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エキスパートレビューアー2018

女性まりぽん812さん

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切ないけれど、何度も読みかえしたくなる

初版の後に文庫化され、絶版になっていた作品でした。ずっと読みたいと思っていたので、今回の電子書籍化は本当に嬉しいです。スマホでは文字が小さくて、パソコンで同期させて読みました。
木原さんのツイートによれば、現代寄りに少し手直しされたとのこと。スマホやSNSが取り入れられています。木原さんの作品にときおり描かれる乱暴な描写や病的な執着はない、ノンケの普通のサラリーマン二人の切ない恋模様です。

仕事は遅いけれど真面目で素直な広瀬は、自分を見捨てず仕事を教えてくれた先輩・有田に片思いをします。飲み会の帰りに「好きです」と告白してしまうところから物語が始まります。有田には男と駆け落ちした弟がいて、同性愛を嫌悪していたのですが、広瀬の裏表のない穏やかな優しさに触れるうち、いつの間にか恋に落ちてしまいます。

「僕は人よりも生活時間が長いんです」という広瀬は、恋愛もゆっくりで、有田への気持ちが恋だと気づくのに6年もかかりましたし、後に有田が恋愛感情から触れてきても好かれていることが分かりません。驚くほど鈍いですが、告白で嫌われているのを承知で体調の悪い有田を気遣ったり、性格の悪い同僚の窮地に手伝いを申し出たりする、そういう見返りを求めない優しさがあります。
一方、有田はそんな広瀬の優しさにきちんと気付いていて、コツコツ仕事をする誠実さも認め、落ち込む広瀬に「お前の仕事が遅いのは愛嬌だよ」なんてユーモア交じりの慰めが言える思いやりがあります。

二人ともうわべでない人柄の良さがあって、だから余計に、二人が家族のことや世間体で悩んだり泣いたりするのが、切なくて悲しいです。
すれ違いの末にやっと恋人同士になっても、有田は「家族には言わない」と涙し、広瀬が家族に打ち明ければ妹が反対して、二人を別れさせようと弟を巻き込んで横やりを入れてきます。広瀬がどんなに有田を好きか知った弟が、妹に「僕らが壊しちゃいけないんだ」と言うセリフに救われる気がします。

広瀬の転勤にかこつけて、有田が広瀬にキスを許す場面は、まだ恋の始まりで、読んでいてドキドキしました。素直に自分の気持ちが恋だと認められない有田が「餞別に欲しいものを言え」と強気に誘い、もっとキスしていたくて広瀬の袖口をつかんだり、広瀬がいなくなってからはどうしていいか分からず地団駄踏んだり。恋に戸惑う有田が可愛らしくて。作品中で一番好きな場面です。

二人で積み重ねていく時間が、いつか二人の涙を払ってくれたらいいなと思いました。
浮気を疑った有田にマンションを追い出された広瀬は、ある朝、有田を海辺に連れ出します。二人で歩いた足跡が波にさらわれて跡形もないことに有田が目をとめる描写が印象的です。二人で過ごす時間も、消えてしまった足跡のように目に見える形では残らないのでしょう。「恋愛」、「恋人」の先のステップは二人にはないからなおのこと。一緒に食事をし、一緒に眠る、そんな日常の積み重ねが、二人の心に確かな時間を刻んでいくよう、信じたくなります。二人の楽しいエピソードもいつか読んでみたい気がします。

紺野キタさんのイラストも素敵です。少し寂しげなトーンの表紙絵は、二人の恋の雰囲気をよく表しています。二人並んで広瀬の郷里の海を眺める挿絵は、穏やかな雰囲気でホッとしますし、満員電車で有田と密着して困る広瀬の表情がとても可愛いです。

読後は切ないけれど、すれ違いやときめき、悩み苦しみも含めて全部が広瀬と有田の恋なのだろうと思いました。繰り返し読んで味わいたくなります。

物語に深みを感じる

マレーネとコヨーテの裸体の美しいこと!
ギリシャ彫刻みたいに美しい肉体の二人が求めあい絡み合うシーンは、エロティックで美しくて、ただただ眼福です。

それだけで「読んでよかった!」と思うのですが、マレーネの血縁・ガーランド一族とコヨーテの仲間・ヴァラヴォルフの闘争が、現実世界での様々な争いに重なって見え、胸に迫るものがあります。
「発端はなんだったのか、どちらが先に仕掛けたのか、分からなかったけれど」というマレーネのセリフが深いです。二つのグループのほとんどのメンバーは、なぜ争いが始まったかを知らないのですね。皆、それぞれのボスの思惑通りに動かされているのかもしれません。
ほんの短い時間、マレーネの世話をしたヴァラヴォルフのノーランが、マレーネと気持ちを通わせる描写も、知り合うことで人の気持ちが変わる可能性を感じさせて、グッときました。どんな相手か知らないことが恐れや偏見を生むと、最近ある新聞記事で読んだことを思い出しました。
争いを止められない、人の業みたいな暗い面が描かれていることが、物語に深みを増している気がします。リアルに寄せたBLが好きなので、そこにすごく魅力を感じます。

マレーネとコヨーテの愛が二つのグループの争いを解決するカギになるのは間違いないけれど、その道はとても険しそうです。
二人が次に抱き合えるのはいつになるのでしょう。展開が全く予想できなくて、次巻がとても待ち遠しいです。

戻れない分かれ道

友情か、愛情か、執着か。
杉本と三浦の関係に名前をつける必要はないのでしょう。本人たちも、もうわからないのですから。

それよりも、作品中に二度出てきた「分かれ道」(「道は二つに分かれ…」と表記されている)が、物語の隠れたキーワードのように思えて、気になって仕方がありませんでした。

杉本が三浦に無理やり体を奪われ逃げようとすると、三浦が杉本の職場に押し掛けて言います。
「お前は、俺に会わない方がよかったんだろうな。」
最初に読んだときは、病気の三浦を杉本が見舞って12年ぶりに再会したときのことだと思いました。(表紙の裏に書かれたあらすじが印象に残っていました。)
でも、もう一度読み返して、再会の後、杉本のアパートに押しかけた三浦が言った「お前を見つけちまったからな…」を読んだとき、「会わない方がよかったんだろうな」とは、二人が初めて出会ったときのことなのだろうと強く思いました。

18年前、田舎に引っ越してきたばかりの杉本少年が、何気なく散歩して出くわした分かれ道。舗装された道と、石ころが転がる黄土色の荒れた道。石ころ道を選ばなければ。ぬかるみにはまった父親の車椅子と格闘する三浦を手助けしなければ。きっと三浦は杉本を「見つける」ことはなかったような気がします。
再会し同居する二人が、四万十川近くの橋へ降りる道を選んだとき。橋への道を選ばなければ、後に三浦が体の関係になる女と出会うこともなかったでしょう。

もし、杉本の母親が再婚して引っ越さなければ。
もし、杉本が早いうちに三浦に「嫌い」と言えていれば。
もし、三浦の子どもが死んでいなければ。
もし、杉本の結婚が上手くいっていれば。
数えきれないほどの分かれ道があって。結局、杉本は三浦を振り切れなくて、三浦も杉本を手放せなくて。二人にはもう一緒にいる道しか残されていない気がします。

杉本の「たくさんの選択肢の中には、自分が変わっていく…そんな可能性もあったのだろうか。」というセリフに、心をグサリと刺されてしまいました。
「あのときが分かれ道だった」と気づいたときには、もう戻れないことが多いのではないでしょうか。人生の皮肉で、苦味。いい歳の自分は、過去の分かれ道を考えないようにしてたのに。しばらく考えてしまいそう。木原先生、ひどいよ(笑)。

小野寺のまっすぐさが、もやもやと心に引っかかっています。
そもそも、小野寺が杉本に「三浦に本当のことを言った方がいい」とか、「三浦を見舞ってやってくれ」なんて言わなければ。親切からでも、自分のひと言が誰かの背中を戻れない分かれ道に押し出してしまう可能性があるとしたら。そう考えたら、うかつなことは言えなくなってしまいそう。少し怖い。考えすぎかな。

二人の葛藤に共感

男性も出産するオメガバースの設定が苦手でしたが、犬飼と河内の葛藤にとても共感しました。

二人は、それぞれに何年も願っていたことがありました。犬飼は自分が深く愛する河内から同じように愛されることを。河内は女性と結婚して、母親がかなえられなかった幸せな家庭を持つことを。
不幸な事故のような形で夫婦となり、一緒に暮らすことに馴染んできても、河内は犬飼を心からは受け入れられず、そんな態度に犬飼が傷ついてしまう。犬飼が河内と暮らせるだけで満足し、河内も目の前の優しい犬飼の愛をすんなり受け入れられたら。簡単には割り切れないのが人間なのでしょう。ずっと願っていたことならなおさら。二人が葛藤し苦しむ描写を頷きながら読みました。

すれ違ってしまった二人がキャンプ場の山林で衝突したとき、犬飼が自分を愛してくれない河内を丸ごと受け入れると決意する場面に胸を打たれました。愛されなくても愛したい、そんな犬飼の大きな愛が伝わってきます。
ありのまま受け入れられることで、心を動かされた河内が、やっと打ち明ける本心。長く苦しい葛藤を経て、爆発するように二人の心が動いていく描写に胸が熱くなります。

犬飼が河内に指輪を渡す場面が、とてもいいなと思いました。犬飼が「ずっとあなたにあげたかった。」と言うと、河内が顔を真っ赤にして「嬉しくないわけじゃない(=嬉しい)」と返すやり取りが初々しくて甘くて。
二人がやっとたどり着いた幸せな結末に、葛藤ある人生も悪くないと感じたのでした。

夢をあきらめる悲しみが胸に迫ります

第二次世界大戦中のラバウル。二人乗りの航空機でペアを組んだ、六郎と恒の青春の日々を描いています。
飛行機をこよなく愛するやんちゃな天才操縦士・恒と、温かくおおらかに恒を支える六郎は、飛行を重ねるたびに信頼を深め、やがて身も心も結ばれていきます。死と隣り合わせの中、命を分け合うように一つになりたいと願う二人に、頷きながら読みました。紺碧の空で命を懸けることに心満たされる若者らしさも、眩しく感じました。

でも、実際にあった戦争が元になっているため、どのような距離感で読んだらいいのか、ずっと迷いました。たくさんの若者が戦死したことを思うと、六郎と恒に共感しつつも、物語に深く浸ることができなくて。
ラバウルは終戦まで自給自足で籠城を続けたそうですから(Wikipedia参照)、飢え死にや玉砕で大勢の兵士が亡くなったほかの戦場よりは、物語の舞台にしやすかったのかな、と考えたりもしました。

物語に強く引き込まれたのは、終盤、敗戦が濃厚になる中で、六郎の胸に戦争の理不尽さがこみ上げる場面でした。人を殺すためでなく、恒を飛行機に自由にのせてやりたい。自分は火薬で爆弾を作るのではなく、内地で修行して、恒のために愛機「月光」の名をつけた打ち上げ花火を作ってやりたい。でも、死にゆく自分たちにそんな未来は決して来ない…。抗うすべもなく夢をあきらめなければならない悲しみが、私の胸にも押し寄せてきて、戦争のリアルを感じました。勝っている時は、戦争の空しさは見えないのかもしれません。
最後の出撃を前に、夕暮れの浜辺で二人が手をつないで星を待つ姿が、とても印象的です。夜になる一瞬に永遠を感じる二人は、前半の生き生きとした様子とは対照的で、静かな描写に胸を打たれます。

偶然が重なり生き延びた六郎と恒は、約八年後に帰国を果たします。六郎が作り上げた打ち上げ花火「月光」を見て号泣する恒の胸にあふれたのは、ラバウルの空を愛機で翔けた日々と戦争へのやるせなさ、死んだ仲間たちへの思いではないかと感じました。この青い花火が、二人にとっての青春の形見なのでしょう。タイトルが切なく胸に響きました。

星空のように果てしなく深い愛

奇跡の泉シリーズで、尾上さんの描く命がけの愛に強く惹かれるものがありました。
そこで1945シリーズも思い切って読んでみました。年代から死に別れを連想してしまい、なかなか手を出せずにいました。
読んでよかったと思いました。別れの切なさを越えた、星空のように果てしなく深い愛が描かれていました。

日本の敗戦がささやかれ始めた頃、希は、名家の跡取りで海軍中尉の資紀の身代わりとなり、特攻に行くことを決めます。希は、幼い頃に命を救ってくれた資紀のために死ぬことは喜びだと懸命に伝えますが、資紀は強引に希を抱き、冷たい態度を取り続けるのでした。

資紀の真意は、あるとき突然、希にだけ分かる形で明らかになります。その衝撃の大きさに、私は物語のページを戻り、「あっ」となりました。最初読んだときは、資紀の手の中のルリビタキを、資紀と希が見ていると思った挿絵ですが、資紀は希の右手を見つめていたのです。裏返しのオリオン座の形にホクロが並ぶ希の右手を…。この右手を残酷な方法で奪い、自分の命を懸けて、希の命を守ろうと、ずっと前から資紀は決意していたことが、陰のある微妙な視線で暗示されていました。
資紀のために命を捨てようとする希は健気で、それだけで十分に心打たれるのですが、愛する希に本心を告げず、冷たい態度で思い出すら残させず、ただ一人、全てを抱えて特攻に飛び立つ資紀の想いの深さに圧倒されます。それは、静かにどこまでも広がる星空のようです。切ないけれど、資紀の愛の美しさに感動することを止められませんでした。

生きること、恋することが難しかった時代があったのだと、あらためて思わされます。
あとがきに尾上さんも書かれていましたが、二度と繰り返してほしくないと、私も切に願います。

最後に救いが用意されていたので、本当によかったです。未読の方も安心して読んでください。

人を好きになることが痛みだなんて

矢代はひどいですね。百目鬼を冷たく捨てようとするくせに、膝枕をねだったり、好きになるってどんな感じだ?と真面目に聞いたりする。突き放したり、ふいに素の顔を見せたり。ギャップにドキリとしてしまいます。百目鬼だって、辛いですよね。
好きになることは、矢代にとっては痛みなのですね。百目鬼の頬の傷を覆っていたテープをはぎ取って、「俺にとってはこんな感じだ」なんて、遠回しに言うところが、かえって矢代の抱える傷の深さを感じさせます。好きになることが痛みでしかないなら、矢代が百目鬼を遠ざけようとするのも、少し分かるような気がします。
七原の話から矢代の心の傷を知った百目鬼は、これからどうするのでしょう。好きなだけでは矢代のそばにはいられないと分かったはず。矢代が変われないなら、百目鬼が変わるしかないのでしょうね。
抗争も終わりましたし、次号からはきっちり向かい合ってほしいです。

二人の未来にたくさんの希望を感じました

衛と真文が恋人に戻って終わりではなく、二人の未来についても想いを確かめ合えたことが、良かったです。真文が記憶障害で思い出を失う切なさよりも、たくさんの希望を感じました。

衛のことを忘れたくないと涙する真文に、衛は約束をします。「これからもずっと『カナリー』はここにあるから。もし迷子になっても安心して帰ってきて」と。何度真文が記憶を失っても自分たちはお互いを好きになると、衛は確信しているのでしょう。衛のあふれるような愛情を感じます。真文と想いを通い合わせて、これまで一人で飲み込んできた哀しみも、母親に捨てられた心の傷も癒されたのだと思いました。真文も衛の約束を信じて、日々を大切に生きていこうと心に決めます。前向きな二人が、とても眩しいです。

衛と真文の恋模様は、毎回さまざまなエピソードを加えて、味わい深いものになっていくのでしょう。切ないことも、心躍ることもあるかもしれません。きっと真文はそのときどきの想いを日記に綴るに違いありません。衛が言うように、50歳の頃にはコーヒー一杯の時間では話しつくせないくらい積み重なっていくのでしょうね。その頃の二人はどんな感じだろうと想像すると、ちょっと楽しいです。真文の勉強が実って、自家焙煎コーヒーが『カナリー』の名物になっていたりして。衛は蝶ネクタイの似合う渋いイケメン店長になっているかもしれません。

真文がカフェライターとして再出発できたのも良かったです。いつか一冊の本になって、『カナリー』の本棚に置かれたら、素敵でしょうね。真文の足跡がたくさんの人の心の中に残ればいいな、と思います。

終わりのない約束が切ない

衛と真文に、こんなに眩しく、悲しい過去があったとは。
中学生の衛と高校生の真文。ご近所になった二人は、やがて互いにかけがえのない存在になっていきます。
「何度忘れられても絶対に傷つかないから、安心して。」
衛を強くし、真文を支えた約束が、二人の恋の始まりだったのでしょう。大人へと近づいていく二人がいつもキスした河原のキラキラとした光、衛の部屋で初めて体を重ねた朝の二人を包む陽の光が、眩しく鮮やかな印象を残します。
出会いからわずか4年後。真文を襲った記憶障害と母の事故死、そして真文が行方不明になる壮絶な描写に、本を持つ手が震えるようでした。

1巻で、喫茶店で初めて真文と知り合ったようにふるまう衛を思い出します。
そっけない態度は約束を守るためだったのだと、二人の過去を知って初めて分かりました。
喫茶店『カナリー』の周りから浮くような興味を引く外観、個性あるブレンドコーヒーも、昔、真文が語った夢そのものだったのですね。二人の過去を知って1巻を読み直すと、それまでと全く違う景色が見えてくるようでした。
真文がいつか戻ってくることを祈るように待っていた衛の想い、そして昔の約束を一途に頑固に守ろうとする衛の姿に、胸が締め付けられました。

衛の約束は、終わりがないのでしょう。
「傷つかない」と約束しても、真文が記憶を失うたびに衛の心は傷ついてしまいます。
それでも約束を守ろうとするのは、きっと記憶を失っても変わらない真文の心を信じているからなのだろうと思いました。
昔、記憶を失っても、衛の初恋を遠慮なくからかったり、とっておきの場所から遠くに見える海を喜んだ真文の中に、衛が変わらない真文を感じる場面が、とても心に響きます。記憶を失っても変わらない心は、タイトルに通じるエピソードでもあります。
一途で切ない衛の約束。終わりのなさに、衛の心が真文の母親のように壊れてしまわなければいいのですが。

真文視点の「夏の裏側」では、どんなときもきっと自分は衛に恋をする、という真文の密かな熱い想いが綴られています。

衛の約束と真文の想いは、どんな形で重なるのでしょう。ドキドキしながら、最終巻を読みたいと思います。

大切な部分が欠けた恋の行く末は

BL AWARD 2019年・ベスト小説トップ10にランクインの本作。遅ればせながら読んでみました。

記憶障害を起こしやすい青年・静良井は、日記に綴っていた恋人『M』を探しながらも、喫茶店のマスター・中上と恋に落ちます。そして、再び記憶を失ってもまた、中上に惹かれていきます。薄幸な静良井が二度も同じ人に恋しては、その大切な記憶を失う、切ないお話です。
でも、静良井は中上との思い出を失いはしても、中上の温もりや匂い、抱かれた時の快楽を忘れてはいません。そして、中上の淹れるおいしいコーヒーの味も。恋とは、相手を思う気持ちのことなのだと思っていましたが、体が無意識に記憶するさまざまな感覚も含めた複雑なものなのかもしれません。
思い出という恋の大切な部分が欠けたとしても、思い出以外の何かが二人を強く結びつけていたとしたら。欠けたものを埋めて、再び結ばれることができるのでしょうか。思い出だけが失われる記憶障害というユニークな設定に、切なさだけでなく、未知の面白さも強く感じてしまいました。

静良井が、性格はだいたい経験でできあがるものだろう、とパトロンのような久遠に話す場面があります。確かにそういう部分もあるけれど、どんな暮らしをしても変わらない、その人の根っこのようなものも、確かにある気がします。記憶を何度失っても変わらない静良井のひたむきさや、肉親に恵まれなくても真っ直ぐに生きている中上のように。
二人の行く末がどうなるか、今は全く予想がつきませんが、一生懸命に生きている二人が幸せになってくれたら、と願わずにはおれません。