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1冊通しての長編。
主人公はサラリーマン1年生の羽多野。
ゲイで、6年越しの恋人がいる。けど徹底してクローゼット。
そんな羽多野が新人の初仕事として「お花見の場所取り」を命じられ、その場所で中学の同級生と再会する…
…という冒頭から。
この同級生・城崎の登場で、羽多野の失恋経験と、その事に因るのかどうかの羽多野のネガティブ思考が炙り出されて。
しかも、城崎は今。
羽多野の失恋相手・中村と付き合ってるという。
その日から羽多野は気分が浮き沈み、いや沈み沈みで、恋人の千聖は心配とやきもちと。
この千聖が。
職業はバーテンダー。クールでカッコイイ。で、すぐグシャグシャする羽多野を愛してる。
この千聖の愛がいいのよね…
だけど羽多野は自分が千聖に釣り合ってない、と思ってる。とってもネガティブ。
まあ付き合ってる過程である事件があって、羽多野は千聖に負い目があるわけです。
だけど千聖の愛情は全く揺るがない。
後半、羽多野闇堕ち〜?みたいな展開になりかけて怖かったけど…千聖の愛が勝ちます。
羽多野のヘタレ具合がなんとも暗い。幸せすぎて怖い…だから幸せを手放そうとする羽多野みたいなヤツ…わかる気もするけどさ。
そんな羽多野を愛して絶対手を離さない千聖も、もしかしてヤベー奴なのかもしれないと思わなくもない。
からかいに怯える教室で、黒板にチョークで線を引いて心の中で好きな相手まで橋を渡す…そんなエモさが全編に満ちている。
歩田川先生の作品はデビューから読んでますが、やっぱり「チョークの橋」好きすぎる。空気感が好きなのか…?わからない…でも好き…。
ハッピーエッチラブラブ!!!みたいなマンガを微笑みながら読むというより、深夜に読んで、私BLすきだわ…となるというか…静かで熱いというか…。(謎)
歩田川先生の作品ってつらい描写も不思議と読んでて、つらいーーー!!!って感じではなく自然と読めるんですよね…なんでなんだろう。不思議。
受けの仁くんは、そんな悩まなくても大丈夫だよ~って思うくらい沈んだりするんだけど、千聖くんの包容力?余裕さ?がカンストしてるので終始安心して読めるのがいいいと思います。(余裕といっても仁くんのこと大好きなのはすごく伝わる)
というか歳とってから気づいたけど、千聖くんって相当良い男ですね!??ちょっとバンドマン的見た目なのに…って書いてて歩田川先生の描く男の人の雰囲気がすごい好きなのかもしれないと思いました。歩田川先生って天才だな…。
あと歩道橋のくだりは読んでてエモすぎたので歩道橋見ると無意味に渡りたくなりましたね。
歩田川さんというだけで神評価するくらい、最近歩田川さんにハマっております。
ほぼ何も起こらず会話だけが続く穏やかな話が癖になります。
もう付き合ってる二人の話なので、糖度はかなり高いかも。
昔同性に告白して失敗したことで(でもあれは失敗なのか!?)臆病になっている仁は二人の関係が露見する事を何より恐れていて、千聖は隠して欲しくないような感じで何処かすれ違ってます。
だから仁が好きだから別れようというのも分かるんですよ。
おかしな話なんですがね(笑)
最初出てきた時、城崎は鬱陶しかったのですが、何故か中村氏が出てきた瞬間に「ああ、うん」と鬱陶しさがスッと消えてしまいました。
何となく、当て付けの惚気ではなかったのがわかったので(笑)
こっちの二人がどうしてこういう事になったのか、すごい気になります(笑)
チョークの橋とラストの陸橋と。
舞台や台詞回しが短編映画や演劇のようで、自分がそっちの畑だったのでとても心地良いのかもしれません。
痛い初恋相手の親友に偶然再会したことで、過去の想いと現在の恋人への思いとが交差する。
過去を振り返る事で、自分の本質を見つめなおす事が出来て。
本当は自分がどうしたかったのか、これからどうしたいのかが少しずつ見えてくる。
そんなお話です。
私がこのお話で一番好きなのは、仁が終盤で言い放つ、矛盾した一言でした。
人の心のヒダは外側には見えないものだし。
千聖の言動・行動の中の意味も、仁の言動・行動の中の本質も、相手にも自分にさえも見えなかったりする訳で。
矛盾した、でも自分の本当の思いを告げることで、仁は本当の自分を見つけることが出来ました。
それはとても幸せな事だと思います。
千聖は仁とはまた違う形で、外とのつながりの中で自分の思いの強さを再確認。
彼は本当に意志の強い人だなぁと思いました。
今持っているすべてを失ったとしても、彼の気持ちはブレないのだなぁ。
そう思うと、とても不器用な人だなぁとも思いました。
このお話は、二人の家族との関係が出てきます。
BLを読んでいて時々、家族の存在が描かれていない事に物足りなさを感じるのですが。
このお話には家族との関係とその変化が出てきます。
そういうリアルさも好きなシーン。
良くも悪くも、家族は人の基盤ですから。
そういった意味でも、とても好きな作品です。
千聖は仁のどこが好きなんでしょう。
理屈なんてないよ、恋人なんだからというのも分かるんですがでも仁の良さをうまく見つけられずに巻末まで読み進めてやっぱり好きに理屈はないのかなと思いました。我ながら矛盾していますね。
こう、シルエットが黒くてニヒルで髪が長くて線が細くて…という方が普通わけのわからないタイプなのでしょうが、そうでない仁こそ私にはわけがわからないタイプでした。
なんでそんなに悲観的なのか、なんでそこまでネガティブなのか。こんなにも千聖に愛されて尽くされているのにどうして決意しきれないのか。そして千聖もどうしてそんな仁を放っておかずに構って愛していられるのか。理屈がないからなのか…放っておけないのか…。
過去が語られたシーンで思ったのは、要は千聖が仁に対して【危ない】と思ったからなのでしょうか。でももうその頃には3年付き合っていますよね。
仁の、宗介に対する想いが城崎に対してダダ漏れだったように、千聖が見た予備校での仁の視線もまたダダ漏れで、そこに危うさを感じたのか否か…同類だからこそなのか。
千聖のことを仁が、優しくて助けてくれる、と語る歩道橋の上で確かにその危うさを感じました。
だからこそやっぱり独りにはさせられないのか…。
でも好きでなければおそらく千聖の性格上離れますよね。離れないということは好きなんだよね。真綿で包み込むような、それこそ桜散るあの美しく儚く柔らかい淡さのような優しい愛を、千聖が仁に注ぎこんでいるのがよく、よく分かる一冊でした。
さんざん仁の性格が分からないと言いましたが、でもこのネガティブさは理解できるのです。
自分は同性を好きになるタイプで中学時代の恋は見事玉砕ししかも噂になってしまった過去を鑑みれば、分からなくもない。
じゃあ千聖に対しては諦めがちで簡単に終わったのかといえばそうじゃない、6年も続いている。途中、親との決別もありながら。それでも、別れなかった現実があります。
仁こそ千聖のことが好きなんですよね。好きで好きでたまらなくってだから離れたくないけどでも千聖ならもっと違う道がある、同性同士で付き合うということをオープンにして気持ちいい関係が築ける相手がいる、とか。仁が縛ってしまわなくとも、と。
こういうぐるぐると思い悩む姿がいじらしくてたまりませんでした。
自分に、仁は自信がないのかな。千聖を幸せにしたいと、好きだからこそ思っているから、だから客観視をしてしまうんでしょうね。恋なら自分本位でもいいけれど、愛なら駄目ですものね。
過去の恋愛を振り返る仁に、なにかが起きるんじゃないかと終始気になり続けていたのですが、そうそう変わるものではないと最後の最後に分かりました。
ふたりが歩んだ6年間という月日がどれだけ長くどれだけ密であったかと。むしろ今の仁の前に、宗介と城崎が現れてこそ、ふたりが一層固く結ばれたんですね。
恋人として少しだけ迷いのあったふたり(主に仁)が、それぞれの過去を振り返りつつ今を確かめてまたふたりそれぞれの愛を確認し合う世界がとても素敵でした。
歩田川先生の独特の世界観、レビュータイトルにも書きましたがコマのなかに風船が浮かんでいるような、そんな会話が非常に印象的です。また大胆に1ページまるまるをワンシーンに使うところ(ここでも私は歩道橋での、『別れたい』と仁が言うあそこが好きです)に、ぴたっと止まる感覚を覚えました。
照れ屋で気にしいの仁と、それを優しく見守り傍に居て愛している千聖のふたりが、とても美しかったです。流れるような愛も、桜も。
チョークの橋、ロマンチックでした。最後の最後でまた、愛の深さを感じたのです。