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古い作品とどこかで見た気がして、スマホなど出てくることに違和感を感じましたが、巻末の記載を見るに大幅に手が加わっているようです。
さて、三浦が異常なのはまぁ当然として。いや、その三浦もこの作品が和也目線で描かれているからとびきり異常に見えるのかもしれない。対和也には異常以外の何者でもないけれど、それ以外は小学生時分の横暴以外、そこまで狂気を発揮しているわけではない気がする。小野寺はなんだかんだ三浦を気にかけている。和也と気持ちを確かめ合った親友でありながら三浦を気遣えるということは、小野寺にとって少なくとも大人になった三浦は嫌うほどの存在ではない。かつて子どもを失った彼に、それを知ろうが知るまいが、女がつく嘘で最悪の部類に入る嘘をつくなら、その女は何発か(よりは過剰だったかもしれないが)殴られてもいい気がする。少なくとも子どもができた女とその子を彼は大切にするつもりであったし。
学校に来たところは際立って異常だったし、古い作品だと感じた。今どきそもそも立ち入るのは無理だろうし、学生が自発的に警察を呼ぶだろう。書き直さない程に重要なシーンということでもある。
前置きが長くなった。それよりもフラストレーションがたまるのは和也の異常さである。地の文が和也目線であるせいで、彼の異常さはあまり取り沙汰されない。小野寺が火事のときに彼の異常性に言及してくれたが、和也からしてみれば異常でも何でもないし、和也の気持ちさえ知っていれば当然死体を見に行くはずがない。ただ外野から見れば、元同居人なわけである。そもそも普通は、真っ当な職を持つ男なら尚更、嫌いな相手と同居したりはしない。ちょっとした冗談に義理だてして、同居を始め、気づいたら8ヶ月経ってました、なんてことはない。和也の異常さが語られることが圧倒的に少ない。読者でなければ、男友達と同居とか仲良くしてるとかちょっと照れくさいから三浦に対して冷たいそぶりをしているように見せている、程度にしか思えないだろう。だって自分の意思で引越しして同居してんだから。四万十川行ってんだから。
家からこっそり出て、同級生と自転車で走るのは青春の1ページですらある。なんせ三浦は和也と仲が良いと思っている。和也は心の中で嫌だと思っているばかりで、結局は自分の意思で毎度、旅行にも行くし、見舞いにも行くし、本も買うし(哀れにもゴミ箱行きとなった)、婚約者に会わせたりもする。これで三浦のことは死んで欲しいと思っているとくるなら、とんだ異常者だし、三浦があまりにも哀れだ。
高校生と駆け落ちした女もまた異常である。折角三浦に三浦自身の異常さを突きつけてくれたと思った高校生もまた非常識極まりない若者だったので、結局三浦は自分を省みる機会を失う。
小野寺ももうそっとしておけばいいのに、やたらと関係を引っ掻き回してくる(が、これは和也が心底三浦を嫌っていると知っている読者の感想で、小野寺からしてみれば、和也の三浦が嫌いなフリはハイハイまたそれね、というところだろう)。
そんな異常者ばかりの本だった。
『箱の中/檻の外』に心動かされた読者のひとりだけれど、その主役たる2人は「嫌な奴」ではなかったもんなぁ。だから違う結末を迎えられたし、自分のこの作品に対しての評価とは違う評価をもつんだろう。三浦と和也の関係性は彼らの人生の結末までは語られなかったけれども。
嫌な奴、この主人公って嫌な奴だよな、と思いながら読み進めた。でもこれも人間らしさだよな、とも思う。本編のほとんどを和也視点で語り、最後の最後でチラっと三浦視点を見せてくるのはズルい(良い意味で)。読後は三浦のことで頭がいっぱいになってしまった。
和也は外面が良く、嫌いな三浦とも表面上は仲良くしているが、陰では悪口三昧。子供時代はそんな態度も分かるけど、大人になっても三浦を怖がり、不自然にこだわっている。その根源に何があるのかは、結局最後まで自分自身にさえ隠し続けたのかな。言い訳と自己弁護の多い心理描写からもそう思う。
三浦は怖い。和也視点で恐怖が伝わってくるせいもあるが、どこか得体の知れなさがある。何かが欠けているように感じるのに、その何かを言葉にできない。子供時代の和也を優しいと言って執着する姿を見ると、なぜか泣きたくなった。
家に転がり込み、嫌がられても拒絶されても、どこまでも和也につきまとう三浦はただの迷惑ストーカーなのかもしれない。でもそれだけだと思えないのは、和也には三浦の執着を受け止め続けた過去があるから。
小野寺の忠告も聞かず、三浦の一番で在り続けた和也が今さら逃げても無駄なのは、自業自得と言えなくもない気がする。和也はこうなることを分かっていなかったのか、実はちょっと予想してたんじゃないかと疑ってしまう。
三浦の命が尽きるまで、この関係は変わらないのかな。終わり方があまりに切なかっただけに、あれが最後の会話で、三浦の最期だったりしないよな?と不安になった。余韻がものすごい作品、とても良かった。
木原音瀬先生の作品は設定や展開がすごく好みのものばかりなのですが毎回オチだけ受け入れられない!ってことが多く今回もびくびくしながら読みました。
結果、この作品は最後まで好きでした!
途中なんでやねん!ってところもありましたが、私も木原節に慣れてきたのか今回はこれか〜って感じで割と流せました笑。
とにかくこの二人の関係が大好きすぎたのでもう細かいことはいいです!愛し合ってない、信頼関係が築けていないカップルが大好きなのですが、この二人はそれがすごくてどちらからも純粋な愛は0(元々はそんなことなかったはずなのにね)なのに離れられない。逃げられない。苦しくて悲しくて怖くてしんどい地獄。辛くて楽しかった。
最後の三浦がまた悲しくてやるせなくて素晴らしかったです。どうしても三浦に肩入れしちゃう…どこで間違えたんだろうね…でもこれでいい。二人は良くないだろうけど私は読んでて楽しかったです。
再読。
プライベートでも仕事でも死ぬほど忙しく精神的に余裕のないこの頃。
ふと夜中に目覚めてしまい、眠いのに寝付けず、こんなことをしている場合じゃないのにと焦りながらも現実逃避でこの本を手に取りました。
さらに追い討ち。
この追い込まれた気持ちを記録として残さなくては、、、と変な使命感に掻き立てられてレビューします。
嫌な奴
このタイトルの意味。
終始、受けの和也の視点で物語は進みます。
自分に執着する、攻めの三浦から必死で逃れる和也。
執拗に追いかける三浦。
逃げたかったのは、何からか?
途中から、和也の三浦に対する認知にズレがあることが明らかになります。
和也の中では、転校初日の印象のままの三浦のままです。
彼の内面に触れることを頑なに拒絶し、認知の修正を拒否します。
客観的に見ると、三浦は人たらしと言えるほど魅力的。
けれども、和也の中では、乱暴で自分勝手で鈍感な奴のまま。
諦念から三浦を受け入れはじめた和也。
ようやく認知のズレも受け入れはじめます。
小学生のような幼い情緒から、成長をはじめます。
これは、和也の成長物語と受け取りました。
何か面白い小説が読みたいと思い、木原音瀬ってBL界では巨匠らしいし読んでみっか〜と軽い気持ちで「美しいこと」「箱の中」の文庫版を読んだのですが、す、っすげえ‼︎と衝撃でぶっ飛んでしまいました。
私は面白かった作家の本をローラーするヘキがあるのですが、とにかく作品数が多いので、文庫になっているのを拾って読んで、出会ったのがこの作品です。やっぱりすごい〜すごく面白いよー!
子どもの頃から苦手だった男に粘着され、大人になってもなんやかんやとそばを離れてくれず、結婚が決まってやっと逃げられると思っていたら婚約者に式当日に駆け落ちされ、戻ってきた男に最終的に手ごめにされる…という、ノンケの男子からしたら悪夢でしかないお話。でもこれが、腐女子の目を通すとなぜか良い…。なんだろう、ラブもときめきもなく、荒涼とした物語なのに、なんでこんなに面白く感じるんだろう。不思議です。
この話の見どころは、やっぱり執着攻めのものすごさでしょうか。授業中に教室に乱入してきた三浦に、学校の中を追いかけられるシーンは圧巻です。あと、いきなりシャツを引き裂かれるところでわくわくしてしまいました、すみません笑
攻めの三浦は、杉本に嫌われていることを知りつつも、離れようとしない。自分も相手も傷ついてもうぐちゃぐちゃなのに…。心はくれないんだろう、でも体に触れれば温かいとか、出会わない方が良かったとか、セリフがもう切なくて、一方通行の愛の悲しみを感じます。最後の一文にも胸を締めつけられました。三浦に感情移入しているのかも…
三浦と比べると、どうしても杉本は見栄っ張りで情のないやつに感じてしまいます。彼も相当かわいそうなんですが。最後の方で、怒りと憎しみの中にあきらめの安寧を見い出しているような描写がありました。
愛って決して甘いだけのものではなく、不条理かつ理不尽なものだということを思い知らされる傑作だと思います。いやあ、本当に木原作品はすごかった。
