同性と心中事件を起こしている事を知るのです。

攻め様は、受け様と暮らすうちにいつの間にか好きになっていて、受け様に告げるが
受け様は死んだ彼がいるからと攻め様を拒絶。
攻め様は、過去に囚われていて、その事件から心が死んでしまったような感じなんです。
でも受け様も攻め様の優しさに触れていくうちに攻め様を思う気持ちが・・・
でも、亡くなった彼の写真を前に、そんな資格は無いのだと、今生きているのは
生きて罪を受け入れて命が消えるまで苦しみの世界にいる事が務めみたいな感じです。

後半までは、亡くなった恋人と一緒に死ねなかった苦しみを背負っていて
今でも亡き恋人を求めているのかと思っていたのですが・・・
意外な展開がありました。

攻め様は断られても、受け様を好きな気持ちを諦める人ではないんですよね。
例え、受け入れてもらえなくても受け様を好きで居続ける感じなんです。
自分が相手に選ばれなくても受け様の幸せを願うなかなか健気な攻め様です。

後半の展開は二重の意味でびっくりする事もあったのですが、受け様が追い求めていた
ものが見えて来た時にかなり切なかったですね。
でも、ラストは受け様が今度こそ幸せになる設定だったのでほっとしました。
物語の獰猛なニワトリさんがなかなかユーモラスでこんな番犬がわりも
良いかもなんて微笑ましい気分になるキャラも出てて素敵な作品になってました。

5

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