切なさをたっぷり味わえる表題作と、甘々たっぷりのその後のお話。最後の二人は交際歴九年のカップルになっており、これからもきっと大丈夫と安心できる雰囲気で、幸せな気持ちで読み終えることができた。
冒頭一言目から、とても辛い始まり。そしてわざと泥酔した葵は、真夜中の冬の河原で意識を手放す。そんな葵を拾って持って帰ったのが梶原という、運命なんだか気まぐれなんだか分からない出会い。で、なし崩し的に同居が始まる。
葵は本質的には尽くし系だけど、微妙な梶原との関係を保つためか、本音を見せずに都合の良い相手で居続けている。適度にドライに見えるくらいの演技力はあるってことなのか、あまりに梶原が表面しか見ようとしないのか、一年同居しても気付かれていない。
梶原は野心バリバリの俺様系銀行員。出世のためには社長令嬢との結婚も厭わない。葵への優しさは、拾った猫に対するもののように見えることがある。酔った勢いで指輪を渡し、それをはめた葵に違和感を覚えながらも、深くは考えない。
二人の関係は、葵を失った梶原が初めてその大切さに気付くことで変化を迎える。それは同時に葵が初めて素直に気持ちを口にした瞬間でもあって、もしこのとき、二人の歯車がかみ合わなかったらどうなっていたんだろうと思う。退路を残したままやってきて、葵の言葉を聞いてから決断するズルさは梶原らしいかな。
十年経っても二人に熟年感はあまりなく、葵はいまだに梶原と別れる日のことを考えている。そうした不安を取り除くのに何年かかってるんだって話ではあるけど、鈍感な梶原と嘘吐きな葵では仕方ないのかもしれない。
最後は幸せしかない夢のような展開。とても良かった。
京言葉が良い味出してる江戸時代もの。医師を志す伊純の日常が淡々と描かれている。BL要素はあるが、恋心より医療者としての矜持が強く語られていたように思う。とはいえ想い合う二人のハピエンで終わるので、そこは安心できた。
伊純は想い人である有岡と気持ちを確かめ合いつつも、身体をつなげる前に長崎遊学に向かう。そこで出会った和蘭人医師は、身体を捧げなければまともな指導をしてくれない。そんな状況に耐えながら、医学のために知識を身に着けていく伊純。
他にも何かしそうな雰囲気を醸し出しながら、伊純の周りをうろうろする若旦那がいたり、有岡に縁談が持ち上がったりと騒がしい。医師としても手術や出産介助に忙しそうで、充実した日々。
起承転結はなくエピソードのつなぎ合わせのような構成。物足りなさを感じるのは、印象的な出来事があまりなかったからかな。奉公・番頭・与力などなど、時代の雰囲気を感じられる単語の数々がとても良かった。
ツッコむ人がおらず、ボケ×ボケ状態になっている高校生カプ。序盤から多真上の言動に恐怖を感じていたら、ついにやらかしてしまった。いくらマイペースでズレているといっても、脳震盪で倒れた意識のない相手を強姦するのはさすがに許容範囲外。反省はしてたが、もう少し挽回して欲しかったと思う。
三丈は感情は分かりやすいけど、あらすじでおバカ高校生と言われている通り考え無しな行動を簡単に起こし、その思考にはついて行き辛い。見た目が良く喧嘩も強いので、失敗して凝りて学ぶ機会もあまりなさそう。
こういうキャラを視点主にして、ちゃんとおバカに描くのはすごいと思う。
多真上は怖い。首輪無しで外に放ってはいけない野生動物のよう。本能に従って生き、それが可能な財力と筋力を持ち合わせている。そういう意味で、同等に強い三丈に執着してくれたのは良かったし、他の被害者を出さなくて本当に良かった。
放っておいたら犯罪者になりそうに思う。まあ三丈にしたことも十分犯罪だが。
おバカゆえに時間がかかりまくってやっと行われた多真上の告白は、おバカだからこその見解っぽくてちょっと笑えて良かった。
全体的な感想は、自分的に萌えどころがなく、多真上への恐怖は最後まで消し去ることができず、あまり楽しく読めなかった。とはいえ読後感が悪いということもなく、三丈の明るさに救われ、プラスマイナスゼロ状態。再読はないかな。
結構ガチに駆け落ちしてたお話。省也視点で、省也の葛藤がめちゃくちゃ伝わってくるのに、どうしても洸生の方が不憫で気の毒でそちらに肩入れして読んでしまう。切なさを演出する文章が素晴らしく、その表現力で泣かされた気がした。
省也は心理描写がしっかりあるので気持ちは分かるけど、洸生を振り回しすぎかな、と思う。期待を持たせたり時限爆弾(比喩)を仕掛けたり、逃げたり戻ってきたり。これでは洸生もいつ消えるか不安で仕方ないだろうと同情心が芽生える。
とはいえ洸生も一癖あるキャラで、ヤンデレの素質がありそうな執着を見せている。省也の行動を追って事前に対処し、その後の行動も推測して手を打つ。結果だけ見れば冷静に思える対応だが、洸生の気持ちを考えるとあまりに辛い。
省也が洸生と共に歩む決意をするまでには、かなりの時間がかかる。寄り道もしたし、変な方向に腹をくくったりもしており、見ていてもどかしい。が、やっとその時を迎えた際の描写は本当に感動的で、疾走感があり、ここだけにでも神評価を付けたいくらい好き。
他にも心情や心象風景がキラキラと描かれ、比喩表現が自然にさらっと出てくるのがたまらない。これこそ文章萌えできる作品!
後半のお話でも省也の極端で情緒不安定なところは変わってなかったけど、同時に洸生の気持ちの変わらなさも見られて良かった。地方の医師不足にも貢献してくれるみたいで。エロも上品な文章で、とても良かった。
主人公の一穂の心理描写が愚痴ばかりで、特に前半は読んでいてストレス。二人の関係は純平が一方的に動かしている感じで、一穂は不機嫌に付き合い流される。魅力を感じないキャラたちのお話だった。
一穂は嫌でも断れず、強引な純平の誘いを受ける。それは結局自分が招いた状況なのに、心の中で文句ばかり言っている。このどうにも嫌な性格の悪さが見える心理描写を聞き続けると、こんな一穂に惚れる純平もちょっと……。
純平は、一人を好む人間に二人の方が良いと自分の価値観を押し付けるウザキャラ。配慮不足な他人との距離の縮め方に、昔っぽさを感じる。局長と共謀して一穂に近づこうとするやり方が卑怯で気分が悪くなった。
一穂の気持ちが前向きになってからは、鬱々とした心理描写の雰囲気も変わり、読みやすくなっていった。特に何が起こるわけでもない、田舎の日常の記録。ノンケ同士として見ると違和感かな。
高校の同級生だったヤクザとバーテンの再会もの。山場が受け攫われの攻め救出という、ただでさえ定番展開なうえにスピンオフの「恋に墜ちたときから」と同じようでちょっと……。描写力がプロの商業小説とは思えなかった。
序盤からショボいチンピラが活躍し、先に読んでいたスピンオフ作品がチラつく。
そのチンピラに加えてメインキャラの寿鷹と千尋と弁護士の塚本は、揃って「まあいいけど」「ていうか」などと発言する。特定のキャラの口癖になりそうな文言を皆が口にするなんて、キャラの描き分けができていないのでは。
緊迫感が必要な場面でも、描写のせいか抵抗の余地なくヤラれた感がなく、千尋はばかみたいにぼーっとしていたように見える。ピンチの最中に進行を停滞させる過去回想を延々と繰り広げるのには参った。ここまで頭の回転が鈍い千尋に経営が務まるんだろうか。
それなりにもがいていた千尋は、キャラとしては嫌いじゃない。バーの店主としては頼りなく、BLの受けでしかないと思う。攻め攻めしい寿鷹は二次元キャラらしい振る舞い。全体的に安っぽさが漂う作品だった。
小悪魔彼氏とお人好し彼氏、幼なじみなバカップルの日常小話詰め合わせ。最初から付き合ってる二人のお話で、起承転結がなく、同人っぽいと思ったら元は同人誌だった。リバ要素ありってことになるのかな。
本編は樹視点で、恋人に振り回されて流されながらも楽しく過ごしてる感じ。嘘を吐かれてベッドでのポジションを逆転されても、なんだかんだで受け入れて平和。樹は鈍感でよくやらかしてるけど、ちゃんと反省できる誠実さが良い。
学生らしく学祭でコスプレ喫茶を頑張ったりベストカップルコンテストに出たりと、わちゃわちゃ毎日楽しそう。
進路問題も揉めて仲直りしての流れから、しっかり必要な年月を経て夢を叶える二人がとても眩しい。その間ずっと一途だったのも良い。
番外編は颯太視点で、結構な性格をしているのが見て取れる。樹を手に入れるためには手段を選ばない覚悟。樹のちょろすぎるところは心配だけど、そこは見えない鎖で颯太がぐるぐる巻きにしてるんだろうと思う。良きカップルだった。
ほのぼの前世モノかと思ったら、徐々にシリアスになり、わりとガチめの戦争のお話に。まあ二度と帰って来れないかもしれないという生死をかけた出征前に、ラブコメか、っていうシーンが入ったりしてたので、そこまで重くならない。
前世の運命はありつつ、現世の二人として思い合う様子が良かった。
ルインは夢で見た前世の記憶に振り回されないよう、シグルドに冷たく接する。こちらはルインが主な視点主なので気持ちを理解したうえで言動を見守れるが、何も知らない人から見れば無礼でしかない。
BLとして見ると、前世の自分と今世の自分の感情を切り離して相手に向き合おうとするのは好印象。態度の悪さでシグルドが気の毒になる気持ちはあるが、ルインの考え方は好き。
シグルドは正体不明の金髪碧眼を追いかけたり、戦闘後の孤独に精神をやられそうになっていたり、穏やかな笑顔の裏で大変そう。ぐいぐい迫ったかと思ったら、ダメなタイミングで手を出してごめんなさいする、情緒不安定な中尉殿。
戦時中という特殊な状況下で、二人ともが冷静でいられない心理状態の中、自分と向き合い前世を振り切り前を向くルインが良かった。
シグルドは似た相手を抱くのは良くて好きになるのは裏切りって、言わなきゃ分からん自分基準だと思った。どちらかというとシグルドの方が前世に縛られていたのかな。ルインが踏み出したおかげで、それも解かれたようで良かった。
その後平和が戻ってきてからは、ただただ甘々。変な人も出てこなかったし、読後感も良い。アーベントがとても好き。
面白かった!回帰後早々に復讐すると誓った相手とBLフラグが立って一瞬テンションが下がったが、込み入ったストーリーにぐいぐい引き込まれ、気付けば一気読み。挿絵もじっくり見たくなる美しさで素晴らしかった。小説・挿絵どっちも神。
始まり方は回帰ものテンプレの処刑までのエピソード。恨みつらみを抱えて死に戻り、アレッシオへの復讐が始まるかと思いきや、弄んで捨ててやる→失敗系BLな展開に。回帰前も現世でも、アレッシオの本性がなかなか見えず面白い。
ガブリエーレは前回の記憶を、主に自身の反省と成長に活かしていたのが良かった。それでいて剛胆さや強かさを身に付けた感もあり、頼もしい主人公。わりと流されて意志の弱さも見えたのは、柔軟さも得たってことなのかな。
話はテンポ良く進み、事件の規模はどんどん大きくなっていく。絶体絶命のピンチに陥り、この広げ過ぎた風呂敷をどう畳むのかと思ったら、驚きのチートオチ。え?っていう。これってアリなんだ、と正直ちょっと笑った。
はっきり言ってひどく大雑把で強引な終わらせ方だと思う。でもそのおかげで数多ある回帰ものの中に埋もれることなく、印象的な作品になっており、とても楽しく読めた。迫力ある挿絵の影響も大きい。
ガブリエーレは回帰前の堅物だったころですらアレッシオに落ちていたわけで、二度目の愛を誓わない、なんて最初から無理な話だったのかな。アレッシオの前回の人生での罪は相当に重いが、今世では間違えなかったし、拷問で十分な償いになった気がした。
二人の幸せ後日談がもう少し読みたかった。番外編とかあればぜひ欲しい。
ストーリーの前半は人魚姫か?という感じ。そしてタイトル通りずっと一人を探してる。後半のあまあまはすごかった。リクの明るく前向きなとこが好き。
下働きのリクと恩人を探すライルの両視点。
リク視点は使用人仲間たちとのわちゃわちゃが楽しい。リクは食べ物で簡単に釣れるちょろさが可愛いし、基本的にポジ思考なので読みやすい。前向きといえば13回誘ってデートにこぎつけるルルも好き。ヘタレなロングも応援したくなるキャラ。
ライル視点は、対象が逃げても避けてもいないのに、手掛かりすら見つけられない。カルイが空気を和らげてくれて救いはあるが、それでも正直退屈。
個人的にはもう少しニアミスなんかで盛り上げて、ヤキモキさせて欲しかった。二人が出会わない期間がちょっと長い。
諦めなかったライルがついにリクと対面すると、あの手この手で強弱をつけた甘々攻撃が始まり、人気の理由に納得。BLってこういうの好きそう、ってな展開、女に冷たい攻めの受けへの一方的な求愛と溺愛。
リクに甘いのは確かだが、ライル自身が芯から甘いわけでなく、腹黒さを持ちながらリクを絡めとっていくような。
終盤で急激に存在感を示したリハームが良い。悪役と見せかけて、それだけで終わらせないとこが好き。巻末の番外編での活躍もカッコ良かった。
気になっていたのはライルの病について。症状や治り方から何か裏があるのかと思ったが、何もなかった。ただのファンタジーディジーズだったのかな。
文章はWeb系でたまに見る体言止めがちらほら。苦手でゾワっとするので、エロシーンは飛ばした。今後こういう文体のBL小説が増えていくんだろうか。
大富豪の跡取り息子と下働きの少年のシンデレラストーリー。明るい雰囲気で良かった。