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しいらさんは作品にホント、ムラがあっておそらく編集側の意向や作品カラーを使い分けてはいるんだと思うんですがなまじ筆力があるだけに何を書かれてもとりあえず中立にはなるというある意味まいっちんぐな作家さんです。
まあその色々なカラーが人によってツボったりツボと外れたりすると思うんですが自分的に言えばこれは「良いしいらさん」で当りです。
シリーズ物ですがこの巻だけ読んでも問題は無いので、これを読んで気に入ったら次巻という感じで読み進めればいいでしょうね。
天才肌の俳優と、実力はまだまだの若手駆け出し俳優(俳優畑で育った訳ではなく俳優もやるよってレベル)とが映画出演の為に、その映画と同じ状況でその役になりきって同居生活をおくります。
主に若手俳優である音彦(受)視線で語られる話に最初から最後まで引き込まれて、どんどん進む展開にまさに息も付かず読み終えます。
読み終えて、面白いーーーーーと思える作品。
この2人を気に入ったら続編も是非。
ただ完成度や面白さではこの第一作目が群を抜いて一番だと思います。
自分的には第1巻が神で続巻は萌です。
小説の面白さという点では高い評価をつけたいです。久々に面白い小説読んだなーという感じ。なかなかBLでこのようなお話はお目にかかれない気がします。最初から最後まで話に引き込まれ、いっきに読めました。
ですが恋愛小説としての評価は微妙なところ。主人公二人の本当の恋愛が始まるのはラストのほうだと思うからです。というより、話そのものが恋の始まりが話の終わりのような構成になっているとも言えます。
互いを溺愛しているという「役」に準じ互いを愛してのめり込んでいく二人。音彦はまだ「演技」から自分に返る瞬間が何度もあるのですが、飛滝は結局最後まで「飛滝」として話すことがないので、(そういうふいに書いてるのでしようが)音彦と飛滝の恋を読んだのか、兄弟の一線を越えた愛情を読んだのか、作者が何を読ませたかったのか判然しない気がしました。
兄弟モノが大好きなので、それはそれで楽しかったのですが…。
一番腑に落ちない感じがしたのは、最初から「役」として出会って素である互いを明かしていないのに、果たして飛滝が音彦のどこを好きになったのか分かり辛かった所です。
欲情してるから、身体は正直だから、としか飛滝は言っていません。役である「怜二」が好きだというならともかく…
ただベッドシーンの描写は多くいないのにねっとりした閉鎖的な感じが異様に雰囲気があってとても好みでした。
細かい評価はいくつもあるのですが、数十分で死に別れる映画の冒頭シーンを延々演じ続けるこの奇妙なストーリーに本当に魅了されました。
最後、弟の死に慟哭する飛滝の演技シーンが本当にせつなかったです。
映画のフィルムの中で生きた2人は本当の世界に戻っても、形を変えて日常を生きているという終わり方が好きです。非常によくまとまって楽しませてもたった作品ですので神評価を付けたいです。
天才型の飛滝は、憑依型演技。私生活が謎の人。素は強個性だが、演技して没個性にナリキルので、誰にも気づかれず私生活を送ることが可能。
無個性が個性の新人役者、篁はすぐ顔に出る、演技が上手くない役者。なり切れないので私生活で本人が自覚するより目立ってしまう。
この二人のキャラ、「ガラスの仮面」に出てくる競い合う二人の女優を意識したキャラ設定と言うのは、私も感じました。
★あらすじ:
飛滝にぞっこん惚れこんだ監督桐生は、飛滝と賭けをした。
「一年以内に変装して隠遁した飛滝を見つけることが出来たら、また桐生が監督を務める作品に出演してやってもいい。」
桐生は惚れ込んでいて役者飛滝を独占したかった。美味しすぎるラーメンを作る店主に変装した飛滝を桐生は見つける。
桐生は、作品の相手役に篁を選ぶ。篁は容姿が良いだけの没個性。桐生の誤算は篁=篁は演技が上手ではないナリキレない役者、すぐ素の感情が表に出てしまう。
演技の下づくりの為に主役と準主役は、配役になり切って生活をさせられる。
演技が下手な篁が相手役なので、飛滝は素の篁を愛してしまった
撮影終了後、監督桐生の目論見通りにはいかなかった。
撮影終了後にいつもなら役柄全てを終了後に忘れる飛滝だけど、音彦を記憶にとどめたまま素に戻る。
二人は恋人に・・というより、二人とも恋人を演じながら生活することになる
・・・という、あらすじ。そして次号は、二人にギリギリと嫉妬する桐生監督の嫌がらせの巻。
良いなーと感じた場面は、ここ。
撮影の合間に特殊撮影専門の真島監督が音彦に、煙草を吸いながら話しかけます。
「なあ、あんた。面白いって言葉な。意味知ってるか」
「昔さ。火を囲んで話し合いとかしただろ。そん時に面白い話が始まると、みんなが顔を上げてそいつの方を見るわけだ。そうすっと顔が火に照らされて、ぱぁっと白くなるんだよ。だから面 しろい。」
「そうだよ。俺達映画屋はよ。何回、観客を面白くさせられるんだろうな。映画館の暗闇で、・・光の反射で白くなった瞬間、ああこの映画はおもしろいんだって・・・」
情景を想像すると、ものづくりに熱中する職人の気概を独り言するいい場面。
面白しき物語でしたので、続きの「見知らぬ男」「時の無い男」も電子書籍版で買い、挿絵が無いので場面を脳内妄想して読みました。ホドホドの長さで読みやすい。残念ですが、その続きの同人誌「優しい男」他数冊は入手不能なので諦めます。
次は、ゴジラ先生作のバレエで留学した少年の話を読もうかと思ってます。余り人気が無い作品のようですけど。バレエをどのように説明されているのか興味があります。
ゴジラ先生の作品を読む人が増えて、復刻版が企画されることを期待しています。
絶版したまま埋もれさせるのは、惜しいです。
調べたもの:
「面」は目の前を意味し、「白し」は明るくはっきりしていることを意味する
「面白い」という言葉の原型は『面 白し/著し』
「面白し」の「白」は当て字で、もともとは「面著し(おもしろし)」と書いた。「目の前が明るくなるような感じ」
日本書紀、語源のルーツは天照大神…!?「岩戸開き」という日本の神話が由来とする説、「おもしろ」は岩戸が開いて光が戻ったことで神々の顔(面)が白く照らされ、喜びに輝いた様子を意味する
剛しいら先生の訃報に接し、本作を手に取らせていただきました。正直購入は随分前で、ずっと積んでいたのです。
「面白かったです!」と言うファンがここに1人います、と伝えられたら良かったけど…。愛は生きているうちに。
一読して、特に前半はヤバいくらい面白い!
憑依系の俳優がさらりと部屋にやってきて、当たり前のように「兄」になる。
あまり実績もなく才能も無いような、ルックスだけが取り柄の「弟役」音彦は、驚き、戸惑いつつ彼に合わせて自分も芝居を打ち始める…
私だったらまるっきり「兄」に成り切っている飛滝に恐怖を感じると思う。でも「弟」の音彦も飛滝に引き摺られるように「玲二」という男になっていく。
その描写、その時間軸、その空気感。
役と現実がないまぜになり、境界線が曖昧になり、遂に「兄弟なのに」「男同士なのに」性的関係を持ってしまう。
視点は「弟」の音彦なので、玲二が半分・音彦が半分の体で飛滝に「本当に」惹かれて、独占欲や役を離れた後どうなるのかという焦燥感、またこんな事をさせている映画監督への対抗心がぐるぐると渦巻いている感じ。
一方飛滝の方の「真実」が見えてこないんです。果たして彼に「自己」はあるのか、役に入り込むことだけでようやく生きているのか。
玲二を見ているのか音彦を見ているのか。
この曖昧さがラストまで続いて、一応は現実でも熱くなって飛滝を求める音彦の願いを聞いて音彦と愛し合う形になるのだけれど、それが飛滝の真実なのかは謎。
ただ、役そのものを生きるという事で爆発的な才能を見せる俳優は多分本当にいるのだろうし、俳優に自己を認めず自分の作り出す世界の住人になることを強要するような監督も多分本当にいるのでしょう。
そういう狂気じみた熱がなければ、人の心に食い込み感情を揺さぶる作品などできるわけもないのかもしれない。そんな事を思いました。
剛しいら先生、凄く面白かったです。一気に読んでしまいました。ありがとうございました。