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この間からほのぼのした気持ちになりたくて、本棚を漁っておりました。
やっと見つけた。
植物園のような市営公園を舞台にした話と、離れ小島の話が収録されています。
【花とスーツ】【花とスーツとそのその秘密】【花束とスーツ】
【雪とスーツと次の春】(描き下ろし) 萌2
市営公園の嘱託職員として働く文と、役所の偉いところから左遷されてきたらしい蓮池。
生真面目で無表情、言葉数が少ないせいで誤解されがちな蓮池の真意や意外な一面を知るうちに、文はもっと蓮池を知りたくなって…。
市営公園という場所のせいか、作画のせいか、静かで穏やかな独特の空気感があります。
図書館やプラネタリウム、美術館や博物館に行ったときに通じるような、適度なわくわく感と特別な場所にいるという適度な高揚感もあって。伝わりますかね?
適度なんです。ほんのり。うーん、伝えたい、この空気感。
そういう雰囲気の中で2人の距離が近付いて、お互いを大切だと言えるようになるまでが丁寧に描かれた作品です。
蓮池には、職場の上司と不倫関係になって、相手の奥さんが自殺未遂をしたせいで、市営公園の管理という閑職に飛ばされたという事情があります。
どろどろしてるんだけど、この作品自体にはそういうどろどろ感がなくて、ただ不器用で、「仕事に行くならスーツ」という考えを曲げる柔軟さもない男の人が、凝り固まった心をほぐしてくれる相手に出会えたという、素敵な話なんですよ。
作中に出てくる飲食店や家の雰囲気もいいんですよ。
レトロって言うか、味があると言うか。
ああ、言葉で伝えることができないもどかしさ!!
ディズニーランドより明治村に興奮する方は絶対に好きな雰囲気です。
【白紙】【紙風】 萌2
こちらも胸に沁みます。
長年続けてきた冒険小説の新作行き詰まった作家が、締め切りから逃げるようにやって来たある島。
そこで出会った小説家志望の少年との交流で、作家の創造力がまた動き始めるという話です。
島という遮断された世界で創造の翼を広げる少年は、エキゾチックで不思議な魅力に溢れていました。
「またね」という言葉通り、またいつか2人が再会することはあるのかなあ。
魔法も怪獣もいないけれど神様はいる島なら、きっと2人をまた会わせてくれるんじゃないかなという余韻も楽しめる作品でした。
表題作にはちょこっとだけえろすなシーンがありますが、同時収録は恋とかそういう感じではなくて、才能と才能が呼応し合うようなストーリーなので、「えろすはなくてもいい」「とにかく癒されたい」という方におすすめです。
ささくれだったこころが、あっという間に穏やかになりますよ。
◆花とスーツ(表題作)
ビジュアル的に、あまり見かけないタイプの攻め受けで、新鮮な気持ちで読めました。攻めの平岸は顎髭を少し生やした優男、受けの蓮池はスーツの要らない職場でもスーツ姿を崩さない、元市役所職員。蓮池がプライベートでの付き合いに頑なに抵抗を示すのはなぜなのか。その理由は確かに重く、シリアスな内容ではあったのですが、そこばかりにフォーカスされるわけではなくて、あくまで2人の新たな関係性に重点を置かれていたので、読みやすかったです。自分に枷を嵌め続けてきた蓮池が、自分の欲求に素直に従える恋ができるよう祈りたいですね。
◆白紙
まったく書けなくなった作家が、離島で少年と出会い、刺激をもらう物語。オリジナルのストーリーを期限までにコンスタントに生み出さなければならないプレッシャーって、一体どれほどのものなんでしょう。素人には想像もつきません。それでも、新しい風に触れれば、今までとは違う感覚を得られるかもしれない。本当に追い詰められた時は、何もかも捨てる勢いで、見ず知らずの土地に出向いてみるのは案外ありなのかもしれない、なんて思いました。BLといえるほどの絡みはありませんでしたが、良質な余韻の残る作品でした。
市の公園管理事務所に勤務している二人のお話です。嘱託社員の平岸くんと市役所から公園事務所に飛ばされてきてスーツで草むしりをしている蓮池さんという組み合わせです。
こちらは札幌市の豊平公園(作品の中では日平公園となってますが)が舞台になってまして、実際も早春のカタクリとエゾエンゴサクから始まる春夏通して花が美しい公園です。
公園が舞台になっているので草花がこぼれ溢れるように描かれています。
薔薇が咲き始めて、宿根草が次から次へと咲き溢れて、一週間毎に公園の色が変わっていきます。
冒頭ページは花の様子からいって6月10日前後でしょうか。そろそろ春から夏に切り替わっていく頃です。
待ちに待った夏がやってくる!という北国の人間独特の高揚感に浮かれた平岸君。その高揚感に絡めて平岸君が蓮池さんの事を気になっていく…人物だけを取り上げていえばワンコと過去持ちのゲイという珍しく無い組み合わせなのだけど、季節の移り変わりに絡めた恋模様の描き方が秀逸だと思います。(実は台風は滅多にこないのだけど)
札幌の一番良い季節、それは19時過ぎてもまだ薄明るくて、屋外が心地良くてなかなか帰りたくない、公園のベンチでいつまでも佇んでいたい…さらりと澄んだ風はどこまでも爽やかで針葉樹の香りも芳しい(蓮池さんのつけている香水がシダー系でそこも絡めて上手だと思います。)
そういう空気を捉えてそれを紙面で満たしてくれている。私はこの時期の札幌を心の底から愛しており、今は遠く懐かしいその空気を感じられて幸せでした。
そして無愛想で近寄りがたいと思っていた蓮池さんが実は超不器用な人だと判って、実に愛おしい。
答姐の「ちるちるのランキング圏外だけど、心の琴線に触れた作品を教えてください」で教えていただいたのが、こちらの作品です。
もう一つの収録作はガラリと舞台が変わって南国。こちらも細部まで丁寧に描かれたアートのような絵柄がお話の世界を支えておりお話はもちろんですが、絵に惚れ惚れしました。
教えてくださり本当にありがとうございました。
電子のお試し読みで表題作の冒頭を読んでまんまと続きが気になって買ったのですが、読み終わってみれば、表題作より同時収録作に心揺さぶられてました。
なので、表題作のレビューは他のレビュアー様にお任せして、私は同時収録作の方を。
『白紙』『紙風』(約65ページ)
書けなくなって現実から逃げ出したジュブナイル作家が再起するまでのお話です。
伊東七つ生さんは、非常にリアリティのあるお話をファンタジー仕立てにして魅力的に描かれる作家様、という印象なのですが、こちらもまさにそんなお話です。
そもそもファンタジーってリアルの上に成り立つと思うので、リアリティあるお話を描ける作家様がファンタジー仕立てなお話を描けば魅力的な作品になるのは当然かもしれませんね。
逃げた先のとある島で小説家志望の若者と出会い、彼の小説の手直しを手伝ううちに、主人公は失くしていた情熱をじわりじわりと取り戻していくのですが、幻想を混ぜて描かれるその過程がとてつもなくリアルです。
今現在迷子になっている人だとどう映るか分からないけど、過去に迷子になった経験がある人には「神様の御袖に触れて裏と表が翻る瞬間」がきっと鮮やかに浮かぶんじゃないかなと。
登場人物達の発言の全てに重みがあります。
表現・ストーリーともにとても美しいお話でした。
表題作は全3話+描き下ろしで、約115ページの作品。
BL的な萌えの物差しで言うとこちらの方が良いんだろうなと思いますが、私はこちらは「萌」かな。
表紙のイメージそのまま、穏やかな展開と穏やかな登場人物たちに、ゆったりと癒される物語です。
・『花とスーツ』1~3話
表紙の蓮池は無愛想な公務員。出向先の嘱託社員の平岸は、不思議な存在感を醸し出す蓮池が気になっている。台風の夜に蓮池の別の一面を知った平岸は、その時から感じている自分の胸の高鳴りの正体と、蓮池という人を知りたいと、彼にどんどん近付いて行く。
なんといっても蓮池が可愛いです!!不器用な蓮池が赤面したり、困り顔したり、微笑んだり、きゅんと来ちゃうんです。正直なところ、私はこんな可愛い蓮池が攻めだったらいいなーって思っていました。可愛い人がベッドでは牡になるのって、萌ますからね。
年下わんこも大好きなので、平岸攻めでもいいのだけど、この平岸、私にとっては蓮池より謎人物なんです!明るくて屈託なくて、人に好かれて、自分の気持ちにも素直で、だけど蓮池のことを考えているときの「アッチの人ってこと?」というモノローグだと、平岸はノンケだと思うので、いくらなんでもやすやすと壁を超えすぎじゃないの?と思ったりして。だけど、この先のストーリーと、同時収録の作品を読んで感じたんです。これはお伽噺なんだなーって。描かれる花々が美しすぎるから、余計にそんな風に感じるのかもしれません。
・『白紙』『紙風』
表題作よりも好きです!夢か現か幻か、すごいバランスで描かれた秀逸な作品です。彼らの現実的な会話。少年の描く物語。作家が見る夢。名前のなかった彼らの名が明かされて、現実がより濃くなったように思えたのも束の間、また夢に取り込まれてしまうような、伊東先生の絵柄にぴったりな透明感のある展開に、とてもドキドキしました。