僕は誰かと、抱き合ったこともなかった。

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表題作Thank you my God

エリ・ララサーバル,食べ物屋のマスター
ニコラス・ヘルツフェルト,故郷と家族を捨てた男の子

その他の収録作品

  • その後の日々。
  • postscript

あらすじ

故郷も家族も捨て、何も持たずに家を飛び出したニコ。
あてもなくさまよった末に南の異国へと流れつき、丘の上から神様が見下ろすその場所で生きていくことになる。
その土地で出会った青年エリ、ニコを追ってきた弟ウィル、そして母からの手紙。
ニコをめぐる人々方生まれる運命の物語。7年の歳月をかけて執筆された、河井英槻の傑作、ここに登場!

作品情報

作品名
Thank you my God
著者
河井英槻 
媒体
漫画(コミック)
出版社
茜新社
レーベル
EDGE COMIX
発売日
ISBN
9784863494312
4

(69)

(28)

萌々

(27)

(8)

中立

(1)

趣味じゃない

(5)

レビュー数
15
得点
273
評価数
69
平均
4 / 5
神率
40.6%

レビュー投稿数15

こんなに報われなかったり報われたりするのが人

人間の感情の落とし所を描くのがとにかく上手い先生です。
逃げてきた先で幸せになれるかを探しているさみしさものがなしさがずっとあるような気がして、人間はさみしいという感想を常に抱いてしまう。作風がどれも好きですがこの作品は終わり方も含めてすごくおすすめしたいです。

1

ニコが幸せを見つけるまで

心に深い傷を負ったニコが、息苦しい家を飛び出し、異国で出会ったエリと幸せになるまで。そんなお話です。

母親にないがしろにされるとは子供にとってどれほどつらいことかと思います。残酷すぎる。弟だけをかわいがった母、何か理由があるのでしょうか?
ひたすら努力し、勉強が出来たニコですが、ついに家を飛び出す。

そしてエリに拾われ、そこで給仕のバイトをしている。いつかは出て行かねばと思っていたけれど、エリはニコの才能を活かした仕事をそれとなく紹介してくれる。
ここで、エリがメロメロな女性がキーマンだったりするんですね。昔の美貌は。。と思うような柔和で賢い女性。そのつてで、ニコは翻訳の仕事をするようになる。

憎まれ口をたたきながらも、お互いが大切なニコとエリ。
ようやく、居場所を見つけたニコ。エリの深い愛に出会えて良かったなーと思います。
エリの生い立ちなんかも気になるところ。

0

エリの落ち着いた男前さに惚れる

 河井先生のキャラクター設定と脚本力が光っていました。最初は弟×兄の話かと思うんです。家を出て行って帰ってこない兄・ニコを追い、家までやって来た弟・ウィル。ニコを誰にも渡したくない、自分の手元にずっといて欲しいという気持ちは誰よりも強い。でも、ニコの心にはウィルとの間にどうしようもなく厚い壁がある。彼はとにかく母に愛されたかった子供なんですよね。ウィルだけに注がれた母の愛、自分には興味を持たないどころか時折敵視すらしてくる母親。ニコを慕っていたウィルには何の非もないけれど、母の愛がもらえない限りニコがウィルを穏やかに愛せる日も永遠に訪れないという切なさ。

 そんなニコのどうしようもなく救われない孤独な心を満たしてくれたのは、異国の地で彼を拾ってくれたエリだった。序盤では2人は割り切ったセフレのような関係に見えるのですが、彼らの出会いから今に至るまでの経緯を知ると、エリの大らかな性格や何でも受け止めてくれる度量、温かい思いやりはニコがついぞ故郷では手に入れられなかったもので、惹かれるのは当然だと思えました。ウィルもいい子だけど、こういう接し方はやはり弟にはできないもの。それに、母へのコンプレックスを感じ続けなくていいというのも大きいですよね。

 エリの方も、虚勢を張って生きているニコの強いところも脆いところも、きっと魅力的に感じたんだろうなぁと。普段は強気な喋り方をするのに、時々すごく素直だったり、母のことで涙が止まらなくなったりするニコ。エリのような面倒見のいいタイプには、きっとたまらなく庇護欲を刺激される相手。惹かれるべくして惹かれ合った、まさにそんな関係の2人でした。兄を連れては帰れなかったウィルですが、彼の兄への感情は恋ではなかったと思うし、彼には故郷に十分居場所があります。そして最後のニコの、自分はけっして母を嫌いにはなれないという切実な叫びも身に沁みました。優しかった母を知っているからこそでしょうね。その母が永遠に戻らなくても、ニコは彼女を愛し、愛されたいという甘い夢を抱き続ける。簡単にすべてが良い方向には変わらない、それが人生。でも母への複雑な感情を抱えたままのニコを、エリならすべて包み込んで愛してくれるだろうと思いました。

0

求めてやまないもの

私がトピ立てした「ちるちるのランキング圏外だけど、心の琴線に触れた作品を教えてください」
http://www.chil-chil.net/answerList/question_id/4967/#IndexNews
で教えていただいたのが、こちらの作品を含む河井英槻さんのコミック数点。(Chance! /Thank you my God/2丁目の小さな魚/青春花心中)

Thank you my Godは以前読んだ事があったのですが、これを機に読み返してみました。

ネタバレしてます。

「兄さん(ニコ)をおよめさんにするんだ」と幼い弟ウィルが何気なく言った日から、ニコを敵視しウィルを溺愛するようになった母親。
ニコは母親から存在を無視され、疎まれて己を殺しながら育つもついに限界を感じたある日の夜、ナイフを手に母親の枕元へ立つ。しかしいくら憎い母親であっても殺せず自分が死ぬ覚悟で全てを捨てて祖国を後にします。

一方弟ウィルは本気で兄のことが好きでニコを追ってやってくるも、自分がニコを好きでい続ける限り、ニコは母親から愛されないという構図を知ります。
でもね、一緒に暮らしていた頃からウィルは母親が自分に対する態度と兄に対する態度が顕著に違う事はわかっていたし、ニコがたぶらかしていると母親が信じ込んでいた事も知っているのです。
ニコが家を出て3年ぶりに所在が明らかになって元気でやってる事がわかっても母親は無関心だったし、その様子から仲良く三人で暮らすのも無理だとわかっている。
それなのに異国での暮らしぶりを断定的に聞き齧った程度で「そりゃあ母さんだって呆れる」とか言ったり、一緒に故郷へ帰ろう、お母さんとも話し合えばわかりあえるはず、みたいなちょっと無責任な事を言ったりするのはどうかと思うんです。兄を母から本気で守るといった様子が見られない。ただ好きなだけ。16歳程度で若いから、幼いから、というのも解るんですけどモヤモヤします。

愛する兄の傍にはエリという男がいてニコはどうやっても戻らない事がわかり諦めて国へ戻ります。
お話の最後の最後、去り行くウィルに向かってニコは母への永遠の愛を慟哭しながら叫ぶんだけど、ここが最大のモヤモヤポイントでした。結局「求めても報われない愛」という印象が強かったから。

でもハッと気づいたんです。
以前のニコだったら母親への愛は蓋をして無いものとしていた。
だけどこんな風に率直に母への愛を認める事が出来るようになった。本当は愛しているのに憎んだり、愛していないと言い聞かせる辛さから一歩解放されたのではないかと、ここが何よりも彼にとっての大きな前進だったのではないかと。

「求めよ さらば与えられん」
作中で何度か出てくる聖書の一節ですが、母親の愛を乞い続けて結局それは得られなかったけれども、代わりにエリが傍にいて、新たな場所で生きる理由や居場所を与えられてニコの魂が再生していくお話であり、最後の表明は必要だったと。
ちなみにエリはかつて家出の理由を聞いたときに「俺の子供になれよ」「俺が育て直してやるよ」と言ってくれた男前です。

実は以前読んだ時も今回読み直した最初の時点でも、先述の終わり方に納得がいかずモヤモヤしたものがあったのですが、今回新たな気づきがあり自分の中での評価があがりました。
既読作品でしたが、改めて読み直す事で視点が変わる事ができました。
おすすめいただきありがとうございました。

0

誰かに頼らなければ生きていられない

再読でも感動。
ニコが不憫すぎて攻めのエリに出会えて本当に良かった(´;ω;`) ニコのお母さんからの手紙では二人はお互いの事たくさん傷つけ合ってたって書いてあったけど、私から見ればお母さんが一方的にニコを傷つけているとしか見えないが…母親としてどうして息子にあんなひどい仕打ちができるのかなってずっと考えてた。それでも最後にお母さんのこと大好きって言えるニコが愛おしい…!

エリがニコに生きる理由と居場所を与えたおかげで、ニコがやっと幸せになれる…報われて良かった!

0

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