【電子限定おまけ付き】【イラスト付き】
宮緒作品の『掌の檻』のスピンオフ作品。
『掌の檻』の攻め・雪也の職場の先輩である宇都木が主人公のお話です。『掌の檻』で数馬を「雪也のヒモ」と言い切り、数馬から雪也を引き離そうとした、あの彼です。前作未読でも問題なく読めますが、でも「雪也」という青年の本性を知ったうえで今作品を読んだ方がより面白く読めると思います。
家族関係も良好、心身ともに正義感にあふれ、純潔な弁護士。
そんな宇都木が、今作ではどう転落していくのか。
視点は宇都木。
彼の目を通して、彼のかつての親友であり、とある出来事をきっかけに疎遠になってしまった「菖蒲」という男性の姿が描かれています。
宇都木と菖蒲は、高校生の同級生。高校生の時に転入してきたのだ。
中高一貫校の進学校に通っていた宇都木にとって、高校から入学してくる生徒は珍しい存在だったが菖蒲に目を引かれたのはそれが原因ではない。
菖蒲の、美しいビジュアルが原因。
美しすぎて冷たくも見えるほどの美貌を持つ菖蒲は、同級生たちになじんでも線を引いて接している。
宇都木を除いて。
文武両道で性格も良い宇都木は常に友人たちの輪の中心にいる存在だったが、菖蒲の登場により宇都木の親友といえる立ち位置に立ったのは菖蒲。
美しく、人となれ合うことを良しとしない菖蒲の素の顔を見れるのは自分だけ。
そんな自尊心もありつつ、彼らの距離はどんどん近くなっていく。AVを見ながら、お互いを触りっこするほどに。人の手を借りた自慰だと自身に言い聞かせるが、裏を返せば、それは菖蒲にひかれていく自分を戒めるだけに過ぎない。
どんどんおぼれていく自分におののきつつ、でも菖蒲と離れることはできない。が、ある日とある出来事から菖蒲は転校し、そして宇都木の前から姿を消した―。
それから10年。
父や祖父の後を追いかけるように弁護士になった宇都木のもとへ、菖蒲が姿を現す。依頼人として。
友人だった時には見せることのなかった菖蒲の複雑な家庭環境、現在巻き込まれている相続問題、彼の父で華道家元の家督の跡継ぎ問題。トラブルに巻き込まれた菖蒲は、それらの救いを求めて弁護士・宇津木に依頼に来たのだけれど…。
まだ若く、自分の感情をコントロールできなかった高校時代。
時を経て、大人になり、当時の事情も理解できるようになった。
菖蒲のことを切り捨てたように別れを迎えてしまったことの後悔。
そういった思いから菖蒲の依頼を快く受け入れる宇都木。
という展開で、あれれ?「掌」シリーズにしては甘々だし病んでる部分もないぞ?
とか思いつつ読み進めたのです。
が。
宇都木は、かつて美しい手で自身の下半身を触ってくれた菖蒲の姿、を忘れられずにいる。
現在はネイリストとして大成している菖蒲の手は美しく、その手を見ることで発情してしまう。
もしかしたら今作品は攻めさんじゃなくて受けさんがフェチ持ち?
かと思いきや。
いやいや、宮緒作品なので、そんなわけないよ、という。
菖蒲と、華道の家元をしている父とは血のつながりがない。
母親が不倫してできた子どもが菖蒲なのだ。
そんな噂を、菖蒲は子どものころから聞いてきた。
種違いの兄たちからはいじめられ、父親とは親子らしい触れ合いもなく、母が自分のせいで自死した。それはすべて、自分のせいだと、菖蒲は心を痛めている。
父の体調が思わしくない今、跡継ぎ問題、遺産相続問題で兄たちから迫害されている。
そんな菖蒲を助けてあげたい。
弁護士という自分の立場をフルに活用して、菖蒲に何かしてあげたい。
これ、宇都木視点、というのが素晴らしくうまい。
健全な家庭で生まれ育ってきた宇都木にとって、家族間の泥沼というのは想像できないんですね。もちろん弁護士という仕事柄、さまざまな家庭のいざこざを見てきたのでしょうが、でも、根っこのところは理解しがたいんじゃないでしょうか。
菖蒲の見せる「表の顔」に、まさに掌で転がされるように乗せられてしまっている。
あとがきで宮緒先生も書かれていますが、菖蒲という男性は常に宇都木に選択させている。
どちらでも、聡介の好きにしていいよ。と。
でも、選ばせているように見えて、実はすべて彼の思惑通りに選択させている。
受けに執着し、ありとあらゆる手段を使って手に入れた攻め、という構図は『掌の檻』と全く同じ。同じなのだけれどそのストーリー展開は全く異なります。
「檻」の中に閉じ込めてしまうようにがっつり数馬を囲い込んでしまった雪也。
対して選択肢を与え、でもその答えは必ず菖蒲の思う通りになるよう、掌の上で転がす菖蒲。
同じ執着攻めの設定なのに、こういうちょっとした違いだけでストーリー展開がこうも大きく変わってくるとは、さすが宮緒さんというべきか。
BLにおいてフェチって割と出てくる設定かと思いますが、今作品は「手フェチ」がメインになっています。しかも、フェチなのは受けさん。その性癖をしっかり見抜いたうえで、有効に活用する攻めさんのしたたかさというか用意周到さにあっばれと賛美を送りたい。
そんなストーリーの軸というべき「手フェチ」を、がっつりと美麗イラストでもって表紙に描いた座裏屋さんの完璧さにもうならされました。
もうさ。
宮緒先生×座裏屋さんとか…!
最高か。
座裏屋さんの、芸術ともいえる挿絵にも悶絶しながら読破しました。
宮緒作品の執着攻めって色々なパターンがありますが、「掌」シリーズの攻めさんの執着ぶりは群を抜いています。受けを手に入れるためなら犯罪行為すら厭わない。
なので、もしかしたら好みが分かれる作品かなと思います。
が、個人的にはめっちゃ萌えた。
欲しいものは受けさんだけ。
受けさんを手に入れるためなら、何でもする。
そんな攻めさんの深く、怖いほどの愛情にググっと萌えツボを鷲掴みにされました。
あと、個人的に宇都木の叔父さんである賢次郎さんがめっちゃ好きでした。
次は、彼のスピンオフなんてどうでしょう、宮緒先生
表紙とあらすじに惹かれ、掌の檻のスピンオフとの事でそちらを読了後に拝読しました。
掌の檻を読まなくても読めるとは思いますが、檻の方のカップルについてたびたび今作の主人公である宇津木が思い起こすシーンがあるので読んでからの方が楽しめると思います。
また、ほの暗さの比較で考えても花>檻だと思うので檻を楽しめればこちらも楽しめると思います。
主人公は前作檻の攻めである雪也の同僚であり先輩の宇津木。
前作を読んだ方はご存知の通り四角四面の真面目な性格。
ある日事務所にとある男性が宇津木を訪ねてきて、それは彼が高校時代に出会ったとても美しい同級生の菖蒲で…
宇津木と菖蒲は過去にお触りまでですが体の関係があり、その後事件があり疎遠になってしまいという流れで始まります。
はじめは前作と話の流れが似ていると思いましたが、だんだんと別物になっていくのがハラハラしました。
私は宮緒先生の作品が檻で初めてで今回で2冊目だったのですが、ほの暗い執着のお話がとても素晴らしいなと感じました。
菖蒲も雪也も受けへの執着が物凄いですが、雪也の方がだいぶ可愛げがありました。
菖蒲は異質な存在感があり身近にこんな人がいたらとても怖いタイプの人。
常人では彼とは相容れないかもしれません。
彼は人生自分の好きなように生きることができてきてしまった人間で、100%思いのままにならなかったのは宇津木だけかもしれないですね。
最後まで展開も二転三転していくので目が離せなかったです。
前作よりも個人的にはちょっと精神的にはきつめな内容だったなという印象を受けています。
しかし若干形は違うかもしれませんがお互いにちゃんと思い合っているのは分かるので面白かったです。
前作を楽しめた方には読んでみてほしい作品だと思いました。
最後に菖蒲が考えていた不穏な思考が実現されないことを祈ります。笑
今作の鍵は「菖蒲鳥(ホトトギス)」の托卵。
前作の「掌の檻」のあとがきにあった「おでん屋 恐るべし」
・・宮緒先生の細かい法知識は、大学で法科を専攻していたから?やけに詳しい
・・と思ったら、あとがきにちゃんと取材をした、とあった。
椿と似た美貌、頭脳派サイコパスの菖蒲。
愛情が深い粘着気質の攻が布陣する執着地獄に、
お坊ちゃま気質の受の宇津木が、墜ちていく経緯がゾクゾクするほど面白い。
読者=第三者だから面白いけど、当人の立場なら、
知らぬ間に罠に落ちて気付いたら、とんでもなく恐怖だし、心が壊れると思う。
宮緒worldのどんでん返しが癖になる。
ゾワゾワしてとても面白かった。
『掌の檻』に続く『掌執着』第2弾です。
同じ弁護士事務所でのお話で前作を読んでいなくとも楽しめますが、どちらかと言えば読んでおいた方が面白いんじゃないかと思います。と言うのも『檻』で主人公の雪也の恋を全くもって理解しなかった朴念仁というか、とても健全な感覚の持ち主である先輩弁護士、宇都木聡介が今回の主人公だからなのですね。
聡介の変容がこのお話の読みどころのひとつでもありますので。
出版社あらすじに書いてない部分を捕捉します。
聡介は父の弁護士事務所に勤めており、その事務所は祖父が開設したもの。
宇都木家は代々続く法曹一家、それも高名なだけではなく法の精神を順守する『綺麗な』一族なんです。
聡介はその中で愛され、真直ぐに育ちました。
ちょっとだけワーカーホリックではありますが、優秀で、剣道をたしなんでいるという……想像つきますね?ああいうタイプです。
彼を訪ねてくる高校の同級生、黒塚菖蒲は高校時代からかなり訳アリ。
京都出身なのに家族から離れて東京の高校に進学し、一人暮らしをしている美貌の人です。
ただ、だれにも懐かないのですよ、菖蒲は。唯一、聡介だけが身近な友人。
2人はAVを見ながら互いを慰め合うような関係になるのですが、菖蒲は聡介の友人に暴力をふるったことで、突然学校を辞めてしまいます。
聡介は、その真相が解らず悶々としていたんですね。
去り際に菖蒲が聡介を好きだと言ったことも、暴力をふるった理由を隠すためだと思っている。
で、そんな引っ掛かりを抱えた聡介のもとに、菖蒲はいきなり現れるのです。成功したネイルサロンの経営者として。
実は菖蒲は華道の家元の三男なのですが、父とは血が繋がっておらず母の不倫によって出来た子だと兄たちに疎まれているとのこと。父が病で倒れ、菖蒲の美貌と才能から後継ぎに推す人たちもあって、後継者を巡る騒動に巻き込まれています。
この騒動というのがかなりきな臭いもので、菖蒲の事務所が荒らされスタッフが怪我をするような事件も起きていることから、聡介はこの懸案が落ち着くまで同居して欲しいと菖蒲に頼まれ承諾するのですが……
宮尾さん読者であれば、この後の展開は薄々想像がつくかと思うんですが。
ただですね、読み終わった感想とすれば「思ったより甘い。いや、ひょっとして甘々?」。
確かに菖蒲の執着とそれに絡めとられる聡介の心の変化はいつもの『宮尾さんの蛇話』なんですけれど、聡介の芯の通り方がしっかりしているものですから「ああ、怖え。怖えよ~っ」とならなかったんですね。なので、結構後味は悪くない。
ただし、この『芯の通った正義派』聡介……フェチなんです。
自分で分かっていなくて自覚していないから、質が悪いというか、菖蒲にとって分が良いというか。
このフェチの描写がすごく良かった。
何て言いますかね、どうしようもなく惹かれて行く感じ、抵抗できない感じが、たまらなくエロかった。
物語は二転三転して、こちらもスリリングですが、やはり菖蒲の妖艶さと「ヤバいヤバい」と思いつつどんどん菖蒲に嵌っていく聡介の『抵抗できない感じ』が、大層面白うございました。
大なり小なり、恋ってこういうものかもしれませんねぇ……
掌の檻のスピンオフ作品ですが、読まなくても話は通じると思いますが、最初に掌の檻を読んでいた方が二倍美味しいです
手を使った描写がとても多いですが、攻め様が手に関する職業をしていたりすることもあり、とても美人さんです
対する主人公は体育会系よりだけど頭脳明晰ですごく真っ直ぐな感じです
ちょっと不器用なところもあるけれど順風満帆に表街道を歩いてきた感じの人です
そんな感じの主人公が攻め様の掌に絡みとられるように堕ちていく様子をお楽しみください