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「蛇のような男よの」
トルコを舞台に、帝国時代から現代までのオムニバス短編集。
表題は、【ユラン】のその後日談のお話。
全てを読んで感じたのは、多分共通しているのは、ただトルコが舞台というだけではありません。
トルコという国に囚われている者たちの物語ではなかったのかな?と。
ただ簡単に舞台をそこへ据えただけなら誰でもできる異国もの。
そこに民族性を感じることができる部分が素晴らしのです!
どの話も胸にジーンときます。中には涙さえ誘うものもあり、その余韻がいつまでたっても抜けないのです。
これが、えすとえむさんの感じたトルコなのかな?と。。。
【ユラン】【クシュラル】
オスマントルコのスルタンは宦官で教育係りのユランにかなわぬ恋をしている。
強大な力を持っていて、望めば何でも手に入るのに欲しいものだけはどうしても手に入れることができない。
しかし、ユランもまた囚われて自分の思うままにできないという、両者不自由な立場なのです。
一言で言ってしまえば身分差の恋ではありますが、二人共帝国という国に縛られた籠の鳥。
【クシュ】
帝国は征服した国の子供たちを奴隷としてイスタンブールに集め、改宗させ教育し、それぞれに適した配置をし、人種が違えど採用する制度をとっていました。
それによって、セルビアから連れてこられ王の兵となったハカンが都で出会ったキョチェクの男子。
彼等は想いを募らせるのですが、彼等もまた、国に事情に囚われて自由でないのです。
ハカンの故郷を想う気持ちが、鳥を集めるというそれに現れているきがして、キョチェクもまた鳥であったような・・・
最後に鳥を放つシーンに涙がとまりませんでした。
【ファーレ】
現代に移り、これも貧富の差もある、身分差の物語では?
かたや高校に通い、大学はイギリスに行くという多分いい生活をしている男子。
かたや、人々に蔑まれる日銭稼ぎの仕事をしながら男性に奉仕して稼いでいる男性。
国の事情がつきまといます。
でも、、、明るく結んでいて、希望を持ちたいと願う話でした。
【カルンジャ】
アパートが隣同士で幼馴染のカルンジャとミマール。
ミマールには暴力をふるう父親がいて、そしてカルンジャを好きなのだと思われます。
刑務所にいる父親が帰ってくると、怯えるミマールはカルンジャと二人でバイクにて逃避行をしますが、金もガソリンも尽きて国境を越えることはできませんでした。
その後訪れる別れ・・・
そしてドイツへ移住したカルンジャをミマールが訪れるのが【1800】
イスタンブールとドイツの距離ですね。
一方は別れを告げるため、一方はこれからも一緒にいるため。
彼等こそは、羽ばたいたのだと未来を予想したくなります!!
表紙カバーを外した本体は、一面アラベスク模様で覆われています。これがくすんだゴールドだったらよかったのに、とも思わなくもないのですが、トルコブルーを意識したのでしょうか?
毎度ながら装丁が素敵です。
異国情緒に浸るならえすとえむさん!!
素敵な一冊でした。
トルコを舞台にした短編集なんだけど、どれも味わい深くて切なさ漂う逸品ばかりだと思います。
表紙だけ見ると長い髪の人物が女性のようにも見えますが、これはキョチェクと呼ばれた女装した少年の踊り子(売春もする)でして、女性は一切登場しません。
【ユラン】
スルタンと教育係の宦官ユランのお話。
この世界の目に入るものすべてはスルタンのものだとされているのに、自分の目の前に立つ男、たった一人を手にいれることができない…という絶望感にとらわれるスルタンが切ない身分差のお話だけどハッピーエンドです。
【クシュ】
このお話が好きです。
各地方から子供を集めて軍人として育て上げ、スルタンを守るために作られた軍隊・イエニチェリ。そのイエニチェリに属するハカンと去勢されて女装の踊り子として生きる少年クシュのお話。
ハサンは遠征のたびにその土地の小鳥を連れて帰り自宅で愛でるのが趣味で、一羽をクシュにプレゼントします。その小鳥を可愛がり束の間の逢瀬に安らぎを見出していく二人。
しかしイエニチェリに属しているハカンは、スルタンに遠征同行しなくてはいけない。
そしてクシュは元締めから逃げ出すこともできない。どっちも籠の中に囚われた鳥のようで、気持ちを隠して突き放すクシュの姿が切なかった。
そして空に放たれて自由になった小鳥たちが二羽寄り添って巣にいる姿は、自由になれなかった飼い主達二人のこうありたかったであろう姿といったものに感じられてジワリ…。
【ファーレ】
現代物。おぼっちゃん学生と学校の裏道で客のをしゃぶってる男娼とのお話。
他の客のしゃぶっている様子を見かけた学生はその姿が忘れられなくなり、意を決して近づきます。
名前は?1リラ、髪に触るのは?1リラ…となんでも1リラを要求する男娼。キスは?の問いかけに…考えたことなかったな というのがたまらなくいいです。
その後、再会したときのキスの法外な値段のやり取りも好き。
【カルンジャ】【1800】
幼馴染み同士のカルンジャとミマール。
ミマールのDV親父が刑務所から出てくるので、イスタンブールから逃げ出してあてもなく逃避行する二人だけど、金もガソリンも尽きて家に戻らざるを得なかった…。
カルンジャとミマールはアパートのお隣さん同士でお互いの部屋も壁一枚で隣なんです。小さい頃から、一人が怖い時はこの壁たたけ むこうからたたき返してやる 俺がいつも一緒だからとカルンジャに勇気付けられてきたミマール。
ミマール父との暴力で警察沙汰になった夜、お互い壁一枚挟んでコンコンと存在を確かめる二人、そして壁の向こうにいるカルンジャを想って壁に向かって自慰をするミマールの姿が切ないです。
そしてカルンジャは母親とドイツへ行くことになり一人残されたミマール。壁の向こうにはもう誰もいないことを知りつつもノックする姿が…。
次の【1800】はドイツへ移民として行ったカルンジャの元を訪ねるミマールのお話。
カルンジャ、君に会うために1800kmを来たよ 君に触れたくて1800kmを来たよ 君にさよならを言うためにーというところが最高に切ないです。
えすとえむさん、絵は本当とてつもなく大好きなんです。
でも何だかいつも話がちょっと好みから外れるというか、合わない事が多くて。
今回、大好きなトルコが題材という非常に珍しい短編集でした。私が知ってる限りでは他にトルコが舞台のBLってない気が。(あったらすみません)
紹介のあらすじにあった王様の話よりも、踊り子と軍人さんの話が好みでした。
とてつもなく切ないです。
ちょっと気になったんですが、「キョチェク」とか単語に一切注釈がないのですが読んでいて何となく分かるからいいのかしら?
キョチェクは女装の踊り子で、売春もしていました。トルコはないと思いますが、他の中東では未だ呼び名は違えど残っています。
検索すると、男性のベリーダンスの動画が見られたりしますので、ご興味のある方是非。
どれも切ないお話で、最近こういう話少ないなあと思っていたので嬉しいです。
ああ、トルコ行きたいです!
表紙の青の鮮やかさがまず眼を惹く。
カバーを外すと、それはそれでまたきれいな唐草模様。
とにかく服装も建物も素晴らしく、モノクロなのに色が強く瞼を刺激する、
そういう意味では、えすとえむさんの面目躍如という感じがする作品。
クシュラル(kuşlar)とは、トルコ語で「鳥たち」という意味だそう。
実際には鳥は出て来ない話もあるのだが、
鳥籠に囚われ、そこから羽ばたき、番うイメージなのだろう。
on Blue誌では、カルンジャ(karınca=蟻)、クシュ(kus=鳥)、ファーレ(fare=鼠)
ユラン(yılan=蛇)、1800、の順で掲載されたのが、
今回単行本化にあたって順番が変わっている。
古い順、だと思うが、最後に再び冒頭の「ユラン」の続編の短編が書き下ろされている。
その「ユラン」、今は昔トルコの王宮での物語。
確かに宦官に髭があるのはおかしい。攻めですか?という場面もあり。
これは巷で噂の、偽宦官やら幼児期に去勢されて再生されたという奴だろうか?
(って、どういう巷だよっw!)
いやいや、おかしいのだが、それはさておき、蛇に飲み込まれたいと願う兎の皇帝の話。
世界中の何もかもが叶うのに、触れたい男に触れられない不幸。
首に、他には代え難く愛した男の手がかかった時こそが、望んでいた幸せ…
巻末のトルコ取材(こぼれ話)エッセイが、また楽しい。
「萌え」というのと違うのだが、絵もセリフも美しく、登場人物は歌い、涙を流す。
ボスポラスの風を感じながら、切なさに身を委ねてみるのもまたよし。
※オマケ
筆者のブログにあった、『クシュラル』発売記念 トルコ写真お蔵出し。
http://estemviaje.blog133.fc2.com/blog-entry-38.html
インドからイスラムのちょっと昔の背景
読むと、御香の香りがしてきそうな、なんとなくなつかしいような異文化世界に引き込まれます。
どれもこれも耽美で、結論が無い短編。
不思議な作品でした。
著者のブログ、この世界感なんですね。シルクロード情緒というか。。
http://estemviaje.blog133.fc2.com/blog-entry-38.html
この作品の読後に、福永武彦の『草の花』を思い出しました。