つらい別れを経て再会した明渡と苑のその後は……? 「キス」続篇!!

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表題作ラブ~キス2~

雑賀明渡、起業家
蛇抜苑、マッサージ師

その他の収録作品

  • スプリング(あとがき代えて)

あらすじ

再会してもうすぐ一年、
明渡(あきと)と曖昧な関係を続けていた苑(その)。

頻繁に食事を共にし、時折キスをする、けれどそれだけ。
明渡の真意がわからず、問い詰めることもできず、
心も身体もどこにも進めずにいた。

そんなときマンションでトラブルが起こり、
苑は明渡のもとに身を寄せることになる。

渋々だったがふたりの生活は単純に楽しかった。
けれど近所には
かつての自分を思い出させる少年が住んでいて……?

作品情報

作品名
ラブ~キス2~
著者
一穂ミチ 
イラスト
yoco 
媒体
小説
出版社
新書館
レーベル
ディアプラス文庫
シリーズ
キス
発売日
ISBN
9784403524790
4.3

(169)

(106)

萌々

(37)

(16)

中立

(6)

趣味じゃない

(4)

レビュー数
14
得点
732
評価数
169
平均
4.3 / 5
神率
62.7%

レビュー投稿数14

二人の出した答えに涙がとまりませんでした

「キス」続編になります。
読み終えた時、涙が止まりませんでした。

彼等の愛の形は、分かりやすく、また理解しやすいものでは無いんですよね。
でも、それこそが、彼等の愛なんだと思う。
たとえ、あの事故が起こらなかったとしても、結局はここにたどり着いたんだろうなぁと。

私は前作を読んだ時、ものすごくショックを受けたんですよね。
「愛」とは一体何なのかー。
心なのか、それとも脳の錯覚なのか的に。

もちろん、人が恋に落ちる時の脳の仕組みは解明されてるんですけど、それだけでは無い、二人の間だけに通じる「何か」特別なものが欲しいと夢見てしまう。

で、今回、その「何か特別なもの」を感じさせてくれる、とても深い続編。
一穂先生ですので、読者の期待どおりには事を運んじゃくれないんですよ。
三歩進んだら二歩戻りだし、また、読んでいて、とても痛い部分はあるんですよ。
それでも、いや、だからこそ、二人がたどり着いた結論に、もう涙が止まりませんでした。


内容としましては、「キス」続編で、再会してから一年後の二人になります。

頻繁に食事し、時折キスをする。
共にいても、曖昧なままの二人の関係。
そんな中、苑のマンションでのトラブルにより、一時的に明渡の部屋で二人は同居を始めます。
以前と同じ、明渡が当たり前に居る生活に、心の安らぎを覚える苑。
しかし、かつての自分を思い起こさせる少年が現れてー・・・と言う流れです。


(前作では)攻めである明渡に、もの申したい姐さんはたくさんおられると思うんですけど。
今回は続編と言う事で、その明渡の心情がクローズアップされています。
例の頭傷により目覚めた時の、苑への多幸感に溢れる愛しさ。
また、血腫を取り除いた後の、驚きの喪失感。
そして、その後の二年間ー。

これ、城戸との会話で、この時の心境を「魔法が解けた?」と聞かれるんですよね。
すると、明渡の答えが真逆なんですよ。
むしろ、「夢の中をさまよってる感じで苦しかった」なんですよね。
そう、明渡にとっては、血腫を取り除き正常に戻ってからの方が、混乱して苦しい毎日だった。

う~ん・・・。
何だかちっとも上手く言えないんですけど、この「出来事」と言うのは、二人にとっては必要な事だったのかなぁと思わせられるんですよ。
一旦、全てをリセットし、悩み苦しんだあとに、明渡の出した結論。
どうなろうと、結局は苑と一緒に居たいと言うのが素直な気持ちなんですよね。
じゃあ「もう、好きって事で良くね?」と。

苑はですね、自分に対する「好き」と言う感情自体が、錯覚だったと思ってるんですよね。
でも、実は、突発的な事故による錯覚の部分はあれど、元からちゃんと苑への「好き」と言う想いはあったんですよ。
スタートの時点があの事故では無く、もっと前から明渡の恋は始まっていたんだなぁと。
今回、このへんがしっかり語られ、なるほどねとニヤリとしちゃうんですけど。

で、共に暮らす事で、少しずつ少しずつ警戒を解いて行く苑。
しつこいですが一穂先生ですので、「明渡から真っ直ぐな思いを受け取り、苑が心を開いてハッピーエンド」とは行かないんですよ。

ここで現れるのが、近所に越してきたばかりの虐待を受けている少年。
明渡がその少年に心を配り、何かと面倒を見るんですよね。
すると、その少年に強い拒絶反応を見せる苑、と続きます。

これ、かなり辛いんですよ。
一見、苑の反応ってとても冷たく思えるんですよね。
でも読み進めるうちに、分かってくる苑の気持ちー。
誰だって、辛い過去を目の前に突き付けられて、平静でいられる人なんて居ないよなぁと。

またですね、ここで見せる明渡の反応に、苑を本当に大切に思ってるんだなぁとグッときちゃって。
今回、実は明渡のターンだと思うんですよ。
彼が、深く深く苑を思い、ひたすら真心を送り続けるんですよね。
隣で過ごしている時も、遠く離れた場所でも。
どうか、気持ちが届いて欲しいと願ってしまう・・・。

で、ここから怒涛のラスト。
明渡がトラブルに巻き込まれ、再び二人は離ればなれか!?と、続きます。
もう、明渡を無くすかも思った苑の出した結論に、涙が止まらないんですよ。
そして、二人で出した答えに、これまたボロボロ泣けてしまう。
ここにたどり着くために、これまでの全てはあったんじゃないかと。

私は前作のラスト、すごく一穂先生らしいと思ったんですよね。
あの終わり方こそが、余韻が残るとても素敵なものだと思ったんですよ。
そのままで完成していていいと思ってたんですよ。
でも、今作を読み終えた今は、この続刊を読めて本当に幸せだと思います。
魂が震えるって、こういう事だと思う。
こう言っちゃうと、とたんに薄っぺらくなっちゃうんですけど、でも「感動した」しか出て来ないです。

36

苦くて複雑な味

萌の上位としての神評価ではないです。萌えとは違うのだけれども、間違いなく心に響いてしまうので、現行の表示では神としか表現できないんです。

大好きな作家さんの大好きなBL小説なのに自分の思い通りの展開には行かないところに引き込まれます。いい意味で作品に振り回される感じ。はっきり言って苦いです。タイトルの甘々さがまた内容とコントラストがあって印象に残ってしまいます。甘くてハッピーなものを求めている方にはお勧めしませんが、この複雑な味わいは他の作品では代用できません。読者のテンションとか環境とか色々なものに左右されて読後にその人の中で完成する作品ではないかと思います。

内容自体は魔法も大金も出てこないし普通っていえば普通なんですけどね。その裏には常に普通ってなんだろう、っていう道徳観が着きまといます。展開よりも思考を味わいたい方におすすめです。

作品内のテンションの上がり下がりが微細ですので、作品の温度が変わるところを見逃さないよう一気に読むのがおすすめです。

とりあえず、私は読後クレープを作って食べました。

15

どこかにいそうな二人だからこそ

明渡や苑のような人はリアル世界でもどこかにいそうだな、と思いました。
マイペースで屈託がなくフットワークの軽い明渡は今どきの若者だし、虐待される子どものニュースを耳にすると、苑のように家族や周囲の人たちと愛情をやり取りする経験を積まずに大人になる人もいるのかもしれない、と感じます。
苑の「自分は誰かに好かれたり誰かを好きになる価値などない」という頑なな思考が、物語に暗い影を落としていて、楽しい気持ちで読むことはできませんでした。
でも、どこかにいそうだと思える二人だからこそ、じれったいほど変わらない苑に、そんなにすぐに変われないよね、と共感できたし、微妙な距離を保ちつつ苑の心が動くのを待つ明渡に好感を持ちました。等身大の二人がモヤモヤと足踏みしながら悩む姿が愛おしくて、心配で、祈るような気持ちで最後まで読みました。

苑を見ていると、大人になり誰かを特別に愛したり、誰かからの愛を受け入れたりすることは、当たり前にできることじゃないのだと気づかされます。子どもの頃から友情や親愛の情を交わす経験を積んでこそできることなのですね。
本当は優しくされたかったけれど、どうにもできないことならば、自分の状況が大変であればあるほど、「大したことない」「仕方ない」と、深く考えないようにしていた苑の気持ちが少しわかるような気がします。
苑ほどではないけれど、昔、私も同じように感じていた時がありました。「大変ね」「心配ね」と声をかけられるのがかえって辛くて。「何でもない」と、そのことを考えないようにしていた方が楽でした。でも、不思議なもので、時がたった今は、その時自分に気持ちを傾けてくれていた人のことを心からありがたく思い出します。物語の終盤、苑が看護師の小山さんと再会して感じたことにとても似ていて、一穂さん、どうしてこんな気持ちが描けるのですか?と問いたくなりました。なんだか、昔の自分を見つけてもらったような気がして、嬉しくて、涙が出てしまいました。一穂さんの作品を読んでいると、自分でも忘れていた気持ちの断片や衝動を思い出させられて、それは甘かったり苦かったりするのですが、心揺さぶられることが不思議と心地よくて、毎作品を手に取ってしまいます。

人の心は複雑で、柔らかで、頑なで、傷つきやすくて、上手く気持ちをやり取りできないときもあるけれど、自分が思いもよらないところで誰かに何かを渡せたりするのかもしれません。明渡と苑が実留に何気なくしたことが実留に新しい道を開いたように。失敗する時もあるかもしれないけれど、人と関わっていくことで起きる変化を、それがささやかでも大切にしたいと思いました。

だから、明渡と苑の新しい関係を予感させるラストに、胸がいっぱいになりました。
苑が変わり始めたことが、本当に嬉しい。
「星空のランタン」に託した明渡の苑への言葉は、きっと苑がずっと欲しかったものですね。
二人の関係は『もう一回』だけれど、同じじゃなく感じるのは、苑が一歩踏み出し、明渡も前よりもっと苑に寄り添っているからなのでしょうね。

この「星空のランタン」、有楽町にある実在のプラネタリウムで見ることができるそうです。(PLANETARIA TOKYOの「流れ星のランタン」)。
今度行ってみようかな。明渡と苑をますます身近に感じてしまいそうです。

10

「愛」という形のないものだからこそ

あまり積本てしない方なのですが、この作品は買ってすぐに読むことができませんでした。

前作『キス』は好みが分かれそうな作品。なぜなら、二人の恋がハピエンで終わっていないから。でも、だからこそ、個人的に余韻があってすごく心に残った作品でした。

今作品はその『キス』の続編で、タイトルが『ラブ』。

甘々の、ふんわりしたストーリーだったらどうしようかな、と思ったら何となく読めなくなった。

が。

さすが一穂さん。
素晴らしかった…。

キャラの心情の動きが、繊細で緻密な文章で描かれている。
「人を愛する」って、優しいだけではない。
痛みも、苦しみも、哀しみも同時に連れてくる。
そこを乗り越えて、初めて心の奥深くにまで染み渡ってくるものなんだと。

前作で頭部の手術後に苑への愛情をなくしてしまった明渡。
そもそも、苑への愛情は、血腫から引き起こされた「勘違い」だった。

という、残酷なストーリーでした。

明渡のことを本当に愛しているから、自分への愛情を無くした明渡を手放してあげたい。

そんな苑の一途な想いに心打たれ、そして彼が悪いわけではないものの、自分勝手ともとれる明渡に憤りを感じた腐姐さま方も多かったのではないでしょうか。

今作品でも、明渡の自分勝手ともとれる行動は健在。
恋愛感情はないけれど、でも苑を放っておけない。だから、そばにいる。

お前、いい加減にせえよ!

と、明渡に対して思いつつ、けれど明渡は苑を愛していないわけではない。

「愛」というものの形の難しさを、一穂さんは見事に描き切っています。

親子。
恋人。
夫婦。
友人。

愛と一言で言っても様々ありますが、今作品は明渡視点での描写を入れることによって無理なくその部分を著しています。

子どものころからの親からの虐待により自己肯定感が極度に低い苑にとって、「自分を欲してくれる人」の存在は理解しがたい。自分が愛される存在だということを信じていない。

その彼のネガティブさを取り除く因子として登場するのが、実留という少年。
実留も親からの虐待を受けている少年ですが、彼の存在が今作品のキーポイントだったと思います。

実留が彼の親から虐待を受けていることは、自身の経験からすぐに見抜いた苑。
けれど、実留に救いの手を伸ばすのは、苑ではなく明渡なんです。

かつて、明渡によって精神的にも肉体的にも救われた苑。
自分にとって太陽のような存在だった明渡。

けれど、明渡が優しいのは、自分にだけではない。誰に対しても等しく優しい。
放置子に手を差し伸べることの難しさと、自身の自身の無さ、明渡への想いと嫉妬心。

それを、実留という少年を登場させることで難なく表現して見せる一穂さんの手腕に圧倒されました。

実留を救ったことで、苑は自分自身にかけた呪縛が解き放たれたのだと。
実留が救われたことにも、そしてそのことによって苑も救われたことにも、心の底からほっとしました。

苑は、ずっと独りぼっちだと思っていたけれど、実はそうではなかった。
いつも、彼に手を差し伸べてくれる心優しき人たちはいた。
そのことに気づけたのも、実留、そして明渡の深い愛情あってのことで、涙が止まらなかった。

前作が素晴らしかっただけに、続編である今作品を読むのがちょっと怖かったのですが、めっちゃ良かった…。『キス』、そして『ラブ~キス2~』の2作を読んで、初めて完結する作品で、もっと早く読めばよかったと後悔しきり。

苑の上司であり、よき理解者でもある城戸さんの存在も非常に良し。
彼メインのスピンオフが読んでみたいな。

そして、特筆すべきはyocoさんの挿絵。

何となく切なく、哀しく、でも明るい未来も感じさせるyocoさんのイラストが、この作品に合っていて非常に良かったです。

形のない「愛情」を求めるからこそ、すれ違いながら遠回りしながらも、それでも相手を愛し、必要とし、もがき苦しんだ彼らに、これからずっと幸せでいてほしと願ってやみません。

10

これで、ようやく

「キス」の続編です。
というよりも、「キス」とこの「ラブ~キス2」が揃っての一つのお話です。
前作「キス」では、何とも曖昧なまま放り出されたように終わった二人のお話でしたが、この「ラブ」でも二人の物語は、やっぱり曖昧なまま、切れそうで切れない関係が続ている所から始まります。
お互いに好き合っているのは、第三者から見ればバレバレだし、明渡自身も「もう、好きで良くね」なのですが、苑が自分で自分の存在価値を認められないという、苑の心の有り様の頑なさのために、二人の関係は曖昧なままです。
そんな時に、苑のアパートのトラブルから、明渡は強引に苑を自分の家に連れ帰り同居生活を始めるのですが、、、、。

虐待の過去と向き合う事で、ようやく進みだす二人の関係。
読んで色々辛いものもありますが、「キス」を読んでモヤモヤが残った方にこそ、ぜひこの結末を味わってほしいです。

9

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