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5話完結の表題作を含む五つの中短編とおまけ一つの入った作品集です。
植物達が緻密に描かれた背景や装飾画に目が奪われうっとりとしてしまいます。ストーリーを楽しむ漫画というよりは絵を楽しむために読む漫画という印象が初読の時は強かったのです。
でも、2周目では登場人物の会話や内心に目が向いてしみじみと良いなと感じました。
耽美的な絵柄からは、植物の瑞々しい葉を触った時のような冷たさや、鬱蒼と草木の生い茂る森に漂う湿気を含んだ冷気を感じるけれど、登場人物たちの間にあるのは温かくて柔らかい空気です。
特に表題作『百草の裏庭』は尺が長いぶん心理描写が特に細やかで、マルセルとギーゼルベルトがお互いを知り合いやがてかけがえのない絆で結ばれていく様が描かれています。
耽美的な雰囲気でありつつ、耽美につきものの冷たさや退廃的破滅的な雰囲気はなくて、温かくて優しいお話でした。
よくある人外物とは一線を画す始まり方で急速に惹かれました。本を貸してくれるあたりで、これ美女と野獣じゃないか?と気づく。野獣のように粗野で物騒な相手では無いけれど。むしろ知性と思いやりで溢れている。そんなわけで面白く読んでましたがここで終わっちゃうのか〜。他の収録作もそうですが、起承転ぐらいで終わって、結が無い印象。この曖昧さも作家さんの持ち味だとすればそうなのかもしれない。一貫した空気感があります。
◆百草の裏庭(表題作)
童話のような、絵本にして欲しいような、温かく穏やかで素敵なお話でした。青井先生のタッチには本当にこういう雰囲気がよく似合いますね。異形な見た目のギーゼルベルトですが、不穏な空気を漂わせることはまったくなく、彼の心の温かさにはただただ癒されます。どうしてそんな見た目なのかも分からないし、彼はずっとこの姿のままなんですね。けれど、本質を見てくれるマルセルは、そんなことが微塵も気にならないほど自然に彼に接していて。初々しい恋人のような、古くからの親友のような雰囲気の2人が微笑ましかったです。
◆旅の途中
黒髪のカスペルの見た目がとても好みだったんですが、この街では彼のような外見は異端で。唯一ずっと彼の傍にいてくれるヨーアンのことも、カスペルは素直に受け入れられず、なぜ自分なんかと一緒にいてくれるのか訝しく感じている。場所が変われば常識も変わり、どんな人にも自分に合っていると思える所はあるはずですし、そこに辿り着けなくても、1人でもありのままの自分を好きでいてくれる人がいれば心は安らぎます。時間をかけて、カスペルがヨーアンに素直に甘えられるようになればいいですね。
表紙の不思議さに惹かれて、試し読みに引き込まれて。
森の奥でひっそりとひとりで暮らす異形の男ギーゼルベルトと心優しき青年マルセルのゆっくりと優しく穏やかな日常。
唯一の肉親の妹の結婚式の日、10年前にした約束を守る為にマルセルは誰も踏み入れない森の奥に住む異形の男の元へ死をも覚悟して来たマルセルたが、異形の男ギーゼルベルトはだった自分を見て逃げ出さなかったマルセルを知りたく話したいと。
ストーリーは、マルセルとギーゼルベルトの孤独に触れ自分の中で何か感情がゆっくりと優しく育つお話で、まるで穏やかなピアノの調べや詩集の様。
他にも表題以外の短編が収録されているが、どのお話もゆっくりと優しくでも何かが感じられる作品です。
表題作は森に住む異形の男と薬草売りの青年のお話でした。
ギーゼルベルトは"異形"ではあるけれど、彼の纏う柔らかな雰囲気は
恐れるものの対象ではないことが感じ取れて
そしてマルセルと接していく毎に温かさが増していく眼差しがとても素敵でした。
黒い森で孤独を孤独と感じなくなるほどに
ひとりでいるのが当たり前だった彼の日常に
マルセルの存在が柔らかく溶け込んでいき、
新たな日常が出来上がっていく様子が本当に美しかったです。
どのお話も優しくてちょっと不思議で美しい、
とても素敵な作品たちばかりでした。