イラスト付き
花がいっぱいの寝床できみを愛したい
あらすじの糸を紡ぐ、でわかるとは思うが、茨姫をオマージュにしたようなメルヒェンオメガバース。
終わりにほっとしました。
途中までは、魔女が悪役のThe魔女すぎてイライラハラハラしましたが、レオニードとその従者がちゃんとシダを信じてくれてたおかげで、不安や不信感はなかった。
受けの名前がシダなのに加え、レオニードがさん付けして呼ぶから、日本名の志田さん感が強いw
多分「シ↓ダ→さん」ではなく「シ↑ダ↓さん」ですよね。雑だけど、炭酸じゃなくて父さんのイントネーション。
エピローグの、口が聞けなかった頃と喋れるようになった今との違いについて喋るシーンにギュッとなった。
子供は二人とも男なので安心です。
でもがっつり喋るシーンでは、あからさまなお子様言葉なのが少し癇に障る。が、それを打ち消すくらいレオシダ夫婦のやり取りが微笑ましい。
いやあ…yoco先生のカバーイラスト、これはあまりにも素敵ではないですか?
色合いも装丁も本当に綺麗で、思わず手に取って眺めたくなる。
装丁を担当されたのは、Asanomi Graphicの斉藤麻実子さん。細やかなお仕事が素晴らしいです。
薔薇が舞う薄桃色の帯も、背表紙も、折り返し部分のデザインもこれまた素敵なんです。
気になった方は紙の本もお手に取ってみてください。
ロシア風の架空の国を舞台に両視点で紡がれる、メルヘンとロマンティックの中に美しさがあふれるお話でした。
内容に関してはもう素敵なレビューが上がっているので、感想だけ。
こちらの作品、焦ったくももどかしい恋のお話なのです。
想い合っているし、くっついてはいるのだけれど、本当の意味ではなかなかくっつかない。
愛し合う2人の間に訪れる試練や壁というものは、時にはお話のスパイスにもなり、時にはあまり続くとダレてしまったりもすると思うんですよ。
ただですね、今作はこのもどかしさや切なさがとても良くて。
なんだか、じっくりコトコトと信頼関係を深めていくようで、オメガバースだけれど性急さはなく、きちんと心も伴った愛情が感じられたというのかな。
丁寧な心理描写が光る作品でした。
そして、攻めと受けのキャラクターが非常に良かった。
特に攻めのレオニード。彼が本当に心優しい人で。
優しいのだけれどヘタレ感はなく、なよなよとしているわけでもない。本当にシダのことを心から愛しているのが深く伝わってくる、すごく良い攻めなんです。
華藤先生のあとがきいわく、"ふわふわとしたやわらかな癒し系の優しい性格"とのことですが、その言葉がぴったりの大らかで愛情が強い人。
オメガバースもので久しぶりにこういう攻めと出逢えた気がします。
お相手となるシダもただの健気受けでは終わらないのです。
なんというのか、一見儚げなのにそれだけではない、一本筋が通った強さがある受けで、こちらもすごく良かった。
そんな2人がお互いを心から想い合う様子がわかるのだから、これはもうたまらないですよね。
駆け足気味な終盤や、シダが兄上と慕う人物の後半の発言でちょっぴりウーン?となる部分もありましたが、それ以上に、言葉を介さずに深まる2人の関係が素敵だったので、今回はこちらの評価で。
作中に登場する薔薇園は色とりどりの薔薇が咲く虹色とのことでしたが、読後の印象を薔薇で例えるのなら、花の中心から淡くグラデーションに色付く、ピエール・ドゥ・ロンサールかななんて。
yocoさんのメルヘンチックな扉絵を開くと、BL版メルヘンの世界が広がる、といった感じです。
華藤さんの著作には、必ず美味しい伝統菓子が登場します。
このお話はロシア風の、ジャムを使った「くるみパイ」。
兄を救う無言の機織り。
この展開、どこかで読んだ事がある?・・・と読みながら思いだしたら、
子供の頃に読んだ童話「野の白鳥(白鳥の王子)」と似てました。懐かしい。
この物語では、姫役はΩの王子シダ。
背景は、中世のロシアにされています。
シダに一目ぼれした王子は、レオニード。
父王が逝去して、兄が王に即位するので、
お祝いの習慣;くるみパイ作りを独身の兄の家族の代わりにシダが作る場面が冒頭。
でも即位前に、実は黒魔女だった父の後添えの妃が革命を起こし、兄は幽閉されてしまう。
兄の魔法を解くために、聖なる泉の畔で「魔法の虹の薔薇」から糸を紡いでいるシダを他国の王子レオニードが見初めます。
その後の展開は、ほぼ「野の白鳥」に沿うもので、可愛い子供にも呪いをかけられちゃったけど解決して、ハッピーエンド。
〔紡いだ糸をバラで染めて絨毯を編む、とあるど、絨毯は「織る」が正しい,シダが編んでいるのは、ニットのマット。)
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▶「野の白鳥」De vilde Svaner
*デンマーク民話。妖精は、トロル。
童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンが再話。「白鳥の王子」王子は11人。アザミやイラクサの糸。
グリム童話にも類話がある。『十二人兄弟とその妹』王子は12人 ヒナギクの花の糸。
映画では、王子は6人になっている。
王の後妻は悪い魔法使い。
悪い妃は、邪魔な賢い姫に「胡桃の汁」を塗り醜く変えて、城の外に追い出す。
そして、王子達を白鳥に変えて追い出す。
姫は夢のお告げを受ける。
「いら草を紡いだ糸で帷子を作り王子達に着せれば呪いが解ける。但し編む間に口をきくと王子達は死ぬ」
兄たちの呪いを解くために、姫は無言で帷子を作り続ける。
優しい他国の王子が姫を気に入り、城に連れ帰る。
無言のままイラクサを紡いで織り続ける姫に魔女の嫌疑がかけられ、火刑に決まる。
処刑場に行く最中も帷子を作り続ける姫。
刑が始まる寸前、飛来してきた兄たちに帷子を投げ着せ、魔法を解き救うことが出来た。
★この伝承は、辛苦に伴う教訓も多いのですが、謎も多いです。
北欧の怖い悪い魔法使いの伝承の再話は、幾つも有る点に興味がわきます。
ホントに恐ろしい「黒い魔女」が居たのかもしれない。
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胡桃(アレーシュキорешки)
オペラ『くるみ割り人形』があるくらい、東欧で胡桃(アレーシュキорешки)は人気。
プリャーニク пряник 胡桃型焼き菓子
東欧のバクラヴァ baklava。
ハチャプリ(グルジア語: ხაჭაპური Khachapuri.ogg 発音 英語: Khachapuri)
南コーカサスにあるジョージア国に伝わる微発酵のパン生地に塩気のある白チーズなどの具を乗せたり包んだりして焼いたパン
さすがというか、景色が目に浮かぶような美しい文章。
壮大なストーリー。
2転3転して、ハラハラさせられる話の展開。
そして、素敵な挿絵。
文章との相乗効果で美しさが際立ちます。
是非とも神評価!と言いたいところですが、中立です。
なんでしょう?
ご都合主義?
あともう少しというところで、するすると問題が解決。
あれ???
そうなっちゃうの?
と、拍子抜け。
かなり残念な感じ。
もっともっと、盛り上がれそうだったのですが。
あー、惜しい惜しい。
辛いけど幸せで、御伽噺としてのオメガバースに浸ることができました。
2人して試練を乗り越えるまでの過程が甘くてあまくて...
とても幸せな気持ちで読むことができました。
文章として描かれる描写も、yoco先生の挿絵もただただ美しい。
とにかくシダの境遇が不憫なので、レオニードとの関わりは救いでした。彼の手を取りたいけど取れない、シダが可哀想すぎて...
報われてほしいのに、さらなる試練がシダを襲います。
幸せな展開と、シダへの辛い仕打ちの板挟みで、読みたいけど先へ進みたくない気持ちで揺れてしまいました。
大きな試練が去っていく描写は、個人的にあっさりすぎだなあと思ってしまいました。
あれだけシダにいろいろとしておいて、シダの知らないところで解決してしまうのは疑問が残ります。
でも、その試練がなくなったから2人は幸せになるので...
エピローグでは、大きな幸せと少しの驚きを味わうことができました。
カバーデザインから受ける印象が、内容とリンクしているので、ぜひ読んでみてください。