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『パラスティック・ソウル』の4巻目にして完結編。『endless destiny』は、旧版には収録されていなかったストーリーです。旧版に収録されていないという事で、前3冊とは無関係の登場人物たちのお話であることと、序盤に「ハイビルア種」の秘密(というか誕生する理由)が書かれているので、前作未読でも理解できる内容になっています。
なってはいますが、前3冊を読んだうえでこちらを呼んだ方が絶対に面白いので、未読の方はぜひそちらから読まれることをお勧めしたい。
という事でレビューを。ネタバレ含んでいます、ご注意ください。
主人公はハル。
彼女は(このストーリーにおいて、主人公は女性です)銀色の髪と耳、尻尾を持つハイビルア種の大学教授。美しいビジュアルを持ちながらも、彼女は自身のビジュアルに全く無頓着。なぜなら、それは、「借りているもの」だから。美しかろうが、人からどういった目で見られようが、30歳になった時点で、その「容れ物」とは離れることになるからだ。
が、そんなハルに深い愛情を向ける一人の学生が。
かなり年下の、ジェフリーという青年。
現在27歳のハルにとって、彼とともに過ごせる時間は残り少ない。が、詳しい事情を説明することは叶わず、そして彼の求愛を受け入れた。
初めは流されるようにジェフリーの愛情を受け入れたハルだけれど、いつしかハルもまたジェフリーを深く愛するように。が、そんなハルに、無情にもタイムリミットは訪れ―。
序盤はハル視点で展開していきますが、このストーリーの主人公はハルではなく、ハルの次の寄生体となったアーノルド(愛称はアニー)。
ハルを失った(ハルは亡くなってしまいます)ジェフリーの深い悲しみ。
それを目の当たりにしながらも、何もできないアニー。
ハル亡き後もずっと彼女を愛し続け、自分を決して愛することのないジェフリーのもとで、彼を愛し続けるアニーの孤独と絶望が、なんとも切なかった。
このストーリーの中で、たくさんの、様々な形の愛情が描かれています。
美しく聡明な大学教授を愛するジェフリー。
ジェフリーに愛され、「愛すること」を知ったアニー。
大学生の時から、一途にジェフリーを愛してきた彼の友人。
そして、アニーと同じく「0」である仲間。
「0」である彼らには、愛情は不要だった。人の身体(ビルア種ですが)は、単純に自分を形態化させるだけのものに過ぎない。
が、そんな彼らが愛を知り、そして彼らが選んだ結末は。
『パラスティック・ソウル(3)』のライヴァンしかり、今作品のアニーしかり。
愛する人を失った彼らにとって、これからずっと続く「未来」は不要なのだと。
ハル亡き後アニーと結婚するジェフリーですが、はじめアニーに対して性的欲求が芽生えないシーンもすごくリアルでした。
ハルとアニーは、中身がよく似ている。
けれど、それだけでは愛せない。
その人の本質とは、「容れ物」なのか、それとも「魂」なのか。
あっさり「魂」に気持ちが傾かない。
そんな木原さんのストーリー展開が、非常にリアルで、そして残酷でした。
『パラスティック・ソウル』は、「0」の存在を軸にしたSFもの。
そこだけ切り取ってもすごく面白いんです。少しずつ見えてくる謎ときの展開も非常にお上手でしたし、そこから次のお話に繋がっていくさまも無理がなく木原ワールドに引き込まれてしまう。
が、単なる「SFもの」ではなく、このストーリーの根底に流れているのは愛なんです。
お互いを想う深い愛情に、落涙し、そして萌える。そんな作品でした。
終盤にアニーとジェフリーの蜜月のお話が収録されています。
本編はシリアス一辺倒だった分、彼らの甘いストーリーが読めてほっとしました。
木原作品なので、痛い描写もかなり多いです。
多いですが、だからこそそこに見えてくる温かいものに救いがありました。
「痛いストーリー」ゆえに、もしかしたら読み手を選ぶ作品かもしれません。が、BLとして読んでも、SFとして読んでも非常に面白く完成度の高い作品だったように思います。
文句なく、神評価です。
人間に寄生を繰り返し永遠に生きる精神体の一族O(オー)。Oのハルが、愛の歓びと苦しみを知り、それでも一人の人間を愛し続ける、切ない物語です。
ハルの精神体は、25年ごとに、ハルからアーノルドへ、そしてヴィンセントへと移動していきます。ジェフリーに愛され結婚したハルは、アーノルドになってもジェフリーを愛し、長い片思いの末に再び伴侶となります。しかし、ヴィンセントのときはもうジェフリーから恋人として愛されることはありませんでした。
人間は不完全だから、愛する人の記憶も時間とともに薄れ、穏やかな思い出になっていくのでしょう。だからまた別の人を愛することができる。少しずつ忘れてしまう不完全さは、人間に与えられた恵みのような気がします。人生で二人の愛する人を得たジェフリーは、きっと幸せだったと思います。
でも、完全記憶力を持つOのハルは、ジェフリーの温もり、愛の言葉、ともに過ごした年月の全てを忘れられません。ヴィンセントとして愛されなくても、ジェフリーしか愛せないのです。そばにいても同じ魂だと気付いてもらえなかったハルの苦しみを思うと、胸が締め付けられるようでした。一途で不器用なハルの魂は、もう人間のようです。切なくて、愛おしくてたまりませんでした。
ハルの魂が自分たちOを消滅させることに生きる意味を見出すラストは悲しいですが、救いを感じました。それがハルにとって、ジェフリーへの愛を全うする唯一の道なのだと思いました。ジェフリーを愛したことを後悔したくない、いつかその魂のそばに行きたい。そんなハルの静かな決意に胸を打たれます。
1巻から本作4巻まで、待つ愛、自分を差し出す愛、添い遂げる愛、終わらない愛、さまざまな愛の形が描かれてきました。愛とは何だろう、自分ならばどうするだろうと、深く考えさせられました。
『パラスティック・ソウル⑷』
木原音瀬先生 読了
…。堪えました。かなり堪えました。ここまで来るとは…流石にこんな話、木原さんしか書けない(書かせてもらえない)でしょうか。編集部様、ありがとうございました!(涙)もう目が文字追っていく度涙がどんどん溢れてくる有り様で…最近木原さんって昔みたいに(『WELL』とか『Rose Garden』とか?)極めて痛いの書かなくなってるな…って思ってたのですが、読み終えて気持ちを落ち着かせながらも今はまさに「来たー」って感じがたまらなく爽快そのもの。やっぱり木原さんの作品にはハズレがありません。木原音瀬っていうお名前がすでにわたしの中で神作品保証同然です。
そんな話はどうでも良いのですが、感想を少し垂らします。今回の作品はざっというと、(当社比)『COLD』シリーズの切なさと、『箱の中』の切なさを合わせて、その倍の絶望感と悲しさが詰まっている1冊でした。新書館様の時の元々あった2冊も読んだ時辛くて辛くて、すごく好きな作品だけど2度と読みたくないと思いました。今回文庫化を機にもう一回(また泣きながら)読んで、4巻に進もうとしたら、
まさかの新しいキャラの話で、正直一瞬ちょっとガッカリはしていました。私の中では、スピンオフやら続編やらで同じ世界観を続く違う話はだいたい個人的に原作に比べてしまうと劣っていて、でもそんな事思う余裕もなく読み始めたらすぐにこの理不尽な物語にどんどん引きずられていく。
愛ってなんなんでしょう。そんな疑問を抱きながらこの魂がこの世に浮遊していて答えを探し続ける。ふとマーメイドの話に重ねてしまいたくなる。
マーメイドは人間を愛してはいけない。しかし彼女の美しい心はやっぱり王子を憧れて、命をかけて痛い思いをたくさんして、愛をようやく手に入れたのに、最後の最後に結局愛する人の他人と睦み合う姿を見せられ…
マーメイドの美しい魂は泡になって天国へいった。この魂はどうなんだろう。人間は愚かで、不器用と理性的に物事を判断していた魂が、初めて愛という感情の素晴らしさを味わい、永遠の命を持っていても愛する人を引き止めることが出来ないことを思い知らされ…初めて人間の限りある命を憧れるという魂が愛おしい。
膨大な知識を持ちながらも、愛することを知らないというのは、これほど寂しいことかと。人を愛すると、いくら頭が賢くてもこれほど盲目的になってしまうかと。あの魂も、ジェフリーも、力尽くしてお互いを愛していても、いつもいつも、最初から最後までどこかずれていて、
最後の終わり方がダメな人も絶対少なからずいるかと思いますが、私はこれで逆にあれほど色々あった2人にこそ、一番潔く綺麗な終わり方かと思います。下手に無理矢理にハッピーエンドにするほうが逆に惜しいくらいです。
ここで話変わりますが、ジェフリーは最後まで真実を知ることもなかった。もし知ったらどうなるでしょう。自分が愛したのはハルの体なのか、アーノルドの体なのか、あの精神体なのか、よほど混乱してしまうでしょう。知っていても、精神体はある意味ハルを殺し、アーノルドを5歳児にした犯人とも言えるし、精神体を愛するのか、憎むのか、元々繊細な人だし、2種の感情が頭で混ざってしばらく立ち上がれないでしょう。
なのでもしやこの精神体が粉々になって天国に行く日が来て、2人(?)が天国で会えたらまた長〜い修羅場になるのではないかと今妄想しながら…でもあの精神体は根気強さ半端ないから、10年でも20年でも追いかけてたらジェフリーも曲げてくれるのかな?とどうでも良い話を一人で思いながら少しほっとする。
今回も、素晴らしい旅をさせて頂いて、先生に感謝です。(木原さんの本読む度旅しているような気分を味わわされて、毎回不思議な体験をさせられています笑)この作品は絶対好き嫌いがはっきり分かれる作品と覚悟しているのですが、私は完全なる「神評価中の神評価」派です。
1~3巻を全部読み終わったら、4巻には少し読み気がなかった。いよいよ読み始めると、すぐに物語に吸い込まれ、夢中になった。最後のシーンにたどり着いた時、涙がもうめちゃくちゃだった。
2巻のdear brotherより切なかった。もう二度と読み返すなんか嫌だと思ったが…やっぱり木原先生がすごいなぁとしか思わない。
日本語の小説に泣くほど痛くて切なくなったとは思わなかった。いい物語はやはり言語の壁が越えるものだと感心する。
シリーズ本編とは異なった主人公・種族の物語。
なんとなく、気楽には読めないお話な気がしたんです。
なぜなら木原先生作品だから。
その予想は見事に当たっていて、終始胸を鷲掴みにされるようなストーリー展開と、根底にある簡単には答えが出ない大きなテーマに夢中になってしまう。
読んでいてすごく苦しいのだけれど、あっという間にこの作品の世界観に魅了され、とある種族の愛についてが綴られた数十年にも渡る物語から目が離せませんでした。
前作までの「願いの叶う薬」を巡る3冊も素晴らしかったのですが、こちらのパラスティック・ソウルシリーズは毎巻読めば読むほど圧倒されるというか、前作をしっかり超えてくるんですよね。
読み手はこの作品の世界に生きているわけでもないですし、耳と尻尾の生えたビルア種も、高度な知能を持ったハイビルア種も、人に寄生をする精神体・Oはもちろん、作中のごく普通の人間の生活ですら見たことも聞いたこともありません。
ようは見ず知らずの人と世界の、それもSF要素のあるお話だというのに、なんだか奇妙なほどにリアルなものを感じるのです。
木原先生は、人間の感情や環境・関係性のままならなさにざっくりとメスを入れるように描くのが本当に巧みな作家さんだと思います。時に生々しいほどの上手さ。
だからこそこんなにも苦しくて残酷で愛おしい愛に溢れたお話になっているのではないでしょうか。
性別を持たず、25年をリミットに人から人へと渡り歩くように寄生しなければ生きていけない生命体。
愛を知らず、やがて愛を知った1個体と、愛を知らない1個体とは知らずに愛した1人の男性。
始まりから結末まで非常に読み応えのある、心揺さぶる素晴らしい作品でした。
次巻は一体どんなお話なのかと今から読むのが楽しみです。