小説

  • 囚われオメガの戦国嫁入り絵巻

囚われオメガの戦国嫁入り絵巻

toraware omega no sengoku yomeiri emaki

  • 電子書籍【PR】
  • 紙書籍【PR】

表題作囚われオメガの戦国嫁入り絵巻

時藤朱虎、出奔した時藤家嫡男、20
操、狭山家に引き取られた白銀、19

その他の収録作品

  • その子を殺さないで
  • あとがき

あらすじ

オメガ=白銀、アルファ=山吹と呼ばれている日本の戦国時代。もとは普通の人間だったが、髪が白と黒の斑になる“陰陽白銀”となった操は、金で買われて山吹に嫁ぐ日を待っていた。そこへ現れた朱虎は、以前操が住んでいた小国を治めていた時藤家の嫡男。農民にも分け隔てなく優しかった朱虎は子供の頃の操の命の恩人だった。まさかここで再会できるなんて。喜ぶ操だったが、朱虎からは忘れられている上に自分は囲われの身。どうすることも出来ないと諦めていたら、朱虎がこっそり操の庵に忍んできて“夫婦ごっこ”をしようと言ってきてーー!?

作品情報

作品名
囚われオメガの戦国嫁入り絵巻
著者
雨月夜道 
イラスト
駒城ミチヲ 
媒体
小説
出版社
幻冬舎コミックス
レーベル
幻冬舎ルチル文庫
シリーズ
新婚オメガの戦国初恋絵巻
発売日
ISBN
9784344845879
4.3

(42)

(24)

萌々

(9)

(7)

中立

(2)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
6
得点
179
評価数
42
平均
4.3 / 5
神率
57.1%

レビュー投稿数6

嬉しいんだか切ないんだか分からないけど、泣けた

戦国時代+オメガバースで「新婚オメガの戦国初恋絵巻」のスピンオフになります。
世界観が同じだけなので、今作だけで問題無く読めます。

で、こちら、生家を出奔した主人公が、己の才覚のみで立身出世を果たすと言うサクセスストーリーであり、イロナシ(ベータ)×陰陽白銀(亜種オメガ)の変わり種オメガバースであり、何より夫婦の物語である。

350P弱あるんですけど、そのページ数に見合って、とても深いし読み応えがあると思うんですよね。
過酷な状況故に、かなり切ないし二人が二人とも痛々しかったりするんですよね。
泣けたわ。
だからこそ、幸せになる為に足掻き続ける彼等に、強く心を動かされた。
すごく素敵なお話だと思います。

でも、オメガである受けが結構悲惨なので、苦手な方はご注意下さい。
ベータである攻めも悲惨だけど。



ザックリした内容です。
金で買われ、山吹(アルファ)に嫁ぐ日を待っていた白銀(オメガ)の操。
そんな彼の前に現れたのが、「戦場の連獅子」の異名を持つ野武士の朱虎。
実は過去に、彼により命を救われていた操は、再会を心から喜ぶんですね。
しかし、朱虎は自分の事に気付いていない上に、囲われた囚われ身でー・・と言うものです。

まずこちら、受けである操ですが、陰陽白銀と言う亜種になります。
白銀と言うのは銀髪を持って生まれてくる為、出生早々に大切に保護されるのです。
それが、陰陽白銀に限っては、黒髪で生まれてきて後々白銀の特徴が出てくる。
また、普通の白銀のような飛び抜けた美しさや芳しい淫気なんかも持たず、身体だけは細く弱い。
操は農家に生まれた為、役立たずのレッテルを貼られて悲惨な扱いだったんですね。

で、そんな幼い時分の彼を救ったのが朱虎。
夜襲にあった操達の村に駆け付け、雑兵に殺されそうになっていた操を庇い、顔に深い傷を負った。

朱虎と言うのは、とにかく豪快で前向きで精力的なキャラなのです。
泣くばかりの操に「この俺が、こんな傷を負ってまで助けた価値があったと胸を張れる男になれ」みたいな。

で、ここから現在。
白銀だと分かった操の現在の境遇ですが、これまた悲惨なものだったりします。
金で有力者に買われ、山吹に差し出す為だけに、一人庵に閉じ込められている状態。
衣食住に不便は無いものの、百姓出だと蔑まれ、更に差し出される予定の山吹は「穴と山吹を産める腹だけあればいい」と言うゲス野郎なんですよね。
繰り返しになりますが、オメガが悲惨な世界観が苦手な方は読めないと思う。

ただですね、そんな状況だからこそ、幼い頃の約束を胸に、精一杯強く生きている操に心を打たれるんですよ。

これ、再会した二人ですが、朱虎は操が過去に助けた子供だと気付いていません。
ただ、庵で一人寂しそうな操が何故か気にかかり、しょっちゅう訪ねては親しくなって行く。

また、朱虎は操の現在の状況を知らず、愛する婚約者から大切にされていて幸せなんだと勘違いしています。
そして操は、時藤家嫡男でありながら何故か野武士となり、裸一貫でのし上がろうとしている朱虎を、決して邪魔してはならないと思っている。
そう、切ないのがですね、互いに惹かれあいながらも、相手を思うが故に、二人が二人とも気持ちをひた隠しにしてると言う点でして。
操と言うのは、とても健気で一途なんですよ。
朱虎の勘違いに気付くものの、彼を悲しませない為に、幸せなふりをするんですよね。

いやもう、二人で庵で過ごす時間と言うのは、とても甘いのです。
ただ、ベースにあるのがこれなので、甘ければ甘いほど、なんか切ない。
互いが相手の幸せを願っているのに、何故こうもままならないのか・・・。
辛い状況にありながら幸せなふりをし続ける操が、痛々しくて読んでられないのです。

で、ここからが主人公救済ターン。
操の本当の状況を知った朱虎が、自身の想いを告げ・・・と続きます。

えーと、雨月先生と言うと、深い心情描写が魅力だと思うのです。
惨めな自分を知られてしまった恥ずかしさ、ずっと耐えてきた悲しみや怒り。
操ですが、そんなものを、朱虎に全てぶつけるんですよね。
そして、初めて言葉にした「たすけて」と言う本音。
泣けた。
操がようやく言えた自分の本当の気持ちに、嬉しいんだか切ないんだか分からないけど、泣けた。
またこれ、朱虎の返事が最高なんですよ!
「ああ! 任せておけ」ですよ!!
面倒事は何一つ片付いてないし、朱虎は士官がようやく叶ったばかりの新米家来。
重臣の嫁となる操をどうこう出来るはずがない。
なのに、朱虎ならやってくれそうと言う、明るい希望を持たせてくれちゃう。

あとこちら、豪放磊落で常に自信に満ち溢れてみえる朱虎。
彼は彼で、結構な心の傷を負っています。
彼が生家を出奔した理由ですが、嫡男でありながら、山吹が生まれた事で敗嫡されたせいなんですよね。
すると、爺一人を連れて、裸一貫からのし上がってゆく。
そして、自分で自分の価値を周囲に知らしめる。

そう、今作の魅力の一つですが、生まれた性に関係なく、誰もが自由である事。
ベータ×オメガの変わり種オメガバースなのですが、ベータだからとかオメガだからとか関係無く、二人だから幸せになれる。

気持ちが通じあったあとの二人と言うのは、それこそ夫唱婦随で様々な事を乗り越えて行くんですよね。
辛い時にも弱音を吐く事が出来ず、一人抱え込んでしまう朱虎。
そして、自身の髪や着物を売り、足しにする操。
このへんも読んでてなかなか苦しいものの、「ああ、夫婦の物語なんだなぁ」と、心を打たれる。

ちなみに、こんな調子のわりとシリアスなお話ではあるんですけど、同時にサクセスストーリーでもあります。
己の才覚のみで道を切り拓いて行く朱虎には、痛快でもあって。

と、すっごく読み応えのある素敵な作品だと思います。
二人の恋愛だけでは無く、そこにプラスで何かを読みたい方に向いてると思います。
まだ言いたい事があるけど、字数制限きた。無念。

7

前を向いて踏み出す強さと隠れされた弱さ

今回は山吹でないために廃嫡され立身出世をめざすイロナシと
突然変異で白銀となった元百姓の陰陽白銀のお話です。

イロナシの攻様が受様という良き伴侶と多くの賛同者を得るまでと
攻様視点による本遍裏事情を交えた後日編を収録。

群雄割拠する戦国時代、山吹色の瞳の「山吹(アルファ)」は知力体力に
優れた大成している大名は山吹が多く、山吹は何においても優先され
ています。

武将の多くは繁殖能力に長け、同性が相手でも「山吹」と交われば高
確率で山吹を産む白銀の髪の「白銀(オメガ)」に己の山吹の子を生ませ
る事を望みます。

山吹優先主義者の攻様の父も攻様の母である白銀を娶りますが、攻様
の母の子は攻様を筆頭に悉く「イロナシ(ベータ)」でした。母は我が
子を一顧だにせず、山吹を生ませてくれる相手を求めて出ていき、
父は新たな白銀を求めます。

それでも攻様に山吹の弟は生まれず、父は渋々攻様を世継とします。
攻様は父にも父の側近達にも跡取りとして認められるように日々精進
を積み、命がけで戦場に出て山吹に負けない武功を重ねます。イロナ
シでも山吹に劣らないのだと示すためです。

しかし、父は山吹の子が生まれるとあっさり攻様の廃嫡を言い渡し、
攻様には見せない期待に満ちた目を山吹の赤子に向けるのです。そん
な父を見た攻様は唯一の味方の爺と乳母を連れ出奔する道を選びます。

攻様は野武士集団の1つ「草笛集」の棟梁に拾われて戦場で目覚まし
い活躍をみせ、めきめきと頭角を現します。しかし攻様は野武士では
終わらず、優れた武将に士官して立身出世を目指し、とうとう武士も
農民も生き生きと暮らす小長の国主を主にと定めます。

どうやって国主に渡りをつけるかと思っていた夜、ぴょんな事から
助けた猫の飼い主を捜していた攻様は、艶やかで澄んだ笛の音に耳
にし、心惹かれます。この笛の主こそ今回の受様です♪

受様は陰陽白銀です。生まれた時は黒髪で凡庸で陰気も発せず、華奢
で非力と家族からも役立たずと蔑まれて育ちます。けれど年頃になり、
白銀が浮かび上がって陰陽白銀と知れると、役に立てと大名家に売ら
れ男ながら嫁ぐ事を余儀なくされたのです。

今の受様は山吹への輿入れが決まっていましたが、発情期を迎えるま
での間はと半ば監禁状態だったのです。なのに受様は攻様が誰である
か見いた上に、小長国主とのきっかけすら与えてくれるのです。

攻様は受様の笛の音と聡明さに惹かれてたびたび受様の元を訪れます
が、実は受様はかつて攻様が助けた百姓の子で攻様の一言を支えに
切磋琢磨してきたのです。

果たして受様の想いが攻様に届く日は来るのか!?
そして攻様に出世の道は開けるのか!?

雨月先生の既刊『新婚オメガの戦国初恋絵巻』のスピンオフで、日本
の戦国時代を舞台とした和風オメガバースになります。

既刊は小国が列強に負けずに生き残るサバイバル模様でしたが、本作
は野望を抱いての立身出世もので、守られるだけの弱い存在に留まら
ないオメガ、アルファを最強の存在と疑わない世の中にも屈しない
ベータというカップリングも新鮮でした。

本作は貧しい百姓の家で育った白銀の受様だけでなく、山吹ばかりを
重んじる大名家に長男として生まれた攻様もイロナシゆえに、親に
愛されず虐げられて育ちます。

虐げられた環境に屈せず、武士の矜持を持ち、領民への慈悲を忘れな
い攻様はその行動力で民を救い、消えない傷を負ってもそれを誇りに
思える男なのです。

そしてそんな攻様に助けられ「俺が助けた価値があったと胸を張れる
男になれ」と言われた受様は、親に売られた先で百姓出と蔑まれても
生かされた命と懸命に教養や所作や学を身につけるのです。

そして2人は再び巡り合い惹かれ合いますが、イロナシの攻様と山吹の
許嫁のいる白銀の受様なだけでも問題が山積みなのに、受様の許嫁は
家柄を鼻にかけ何かと攻様を目の敵にする男だったのです!!

攻様はてっとり早く戦で手柄を立てて小長国主の許しを得ますが、
受様を手に入れたら今度は受様に伏せていた過去がトラウマとして重
くのしかかりグルグルし始め、成功譚だけでは終わりません。

2人が互いの誤解をとき、攻様が更なる活躍で強敵でさえも味方に引き
入れてしまう大団円までハラハラ、ドキドキ、ワクワクで頁を繰る手
が止まらずとっても面白く読めました♪

人は何時も強くあれるものではなく、底辺にいるからと一概に弱いとは
限りません。そして弱くなって立ち止まった時にまた前を向く勇気をく
れるのはいつだって大切な相手であり、そんな相手のためだからこそ
前へと踏み出す力を発揮出来るのでしょう。

受様は本気で攻様を凄い人だと思っているし、攻様は受様の期待に常に
応えられるカッコいい男でいたいからさらに踏ん張っていきます。

攻様の前へ前へと走り続けるポジティブシンキングは勿論すごく良いの
ですが、「攻様ならこれくらい何でもないです」と本人無意識にやる気
スイッチをバンバン、バンバン、押しまくる受様というコンビネーショ
ンがもうツボすぎて萌え萌えでした ( ̄▽ ̄)/

攻様視点の本遍裏事情を交えた後日談がまた泣かせてくれました。爺と
乳母の恋物語も読んでみたくなりました。

本作は単巻でも読めるお仕立てですが、もし既刊本『新婚オメガの戦国
初恋絵巻』を未読な方にはぜひご一緒に楽しんで欲しいです。

1

シリーズ3冊の中、これが一番面白かった

オリジナルのバース設定で、
この作品のヒロイン、操は陰陽白髪。
生まれたときは、虚弱な黒髪黒瞳、長じるにつれて頭髪が銀と黒まだらになる。
白髪より希少な存在の陰陽白髪の、特徴は・・
 純粋な白髪より、ヤマブキを産みやすいので、希少性が高い。
 外観は、白髪より、美麗さが乏しく、地味。

ヤマブキ至上主義の親の元に生まれた朱虎の出世物語で、ヤマブキに変容しない、イロナシの悲哀を描いた物語。
守りたいと思う愛する存在;操を伴侶に得て、朱虎はぐっと成長します。
表紙の操の髪の毛が短いのは、活動資金を調達するために断髪して売った後だから。
操は、本当に一途に健気に尽くします。

味わい深い展開でした。
この作品が、今のところの3冊の中で一番面白いと思った。
「ソラの愛しい旦那様」のソラと少し似た、健気な操でした。

0

薄幸だけれど、自分たちの力で乗り越えていく

初読みの作家さまでしたが駒城さんの可愛らしい表紙につられて購入。

あとがきで雨月さんが『新婚オメガの戦国初恋絵巻』のスピンオフ、と書かれていますが、スピンオフ、というか同じ世界観のお話、という感じのようで、前作未読でも全く問題なく読めると思います。

オメガバースものは作家さまや作品によって世界観が若干異なりますが、今作品は山吹(=α)は威張るだけで人としての魅力は皆無、白銀(Ω)は山吹の子を産まなければ価値がなく、イロナシ(β)は無価値、といった世界観。

そして主人公は家族からも疎まれ、白銀と分かっても発情期がこないため金で操を買った養父からも見下される陰陽白銀である操が主人公。

彼の住む村が雑兵に襲われ、殺されかけた操。
家族は操を置いてサッサと逃げ、死を覚悟した操を救ってくれたのは、その地を収める時藤家の嫡男・朱虎。領民を守るのが自分の役目と、身体を張って操を助けてくれた。

操を救うために顔にケガを負い、操に「自分が助けたのだからそれに見合う人物になれ」と言い残し去って行った朱虎は、それから10年経った今も操の心のよりどころとなっている。

山吹の子を産むために婚姻関係を結ばされそうになっている操だが、そんなある日朱虎と再会して―。

薄幸・健気受けが大好物なので序盤から萌えが滾りつつ読み進めました。

が、この作品は受けさんが薄幸、というだけのストーリーではありません。

攻めさんが、めっちゃ薄幸。

彼は領主の跡取りという恵まれた身分ではありますが、子どものころから孤独を抱えて生きてきた。
山吹の父、そして白銀の母を持ちながら、彼自身は「イロナシ」。

山吹でない息子に価値はない。

そんな価値観を持つ両親にとって、イロナシである朱虎は目を向けるに値しない。が、父の跡を継ぎ時期領主になるべく奮闘していた朱虎だったが、山吹の弟が生まれたことで、彼は廃嫡されてしまう。

薄幸な受けさんを、スパダリである攻めさんが愛でまくる。

そんなストーリーが多い中、今作品は一筋縄ではいかない奥深さがあります。

朱虎。
そして操。

彼らは自分ではどうしようもない性差により逆境に身を置かれることになりますが、そこから彼らが這い上がってくるさまがなんとも素晴らしい。

朱虎は、自分自身で主となる人物を見つけ出し、自身の居場所を見つけようとする。
そして操は、どんなにつらくても、子どものころに助けてもらった朱虎の言葉と彼の存在に救われくじけずに自分の足で立っている。

2人ともカッコいいです。

そして、彼らを取り巻く脇キャラも非常に魅力的。
同じように「イロナシ」だからと捨てられ野武士になった面々も良かったですが、とにかく心鷲掴みにされたのが朱虎の傅役でずっと彼の傍にいた影綱。

胸糞悪い大人たちが多く登場する今作品において、唯一、と言っていいのではないでしょうか。
素晴らしき大人でした。

朱虎を甘やかさず、でも彼を心から愛し慈しんでくれた人。
何もかもを見通す懐の広い男性で、すごくかっこよかった。彼のスピンオフが読みたい!朱虎のために何でも仕事をこなし金銭を稼ぐ彼ですが、赤ちゃんのお守りの仕事をしている影綱の渋いことよ。そのイラストが非常に眼福でした。

朱虎と操の、相手を想う愛情の深さと、自分の信念を曲げない強い思いにしびれつつ読破しましたが、ストーリーとしてややご都合主義的な展開が多かったのが残念と言えば残念。でも、そこで躓いてしまうと話が進まないから仕方ないのかなあ…。

それと特筆すべきは駒城さんの描かれたイラスト。
特に表紙は素晴らしかった。この作品の持つ世界観とか内容を端的に、そして美しく描き切っていて、読後に眺めるとその素晴らしさに圧倒されます。

さらに表紙にも描かれている、猫のマロ。
本誌でも影の主人公と言っていいほどの活躍をする猫ちゃんで非常にいい味を出しているのですが、マロ視点のSSが、コミコミスタジオさんで購入するといただけます。

この小冊子、ぜひとも読んでほしい…!
もうね、可愛らしさが止まりません。

攻めさん、受けさんともに薄幸ですが、自身の境遇を嘆くことなく自身の力で未来をつかみ取っていく。
そこにお互いの愛情があって、より成長していく二人の青年に心からのエールを送りたい。

そんな作品でした。

5

これが愛だろ

雨月さんらしいお話だと思いました。
誠実な(今作は外から見ても内実もそんな感じ)攻めさんと健気で頑張る受けさん。人でなしも出て来るけれど、主人公たちを見守って支えてくれる人たちがちゃんといて、そこのつながりはとても暖かい関係を築いている。
いやー、読んでいるとほっこりしますね。

『新婚オメガの戦国初恋絵巻』のスピンオフというか、世界観を同じくするお話です。
前作を読まずとも楽しめます。
でもね、全部読み終わったら、前作との共通点を見つけまして。
世界観が同じだから生まれる共通点なのですけれども、それは、
攻めが持つ心理的烙印
なんですよ。

このお話の攻めである朱虎は城主の長子。
でもこの世界ではバース性を重んじる人が圧倒的に多いので、後に山吹(アルファ)が生まれたことで廃嫡とされ、国を出ざるを得なくなってしまいます。
朱虎は幼いころから自分の才覚で立って行こうと努力し続ける生き方を選び、それを実際のものとしてきた人なので、それでも健全に前を見て進んで行く訳なんですけれども。

受けさんの操は貧農の息子で、幼い頃、朱虎に命を救ってもらっています。
その時に言われた「胸を張れる男になれ」という言葉をお守りにして育つのですが、育って行く過程で白銀(オメガ)に変化する『陰陽白銀』だったんですね。この『陰陽白銀』ですが『小柄で力がないが、山吹と交われは高確率で山吹を生む』という、実にありがたくない性質を持っています。で、農作業の役に立たない操は実の親から売られちゃうんですよ。

『子をなす道具』としてしか見られない操の悲しさは、お話の初めからずっと書かれるわけなんですけれども、朱虎は努力の結果として近隣に名を轟かす侍となり、自分の未来をしっかり見つめている明るい存在としてあり続けます。
だから操にとって朱虎は生きる希望そのものなんです。

2人のロマンスはお話の中盤で早くも成就してしまいます。
でも、面白いのはそこからなんですよぉ。
朱虎だって「いらない」と言われ親に捨てられた子どもなんです。
心の奥底にあるの、それが。

同時収録の『その子を殺さないで』は、涙なくしては読めませんよ。
操、偉い。
本当の強さを解っている。
でも、それを教えてくれたのは朱虎なんですよね。
まさに「これこそが愛だろ」。

戦国物語ですが、合戦シーンはほとんどありません。
そこだけが、ちょっと残念でした。
愛の物語としては、とても素敵なお話です。
読んで泣いてください。

5

この作品が収納されている本棚

マンスリーレビューランキング(小説)一覧を見る>>

PAGE TOP