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表題作無罪世界

山村仁史
詐欺まがいの訪問販売員,28歳
榊宏国
ジャングル育ちの従弟,22歳

あらすじ

詐欺まがいの仕事、賭けごとで借金まみれの人生。そんな山村に顔も覚えていない親戚の遺産の話が転がり込んできた。浮かれた山村だったが、その遺産には厳しい条件がついていた。幼い頃さらわれて以来、ジャングルで育った従兄弟・宏国の世話をするというものだ。自分の「むら」しか知らず、日本語も解さない宏国と暮らさざるを得なくなり、いざとなったら放り出す気で引き受けた山村だったが…。
渾身の大長編オール書き下ろし!
(出版社より)

作品情報

作品名
無罪世界
著者
木原音瀬 
イラスト
よしながふみ 
媒体
小説
出版社
リブレ
レーベル
ビーボーイノベルズ
発売日
ISBN
9784862632456
3.5

(49)

(15)

萌々

(8)

(16)

中立

(7)

趣味じゃない

(3)

レビュー数
15
得点
162
評価数
49
平均
3.5 / 5
神率
30.6%

レビュー投稿数15

面白かったですよ

木木原音瀬先生って読ませるんですよね。BL要素を含みつつ、タイトルから「どゆこと?何でこんな設定なん?」と読み進めればドップリ⋯
次はどうなってくの〜と読み終えてしまいますw
悲しみや苦しみの中で、本当に自分の欲しいもの、大切な事が何なのか、もがきながら見つけて、受け入れて新たに進んでいく。普通に生きていたらなかなか体験できない事が起こるので、山村は本当にどクズだな、と思いながらも自分に当てはめたら繊細さが共感できる心模様が多々。あっでもどクズですけど。宏国と関わって本当に大切にしたい事と愛を見つける事が出来て良かったねって思いました。

0

巡り会ったことが奇跡的な異色の二人

詐欺まがいの仕事をし賭けごとで借金まみれの人生を歩む男
×
ジャングルで育った従兄弟

設定の時点でインパクトありすぎですよね。
面白い予感しかしませんでしたが、期待を裏切られることはなく楽しめました。

日本での生活に右も左も分からず困惑する受けを遺産目当ての攻めが適当に弄び酷いことするのでは?と勝手に心配したのですが、そんなこたぁなく(笑)
それどころか意思の疎通すら難しく手を焼く攻めに同情すらしました…。

このキャラクターでBLを書くに思い至った木原先生やっぱり凄い…!
BL作品にあふれるありきたりな萌えが一切用意されておらず…だけどそんな萌えなど必要ないと思わせる独自の切り口で物語を完成させるんだ。

後半は想像をこえる危ない展開になり非常にドギマギしました。
自業自得ではあるんですよね。
攻めは悲しい過去をもちつつも、人を騙しその懐をあたためていた…。
人としておいおいという部分も目立つのに、嫌いになれないというか…気付けば肩をもちたくなるような登場人物に仕上げられているんですよね。

ラストに関しては私は逆にヒヤリとしましたけどね…。
後を濁しておけばいいものを、幸せでやってるっぽいじゃんというところに水を差された気がして…そんな衝撃が魅力でもあるんですけど。

0

何気ないものが誰かの犠牲で成り立っている

“捨てるものの為に苦しむ人がいるなら、自分くらいビールを瓶にしてもいいかと思ってね”

最後まで夢中で引き込まれるお話ではなかったのですが、BL小説でここまで愛以外のメッセージ性を持たせた作品に出会った事が(絶対数が少ないのですが)なく、挑戦的な作品だと思いました。

法外な値段で浄水器を売る悪徳業者の主人公(この設定が既に面白いのだけど、詳細は流石にないので面白さが半減して惜しい)が遠い親戚の遺産と共に原始育ちの若い男を任されるというお話。

BLに限らず、台詞が単語のみを使いがちな簡潔な喋り口のキャラクターは多数存在します。「よるとあさの歌」ヨルや昨年のアニメどろろの百鬼丸、木原作品の「箱の中」喜多川など。単純で少し学が足りないから、またはその逆でキレ過ぎる頭で芯を見抜く為に簡潔なのか、独特な魅力で好きな人も多いと思っています。
そういったキャラクターや野生さを求めたのが今回のカップリング、としか思わずに読み進めたのですが、それは浅はかでした。(どうにも宏国の会話の成長が遅くまどろっこしい!というのは置いておきます。)

一番印象的だったのはビール缶を何気なく買って飲んでるけど、そのすぐに捨てられる原料を作るために宏国のような人達が住んでいた場所は奪われたと落合先生が語るエピソード。
いきなり環境問題…とは思ったのですが、ただ木原作品を読みたいという動機だけだった私は、テーマが今までと少し違うなと思いました。
アルミの話以外にも、背景を考えない、要らなくなったものを捨てるという短略行為には必ず失われているものがある。それがこの小説に繰り返し書かれていました。

母子家庭だった山村が高校時代、そっけなくし続けたことで母は彼を置いて出て行く。
老人に無理やり契約をさせ息子に狙われる。
嘘に嘘を重ねた結果有沢に宏国を取られる。

その様にして何度も大きなショックとしっぺ返しを食らい、最終的に独りになった山村が、宏国に愛されて、命を張ってまで守ってくれる人だと気付き、今後を誘うシーンは希望あるラストで良かったなと思いました。
宏国がお面持って出てきたの、どういう意味だったんだろう。

落合先生が登場し宏国が言葉を理解しだすまでと、早々に予測できる同僚の200万の話がダレるので、もっとサクサク進めてほしかった。

ビールを請求するヤブ医者や隣の部屋のババアなど口の悪い詐欺師主人公とどっこいの変なキャラが楽しめました!結局、医者のまとめたノートに何がかかれていたのか、ブラジルには行かないし、ふーんわりな終わり方に消化不良な読者も多数いらっしゃるかと思います。

0

無邪気に愛せたらいい

高校生で母親に捨てられ一人で生きてきた山村は、今は浄水器を高額に売りつける訪問販売をしていました。セールストークの巧みさで売り上げは上々ですが、趣味のギャンブルが過ぎて借金の返済に追われる日々。突然、従兄弟の宏国の面倒を見るという条件付きの遺産話が舞い込み、喜びます。宏国は幼い頃に家族で住んでいたブラジルで、原始インディオに誘拐され育てられましたが、父親の遺言で日本に定住することになったのです。山村は分割で払われる遺産目当てに宏国と暮らし始めますが、言葉も通じず、野性的な宏国の世話に疲れ、酷い風邪で寝込んでしまいます。山村の熱を引き受けるように宏国が発熱。医者嫌いの宏国を抱えて駆け込んだ診療所の医師・落合が、偶然にもインディオの文化に詳しく、宏国に日本語と生活習慣を教えてくれることに。ある夜、宏国からスマタを仕掛けられ、山村は宏国への欲望が止められなくなります。落合からは、部族によっては男性同士の関係を許容すること、日本語のような「愛している」という概念がないことを聞かされ、山村は自分だけが宏国を好きになっていくことに苛立ちを募らせます。そんなとき、山村が浄水器を売りつけた客の息子がヤクザだと発覚。ヤクザから山村をかばって宏国は大けがをしてしまい…。

宏国と山村が数少ない日本語でやり取りする描写が、面白くて仕方ありませんでした。特に、宏国がセックスすることを「食う」と言ったところは爆笑してしまいました。直球の言葉は胸の奥まで届くように感じます。ブラジル生息の蝶の標本を見た宏国が、「とぶ きれい」「いっぱい きれい」と言ったときは、故郷に帰りたい気持ちが伝わってきて、切なくなりました。
内省的な山村が、語彙の乏しい宏国を好きになったのは、分かるような気がします。嘘の言葉で生き抜いてきた山村は、面倒と言いながら、直接的で嘘のない宏国といるのが楽しかったのでしょう。でも、どんなに体を重ねても宏国の気持ちが見えなくて、言葉を求めてしまうところが悲しくて。言葉は便利だけれど、持ち過ぎるほど生きにくくなるのかもしれません。山村が同僚から詐欺にあってしまったのも、巧みな言葉のせい。
宏国が山村を好きになったのは、きっと理屈抜きの本能なのでしょうね。だから命がけで山村を守って。宏国の「好き」は、行動で表現されるから、言葉はいらないのだなあと、その力強さに圧倒されました。

アルミニウム採掘のためにアマゾンの密林が破壊され、インディオが移住を強いられている話が、衝撃的でした。自分の便利で細やかな世界が、自然と共に生きる誰かの犠牲に成り立っているとは。ネットで調べたら、確かにこの事実があって。せめて自分くらいビールはアルミ缶でなく瓶で、という落合みたいな気持ちを自分も忘れたくないと思いました。

ラスト1ページの落合の語りが、山村と宏国の幸せそうな暮らしを感じさせて、思わず笑みがこぼれました。宏国の弁護士が二人を5年間も探していたということは、宏国の怪我が治った後、二人は南の島へ逃げたのかもしれませんね。弁護士さん、山村ばかりを責めたことを反省したのでしょうか。
山村は喋りを活かしてツアーガイドをしているとのこと。自然豊かな島なら、宏国ものびのび暮らせそうです。二人はうまく折り合いをつけて生きているのでしょう。
言葉が無ければ、複雑な想いで相手を責めることもないのかもしれません。ただ相手をありのまま受け入れて、無邪気に愛せたらいい。そんな思いが、タイトルに込められている気がしました。

3

異才・奇才・鬼才

こちらの作品、事前知識なく読み始めました。
よしながふみさんによるすっきりしたリーマンと短髪の男…
…いざ読み始めたら、なんとも驚きの設定。
木原音瀬さんの世界というものを舐めていた。
そうだよなぁ…この驚きこそ木原作品を読む醍醐味なんだよな。

詐欺まがいの訪問販売員と、原始インディオに誘拐され常識も生活力も言葉も持たない男の物語。
この野生児・宏国の行動の描写は衝撃的だし、カネ目当てに宏国を引き取る山村の生活の乱れとゲス具合もひどいものです。
全く「萌え」というものは見出せません。
元々ゲイという設定の山村が宏国の身体にムラムラして、顔を舐めたり手コキしたり、どこまでさせてくれるか間合いをはかりながら遂に挿入までヤってしまい、カラダから慣らしてかなりの頻度でセックスをするようになる。
そのシーンも淡々とした情景描写でエロ気分を煽るものでは全くありません。
アパートの隣室のお節介女性や、宏国に言葉や日本での行動を教えてくれる医師との交流で、散らかし放題の部屋は片付け、コンビニ弁当オンリーから手作りの惣菜などを食べるようになり、違う意味で山村の方も人間らしい生活になってくる。
なんとなく2人の生活がこれからうまくいくのかな、そんな気がしてくる時、足元をすくわれる…
山村は詐欺と暴力の被害者になるのだけれど、彼のやっていた仕事ゆえの被害のため、自業自得とか自己責任とか、そんな言葉も浮かんでくる。その上、元々宏国を連れてきて今まで丸投げしていた弁護士の有沢が急に出てきて、山村から宏国を奪おうとするのです。
ここに至って宏国を手放したくない山村が可哀想で、有沢なんか何も知らないくせに、という気分が湧き上がってくる。
山村の、宏国に対しての「愛」的な何か。
読者が山村x宏国に感じる「愛」的な何か。
ラスト、どうやら2人は逃げおおせて南の島で暮らしているようだと知る事で、なんとなく安堵を得るような感覚。
なのに弁護士に住所を知られて、その先どうなるの?という一抹の不安…
思いもつかない設定、甘さの無い展開、この終わり方…やはり木原作品は他のどれとも違う。
こういう人を異才と呼ぶのだと思う。

1

原始インディオに拍手 ♫♬(◕◡◕❀)

木原先生の作品としてはあまり評価が高くない本作品。どれどれ、どんな感じだと低評価になってしまうの?などと逆に興味津々、手に取りました。


目次
●無罪世界(攻・山村仁史×受・榊宏国)攻め視点


本編まるまる100%「無罪世界」!!いやはや、タイトルがタイトルなだけに、法廷ものかと勘違いしておりました。電書のため削除されることも多いイラストやあとがき。今回イラストはOKでしたが、あとがきは掲載されておりませんでした。ですが紙本であとがきを読まれた方から、タイトルの件で木原先生が悩んでいたとの情報を得ました。「無罪世界」の英訳「イノセント・ワールド」にすべきか否か。

そうかー…。「イノセント・ワールド」の方が心地良い響き。法廷ものとの勘違いも避けられ、適正だったかな?とはいえインスピレーションがピピピと来たのかもしれませんね。そう言えば、ミスチルの曲名にも「Innocent World」ってありました。大好きな曲です。



・あらすじ
悪徳訪問販売会社で浄水器の営業をしている山村仁史(攻め)は28歳。ギャンブル好きで、借金もあり、生活は楽ではありません。そんなある日、顔も覚えていない伯父の遺産相続の話が舞い込みます。弁護士と面会し、相続の条件を聞くことになりました。
その条件とは、亡伯父の息子の面倒を見ること。山村には従兄弟に当たる榊宏国(受け)は22歳。幼い頃に原始インディオにさらわれ20年をブラジルで過ごしました。そのため日本語をまったく解しません。
山村は借金が返せると棚ぼたの遺産を喜んでいました。でも宇宙人みたいな従兄弟の面倒がついてくると分かり意気消沈。いざとなったら大金を手にして逃げよう、そう思ったのも束の間、遺産は月々の分割払いと告げられます。であれば半年ほど面倒を見て、実績を作った後に前借りしてとんずらという手もある…。



・感想
もう!ほんっとーに!面白かったです。こんなに素晴らしい小説がなぜ低評価なのでしょうか。恐らくは受けの宏国が原始人みたいで、そこに萌えを感じられない方が大多数だったのでしょう。でも、なぜか私の感性にはピッタリでした!機知にとんだ設定と言い、深みのある文章と言い、笑いあり、涙あり、驚きあり、萌えもしっかりあって!また原始インディオや誘拐、アルミ缶や資源の無駄遣いなど、知らないことだらけで勉強になりました。

本書の攻め・山村は御多分に漏れず、しっかりと難のある性格(笑)それゆえ最初は嫌な奴と思ってしまいます。でも毎度のことですが物語の終わり頃には嫌な奴から大好きな人に変わってしまうから不思議です (˶′◡‵˶)

山村は中学の時に両親が離婚、母親に引きとられ育ちました。その母親も、高校2年の時に突然山村を置いて家を出て行ってしまいます。そうです。山村は文字通り捨てられてしまったのです。薄情な母親です。山村少年があまりにも可哀想で同情せずにいられませんでした。

ある時こんなことがありました。外出先から戻ると部屋には明かりが煌々とついているのに宏国がいません。母親が出て行った17歳の頃を思い出し、切り捨てられたと呆然とするのです。結局、宏国はユニットバスでシャワーを浴びていただけでした。がその時の恐怖と来たら…。私も山村の気持ちになり涙が出る寸前でした。山村は本当はものすごい寂しがり屋なんだなぁ… (TдT)

宏国マジキレの恐ろしいシーンがあります。最初の頃、山村が宏国を怒らせ、すごい反撃が返ってきたことがあります。宏国は身長が170cm程で山村の方が高い。それゆえ甘く見ていたのでしょう。山村は、宏国の横腹を激しく蹴り上げました。怒った宏国は「ホキァー」と大声で叫び、目覚まし時計で山村の頭に殴り掛かかってきました。山村は死の恐怖を感じ、その後失神。強い、強い、強い!宏国、強い!このことがあってから、山村は宏国に一目置くようになった気がします。

萌えに関してですが、萌えがなかったと言う評価が大多数の中…私は思った以上にドキドキしました。山村はゲイです。そして宏国はノンケ。でもインディオの男は嫁取りが大変で、結婚するまで男同士で仲良くするのはよくあることらしいです。最初は宏国がマスターベーションをするシーンを山村が偶然目撃してしまいます。

宏国の肌は浅黒く、細身だけど筋肉の発達した綺麗な身体をしています。何となく宏国を意識するようになった山村。別の日に宏国は、眠っている山村の太股でスマタを始めてしまいます。でも、山村はうとうとしかけていただけで、バッチリ起きていました。だんだんと宏国を意識するようになっていた山村。今度は山村が宏国に同じことをします。宏国は嫌がりませんでした。そしてある夜、とうとう…。うーん、木原先生の作品群の中でも結構エロイ方ではないかなー、などと思ってしまいましたよん…( ´˂˃` )

ちょっと物騒なシーンもありました。山村が売りつけた浄水器をめぐり、ヤクザから付け狙われることになりました。宏国を危険な目に遭わせたくない気持ちとは裏腹に、宏国ともども捉えられてしまいます。しかも!宏国は結局銃弾に倒れます。でも、文明の利器を使われるまで宏国は強かったです。山村を守りたい、助けたい、その一心でヤクザと戦う宏国。痺れました。山村も力はないものの宏国を想う気持ちがすごく強く伝わって来て、怖いけど素敵なシーンでした。

山村は最初こそ半年たったら遺産の分け前を前借りし、宏国を捨てて逃げようと考えていました。でもミイラ取りがミイラ、と言うのでしょうか。山村はいつしか遺産とかお金などいらない、宏国を愛している。彼と一緒なら生きていけると思うようになります。その心の変化が実に良い!私は読みながら何度も感動で心が揺さぶられました。こんな素敵な恋!何遍でも読み返したい作品となりました (*´~`*)

9

BL、といっていいのかどうか

萌えとエロスがないBLでした。
狡い攻とジャングル育ちの野生児受による、一見コメディに見えるけどその枠に当てはめるには微妙な読み口の作品です。

桃色描写はありますが、桃色と表現するのも微妙なラインというか。
とんでも野生児である受の宏国にとっては、性行為は欲望を処理するための一手段でしかないですからねー……。
宏国にとっての性行為に【あいして】という言葉をあてはめさせた攻の山村が、なんとも切ない気がしました。
そのときは何とも思ってなかったのに、宏国という人間に惹かれていった時に【あいして】という言葉を覚えさせた事を、苦々しく思うんですね。
肌を重ねるのに【あいして】という言葉は間違ってはないけど、宏国にとって、彼の生活文化の中でその言葉は意味を持たない。
それがものすごくせつないなぁ、と思いました。

それでもゆっくりと思いを育んでいって、物語のラスト1ページになんだかとても救われました。
たっぷり最後の後書きまで読んでから、もう一度表紙の「無罪世界」という言葉を反芻すると、じんわりと胸が熱くなります。

3

萌えは感じないけれど

なんというか、木原音瀬さんの面目躍如といいますか…。詐欺師まがいのクズ男・山村が、転がり込んできた遺産目当てに厄介な従弟・宏国の面倒を見ることになるところから物語が始まります。

宏国は、言葉も分からなければ文明的な生活や習慣も一切身についていない本当にガチの野生児で、読んでいて山村と一緒にヘトヘトになってしまいました。クソ真面目な文体でとんでもないコメディーを読んでいるような不思議な気持ちになりながらも、最後の数ページできっちりとカタルシスを感じることができたので良かったです。

正直、萌えは全く感じなかったので評価は「中立」です。二人は、肉体関係は確かにありますが、会話する代わりのツール、あるいは宏国にとっては本当にただの性欲処理としての行為のように思いました。長い年月をかけて宏国が言葉を理解し、感情を表現し、山村を愛していてくれますようにと願わずにはいられません。

木原作品は、たとえば人物設定としては普通の、読者がイメージしやすいようなサラリーマンであっても、物語の着地点はどこなんだろう?彼らの辿り着く幸せはどんな形なんだろう?と少し身構えながら読んでしまうので、この作品は尚更でした。

1

ジャングル育ちで話せない受け!トンデモ設定でした!

木原さんは一番好きな作家さんです。
全く予備知識を入れずに読みましたが、設定が私の想像の斜め上に行っててビックリしました。
私には「萌え」の中に分類されるお話ではなかったのですが、木原さんなので何でもOKって言ったらダメなのかもしれませんが・・・(汗)

日本語も話せないジャングル育ちの受け宏国からの視点は全くなく、攻めの山村視点でお話が進んで行くのですが、当たり前なのですが受けの心情があまりつかめず、読み終わっても、山村に対して「好き」という感情があるのかないのか、どちらかというと無いように感じました。
受け攻めどちらも、存在に依存している感じといいますか。
本文中にあった「ペット」というのように飼い主がいないと生きていけないペットとその飼い主のような親心のようなそれでいて違うような。
私の文章から感じる想像力が乏しいのも悪いのかもしれません。
セックスに持ち込むのに「あいして」と教えたからこそ甘いような雰囲気に感じなくもないですが、受けは排泄行為のように感じました。

冒頭で山村と宏国は親戚関係にある説明があったのですが、寝る前に読んでたからなのか、頭が回ってなかったのか、2人の関係性がはっきり分からなくて何度か読みなおしました。

最後落合先生の語りがとてもよかったです。おっさん生きてたんかーーーーってなりました(笑)
2人は南の島で雪は見れたのかなー。

1

木原先生流のユーモアとアイロニーに満ちている

シュールラブコメディ…かな。ハートフルという言葉ももしかしたら入るかもしれません。excitedでなくinterestedの面白さです。

しかしなぜこのテーマを選ばれたのか…未開のジャングル(ブラジル)でインディオにさらわれ育てられた野性児と、詐欺商法で借金を返済する『ひとでなし』男との恋愛って。まずその発想がすごいです。

恋愛、と書きましたが情の交わし合いと言った方がしっくりと来ます。宏国の行動は山村にとってだけでなく読者の私にとっても一部意味不明で、中盤で通訳となる“ヤブ医者”落合さんが登場してほっとしました。解説者がいて良かった。

読み終えて、感想を書くのがとても難しいです。というのも、BLでなぜこの題材?という疑問が、この作品はBLでないとダメなのかな?と読んでいてだんだん思えてきたからです。もちろんBLでないと成立しない交流の形が作中にあることは重々承知しているのにそう思えたのはなぜなのか。※①

よしながふみさんの挿絵ですが、素っ気ないほどさらりとしているのに味と雰囲気があって心憎かったです。(隣人の“ババア”や落合のじいさんの存在感と言ったら。)漫画でしか見たことが無かったので新鮮でもありました。ただ口絵に違和感を覚えました。これは上記した疑問から由来しているのかと。このレーベルに限らず、ノベルスのカラー口絵は大抵エロの山場ですが、個人的にこの小説に関しては終始神妙な心持ちで読んでいたかったせいか、口絵が微妙に萎えポイントになりました。※② 夏祭りのイラストが何とも言えず皮肉でありつつ雰囲気も良く好きなので、どちらかというとこちらをカラーで見たかったかななどと思いました。

①②の『違和感』については、設定が(自分にとって)奇抜過ぎて、BL設定とのすり合わせが難しかったのかな、と結論づけました。

しかしながら考えてみれば、BLも異文化コミュニケーションの一種であるわけです。色々深く考えずに、静かなラストに小さな感動を覚えていれば良いのでしょう。
ただ一つ気になったのは、山村が仁志田に騙されてしまう点です。どう考えても詐欺なのになぜ…と思いました。詐欺師は自分が騙されることには鈍感ということなのか…。

萌えはあまり無かったのですが、『中立』ではこの作品の存在感に見合わないかな…というやや消極的な理由で萌え評価です。

4

木原版 逆ウルルン痛いざい記?

木原設定には痛いはつきものですが、これを一体どうやって料理するのですか?
未開インディオにさらわれて現代社会に溶け込めない青年と、詐欺まがいの仕事で遺産目当ての男のお話なんて。
が、ちゃんと最後まで持って行ってしまう力にもうグーの音もありません。

子供の頃親に捨てられホームレス生活を体験した村山、詐欺まがいの訪問販売の仕事をし、ギャンブルなどに金をつぎ込みいつも金が欲しいと思っている。
そこへ伯父の子供(二歳と時南米でインディオにさらわれ行方不明)の面倒を見るという条件付きで遺産が入るという連絡に、金だけ貰って途中で投げ出せばいいやと、安易な気持ちで引き取る。
隣のババァ(村山いわく)、医師のジジィ(村山いわく)落合、一人だったら気がつかなかった周りの好意に助けられて、原始青年国宏との気持ちを通じた交流が深まっていく。
周囲の助けがあるとはいえ、利己主義な村山がだんだん国宏に影響されるのか本来の人間らしい優しい心を見せるようになる部分が胸を打つ。
BL的部分はどうなの?といえば、愛はあるとは言い難い気もするが、博愛・友愛・人間愛、全てのものに対する愛情を愛というなら、これも愛と言わざるを得ないと思う。
なんといっても国宏は村山がいないと生活できないし、村山も国宏は自分がいないとやっていけないと思っているからだ。
後半、怒涛のごとく急展開が押し寄せ、話は息詰まるものになってきます。
そして最後、感動する結末が。
少し涙が出てきてしまいました。
国宏の純粋さに自分も救われました。
彼らの未来が明るいものとわかり安堵し、自分も彼らを見守っていた一人なんだと気付かされました。

よしながさんのあっさりした絵が、雰囲気にあっていてとてもよかったでした。





4

ラストは、何かすごくいいものをもらったような気がしたよ。

ゲイの訪問詐欺師・山村とインディオに育てられた従兄弟の野生児・宏国
これまたとんでもカップリング。

父親に捨てられ母親に捨てられたという境遇の山村。
いろんな職を転々とし、賭け事に借金、自堕落な生活を送り
浄水器を法外な値段で売りつける訪問販売をしています。
人を騙し糧を得ている山村のもとへ舞い込んだ従兄弟と遺産。
当然、遺産だけ毟り取るつもりで従兄弟・宏国を引き取るのだけど・・・

と、いうお話。

地位や、お金、時間にも捕らわれない
原始インディオ育ちの宏国は“無罪世界”とすると
山村は“有罪世界”なのかな・・・。
“無罪世界”っていうと、なんだか透明感のある色を思い浮かべて
“有罪世界”に、どんどん染まってしまうような儚さかと思いきや
無垢でいることは、とても強くたくましい。

根底にあるのは、とてもシリアスなものだと思うけど
木原さんらしくぶっとんだ設定と展開に
ところどころニヤニヤしたり、ぶっ!と噴出したりしながら読んだ。

木原作品にとっては、いつもながらのw人間として最低ラインの攻めw
読み始めは、こんな男は痛い目に遭えばいいと思って読むんだけど
最後には、こんな男の幸せを願ってしまう自分がいたw
ラストは、何かすごくいいものをもらったような気がしたよ。

5

面白かった

遺産目当てに、言葉も常識も知らないジャングル育ちのイトコを引き取り、すったもんだの挙げ句、結ばれる話です。
木原音瀬さんにしか書けない話です。
ジャングル育ちてw
裸で謎のダンス踊って病気を治そうとしたところなんて、笑いすぎてお腹がひきつけ起こすかと思いました。

主人公は、木原作品によくあるタイプの男です。刹那的で享楽的な生き方しかできない嫌味な男。人当たりはいいのに責任転嫁だけは上手いタイプ。木原さんは必ずそういう主人公を、作品の中でイジメます。これが私、好きなんだよねー。
大嫌いな隣人の小うるさいオバサンに、本当は母性を感じてたこと。鬱陶しい医者に、本当は父性を感じてしまっていること。こういうことが作品中ではっきり書かれるわけじゃないし、主人公は自分のそういう潜在意識に気づかないんですが、読者には分かるシカケになっている。木原さんが上手いと思うのはそういう部分だ。

純粋に萌えを感じるのは難しい作品です。萌えるには、主人公は嫌味だしジャングル育ちの男は奇妙キテレツすぎるし。
でも本当に面白かった。

10

萌えとは微妙に違う不思議なおもしろさ

詐欺師まがいの職業で稼ぎ、賭け事好きで借金まみれの山村の元に転がり込んできた顔もしらない親戚からの遺産。
借金の返済がせまる山村は喜々として飛びつこうとするが、その遺産には大きなおまけがついていた。
幼いころジャングルで行方不明になり、原始インディオに育てられた従兄弟、宏国だ。
ずっとジャングルの奥地で育ち、日本語も日本の生活習慣もまったく知らない宏国の世話をすることがこの遺産を受け取る条件なのだ。
いざとなったら途中で放り出すつもりで彼を受け入れる山村だったが、その生活は予想以上の困難だらけで……

こんな設定の、BL。
何をどうすればここにラブが生まれるのかわからないところに愛を作ってしまうのが木原マジック。
今回も絶好調です。
好きだ嫌いだ以前に言葉がまったく通じず、意志の疎通が出来ない相手だし、そもそも常識というか生活習慣や生きてきた世界観が違いすぎる宏国は恋愛対象以前になにか別の生き物のよう。

主人公の山村はかろうじて共感できる部分がなくもないけど、典型的なダメ人間。
しかし前半彼がダメであればあるほど終盤、彼が弁護士の前で必死になるときの切なさが半端じゃないです。

そんな二人が築いていく心のつながり。
萌えとはちょっと違う気がするけれど、なんか猛烈に愛おしい。

ラスト。他人の伝聞で語られる彼らのその後の話が読みたいような……いややっぱり木原さんだったらこのままで終わってくれた方が幸せでいられるのか、そこが微妙に難しいところです。

5

ミッチー

木原さんの作品では、萌えなくてもイイッと思ってしまいます。

しあわせになってね

思わぬ遺産相続に想像を絶するおまけがついていたので人生が大きく変わっていく男のお話です。

家族に恵まれず17歳でホームレスを味わい、今は詐欺まがいの訪問販売をして暮らしているゲイの山村。
ある日弁護士・有村に呼び出され、父親の兄が死に遺産相続の権利があるが、その代わりにブラジルの原住民に育てられ言葉も何も分からない従弟の世話を引き受けることが条件だと言われます。
無責任な皮算用をし、二つ返事で引き受けますが従弟の宏国は想像を絶するワイルドさで、世話をやいてやらないとご飯も食べられない状態なのにいちいちトラブルを巻き起こします。
手づかみ食べや裸生活、おかしな呪文や歌、力があるので押さえ込むこともできずに暴力を振るわれ、うるさいと隣のオバサンに怒鳴り込まれ、高熱を出して医者に見せれば暴れまくり・・・しかし、そんな生活の中でも少しずつ歩み寄っていく二人なのでした。(山村のお人好しに脱帽。)
ババアババアと言いながらも、隣のオバサンの人の良さに助けられ、ヤブ医者とけなしながらも、ブラジル原住民の言葉が少し分かる落合医師とは飲み友達になり、それまで入れ込んでいたギャンブルも控えめになり、収入は少なくないのに自堕落な生活で借金に追われていた山村の生活態度そのものが少しずついい方向に変わっていくのです。

しかし、それで終わらないのが木原節。最後の最後でどんでん返しされました。仁志田(山村の同僚)よやっぱりお前は・・・です。有村さんよアンタも冷たい・・・。だからなおさら、最後の2ページでボロ泣きですよ。

はぁ、よかった。

そういえば、エッチシーンについて何も感想を書きませんでした。だって、お話のほとんどがすったもんだの生活とそれに関係する道徳的な見解なので、エッチシーンがなくても一向に構わない(それは、あったほうが説得力のある部分もありましたが)精神的な愛を感じられればいいかなと思いましたからね。
生理的欲求のはけ口がどのあたりまでで、恋愛感情を伴うものがどのあたりからなのかははっきりわかりませんが、本編の中のセックスシーンより、この先の二人の幸せばかりが気になるのです。きっと幸せなんだろうなと思います。「あいして」

7

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