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2012年に刊行された作品の新装版。旧版は『パラスティック・ソウル -はじまりの章-』と『パラスティック・ソウル -おわりの章-』の2巻完結ですが、新装版は4か月連続で刊行される4巻完結の作品になっています。
この作品は2巻目。SF要素も満載で、ちょっと特殊な設定なので、前作未読だと理解できないと思います。1巻未読の方はそちらから読まれることをお勧めします。
という事でレビューを。
すみません、ネタバレ含んでいます。
1巻は「何でも望みが叶う薬」をもらった4人のうち、八尋と芭亜斗の二人のお話でした。2巻は残りの二人のニコラスとミアのお話。
旧版の『~-おわりの章-』と若干収録内容が異なっているので一応記載します。
・eternal friend
・Girl and Dog
・eternal friend and more
・Happiest
・あとがき
が収録されています。
「eternal friend」
犬のジョン視点でストーリーは展開していきます。
ジョンは犬とは思えないほどの知能の持ち主。そのため、研究所に連れてこられ、様々な研究の材料にされてきた。
そんな日々に嫌気がさした彼は、ある日突然、その知能を隠すように。その結果研究材料になる日々は終了したものの、その後の彼に待っていたのは研究所の所長が拾った捨て子の世話。
その捨て子はニコラスと名付けられ研究所で育てられるが、彼には園児程度の知能しか備わっていなかった。それゆえに、汚れを知らず、自分を守り育ててくれるジョンになつくことに。そんなニコラスが可愛くて仕方がないジョンだが、高齢のジョンには残された時間は少ない。
さらに、研究所にいた人間からニコラスは命を狙われ…。
ジョンのIQが高く、そしてニコラスの知能が育たなかった理由。
ニコラスがライヴァンからもらった薬で、彼ら二人が望んだこととは―。
切ない…。
めっちゃ切なかった…。
彼らの関係や、そして「何でも望みが叶う薬」を作り上げた人物との関係が、少しずつ見えてくる。
ジョンがニコラスを愛していたのは恋愛感情なのか、と問われると否でないだろうか。親子のような愛情、のような気がする。
それゆえにBL色はほぼなく、ないのだけれど、文句なしの面白さ、なんです。
あとがきで木原さんも書かれていますが、ジョンが高IQゆえに、この二人の生きる未来は暗くはない。
が、かなりショッキングな内容でもあるので、SF要素があまり好きではない方は注意された方が良いかもです。
個人的にはめっちゃツボな(BL的な意味だけではなく)作品でした。
「Girl and Dog」
娼館で働くミアのお話。
娼館で働いてはいますが、彼女は娼婦としてではなくあくまで下働きとして働いている女の子です。
彼女の過去の話、現在の過酷な環境、といったものに多くのページが費やされていて、また主人公が女の子という事もあって、こちらもBL色は皆無と言って良いと思います。
彼女の恋人になるのが、1巻の「fake lovers」の八尋の兄。
という事で、八尋やジョエルも登場しています。
ミアの置かれている環境がかなり劣悪で、痛い描写(殺しとか人身売買とか)もかなり多いので、苦手な方は注意されてください。
そんな環境にいるミアが、やっと見つけた幸せが八尋の兄のスタンリー。
スタンリーもまた5歳程度の知能しかない青年で(理由がきちんとあります)、「eternal friend」のニコラスと同様にハラハラするシーンもあるのですが、こちらはきちんとハピエンでした。
描き下ろしは、ミアの出産にジョエルが立ち会うお話。
「fake lovers」でスタンリー(本名は「佑」ですが)を取り戻そうとする八尋とミアの間でひと悶着ありましたが、子どもが生まれたことで和解する雰囲気もあり、優しい展開になっていました。
1巻もでしたが、描き下ろしが優しく温かいお話なのでほっと一息つける感じです。
2巻では、まだ薬の謎や、その薬を作った老人の目的、そして薬を4人に渡したライヴァンの思惑といったところは解明に至っていません。木原さんの描かれたあとがきによると次巻で明らかになるとのことですので、楽しみに待っていようと思います。
収録されている2作品ともBL色が薄く、エロ度も皆無です。
木原さんらしいエロを求めて読まれる方には若干肩透かしを食らう作品かもしれませんが、とにかく面白い。
ぜひとも手に取って読んでほしい、神作品でした。
表紙の謎めいた黒髪の少年と、帯の「願い事はただひとつ、きみと話ができたらいいのに」に、どんな物語か全く予想がつかず、ドキドキしながらページをめくりました。(読後、この帯のコピーの素晴らしさに唸りました。)
前作では、謎の科学者ブロイルスが作った“願いが叶う薬”が、彼の死後、八尋、バート、ニコラス、ミアの四人に、二粒ずつ配られました。
本作では、ハイビルア研究所に住むニコラスと愛犬ジョンの互いへの深い愛情を描く「eternal friend」と、貧民街・ホープタウンに住むミアとスタンリーの恋「Girl and Dog」が展開します。二つの物語の舞台は天と地ほど貧富の差がありますが、身勝手で弱くて暴力的な人間がたくさん登場する点では同じです。その中で、主人公たちの切なる願いが、暗闇に灯された明かりのように尊く、そして眩しく感じられました。
「eternal friend」
犬の耳と尻尾を持つ人間・ビルア種の中に高い頻度で生まれる“ハイビルア”。彼等の高い知能とフェードアウト(五歳以前の記憶の喪失)の謎を研究する「ハイビルア研究所」で暮らす少年・ニコラスと老犬・ジョン。ニコラスは15歳なのに5歳児並みの知能で、心優しく純粋無垢。ジョンは、天才犬なのに人間に嫌気がさし、普通の犬のふりをしています。寄り添うように生きてきた彼等に、ある時命の危機が迫ります。
明らかになる彼等の秘密が、あまりにも残酷で、衝撃を受けました。「人間は罪だ」というジョンの言葉に深く共感します。人間が過去の戦争の中で犯してきた数々の非道な振る舞いが思い起こされます。そして、ジョンだけが研究対象だったことから、研究の目的は、知能を高めることだけで、フェードアウトしたビルア種を救う気など本当はなかったのでは?という疑いが湧いてきます。
保身のためにニコラスとジョンを始末しようとする研究者たちの一人に、前作でも登場したケビンがいます。ケビン視点の前作では、彼は良心の呵責に苦しんでいた印象でしたが、ジョン視点の本作では、自分に都合よく状況を解釈するずるい大人に見えてしまいます。特に、前作で、逃れたニコラスをケビンが訪ねる場面を読み返すと、その身勝手さに驚きます。視点が変わると人の印象は驚くほど変わる、そんな人の多面性があぶりだされているように感じました。
追いつめられたニコラスとジョンは、それぞれ願いをかけて“願いの叶う薬”を飲みこみます。その結果に、ふと、「賢者の贈り物」を思い出しましたが、本作は悲しみが圧倒的に勝ります。愛にはいろいろな形があるのでしょうけれど、自分を捨てて相手に寄り添おうとする彼等の愛情に、どうしようもなく深く胸を打たれます。
後日談「eternal friend and more」では、ジョンはもう悲しんではおらず、ニコラスを守る騎士のようです。共に生きていくことそのものが、彼等の幸せなのでしょう。
読後は、タイトルの「パラスティック・ソウル」(寄生する魂、精神)から、肉体と頭脳に寄りかかり弱者への思いやりに欠けた人間の狡さを感じてしまいました。今後の展開で、よりタイトルの核心に近づいていくのでしょう。期待が高まります。
「Girl and Dog」
孤児のミアと、フェードアウトしたビルア種で八尋の兄・スタンリーが、暴力渦巻くホープタウンで出会い、寄り添い、たくましく生きていくうちに、やがて互いの恋心に気付いていきます。
この物語の一番面白いところは、ミア自身は“願いが叶う薬”を直接は使わなかったことだと思います。一粒目は、ドラッグだと疑い、嫌いなチンピラに。もう一粒は、スタンリーを連れ戻そうとする八尋に、取引のために。スタンリーに、「自分をずっと好きでいてくれるように」願って飲ませることもできたのに、そうしなかったのは、きっと今のままのスタンリーが好きだからなのでしょう。彼の心を薬でつかもうなどとは思いもしなかったミアの真っ直ぐさを、とても好ましく感じました。彼女の粗削りな優しさが彼女を救う展開も、人情味があり良かったです。
いつか元の兄に戻ると信じている、という八尋の気持ちも愛には違いありませんが、自分がスタンリーならば、今のありのままの自分を受け入れてほしいと思ってしまいます。ありのまま受け入れることが幸せにつながっていくと、後日談「Happiest」で描かれているような気がします。
謎多き“願いが叶う薬”。ニコラスとジョン、ミアとスタンリーの物語を読み、薬を使っても使わなくても、幸せになるのは最後は自分次第なのかもしれないと思いました。
残った薬は、八尋がミアからもらった一粒のみ。前作で、八尋から手渡されたジョエルが「薬なんて必要ない」と投げ捨て、サイドボードの下に転がってしまったものです。このまま放置されるとは思えず、とても気になります。
次巻ではすべての謎が明らかになるとのこと。待ち遠しいです。
とにかく面白いです!
ですが、Bl色は薄いので、BLを期待して読むとちょっと物足りないかもしれません。約半分は少女と青年のお話です。
でもとにかく面白いです!
ストーリーがよく練られているので、BLを抜きにしても1つの作品としておすすめしたい作品です。
1巻を読んだときも思いましたが、「願いが叶う薬」という一見すると幸せなイメージのものを木原先生が書くとこんなに痛いお話になるのかと驚かされました。
特に「eternal friend」を読んだ後は辛すぎて次の話に進む気になれず、思わず本を閉じてしまいました(笑)
ニコラスとジョンには本当に幸せになってほしい…
こんな切ない設定と展開を思いついてしまう木原先生は本当にすごい(笑)大好きです(笑)
1巻同様とっても読みやすい作品です。あとがきで続きの軽いネタバレがあるので、苦手な方はご注意ください。しかし軽いネタバレすら見たくない方は読む前にちるちるのレビューも見ないだろうから何も情宣にならない。
◾️ジョン&ニコラス
パートとケビン同様、構造が面白い話でした。犬の体に人の脳から人の脳に人の身体になったジョンと、犬の脳に人の身体から犬の言葉になったニコラス…色々なところがテレコになっていて、うまいなぁと。犬は人の身体を得るのだろうと思っていましたが、もとは人の精神だから薬も作用したのか。
私刑について一定の信念を持って動いたジョンにも"回り回ってくる日"がくるのだろうか。それともこの作品の神はジョンの振る舞いには目を瞑るかな。
◾️ミア&スタンリー
この一冊読むと、全くBL作品に思えません。一般的ライトノベルにありそうな少女と青年の物語。(3巻収録の単行本版あとがきで謎が解けました。色んなジャンルの雑誌にあわせて書いたものだったんですね。)
自分にはエイルの存在が最も印象的でした。登場シーンは多くないし派手な動きもないのに、かなりのキーマンです。
出産エピソードの柔らかさに、木原先生ならもっと地獄に突き落としてくるのでは?と何故か物足りなく(という感情ともちょっと違うんだけど)思ってしまう。
萌2〜神
ああどうしましょう。
すっかりこの作品の虜になってしまいました。
1作目も素晴らしかったのですが、2作目となる今作はもっと素晴らしくて、3作目を読んだら一体どうなってしまうのかとある意味恐怖すら感じています。
2作目でも、何の縁もゆかりもない老人・ブロイルスの最後の晩餐に参加した際に、形見分けとして「願いの叶う薬」を貰った面々の物語が複雑に入り組みながら描かれていきます。
たった2錠の真珠のような薬。貰い受けた者によってこれほどまでに願いの選択肢・使い方が異なり、こんなにも人生が変化していくものなのかと非常に面白いです。
犬視点と来たかと、木原先生の引き出しの多さに驚きを隠せません。
私の中では今作のメインとなる2作はどれもハッピーエンドだと感じましたが、これは人によるかもしれませんね。
前作・今作に登場した者たちが過去で繋がっていたり、横続きで繋がっていたり、はたまた繋がりそうで繋がっておらず読み手だけがあっと気が付いたりと、物語の中で絶妙にエピソードが交差した時の気持ち良さ。
それによってどの人物の人生にも奥行きが出て深みが増していくのです。なんて面白いの…
薬を使った者・使わなかった者。どちらの選択も味わい深く、木原先生らしいほんの少しの苦味がありつつも、とても純粋で綺麗なお話だったなと思います。
普段あまり作品を読んで涙することはないのですが、書き下ろしの「Happiest」を読み終えて自然とぼろぼろ涙があふれた自分がいました。
2作目が大好きになってしまった。どうしよう。
次巻では全ての謎が明かされるようで、今すぐ読みたいような、もう少しじっくり読みたいような…贅沢な悩みの間で揺れています。
本当に素晴らしい作品でした。面白かったです。