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1冊まるごと洋平×央登の話だったら多分萌2にしていたと思います。でも、メインである洋平×蓮もこの作品の中では非常に重要な位置を占めていて、蓮との長年の付き合いがあったからこそ今の洋平がいるんですよね。蓮とのCPの方は私にとっては萌えが少なかったのだけど、常に彼から一線を引かれたまま、それでも執着してしまう洋平の葛藤は読み応えがありました。
分かりやすく陽と隠を象徴する央登と蓮。どちらも複雑な家庭にいたのは同じなのに、片や義理の兄に溺愛され、片や犯罪の片棒を担ぐ人生。蓮が恵まれなかったのは蓮自身のせいではないし、運としかいえないのがもどかしいですね。彼が成長した央登にした仕打ちは許せるものではないけれど、同情の余地が1ミリもないかと言われれば嘘になる。そこで安直な展開にせずに、恵まれずに救いも拒む者は変わらないということを蓮の生き様を通して描かれたことは評価したいです。
何の予備知識もなく読み始めたはいいが、こんなにヘヴィな話だとは思わなかった…!
一見軽い。
一見チャラい。
一見楽しく、
一見クール!
しかーし!
幼い時に傷ついた心は、ねじ曲がったままなのか。
友情など嘘っぱちなのだろうか。
他人の幸せを憎むだけになるのだろうか。
この物語、4人登場します。
3人の幼馴染と、その内1人の年の離れた義理の弟。
3人はやんちゃで、それぞれ家庭が複雑で、いつも3人でつるんでた。
洋平は、父子家庭。父親は刑事で忙しく叔母に育てられた。一応普通ね。
保の母親は何度か結婚離婚。今度コブ付き男と結婚が決まり、やっと落ち着きそう。相手の連れ子が央登(ひさと)です。保は央登をとっても可愛がります。
3人目は蓮。彼は父親から虐待を受けていた。そして父親は刑務所に入って施設で育つことに。
洋平はずっと蓮が好きで、蓮が悪い道に染まっていく時もそばにいて自分も悪事の手伝いに手を出したり。
でも蓮は間に合わないのです。
洋平がいても、転落を止められない。
土壇場で洋平が最後の一線を越えて傷害事件に加担する前に、洋平を手放すのですが…
このタイトル、「野良犬にさえなれねぇ」とは誰のことか。
若き日に、半端な愛情で関わって蓮を全く繋ぎとめられなかった洋平の自嘲なのか。
悪の道に堕ちて、それでも結局捕まった蓮なのか。
だが道は分かれても洋平は諦めちゃいない。今度こそ助けてやれる。それがノラ犬のやり方さ…ってところなのかな。
ラストは語シスコ先生らしい?脱力系のおかしみ。
ゲイである洋平の許容範囲に笑い、央登の美少年ぶりと、央登を護るのに必死な保にいちゃんの奮闘に笑い。
こんなヘヴィな過程があってもユーモアの湧き出る彼らに感服する。
冒頭の【ハートに風穴 前編後編】は高校生の央登が主人公。彼には央登を溺愛する血の繋がっていない兄・保が一人います。
その兄には昔つるんでいた洋平と蓮というちょいワルの仲間が二人いて、央登はその二人に憧れて育った。その片方の洋平に恋心を抱く央登だけど、洋平はガキ扱いするばかり。
そんなある日、しばらく姿を見せなかったもう一人の仲間、蓮に久しぶりに央登は会うのですが、蓮に騙されて男たちに輪姦される羽目に…というハード展開。
【野良犬にさえなれねぇ】
保、洋平、蓮という幼馴染三人組のお話。蓮の生い立ちや転落、そして洋平と蓮の刹那的な関係が描かれています。
蓮は父親から暴力&性的虐待を受けて育ち、やがてその父親は窃盗でムショ行きに。それでも三人で相変わらず仲良くつるんでいたのだけど、次第に何かがずれ始めて…
やがて悪い奴らと付き合い始めるようになった蓮は、坂を転げ落ちるように転落していきます。
父親よりも体格も力も上回るほど成長しているはずなのに、出所したきた父親につきまとわれて失禁してしまった蓮は恐怖のあまり父親を殴り殺してしまい、一緒にいた洋平とその秘密を共有する事になります。その異常な興奮状態のままセックスする二人は読んでて痛々しい限り。
蓮のことを好きな洋平は何とかして蓮を救いたいと思うし、何度も身体を繋げるのだけど何度抱いても、何かを共有する感覚を満たすどころか喪失感が増すばかりの洋平。
失神するほどのスタンガンを自分の身体で試してしまえる狂気を孕んだ蓮、すでに空っぽで何も失う恐れもないはずの蓮が、ヤクザの襲撃に向かう前に「間に合うよ お前はまだ引き返せる」と洋平に別れを告げたシーンが印象的でした。
その後、洋平は父親に倣って警察官になり、犯罪者として追われる蓮とまさかの再会をします。俺を守ると昔言ってたんだから見逃してくれよ、助けてくれよ、という蓮を逮捕する洋平。逮捕されたあとのパトカーの中での二人の会話が胸に迫る…。なのにその真意を理解する事もなく更生する事もなかったのは、冒頭に収録されていた【ハートに風穴】の様子で明らかになっているのでほんと切ないです。。。。
元は同じようなところにいたはずの人たちが、全く別の人生を進んでどうやっても戻れないところにお互いそれぞれがいる、というのを容赦なく描いていてそこがヒリヒリとするような痛みを伴います。
語さんの作品はアウトローやゲスが多く登場しますが、突き抜けたような描き方、そしてどんなに痛い展開でも最後の最後に救済してくれるというイメージが強かったのだけど、これはそういった救済はなくやりきれなさが残ります。
でも終始重い空気が漂っている訳ではなく、最狂のブラコンである保の央登に対する過保護っぷりが面白くてニヤニヤ笑える箇所が散りばめられているのが、らしいです。
懐かしさ溢れる絵柄だ……。本単行本収録中一番古いものはだいたい10年前に描かれた作品ですね。こういう絵柄流行ってたなあ。顔長めでくちびるが厚くて目が大きくて……。いまは二次元でも三次元でも塩顔全盛だなあとあらためて思いました。
それはさておき、ストーリー……。重いです。
受けの子がレイプされるBLで泣いたのは初めてかも。涙が止まらないとかではないのですが、お義姉さんがベッドでふとんにくるまってる央登の頭を撫でるところでじんわりと涙が滲みました。央登(受け)が全然わめいたり泣いたり発狂したりしないのがリアルで……あまりのことになにも考えられず手足を動かすこともできずにベッドでただ横たわってるだけのとき、なにもきかない母親のような女性がただそばにいて頭をなでてくれるのってどれだけ安心するだろうと思います。央登がかわいそうすぎて、攻めとのお清めエッチがセカンドレイプにしか見えなくて「やめてあげて!」と本気で思いました。本人は喜んでたのでいいんですけどね……。
で、表題作。レイプ犯・蓮の話。蓮は悪い奴です。美貌のクズ。本人のクズさを家庭環境のせいにすべきではないんですけど、親からの愛情をいっさい与えられずに育った子供が落ちるところまで落ちていく過程を救いなく描いた話です。たぶん彼はこれからも引き返せずに落ち続けて最後はどこかで野垂れ死ぬんだろうなあ。父親に犯され、母親代わりの姉には捨てられ、この子いったいなんのために生まれてきたんだろう?
蓮が央登を見付けてターゲットにすることを決めた理由はなんとなくわかる。得られなかったものと社会への復讐のつもりだったのかな。でも央登は蓮とは違ってたくさんの人に愛されて立ち直って、蓮の行為は蓮の思うようには功を奏さなかった。出所してきた父親に声を掛けられて子供のように怯えて失禁していた彼のことを思うと、悲惨さや憐憫を通り越してただ無常感だけが残る。
これまでに読んだ語シスコ作品の中でどれが一番やるせないかって言ったら「上等だベイビー」収録の『リハビリ中断』かこの作品か。
もしかしたらこちらの方がよりやるせないかもしれません。
読めば読むほどやるせないです。
小学校からの腐れ縁3人組〔洋平〕〔保〕〔蓮〕+保の義弟〔央登〕の4人が作品の主要な登場人物で、高校生の央登を主人公に現在の4人を描いた関連作と、洋平を主人公に3人の高校時代を描いた表題作で構成されています。
『ハートに風穴』(全2話)
兄の親友〔洋平〕に恋する〔央登〕が主役のお話です。
全体的にはコミカルトーンだけど、中盤で痛ましいレイプ事件が起こります。
子供の頃遊んでくれた蓮を「ヒーロー」だと言って、会わなくなって以降も慕い続けた央登を見事に裏切る蓮のクズっぷりが情けない…
一方で洋平が見せる男気にはホロリときます。
保は保で弟思いのいいお兄ちゃんです。
『野良犬にさえなれねぇ』(全5話)
〔蓮〕に恋心を抱いていた〔洋平〕が主役のお話です。
この表題作がなんともやるせない。
哀しきクズ男〔蓮〕がどんな風にして出来上がったかが明かされます。
語シスコさんと言えば、弱者を光のある処へすくい上げる(もしくは向かわせる)ストーリーをお得意とされている印象が強いので、その最も象徴たるキャラ(蓮)が切り捨てられてしまったところに個人的にものすごいショックを受けてしまいました。
ただその分、リアリティがあります。
親の再婚で央登という守るべき存在ができて真っ先に見切りを付けた保のドライさもリアルだし、堕ちてく蓮をどうにかして救ってあげたかった洋平の足掻きもリアルで、どうしようもない蓮の空っぽさもリアル。
蓮が洋平を自分の道連れにしなかっただけマシなのかもしれないけれど、最後に洋平に見せる蓮の良心は悲しさを誘います。
それから月日が過ぎて大人になった洋平は大人になったなりの方法でもう一度蓮を救おうとするのですが、その行く末が『ハートに風穴』の蓮な訳ですから、もはや蓮には同情のしようがなく、そこにまた更なるやるせなさを感じます。
『28日後…』(描き下ろし)
央登と洋平のその後。
再びのコミカルトーンで表題のやるせなさをちょっぴり和らげてくれます。
兄の無言の牽制虚しく、そう遠くない未来に洋平は央登に手を出しちゃうんじゃないかな。
央登の成人を待つのは無理でしょ~(笑)