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表題作パラスティック・ソウル love escape

H3(ヨシュア・ハマス),0に寄生されたビルア種,29歳
ケイン・向谷,フランス中央刑務所勤務の刑務官,25歳

その他の収録作品

  • windy day
  • あとがき

あらすじ

刑務官のケインは、極秘任務でH3という重要人物の独房担当となる。
彼は寄生体Oに魂を乗っ取られた存在として監視対象となっていて……? 近未来SFロマンス、新エピソード登場!!

作品情報

作品名
パラスティック・ソウル love escape
著者
木原音瀬 
イラスト
カズアキ 
媒体
小説
出版社
新書館
レーベル
ディアプラス文庫
シリーズ
パラスティック・ソウル
発売日
電子発売日
ISBN
9784403525308
4.7

(59)

(50)

萌々

(7)

(1)

中立

(0)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
13
得点
281
評価数
59
平均
4.7 / 5
神率
84.7%

レビュー投稿数13

優しい二人のピュアな恋物語

刑務官のケインと、犬耳・犬尻尾を持つ囚人H3の、もどかしく切ないピュアなSF恋物語です。
木原さんには珍しくハッピーエンドです。木原さんの痛い話が大好きな私ですが、読後はじんわりと幸せな気持ちで大満足です。

ケインは職場では明るく振舞っていますが、スラム街出身であることやゲイであることを隠しているため、心の中では孤独を感じています。担当した囚人H3は精神体が寄生しており、その人格は宿主のものではありません。宿主の肉体から精神体が吐き出される数か月後まで、ケインはH3を見張ることになります。マジックミラーのような独房で、ケインは外からH3の様子を見たり話し声を聞くことはできますが、H3からは外の世界は全く見えないし聞こえません。白い箱の中に閉じ込められ十数年間を孤独に過ごすH3の唯一の楽しみは恋愛映画鑑賞。登場人物相手におしゃべりする寂しげな姿を見て、ケインは密かにあれこれと世話を焼いてやるようになります。

見つめ合うことも直接話すこともできない、この特殊な状況の中で、二人に恋が芽生えていく過程がとてもピュアで素敵なのです。
ケインがH3を喜ばせたくてH3がリクエストした映画をすぐに差し入れたり、体がかゆそうなH3にすぐ皮膚薬を差し入れたことで、H3は自分を気に掛けてくれる優しい存在が初めて現れたことを知り、やがて恋をします。ケインもまた、一人芝居のように自分に感謝し愛を告白するH3を愛しく思います。見返りを求めず、ただ相手を想い気遣い合う二人のやり取りがとても尊くてキュンとします。

ケインの髪の色を知りたがるH3にケインが自分と同じ髪の色の主人公の映画を立て続けに差し入れたり、H3がケインのためにクリスマスに歌を歌うエピソードが、可愛いけれど、もどかしくて切なくて、作品中でとても好きです。

ケインとH3は、生い立ちは違いますが、それぞれ孤独の中にいたことは同じです。それでもピュアな心を失わず、孤独な人や困った人への優しさを持っているところがいいなと思いました。無視されたり差別されたりする痛みを知っているからこそ、他人に優しくなれるのかもしれません。二人のそんなバックグラウンドもしっかり描かれていることが、物語に奥行きを出しているように感じました。

二人が無事結ばれることになった最後の種明かしにはアッとなりました。H3が独房に長い間入れられていた理由というのが、周りの猜疑心や差別心だったというのが、二人のピュアな心をさらに引き立たせているようです。

14

甘くて切なくて深い

らしくない甘さです(笑)一方でとても木原先生らしい”奇跡”の描き方だなと思いました。設定はSF(未来)だけど、ベースは非常にクラシカルなラブストーリーだと思います。
周囲に偽りの人生を強いられてきた攻(ヨシュア)と、自分を偽ってきた受(ケイン)が奇跡的に出会い、自分自身の人生を取り戻す物語でもあります。

おそらく、これ単体で読んでも楽しめるとは思うんですが、はじまりの章からここに至ったスケールの壮大さや、”O”という生命体との関わりについて理解を深める意味では全部読むことをお勧めしたいです。でも、これ読んでからの順番でも大丈夫と思います。

ディアプラス誌では3回に分かれて掲載されていたので、”これどうなんの?”ってめちゃくちゃハラハラしたんですよね。”木原レーベル”の斜め上からくる展開を見越してドキドキしてたので、いい意味で予想を裏切られたというか、一番スタンダードな部分を見落としていたことに気づきハッとさせられました。

対象が見えない(わからない)状態で始まる恋愛かぁ…、”ベイビー”やモフモフなど甘々要素満載ではありますが、行間が切なすぎます。本シリーズでは今まで、肉体(外)と心(内)が異なる生命体の恋愛が描かれていて、それゆえにおこる葛藤や別離に毎度毎度しんどい気持ちになっていたのですが、今回は巡り巡って、入れ物と中身問題がシンプルな帰結を得て、”やっぱりそうよね”etc...改めて色々思うところがありました。というわけで、一番甘いんだけど、一番深いかもしれません。

何度読んでも心臓を鷲掴みにされるのは、スリリングな臨場感に満ちた(かつエモい)脱走劇なんですよね。この場面に至ったケインの気持ちが尊すぎます。(ヒースの丘までたどりついてほしかった…)そして、その緊張感があるからこそ、次の展開で涙腺が緩んでしまうのです。

描き下ろしはご褒美なんですが、ヨシュアの奪われた20年以上の人生に対しての補填としてはまだまだ見合わない気がして…逆にしんみりしてしまいました。

カズアキ先生の絵はこのシリーズの世界観をこの上なく表現していて、作品に大きく貢献されていますね。本当に素晴らしいです。
これで完結なのかな?この先にくる物語が凡人には想像できないんですが、木原先生だからちょっとわからないですね!

13

さすが木原先生としか言いようのない神作品。

作家買い。

「パラスティック・ソウル」は2012年に上下巻で刊行され、2018年に新装版として『パラスティック・ソウル(1)(表題作「fake lovers」)』、『パラスティック・ソウル(2)』、『パラスティック・ソウル(3)』、そして完結編である『パラスティック・ソウル endless destiny』の4冊が連続で刊行されました。

『パラスティック・ソウル endless destiny』で一応完結していたので、今作品の発売を知った時、また「パラスティック・ソウル」が読める!と楽しみにしていました。今作品は前作から数十年後という時系列のお話です。

シリーズものではありますが、今作品は独立しているお話であること、序盤に説明が書かれていることから前作未読でも理解できないことはない気もしますが、でも、前作を読まれてからこちらを読まれた方が面白さはアップする気がします。

ということでレビューを。
なるべくネタバレしないように書こうと思いますが、前作含めて若干ネタバレに触れる描写があります。苦手な方はご注意下さい。



かつて人類は厄病に見舞われたが、特効薬が出来たことでその病の根絶に成功する。が、その薬の副作用としてケモ耳や尻尾を持って生まれてくる種が現れた。ケモ耳を持つ彼らはビルア種と呼ばれ、人と共存して生きてきた。

が、ビルア種の中に、子どもの時から優秀な子が生まれるようになる。彼らはその優秀さから「ハイビルア」と呼ばれるが、30歳前後になるとその反動のように知能が後退し、記憶障害を起こし、幼児のように何もできなくなってしまう。

実はハイビルアになってしまう理由があってー。

というのが「パラスティック・ソウル」の世界観です。
前巻までで、ハイビルアになってしなう理由もわかり、その「理由」も根絶され、今ではハイビルアは過去のものになっている。今作品は、再びハイビルアがあらわれる、というお話。

主人公はケイン。
彼は世界政府の職員で、現在は刑務所の刑務官として働く青年です。イケメンで優秀な彼は非常にモテるが、実は彼は周囲の人たちに秘密にしていることが二つある。

つつがなく、平穏に生活したい。そう願い「普通を擬態して」生きている彼だが、ある日一人の囚人の監視員として配属される。H3と呼ばれるその人物は、かつて滅びたとされていたハイビルアだったー。

さすが木原先生だな、と思うのは、「パラスティック・ソウル」の世界観を損なうことなく、前巻までの流れを変えることなく、新しい「パラスティック・ソウル」を紡いでいること。そこにケインという主人公を据えることで、同じ世界観でありながら既刊とは全く違うストーリーになっています。

ケインがひた隠しにしている二つの秘密。
そしてH3がなぜハイビルアになってしまったのか、そして独房に入れられ監視されているのか。

この全く違う因子が上手に絡まり、さらに二人の恋愛感情を盛り込んでくる。さすがとしか言いようがないです。

監視される対象と、監視する側。
とある事情によりH3にはケインをはじめとする自分を監視している人物たちと全く接点がありません。見張られているのだろうと気づいてはいますが、直接話すことも、ケインがどんな風貌をしているのかも、H3には知ることができない。

が、そんな状況にありながら、二人は心を通わせていく。
それは、共依存と言ってもいいかも。
ケインにしろ、H3にしろ、彼らにはお互いしかいなかった。孤独の中必死で生きてきた二人の男が傷をなめ合うようにして心を通わせていく姿は、木原作品ならではのそこはかとなく漂うほの暗さがある。

が、ベースはかなり甘々です。「パラスティック・ソウル」シリーズは木原さんらしいダークさや痛さを抱える作品ですが、今作品はシリーズ中で一番優しく、温かく、甘々なお話かと。

H3は、というかハイビルアは30歳を目途に精神的に幼児化しますが、それはすなわちケインとH3の別れでもある。その前に、H3の願いを叶えようと奮闘するケインの姿が描かれていて思わず落涙しました。

秘密を抱えるケインにとって、自分の職場である刑務官という立場を失うことはどれほどの痛みを伴うのか。それを捨てても、H3の願いを叶えてあげたい。もう、ケインの深い愛情に萌えが滾って仕方なかった。

H3は囚人ではないのに独房に入れられ、そして24時間体制で監視されています。「自傷させないように」という理由からガラス張りの、何からナニまで(何しろH3の自慰行為まで丸見えだ)丸見えの状況で日々過ごしている。

それは読者も同じで、ケインの秘密にしていること、ハイビルアの謎、二人の築いていく恋心、そういったものがまるでガラス張りのように読者にはまるっと見えています。この二人の行く末はどう見ても明るいものにはなりえず、どういう結末を迎えるのかハラハラしつつ読み進めたのですが。

ヤラレタ…。
そうきたか!

ガラス張りの、丸見えの状態で、読者には手の内をすべてさらけ出したストーリー展開でありながら、そういう結末に持っていく。素晴らしいです。さすがです。完敗です。

この作品は非常に狭い世界です。
基本的には二人が過ごす独房がベース。でありながら非常に奥行きのあるお話です。まるで映画の様、と言えば良いのか。

ケインの友人、恩人、そして職場の面々。
そういったサブキャラも、登場シーンこそ少ないものの味わい深く、すべてが過不足なく描かれています。

これ、まだ同じ世界観で描けそう。
まだまだ読み続けたい、素晴らしい神作品でした。

12

正直物足りない

この作品の前に読んだコノハラ作品が「甘い生活」だったので、作品間の温度差で風邪引いちまいました。

あっ、あああ甘いィィ〜!
甘いよ〜全然辛味成分がない純度100%の甘さ〜!


この作品の作者って、、、誰、、、でしたっけ?え?木原先生?ってマジ?
と、ずっと脳内で1人混乱してました。
これはね、これ、これを木原先生のスタンダードだと思ってお初の方が他作品を読まれてしまうと大変危険ですね。
大やけどします。気を付けて!


コノハラ教信者としては、正直物足りない気もします。もっとコノハラ節を感じたかった、、、なにこれ、どんな中毒症状?

けど、けどね、
話がふつうによく出来てて面白いんですよ!!
本当に面白かった!!

「こういう感じでハピエンに持ってくのかな」って、読みながら結末予想を数パターン考えるじゃないですか。
でも、そのどのパターンでもない展開で毎回びっくりさせてくれる木原先生は神。

ありがとうございます。好きです。


この作品で初めてコノハラ作品を読まれた方は次は「アオイトリ」辺りから攻められることをお勧めします!

11

壁を隔てた交流は今の私達でもあるよね

「僕の脳は、何も考えないことを求められている。それでも、君のことを考えている時、僕はたまらなく幸せな気持ちになるんだ。なぜだかわかるかい?
君がね、僕のことを気にかけてくれているからだよ。ありがとう、ベイビー」

「パラスティック・ソウル」シリーズ未読の感想です。特殊設定のお話ですが今作だけでも問題なく入り込めました。
木原さんの作品は読者も身を削りながら読むようなところがありますが、今回はご本人が仰る通り“当社比最高糖度”、ドラマティックで切ない完全なBL。
特殊な状況で監視を余儀なくされた美しい青年とスラム街育ちの看守、壁を介した交流と恋の物語です。

神作「さようなら、と君は手を振った」読後だったので、もっと泥沼を期待してました。ここで地獄が起きるんでしょ?と予防線を貼りながら読んでいましたが、ヨシュアが見続けていた恋愛ドラマのようにロマンティックに徹したお話でした。
鏡越しのやりとりや身分差、直球疾走劇にはクラシカルな趣すらありました。

書き始めたのは一昨年との事なので、連載中にコロナ禍に突入したのですね。
世界中が常にない混乱の中書かれたのだと思うと、本を手にした時ジワジワとくるものがありました。
見えるけど直接触れられないことは現実のリモートに、相手との間にある透明な壁はプラスティック製の仕切り、そして遠くに行きたいという気持ち。お話と現実がリンクした感触があります。なんて言うとファンタジーに陳腐さを持ち込み、大袈裟に言いすぎかもしれませんが、ケインの切なさや逃走への願望が少なからず身近に感じられる今の私達ではないでしょうか。

美しい姿は見えても言葉は交わせないこと
相手の寿命を知っていること
性格と外見は全くの別人と割り切れないこと
相手が弱っても何かを問いかけられても声を掛けて寄り添うことが出来ないこと
初めは特殊な部分に魅せられ、情が湧いてからは苦しくなるケインの一喜一憂の描写が切なくてもう素晴らしかったです。

見えないベイビー(ケイン)に向けたヨシュアの愛と、ピュアでストレートに響く台詞には心がふわふわします。
姿が見えなくても優しさが伝わってくれる、側に居ることを感じてくれるなんて、読んでいて温かくなってケインと一緒に嬉しくなりました。些細な気遣いに気付いてくれる人は素晴らしいし、こちらも嬉しいし、なかなか気づかれないものだから。
念願の再会が叶ってもずっとケインをベイビー呼びなのが可愛くて甘くって堪りません。
脇キャラも洋ドラマ風にカラッとしていて楽しかったです。

魂が色んな人を媒介して一人の女性と恋する映画「EVERY/DAY」、また某有名歌手のMV final distance、等々この辺りの世界観が好きで、今作ではそのエッセンスが感じられて沸き立ちました。
これ木原さんだよね?と背表紙確認するくらい、毒控え目で甘々な洋画テイストは、先生の新しい一面なのかもしれません。入門書のひとつとしても。

11

この作品が収納されている本棚

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