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1985回分、その身で罪を償え――奇才・木原音瀬が贈る、衝撃のアラブロマンス!
3部立てになっていて、2部までは同人誌、3部のみ描き下ろしとのことでした。
2部までは父親の代わりに罪を償えとファウジがラージンのもとで復讐を受けます。復讐を遂げるまでは生かしておかねばという理由から、ファウジに希望として与えられるのがハッサンがファウジに思いを寄せているという嘘。それを発端にお話は締めくくられていきます。
ファウジに与えられるのは復讐のための凌辱なので、それはそれはひどいことをされています。ファウジを貶めるために行われてはいますが、傍から見ればしている方も大差なくどっちもどっちとしか思えません。その虚しさに気づきながらも、復讐のためという正当性を言い訳にしていたラージンが途中で放り出したのはわかる気がします。
それと同時に、そんなくだらない凌辱シーンを喜んで読んでいる方も同じ穴のムジナではないかと問いかけられているような気がして、居心地の悪さを覚えました。
現実にそれを実行するのと空想・ファンタジーの世界で読むのとではまた別ではありますが、凌辱されるファウジを「他人事」として見ていられる神経は、父親の横で見ていたファウジのそれと同等なのかもしれないと思い、この前半はもしかして木原さんからの痛烈な皮肉なのかしら?と思ってしまいました。
これでもかというように非道さを増してゆくラージンの仕打ちには、恨みの深さを感じると同時に、人間の欲望とそれを生み出す感情の迷宮の闇を垣間見た気がして、やはり木原作品なのだなと感じさせられました。
3部ではどん底に落ちながらも、一人希望への道をあきらめていなかったファウジがやっと救済されるまでの様子が描かれています。
嘘から始まったうえ、ファウジがどうしても信じられず、それでも忘れることのできなかったハッサン。ファウジとハッサンは、相手を信じられないという部分で共通していて、ファウジはそれを暴言で、ハッサンは無言で対することしかできないでいます。どちらも臆病が故に、考えることの迷宮から出ることができずにずいぶんと遠回りをしています。
お互いの心にやっとたどり着いた時の感動は、これまでのすべてを浄化していくようでした。
極限状態の人をモチーフにして人の心のややこしさを紡いでいく部分は、木原作品の得意とするところなんでしょうね。この作品にもそれはしっかりと生きていて、読みごたえがありました。こういうイロモノ的なモチーフを使っても損なわれないそれに、作者さんの力量を感じさせられました。すごいです。
『FRAGILE』が08年で、この作品の同人発表が06,07年だとすると、ひょっとして『FRAGILE』はこの作品をたたき台にして出来たもの?
そう思えるほどに、主人公が重なります。
しかし舞台がアラブだけに、その内容は日本が舞台のものとは比べ物にならないくらい残酷で容赦なく、徹底して救いがないように思えます。
しかし、書き下ろしが付いた事でその最後の最後に訪れるほんのわずかの未来への光にとてもとても救われるモノを感じるのです。
そして、日頃アラブはちょっと苦手といいつつちょこちょこ見てはおりますが、この容赦なさと残酷な現実を突きつける展開は、自分がアラブものに求める本当のアラブだったのです。
そう思えたのは、主人公のファウジを買ったファウジの父を仇とし復讐をしたいと思っていた買主のラージンにブレが一切なかったところにあると思います。
彼はファウジを抱きません。
彼の側近であるハッサンを中心にその双子の弟であるアントン、宴の客達やその奴隷たち、果ては数々の生き物などに相手をさせ、
絶望から死を望もうとするファウジに、復讐を成し遂げるまで生きながらえさせる為だけの扱いであり、そこに情けは一切存在しないからです。
そして、ファウジにはだれ一人味方はいないのです。
ファウジもまたブレがありません。
徹底的に自分の事しか考えず、どんなに酷い目に遭っても自己憐憫の感情しか持ち合わせず、文句ばかり言い酷い罵り言葉を吐く。
確かに父親の所業のとばっちりでここまでとは思いますが、賢くない外見しか取り柄のない人間だったたけに、同情の余地は一切なかったです。
そしてハッサン。
彼がキーマンでした。
復讐を成し遂げるまで、ファウジを生かしておくには希望を与えるしかない。
そこへ「恋愛」という感情を偽物であれ与えれば・・・ということでハッサンが仕掛けるのです。
それに対するファウジの酷い言動、他の黒人奴隷を誘惑して見せつけるやり方、媚び方、実に浅はかでバカで丸解りで、誰かの庇護がないと生きていけないまるきりの子供の様子に決してハッサンはほだされてはっきりした愛情をもったわけではないとは思うのですが。。。
描き下ろしの展開は見事でした。
目の見えないファウジ、声を出さず身を偽ったハッサン。
愚かでバカなファウジを愛おしく感じるその瞬間。
これだ、この瞬間を求めていたのだと・・・
笠井あゆみさんのイラストがとても素敵でした。
ファウジの容姿といい、ハッサンとアントンがアラブ混血の黒人で坊主(超短髪)という設定も、見事にその雰囲気を伝えていてよかったのでした。(ダチョウ怖かった!)
茶鬼さん!明確なレビュー待ってました。
勝手ながら、いつもいつも茶鬼さんのレビューには、お世話になってます。
私もこんなレビューが書きたかったのですが、とても力及ばず、早々に自分は感想のみを書いて、きっと茶鬼さんがやってくれるだろうと密かに待ってました!
こちらをたたき台にして大河内が生まれたかと思うと、ますますファウジにもほの暗い愛着が湧いてきます。
あのゴ○○リ並みの生命力と精神と体の丈夫さ!BLにはなかなか見られない受けで、本当に癖になります。
元々は陵辱や過激なプレイを読みたくて選んだ作品でしたが、木原先生の力量でとても引き込まれやすく、かつ登場人物の心情の変化などがとても上手く伝わってきてとてもストーリーも面白かったです。
本は三部に分かれていて、ⅠとⅡは性悪の受けファウジが愛のない過激な行為強いられる場面がメインでとてもドロドロしている感じです。
読む人をとても選ぶと思います。
その時点では救いや萌えがあるなんて思ってもいなかったのですが、Ⅲからは何気に萌えましたし、受けのファウジもやっと少し好きになれました。
受けが性奴隷だったころ世話係で恋仲(?)だった攻めのハッサンが、一度アメリカへ渡ったのにもかかわらず受けのことを忘れられずにトメニスタンへ戻るところから始まる感じです。
娼館で働くファウジを見つける攻め。自分のことが別に好きではなかったのだ、忘れてしまったのだと諦めるハッサンですが、ファウジの目が見えないと聞き、名前を偽り喋れないふりをしてその娼館で働くようになります。
そうして少しずつファウジがそこで働く本当の理由を知ることとなります。それがなんと、お金を貯めてアメリカにいるハッサンに会いに行くため。相変わらず過激な行為に駆り出され、仕事仲間からの嫌がらせに耐えながらも攻めに会うことを切望するファウジが、なんだかとても健気で一途に見えてしまいました。
最後、ファウジは『アリー』(ハッサンの偽名) にパスポートを作ってもらい、アメリカへ渡らせてくれと願いますが、ハッサンはイギリスへ行くと頑なにそのねだりを拒みます。ハッサンに会うためにそんな『アリー』を殺そうとして失敗するファウジですが、そこでやっと漏れたハッサンへの愛がとても印象的でした。
失明した自分に唯一できる仕事をしようと娼館での劣悪な環境に耐え、殺人まで犯し、自分のことを覚えている確証もないハッサンにそれでもと会う覚悟があったファウジに、最終的には惹かれてしまいました、私。
そして、最終的には結ばれたこの二人をなんだかんだ全力で祝福してしまいました。
肌は透けるように白く
瞳は青空を映したように澄んだブルー
癖のある柔らかい髪はハニーブロンド
石油王を父に持つ美貌の青年・ファウジ
しかし、会社が倒産し奴隷オークションにかけられてしまう。
彼を買い取ったのは、見ず知らずの富豪・ラージン
彼に連れられた館で待っていたのは耐え難い恥辱の日々だった。
絡み合う淫らな身体と、それぞれの思惑。
絶望の日々の中で、
ファウジが見出した希望は、彼の世話係・ハッサンの存在だった。
絶望し、自害しようとしたファウジに愛の言葉を囁くハッサン
しかし、それはファウジの心を捕えるための残酷な嘘であった。
言葉では拒否しながらも、次第にハッサンに心を許していくファウジ
そんなファウジを哀れだとは思いつつも、愛しているふりを続けるハッサン
ハッサンへあてつけるように、他の男との仲を見せつけるファウジ
汚い言葉でハッサンを罵りながらも、
「他の男に抱かれている俺を見ないで」と健気な一面をみせるファウジ
奴隷でありながらも、傲慢で高飛車な彼に
あくまでも主人の命令通りに、愛を囁き身体を慈しむハッサン
本当に捕えられているのはどちらか。
すごい評価の分かれ方にかなりドキドキ。
私の場合はアラブものも木原作品も初読み(原作コミック以外)なので、期待値がまっさらだった分、評価も高めなのかなと思います。
アラブものの王道が、富豪や王子と結ばれるハーレクイン展開なのだとすれば、これはどちらかというと真逆を指向した作品かもしれません。
攻めのハッサンはファウジを性奴隷として買い取った大富豪・ラージンの使用人で、かつてはファウジの父親の性奴隷でもあった男。
そういう意味では、かなり変則的ではありますが、下剋上ものに近いのかも。
ハッサンは、個人的にかなり好きなタイプの攻め。
主人であるラージンの命令が絶対の、徹底した使用人体質。彼はラージンに客の前でファウジを犯せと言われれば犯すし(まさに白黒ショー?)、客がファウジを犯そうとすれば暴れるファウジを押さえつけたり、その他日常のファウジの食事の世話から体の手入れまで、全てラージンの指示通りに淡々とこなします。
こういう、感情を抑制して終始ビジネスライクに振舞う男が、ファウジという、美貌以外に何の魅力もなく、愚かで無力で、性奴隷として日々凌辱に痴態を晒すだけの男に、図らずも愛情を抱き始める…という展開、すごくそそられます。
ハッサンがファウジに対して常に慇懃で、「私」「あなた」で接しているのも何気にツボですねぇ。
挿絵のハッサンがまた超セクシー!
ヘアスタイル(坊主)は作者の希望だそうですが、本文からイメージする以上にハッサンらしい挿絵付きなのは嬉しい限りです。(月夜の3Pシーンの背景も大好きです。)
最初のヤマ場はⅡ章のクライマックス。
凌辱の宴で見ず知らずの男たちに犯されながら、愛するハッサンの名前を呼んで泣き叫ぶファウジに、ハッサンが初めて内側から突き上げてくる愛情と欲情を感じる場面…ってもう、煽情的にもほどがあるんですが(汗)
しかもそれは、ファウジがさらなる絶望と向き合わされるよう仕組まれた瞬間でもあって。まさに情熱と絶望に彩られた悲恋物語(マジュヌーン)です。
前半延々と繰り広げられるファウジ凌辱の宴シーンは、獣姦という今回目玉の趣向にノリきれなかったので少し冗長に感じてしまいましたが、全てはこの瞬間に向かっていくための布石だったんだってことで、すんなり納得。
書き下ろしのⅢ章では、一度は引き離された二人が再会し、ついにお互いの愛情を確かめ合うまでが、ハッサンの視点で描かれています。
ハッサンという男は、ファウジが愚かで淫乱であればあるほど、そしてハッサンへの愛情以外の全てを剥ぎ取られ、汚されるほどに、一層ファウジに狂わされてしまうんでしょうね。
或る意味嗜虐性と表裏一体にも見える彼のファウジへの愛情には、人間の独占欲の一つの本質が映し出されている気がします。
それにしても、ラージンの下での恵まれた生活を捨ててファウジの元へ走るというハッサンの選択も、ファウジとはまた別の意味で愚かそのもの。Ⅲ章ではラージンは登場しませんが、できれば、愚かなハッサンの選択に対するラージンの憐憫(或いは祝福?)の言葉を聞いてみたかった気もします。
でも、そんな愚かなハッサンとファウジだからこそ、二人が愛おしくなってしまう。
ラストシーンの、もはやゆるぎないものとなった純愛に、敢えて安っぽさと劣情をまぶした描写がとってもエロス。
ボリューム的にはかなりの部分を占めるファウジ凌辱シーンは、ラストの盛り上がりに向けての導火線みたいなもの?本当にエロいのはそこじゃない、御褒美は最後のお楽しみ…そんな作品です。
行為そのものよりも心理描写にエロスを感じたいという方にはお勧めできると思います。