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表題作恋をしていたころ

仁科智之、IW施行設計事務所の建築士
永森一葉、建築設計スタジオWの建築士

その他の収録作品

  • 帰る家
  • あとがき
  • 一緒に散歩を

あらすじ

建築事務所で働く一葉には、生涯でただ一人、同性の恋人がいた。その彼、仁科からある日七年ぶりに連絡があった。実は仁科は事故で軽度の記憶障害を患い、一葉のことも別れた理由も思い出せないのだと言う。仁科とは大学院で出会い、その情熱に巻き込まれるように恋に落ち、才能溢れる彼の隣にいるのが辛くなって別れた――。かつての記憶はないのに仁科の瞳に今も一葉への好意が見え、心が揺れる一葉だが……?

作品情報

作品名
恋をしていたころ
著者
安西リカ 
イラスト
尾賀トモ 
媒体
小説
出版社
新書館
レーベル
ディアプラス文庫
発売日
電子発売日
ISBN
9784403525292
4.3

(127)

(71)

萌々

(35)

(16)

中立

(1)

趣味じゃない

(4)

レビュー数
18
得点
544
評価数
127
平均
4.3 / 5
神率
55.9%

レビュー投稿数18

互いが互いじゃなきゃダメなんだと感じる

切なくてほろ苦い再会ものであり、若さ故に間違えてしまった二人が、もう一度恋をやり直すと言うとても優しいお話でもあります。

個人的に「何度でもリフレイン」がめちゃくちゃ好きなんですよ~。
それの更に大人版とでも言うんですかね。
ほろ苦い過去の思い出に、現在の甘くうずく愛おしさ。
そして、それぞれが抱える心の傷。
もう、めちゃくちゃ萌えるーーー!
こういう、しっとり切ない恋心を書かせたら、右に出る者は居ないんじゃないでしょうか。
安西先生。

で、内容です。
建築事務所で働く一葉。
過去に別れた恋人・仁科から7年ぶりに連絡を貰います。
自身からの一方的な別れが心の片隅に引っ掛かっていた一葉は、これを機会に仁科への謝罪をしようと思うんですね。
ところが再会した彼は、事故による記憶障害で一葉の事を忘れていてー・・・と言うものです。

で、破棄された記録から、一葉が自分にとって大切な人物なのでは無いかと推測している仁科。
少しでも昔の事を思い出す為に、また会って欲しいと訴えて来て・・・と言う流れ。

と、こちら繰り返しになりますが、若さ故に間違えて離れてしまった二人が、大人になって再会。
もう一度恋をやり直すお話なんですよね。
攻めの記憶喪失をキッカケに。
これがなかなか切なくてもどかしいんですよ。

そもそもこの二人、大学院時代に同じ建築家を目指す者同士として出会った。
で、ノンケである一葉に一目惚れした仁科が強引なくらいに距離を詰め、彼の情熱に巻き込まれる形で一葉は恋に落ちた。
仁科ですが、すごく情が深くて一途な男なんですよ。
彼から強く求められ、甘やかされて、自身が愛されてると強く実感する熱に浮かされたような幸せな日々。
でもそれは長くは続かず、やがて並外れた才能を持ち将来を嘱望される仁科と、平凡な自分とを比べて劣等感に苦しむようになる一葉。
それに耐えきれず、就職をキッカケに別れを切り出した・・・。

これね、まさに男同士であるが故のスレ違いだと思うんですよ。
ノンケである一葉は、男と付き合ったのは仁科が最初で最後。
で、何だろう・・・。
彼は仁科が愛しいと言う感情と同時に、何もかも上である存在の彼から甘やかされる事自体が、苦しくなってくるんですよね。
こう、愛されれば愛されるほど惨めと言いますか。
一葉にも男としての矜持があるだけに。
そこで別れを切り出したものの、仁科からは引き留められる事もなくアッサリと了承され、それにもショックを受ける・・・。
なんかね、こうして書いてると一葉がすごく自分勝手な人物に見えそうな気もしますが、めちゃくちゃ理解出来るし、だからこそ切ないんですよ。
えーと、一葉視点で綴られるんですけど、彼の仁科との記憶と言うのは、受け身で語られる事が多いのです。

愛してくれた。
求めてくれた。
甘えさせてくれたー。

それは、ノンケである彼が、仁科からの情熱に流される形で関係を持ったからだと思うんですよね。
流されると言うか、まさに巻き込まれる形で。
一葉にとって、仁科の一途で強い愛情と言うのは、まさに嵐も同然だったんだろうと。
だからこそ、若さ故の未熟さもあって、息苦しくなった。
また、それでも彼は彼でちゃんと仁科を愛してたんですよ。
愛と嫉妬と劣等感。男としての矜持に、羨望。
そして、ちっぽけな自分に、いつしか仁科の愛が冷めるんじゃないかと言う恐怖。
この板挟みに、耐えられなくなったんだろうなぁと。
苦しい。
そして、めちゃくちゃ切ない・・・!

で、今作の最大の萌えですが、そんな二人が再会してからの再びの恋。
仁科ですが、記憶が無いはずなのに、真っ直ぐに想いを向けてくるのです。

安西作品の素晴らしい所ですが、そのリアルで深く掘り下げられたキャラの心情描写だと思うんですよね。
えーと、今度は大人になったからこその臆病な部分とか、逆に人間として成熟した部分。
そんな一葉の複雑な心境で持って、仁科との恋愛が語られます。

ふと溢れだしてしまう愛しさ。
それでももう二度と、同じ事を繰り返さないと言う決意。
だって、仁科から切り捨てられたと感じた時の、あんな辛い思いはもう耐えられない・・・。

これね、実は「何度でもリフレイン」を読んだ時も思ったのですが、この二人って出会うのが早すぎたよなぁと。
大人になった二人なら、もっと上手に恋が出来ただろうに的な。
この二人の結末ですが、まさに大人になった事でようやく上手く行くんですよね。
ひたすら一葉を強く求め続けるだけの仁科。
そして、劣等感に苦しんだ一葉。
互いに、自分の事しか考えられなかった。
それがようやく相手の気持ちを思いやれ、相手を理解出来た。

もうね、この二人、互いに運命の相手としか言いようが無いんですよ。
互いが互いじゃなきゃダメなんだと感じる。
それなのに、こうして何年もスレ違ってしまうって、とても切ないよねと。
仁科が一葉の記憶だけ無くしてしまった、その理由も含めて。
だからこそ、ようやく結ばれた彼等の姿に、胸が熱くなってしまう。
彼等が感情を爆発させる、ようやく心が通じ合うシーンなんて、もう萌え転がっちゃいましたもん。
ああ、ひたすら地味なお話なのに、ここまで感情を揺さぶられるって、本当に凄い。


ちなみにこちら、表題作の他に書き下ろしが収録されてて、そちらが今度は仁科視点になります。
表題作の仁科ですが、一葉が居ないと生きて行けないんじゃないかってくらい彼にベッタリだったんですよね。
そんな、彼が置いていかれる事を極端に恐れる理由が、こちらで分かります。
そして、彼の一葉への深い愛情なんかも。
こう、両者の視点で読む事で、グッと深みを増す作品だと思う。
素晴らしいですね。

とりあえず、読み終えた今は、胸がいっぱいです。

28

萌が詰まった作品でした♡

最近の安西先生の作品は当たりが多くてとても嬉しいです。そして今回も大当たりで、萌えまくりました。

記憶喪失ものですが、それよりはすれ違いものの側面の方が強かったと思います。

2人が離れていた期間は7年間でしたが、それは一葉に関しては必要な時間だったと思いました。

一葉の事だけが思い出せない理由にしても、想像通りでしたがソコもとても萌えた一因でした。
記憶が無いのに一葉との距離を詰めて来る仁科に、ドキドキしてとてもときめきました。
そして仁科が記憶を取り戻した場面も、無理がなくてとても自然で良いのです。
その後の2人が気持ちを確かめ合うシーンも素敵でした。

この作品の魅力は、なんて言うか攻めの仁科が見掛けによらず可愛いんですよ。
こんな攻め大好きです。


それに読んでいてテンポもとても良くて、雑誌掲載の表題作の他に書き下ろしの「帰る家」が収録されているんですが、一葉の仁科に対する愛情にガツンとやられてしまいました。

ここには仁科の従兄弟の優という人物が登場するんですが、優の行動や言動がとても不快なんです。「え?これってそういう事だよね?」って思った所で一葉が反応するんですよ。

読んでて一葉の行動と仁科の反応にギュンと胸が締め付けられて、そしてスッキリしました。

萌どころが満載で読んだ後にかなり満足感を覚えた一冊でした。

10

繰り返し読める、よき再会もの

ディアプラス掲載時に読んだときも文庫化されて読み直しても、どの角度から読んでもめちゃくちゃいい…と萌え震えました。

建築科の学生だった一葉(受)と、才能豊かでカリスマ性のある編入性・仁科(攻)の恋は、仁科の一目惚れから始まり、仁科の圧倒的な熱量と気持ちに圧され気味だった一葉が、就職という現実を目前にして、前途洋々とした男の傍にいることがしんどくなり、一方的に別れを告げ地元に帰るわけですが、もうこの置き去りにされる仁科が不憫すぎて。(仁科、ぜんぜん悪くないよね!(;;))一方、色々な面で自分よりも優位な男に対して、恋愛関係においてだけは自分の優位を確信していた一葉は、別れをあっさり受け入れられたことにずっと傷付いていて(実は性格悪いなって思ってしまったw。でも、こういう人嫌いじゃないし共感できる。)、どちらのしんどさもわかりやすくて、とても切なくなりました。

別れから7年後、事故で記憶障害を患った仁科と一葉が再会するのですが、“あんなに俺に夢中だったのに、俺のこと忘れやがって!”と一葉がモヤっとする心理(実は未練ありまくりという…)がいいです。2人の思い出を忘れてしまった仁科から、改めて好みどストライクと熱視線を向けられても、素直になれない一葉の態度が歯がゆくて焦れ焦れしてしまいました。仁科が一葉に対する想いについて、「雪のなかを歩いていたら艶々な木の実が落ちてるのを見つけたよう」と表現するんですが、これが心に刺さりまくりました。おそらく、他の人だったら踏みつけるとか、気づかないとかそのまま歩き続けてしまうかもしれない足元の木の実だけど、仁科にとっては特別な、見つけて拾わずにはいられないくらい魅力的に艶々してんですよね、木の実(=一葉)。当事者同士にしかわからない特別な感情、恋に落ちるということの偶発的な必然性(?)を上手く表してる名言だと思いました。

仁科の記憶がよみがえる雨の場面が好きすぎて、何度読んでもウルウルします。車の中においてきた一葉の愛犬をやたら気にする仁科の言動から、彼の心の傷にやっと思い至る一葉。そこから、過去、愛されることに甘んじて、あまり仁科のことを理解しようとしなかった自分の至らなさに気づき、全能のような仁科の弱さを知ることで、改めて彼と素直な気持ちで向き合えるようになるのですが、ここからは怒涛の愛の時間でした。私も読みながら浄化しました…。

描き下ろしは、その後の2人についてですが、攻(仁科)目線でした。この攻・受両視点を1冊で読めるのって有難いです。雨降って地固まり、隙あらばいちゃいちゃな2人のバカンスに、仁科の過去からの闖入者(従兄)が現れるのですが、第三者を通して2人の新たな関係性と強い信頼関係が伺えるところが面白いです。
仁科はそんなに変わってないけど、一葉の変化と成長が著しいんですよね。そしてそんな彼の迷いのない気持ち、これから先もずっと2人で生きていくという決意と希望のみえるラストに、なるほど“帰る家”ねと、じんわり温かい満ち足りた気分になりました。

おまけペーパーは妹視点で幸せそうな兄の姿、あとがきの後の掌編は、愛犬・はちみつはシニアか?論争とほのぼのしかしないやつでした。

10

こんな記憶喪失ものもいいな(^-^)

記憶喪失ものって、まぁいろいろ読んできましたけど、なんとも穏やかだけど情熱的でもあるお話で、いいなぁ、と読ませてもらいました。


受け様は個人住宅等を手掛ける建築設計士の一葉。
攻め様は世界的に活躍する建築家の仁科。

大学院で出会い、一目惚れだと率直に好意を示す仁科を、一葉が受け入れる形で恋人同士となる2人。


ところが、同じ建築を志す者同士として、能力や立ち位置の差に、一葉は仁科に引け目を感じるようになり、そんな自分が嫌になっていく。

1度は別れた2人の再会ストーリー。
記憶喪失の攻め様が、元カレって立場なのが新鮮。

一葉の事を思い出せなくても、今でも好きを隠さない仁科への一葉の気持ちが、とても丁寧で繊細。
だよね〜と思ったり、いやいやそんなんじゃないって、とアドバイスしたくなったり。
ちゃんと好きだった、と一葉が自分の気持ちと向き合うとことか、好きだなぁ(*´ω`*)

7年経った今だからこそ、の再会ロマンスにきゅんきゅんしっぱなしでした。

一葉の愛犬はちみつがまたかわいかったです。

恋人になるまでが受け様の一葉視点。
書き下ろしのその後が攻め様の仁科視点。
恋人になってからの攻め様の溺愛ぶりが知れるので、この構成、大好きです(^^)d

恋人になっても、心のどこかで一葉がいなくなる不安を抱えている仁科。
別荘で、仁科の従兄弟とのやり取りを目の当たりにして。
2人が帰る家を建てよう、との一葉からの提案。
仁科は、一葉がいたら心の安寧を保てるね。

昔も今も、これからも恋をして育んでいく2人に、ほっこりと幸せな気持ちにさせてもらいました(*´ω`*)
何度も読み返したくなる1冊です(^-^)


イラストは尾賀トモ先生。
表紙の日常モードな2人がいいですね。
はちみつもかわいい(´∇`)

7

時間の経過を感じさせる穏やかで切ない恋愛

記憶喪失ものですが重たすぎず、安西リカ先生らしい何気ない日常の描写の光る作品です。
若い頃の選択ミスで別れた二人。
仁科は才能のある人間で、一葉はそんな彼に愛されるということがコンプレックスになっていたのかも知れない。
ノンケらしい一葉の思考がとても自然で好きです。
プライドのある男で素敵…。
仁科の愛情深さと一葉の生真面目さが噛み合わず別れた二人の不器用さ、それが復縁後過去を振り返るシーンで光ります。

冒頭、中盤、巻末の書き下ろしと二人の間に流れている時間も関係性も変わっていくのに、何一つ変わらず可愛く、そして二人にじゃれつく犬のはちみつの存在がいい味を出してました。
足元にまとわりついたり、ヤキモチやいたり、寂しがってみたり。
良いクッション材で。

途中、恋人だった時よりも穏やかな時間を過ごしていると感じてしまう一葉の臆病さが切ない…。
忘れてしまった仁科と、色んなものを抱えたままの一葉。
指輪の表現もいいですね。
どうしてこんなにもシンプルに重ねられた愛情を表現できるのだろう、といつもほんわかした気持ちになってしまいます。
柔らかい恋愛模様に癒されます。

いつも巻末に攻め視線が入っているところが好きなので、感謝しております…!
攻め視点、大好きです。

6

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