貴方の子供でいる。それが、僕の恋の伝え方だと思った――。

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表題作したたる恋の足跡

澄見孝太郎,27歳,フリーライター,千空の義父
澄見千空,17歳,幼い頃に澄見に引き取られた高校生

同時収録作品したたる恋の足跡

ジョアン,バルセロナのバーで出会った男
澄見千空,17歳,幼い頃に澄見に引き取られた高校生

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

貴方に拾われた日から、僕の人生の「おまけ」は始まった――。
身体を売るか、子供のまま死ぬか。そんな世界で生まれた干空は、ある時、ライターとして各国をめぐる澄見に拾われる。その大きな温かい手に甘えることを覚えていく干空は、感謝を身体で返そうとするが、その度に澄見は少し困って笑うのだった。やがて千空の想いは恋へと変わるが、澄見の満たされることのない渇いた、しかし貪欲な心に初めて触れた時、あふれる想いを閉じ込める決意をする――。

作品情報

作品名
したたる恋の足跡
著者
葵居ゆゆ 
イラスト
ビリー・バリバリー 
媒体
小説
出版社
フロンティアワークス
レーベル
ダリア文庫
発売日
ISBN
9784861347481
3.7

(36)

(12)

萌々

(12)

(7)

中立

(1)

趣味じゃない

(4)

レビュー数
12
得点
130
評価数
36
平均
3.7 / 5
神率
33.3%

レビュー投稿数12

静かな作品

随分前に読んでいて、ただ好き過ぎて、なかなか感想を書くことができませんでした。
読み始めた時「あれ?受け一人称?」なんて思い、苦手パターンだけどなぁとぐずったものですが、本編は受け視点の三人称。
ちょっとわかりにくいのですが、受けの回想になると受け一人称になっているようです。
ただその回想はかなりの回数訪れるので、そこは一人称か三人称の違いだけでなく、ちょこっとでも章タイトルか何かでわかりやすくして貰えると良かったかなあ。
ただもーう、こういう年の差大好き!です。
血圧上がりますー。

**********************
受けは幼い頃、母親に売られる寸前だった千空。
片親が日本人でありながら、どこか日本離れした美しさで高校でも浮いている17歳。
現在は養父の澄見と共に日本暮らし。

攻めの澄見は千空を養子として引き取り、衣食住を与えたノンフィクション作家。
世界中を移動する彼は以前こそ千空を伴っていましたが、現在は千空を日本へ残し単身で何ヶ月も留守にすることも。
**********************

千空が澄見と出会った街では、子供が体を売るのは当たり前。
そんな境遇に悲観することも逃避したいとも思わず、それはただの日常で当たり前のことであると捉えていた千空の前に現れた澄見。
その歪んだ日常から掬い上げてくれた澄見へ、依存か澄見の言葉を借りるならば刷り込みか、千空はひたむきに彼だけを求め、求められることを望むようになりました。

『自分は恵まれていた』とことあるごとに自分に言い聞かせる千空ですが、それは母親に早々に売られなかったことや、客をとらされていなかったことに対してのことで、そう思わないとあまりに自身が惨めで生きていけなかったからでしょう。
そして澄見はそれを見抜いて、千空へ自分を大事にするのだとたびたび言い聞かせるのだろうと思います。
ただそんな澄見こそが千空の想いや体温から逃げていていわゆるずるい大人なのですが、それには彼なりの信念や背負っている過去があってのことで、それが語られる中盤はひじょうに苦しい。
しかもそこが劇的なものとして書かれるのではなく、澄見の身に起きたことを熱量の低い松田というキャラクターに淡々と語らせるのが良かったですね。

澄見の過去が明らかになるまでは、千空のただただ澄見を追い求める気持ちの必死さに重点が置かれています。
それは千空視点だからではあるのですが、それが『なぜ澄見は大事なものを作らないのか』という疑問の答えを千空が知ったことで変化するわけです。
その変化は澄見の望むような自分(劣情を含んだ愛情を持たない)であろうとするというもので、千空の考えははたから見ると破綻していて、澄見がつねに言って聞かせた自分を大事にしろという言葉と逆行しています。
が澄見自体が、千空の中に自身の幸福を見出してしまった時から破綻していたのですから、仕方ないよ君たち幸せにおなりと思った次第です(苦笑

これってばちゃんと最後二人で一緒にいられるんだよねえと初めて読んだ当時ドギマギしてしまい、先にラストを確認したヘタレ読者です。
だってなんというか、ハードルがひじょうに高く設定されているもので。
例えば普通同居していたら見て見ぬ振りするのって難しい。
でも澄見の仕事は定住の必要がなく、かえって国外での方が良いわけで…二人の間に物理的距離を置くのが簡単なんですよ。
そして澄見のセリフがとても少なくて(もっと聞きたかった…澄見好き)、千空を大事にしてはいるけれどそれがどういう種類の愛情なのか計りかねるんですね。
ただわたしは、一から十まで説明されている方が好きというタイプの読者ではないのでこのくらいで良いのかも…
ちょっとしたことから裏読みしたり想像するのが好きなので。
ただ澄見の言葉が本当に少ないので、できたら澄見視点のSSが入っていたら大満足でありました。

そして最後になりますが、この作品に登場する女性や女性の心を持つ人たちは皆優しくて強くて、それに涙が出ました。
わたしは女なので、やはり気分が悪くなる同性はフィクションでも求めていないので。
あ、それから受けが別の人(悪い人ではなく合意です)と寝るというシーンがあります。
わたしは1ミリも気にならないのですが、そういうものが地雷の方もおられると思いますので記しておきます。

5

愛は寂しく哀しい

人に執着することを恐れひとつの場所にとどまっていられないライターの澄見と、劣悪な環境の中で彼に拾われて育てられた千空の『ロードストーリー』とでも言うべき遍歴。
千空が拾われてから日本で高校に通うまで2人が各地を巡るお話と、日本に来て高校に通っている17歳から20歳にかけてのお話が並行して書かれます。

澄見が千空を見つけた国が一体どこなのかは書かれていません。でも、澄見に拾われなければ千空は体を売ることになったであろうし、多分長くは生きていられなかっただろうと千空は思っています。
だから澄見に会ってからの人生は千空にとって『おまけの人生』。
その時間を千空は大好きな澄見のために全て使おうと考えています。
最初は、自分に出来る唯一のことだと思っていた性的な奉仕をすることで。
澄見がそれを全く望んでいないと解ってからは、彼に子どもとしてではなく大人として愛され、ずっと側にいることで。

でも、澄見はそんな風に千空を愛してはくれません。
千空の想いを『刷り込み』だと言い、自分以外の人とも深い関わりを持つように勧めます。
澄見は自分の家族に起きた凄惨な事件の経験から、一人の人をずっと愛することを恐れているんですね。
でも、たったひとりで生きていくことも辛い。
そんな風に思ったから千空を拾ってしまったのでしょう。

人を愛する形というものは千差万別だと思います。
澄見が言う様に千空の思慕は実際に刷り込みなのかも知れない。
でも、だからといってその愛情が『悪いもの』とは言えないと思うんです。
子どもが自分を守ってくれる者に寄せる愛の強さはとてつもなく大きいものですから。特に、千空の様に縋るものが少ない子どもには、捨てられる事は恐怖以外の何物でもありません。
澄見の様に、真っ当なことを言えばよいというものではないと思うのです。

でも、澄見の気持ちも解らないではないのですよ。
自分がどうなってしまうか解らない恐怖を抱えていたら、人を愛することは出来ない。愛する者に執着することが、その人を壊すことにつながってしまうかもしれないというのは、とてつもない恐怖だと思うのです。

2人は、物理的にも心情的にも長い長い旅をします。
一緒の時もあれば、別々の時もあります。
そして何人かの人たちに会って、その人を通して互いのことを考え、理解しようとします。
一緒だから経験できたこと、離れていたからこそ解ったこと。
それがあって初めて、澄見は恐怖を抱いたまま千空と一緒に過ごすことを選択でき、千空は自分の望む愛され方でなくとも澄見と共にあろうと決意することが出来る様になったのだと思うんですね。

『嬉しいとか楽しいとか思うこと自体が何だか悲しい』
『懐かしいのと寂しいのって似てる』
一緒に居たいのに、互いに大切だと思っているのに、人はひとつにはなれません。いつでもひとりです。
そんな寂しさや哀しさが、お話のあちこちで千空の言葉から零れ落ちます。
だからこそお話のラストでの『苦しいのよりつらいのより、幸せなのが大きい』と言う千空の言葉が胸に沁みました。

読み終わってからの余韻も素敵な物語で、今もかなりジーンと来ています。

1

人生は一期一会の積み重ね

 親子BLを求めてこの作品に出会いましたが、葵居ゆゆ先生は好きな作家さんなので、全幅の信頼を寄せてあらすじも何も知らないまま読み始めました。
 しかし、冒頭から子供の身売りが当たり前という悲しい背景が出てきたので、勝手に結構昔の話かなと思いましたが、でも飛行機に乗ったり車に乗ったりしながら世界を転々としているからそんなに昔の話じゃないな、じゃあいつの時代だ? と携帯電話が出てくるまで読解力のなさを発揮しながら読み進めるという失敗をおかしてしまいました。
 私が見て見ぬふりをしているだけで、実際にどこの国でも子供の身売りが強制されていたりするのかと思うと胸が痛みます。
 話が脱線しましたが、そんな悲しい環境が普通の中で生まれ育った千空と、そんな千空を引き取った澄見の物語です。

 実は物語の終盤まで中立評価でした。
 千空の気持ちはまだ理解できるとして、澄見の気持ちが理解できなかったというか納得できなかったからです。
 千空の生い立ちが悲惨だったので、そんな環境から救った澄見に対して身体を捧げたがったり恋愛感情を持つことを「刷り込み」と思う気持ちも、どれだけ言い聞かせても迫ってくる千空に困る気持ちも分かります。
 過去の事件のせいで、大切な人を失う悲しみを二度と経験したくないから人を愛したくない気持ちも、大切なものへの破壊衝動を抱えていてそれを実行してしまった父の子供である自分もいつかそうなるのではないかという恐怖もよく分かります。
 だけど、佐野崎に千空を預けたまま逃げるように何ヶ月も海外へ行ったり、松田に誕生日プレゼントと手紙を預けて千空と別れるのは親としてどうなの? という気持ちが大きくて、幼い千空を救ったのは間違ってなかったとはいえ、そんな独りよがりで無責任なことばかりするなら最初から拾わなければ良かったのにと思わずにはいられませんでした。
 誰も愛さない、深く付き合わないと言うわりにいろんな人の手を煩わせているし、言っていることとやっていることが違うようにも見えて、澄見に想いを寄せていた人たち(特に佐野崎)が不憫に見えました。
 もうこれは澄見が痛い目にあう展開にならないと気がすまないとすら思いましたが、私と違って千空はそんな人間ではなく、ただただ澄見の幸せを願うきれいな心の持ち主でした。
 私はきっと澄見に惚れる側の人間だから必要以上に彼にやきもきしてしまったのかな、と今ならそう思います。

 千空は幼少期の環境のせいで、商品価値を損なう年齢になれば大人だという悲しい価値観を持つ子供でした。
 無償の愛を知らないから、澄見から与えてもらうだけの優しさに喜びを感じるとともに、恩返しをしなければならないという思いにも駆られていました。
 そんな思いと恋愛感情が混同しているのではないか、と澄見が疑うのは当然です。何せ千空はまだ子供なのですから。
 しかし、澄見から自由を与えられてしまい事実上の失恋をした千空は、澄見が残したものは自分以外にもたくさんあることを証明するために旅に出るところが意地らしいのです。 
 澄見を好きになった人たちが千空に嫉妬して邪険に扱わなかったのは、千空の素直さや澄見への無垢な愛情を見てきたからなのでしょう。千空は愛される存在だと言われていたのも納得だし、もちろんその人たちの根本的な優しさがあってこそです。だからこそ澄見は関わったのだと思います。
 水谷もとてもいい仕事をしましたね。
 オーストラリアまで行って玉砕覚悟できちんと自分の想いを伝え、澄見を好きな千空を好きなのだと、澄見のために自分を押し殺して素直にならない千空に本当の気持ちを気付かせてあげていました。
 水谷と千空はこれから先もいい友人関係を築けることでしょう。
 澄見は澄見で、千空を突き放してから数年経っても、今でも自分に恋愛感情を持ってくれていることをアレックスが完全に暴いてくれたことも後押しして、ようやく自分の気持ちに正直になってくれました。根負けですね。千空の勝ち。
 私は、子から親への愛情こそが真の無償の愛だと日頃から思っているので、どんな形であれど千空は澄見にたくさんの無償の愛を与え、それに澄見は救われていたのだと信じています。
 澄見の性格上、一度覚悟を決めたらとことん愛する男だと思っているので、これから千空は澄見にたくさん愛されて幸せに生きていくことでしょう。

 この作品は回想が多いので、過去と今がごっちゃにならないように、何度もページを戻しながら丁寧に読みました。
 本当は幸せな二人の後日談をもっと見たかったなという思いがありますが、この作品はあの終わり方だからこそ余韻に浸れていいのかもしれません。
 葵居先生の執着攻めが好きなので、本編後こそ澄見が本領発揮してくれそうな気配がしているので正直惜しいですが、千空にキスマークをいっぱい付けたところで萌えたので我慢します。

 私は旅行は全然しないのもあって、正反対な彼らの生活を見るのが楽しかったです。
 さすがに海外旅行をしたいとは思いませんが、国内旅行なら言葉の壁もないので現地の人との会話をするのも楽しそうだなと、一人旅にかなり興味を持ち始めています。
 一人旅を経験したら、もう一度この作品を読んでみたいです。

 最後に余談ですが、葵居先生は関西出身なのかな? と思ったほど、水谷の関西弁は完璧でした。

1

何度も読んでも飽きない。是非、読んで欲しい。

好き過ぎて感想を書けない、というレビューがありましたが、完全同意。
初読みが半年程度前なので、発売されてから約10年経っています。
元々、再読が多く気に入った作品は何度も読むタイプですが、短期間にこれほど読み返している作品は、ジャンル問わず、初めてかな、、

攻め・受けともに、それぞれの過酷な過去があります。
7歳の受けを攻めが引き取ってから、世界中を根無し草生活。受けの思春期到来辺りで、ハッとなり日本へ。みたいな感じ。
私自身にはそんな過去はないし、2人に共感する部分などありそうもないのだけど。
どちらの気持ちもビシビシ刺さり、且つ、何故か自分の人生が蘇ってくる不思議。

ほんとに言葉にするのが難しいのだけど、読めば読むほど、色んな視点で世界が見えてくる。
(サブでも主要人物が割と多く、それぞれが軸となるものを持っているため、サブ視点で見るメインカプも味わい深い。)

それぞれのキャラの人物像というか、背景がきちんと作られていて、ブレを感じない。
ので、「この人はこれ言わない(しない)でしょ?」みたいな自分の中のズレを感じることが、私は無いので、それぞれのキャラを掘り下げるのが、とても面白いです。
こちらの作品は、特に。

何度読んでも、その度に味わいが変わる。
私の中で結論が出ない。それが、とても心地良い作品。
是非、読んで欲しい。
ビリー・バリバリー先生のイラストが作品の空気感と非常に合っていて素晴らしいです。

1

無国籍風ロードムービー

舞台が海外中心で
時間軸も現在と過去を行き来するため
外国のミニシアター系ロードムービーのような
ノスタルジックな雰囲気が漂う作品です。

特定のコミュニティに止まらない二人は
自由であると同時にどこか寂しげで、
そんな二人だから、互いを大切に想い合う姿が
よりひたむきで切ない。


攻めの澄見は海外を飛び回るライター。
受けの千空は母親に人身売買させられそうに
なっていたところを澄見に拾われ
一緒に世界を回ってきたという設定。

やがて千空は高校生になり二人は日本へ帰国。
澄見に想いを寄せる千空は
幾度となく澄見に抱いてくれと迫るが
誰とも恋愛する気のない澄見は応えてくれず…。

この澄見のトラウマが物語の核で
後半それを知った千空が
愛する人のため自ら身を引き、
澄見とこれまで訪れた国々を独りで旅して回る
という千空の成長物語でもあります。

求める愛ではなく、
好きな人を苦しめないための愛を選ぶ千空は
とても健気です。
澄見を想いながら旅する彼の成長が、
回想の子供時代の彼の澄見との思い出と
相まって非常に切ない。


哀しい過去を背負う澄見は
千空の優しい保護者であると同時に
狡い大人でもあります。
千空の想いには応えられないが、独占欲もある。
行きずりの男と寝た千空の身体を
後始末するシーンには
そんな彼の複雑な感情が出ていたと思います。

本書で興味深かったのは
澄見が最終的には千空を受け入れるものの
彼のトラウマが完全に癒えたとは言い難い点です。
千空をとても大事そうに抱くけど
自分から求める情熱的な恋愛感情には
まだ達していないように見える。
それだけ澄見のトラウマは根深いけど
成長した千空と再び生きていくことで
少しずつでも変わっていけるかもしれない。
そんな希望が見えるラストです。


萌え、というより、
「人間」がしっかり描かれている、という点で
読み応えある作品でした。
メインの二人だけでなく、
二人が海外で出会う様々な人々の描写も
非常に生き生きとしています。
回想で彼らとの思い出が描かれ、
その後千空が一人で彼らを再訪することで
彼らのそれまでの人生も透けて見えてくる。
そういう点でも、冒頭に述べた映画的な奥行きが
感じられる作品でした。

挿絵のビリー・バリバリーさんは初見でしたが
美しくアンニュイな雰囲気の絵柄が
物語によく合っていたと思います。
10/22発売のビリーさんのコミックにも
興味が湧いてきました♪

11

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