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表題作僕たちは昨日まで死んでいた

佐埜
25歳,りくの店の改装に携わった左官職人
月島りく
28歳,おにぎり販売店オーナー

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

絶望に囚われ、死に執着する人間が放つ不吉な甘い香り――交通事故で兄を亡くして以来、「死の匂い」を嗅ぎ取れるようになった月島(つき しま)。「死」を漂わせる人間とは極力関わりたくない…。そう思っていた矢先、経営する飲食店の改装工事で、若い職人の佐埜(さ の)と邂逅!! 精悍で鍛えられた肉体は生命力そのものなのに、なぜかあの匂いを纏っている!? 警戒する月島だけれど、工事後も客として店に現れて!?

作品情報

作品名
僕たちは昨日まで死んでいた
著者
中原一也 
イラスト
笠井あゆみ 
媒体
小説
出版社
徳間書店
レーベル
キャラ文庫
発売日
電子発売日
ISBN
9784199010941
3.9

(37)

(15)

萌々

(11)

(8)

中立

(1)

趣味じゃない

(2)

レビュー数
11
得点
144
評価数
37
平均
3.9 / 5
神率
40.5%

レビュー投稿数11

絶妙なタイトルです

今回は死の匂いを纏う職人とおにぎり店オーナーのお話です。 

受様が攻様と関わった事で偽りの家族関係を正し、
攻様が"死の匂い"から解放されるまで。

受様には死の匂いを嗅ぎとる能力があります。

その香りは不快ではなく、心地いい爽やかさすら感じた為
受様は母から漂う匂いを感じた時に父に話しますが
気のせいだと断じられてしまいます。

その時の母は受様の兄の事故死から情緒不安定で
入退院を繰り返しており、
匂いを感じるたびに死に遭遇するようになった受様は
においの意味を確信するようになります。

さらに母は事故死したのは次男と思い込み始め
受様は兄に庇われて生き残った罪悪感から
母の前で長男を演じるようになります。

現在の受様はおにぎり販売店オーナーとなり
3年かかって居抜き賃貸店舗を改装する運びとなります。

改装の様子を見に言った受様は店舗の様子よりも
職人から漂う死の匂いに機が惹かれる事となります。
この職人が今回の攻様です♪

死の匂いは絶望のあまり喜怒哀楽を失った人、
意味の意識を抱えるあまり自分を殺して生きている人、
これから死のうとしている人から漂ってきますが

20代半ば位の攻様は力強い眼差しで
引き締まった身体には力が漲っているように見えます。

攻様は店のご近所らしく店に通ってくるようになり
個性的な常連客達にもすんなりと馴染んでいくものの
必要以上に関わらないと決めた受様でしたが・・・

死に関係する人を匂いで嗅ぎ分ける受様と
死の匂いを纏う攻様のシリアスタッチの物語です♪

攻様の言動には死の匂いを漂わせる人々のように
死を連想させるところがありません。

偶然から攻様に店のピンチを助けてもらった受様は
次第に攻様に惹かれていくことになります。

攻様も受様に好意を抱いてくれていて
そのまま恋仲になっていくのかと思われましたが
攻様の妹の夫だという弁護士が義兄に紹介されたと
受様の店に来た事から攻様の態度が激変します。

攻様事情が詳らかになっていく事で
攻様の匂いの理由が明かされていくのですが
件の弁護士は攻様の破滅を望んでいて
受様を壊す事で攻様を傷つけようと画策していたのです!!

弁護士をよく知る攻様は受様に事情を伏せて
離れることで受様を護ろうとするのですが
それが徒となる展開でハラハラMAX!!

弁護士の画策が受様の決意によって良き結果をもたらし
攻様が死の匂いから解放されるまで
たいへん楽しく読ませて頂きました (^-^)/

それぞれが抱き続けていた後悔と罪悪感は
亡くした人への向けられた深い愛情と
残された人の哀しみを思うがゆえのものであり
とても胸打たれました。

笠井先生のイラストも世界観にとてもマッチしていて
素晴らしかったです♡

4

目指す夢を復活 生き直す話

笠井先生の挿絵が美麗。りくは寂しげな美貌。
意味不な題名に誘われてしまった

月島りく:おにぎり販売の「そらのテーブル」を経営
人間の諦めと絶望の臭いが分かる。
りくを異能ごと受け入れてくれたのは、佐埜だけ。

佐埜??:
恋人になるまでの筋書きのせいか、佐埜の名は出てこなかった。
「そらのテーブル」改装の左官職人
絶望と諦め由来の死臭を放つ、折り紙作家の卵。

異能を活かして、佐埜を励ますりく。
諦めていた夢をもう一度目指す佐埜からは、もう死臭がしない。

続編は出るのでしょうか? 中途半端な終わり方だと思う。
コロナで絶望が満ちる今世に希望を与えるような、りくが素敵。

※おにぎりの名の由来
=御結びの神様 造化三神「神産巣日神(かみむすびのかみ)」

2

死を匂わせていますが、怖くないです。

死の匂いを嗅ぎ分ける能力のある月島と、彼の飲食店の改装工事に来た佐埜のお話。月島は佐埜の事が気になるけど、死の匂いがずっと佐埜から出ている事でなかなか心を通わせる事に躊躇しています。死の匂いを嗅ぎ分けられるきっかけとなった兄の死と、その後の家族の状態などもあって、人との関わりを深くは持とうとしなかった月島と、やはり、事情があって、人と関わらないようにしていた佐埜。
お互いに身内の死の影を漂わせてずっと話が進んで行きます。心を閉ざして、死の影がチラチラしていて、少しほの暗い感じなのですが、
月島が作るお店のおにぎりの美味しそうな所や、佐埜が得意としている折り紙が、この本を明るい部分として補正してくれます。
月島が抱えていた事情。佐埜が抱えていた事情。それらが段々と明らかになっていきます。そして、お互いをより理解する事で、お互いを恋愛対象として、深く関わって行くことを決心します。2人の抱えていた事情と言うのが、なかなか重苦しい感じでしたが、その悩みを克服する所が、このお話の爽快さでもあります。
そうすると、このタイトルは決して不穏なタイトルではなく、夜明けなんだなと理解できました。
心を殺して生きていた人の心の再生がテーマなんだと思います。読後感はとても清々しい気持ちなります。

1

匂いの意味が変わるとき

死の匂いを嗅ぎ取ることができる青年と、その「死の匂い」を纏う青年とのストーリーです。

死の匂いとは、
今から亡くなる人から香るもの。
絶望の淵にいて感情を失った人から香るもの。
罪悪感を背負い自分を殺して生きる人から香るもの。

りくには亡くなった兄がいます。優秀な兄の死を受け入れず、りくを亡くなった兄だと思い込む母親からその匂いを感じた彼は、母親の前で兄を演じています。

そんなとき。死の匂い纏わせる青年・佐埜に出会います。
死の匂いとは無縁そうな彼と関わっていくうちに、佐埜に惹かれていくりく。そして佐埜もまたりくに惹かれていきます。


りくも佐埜も身内の死に罪悪感を抱えています。りくは兄の死が自分のせいだと思っていて、佐埜も妹を死に追いやった罪の意識に苛まれている。どこか境遇が似た2人が惹かれ合うようになったのは、偶然ではなく必然だったのかも知れません。

タイトルは、そんな2人の状態を表したもの。
「僕たちは昨日まで死んでいた」の「死んで」が何を意味しているのかは最後になって分かります。そしてそれが過去形になってることにも…。
2人にとって良い意味であることには間違いありませんので、ハッピーエンドを期待してよろしいかと思います(^ ^)


りくと佐埜のBLは胸にグッとくるものがありました。ネガティブなバックボーンを抱えた2人だからでしょうか、自然と惹かれていく2人の愛が素敵だなと思いました。
りくの作るご飯と佐埜の手から生まれる折り紙が繋ぐ穏やかでほっこりとする愛がキュンときます。
いつの間にか大きな存在になっていく2人の想い合いに注目です。りく視点からも佐埜視点からも語られているのでとても分かりやすいです。


いい感じになったー!と思ったら2人を邪魔する悪役が登場します。

佐埜の義弟である栗原。コイツが相当な腹黒(おそらくモラハラ夫)ヤローで、弁護士なのにワルです。奴はりくの家の問題にも干渉してきて引っ掻き回します。そうするのは佐埜を苦しめたいからなんですが、とんでもない言いがかり。
栗原は佐埜が妻を追い詰め自殺させたと主張するが、果たして真実は……!?ってところが、この作品最大のハラハラポイントです。
悪役が制裁され、救済に繋がるエンディングはスカッとしますよ!


シリアスなシーンもあったけど、やっぱり2人のラブターンが一番良かったし面白かったです。2人に漂う雰囲気が美しく、また場を盛り上げる下町風情溢れた温かい常連さんたちとの絡みも本当に良かった。

1つだけ引っかかったのは、りくの母親が意外と現実を受け入れるのがアッサリだったこと。
兄の死の罪悪感に苛まれ、兄になりきる度に自分の存在が母親には死んだものとされていた心の傷を思えば、りくが悩んだこの十何年って何だったんでしょう…。

母親にりくの存在を分かって貰えて嬉しいけど、過去の母親の兄弟差別みたいな態度含め悔しい気持ちをぶつけたりとか…新たな親子関係をスタートさせる意味でももう少し見せ場があっても良かったのかなと思いました。

とはいえ。
読後感良しな結末なのは間違いありません^ ^
りくに「死の匂い」と形容された佐埜の匂いが本来の佐埜の匂いに変わり、そしてりくの匂いが移って2人とも同じ匂いを纏わせるような状況が、そう遠くはない未来にやってくるんじゃないかなと期待して読み終えました。


作中の、りくの作るおにぎりの具やおかずがすごく美味しそうで真似してみたいです。
読みながらすんごくお腹空きました〜

9

ツラさと感動とで、目に涙が溜まる

中原一也先生の作品は複数、拝読させて頂き、今作も作家買いさせて頂きました。

個人的、各項目5段階で
シリアス 3
救済 3
不憫 3
涙 2
エロ 1
な感じだと思います。

死の匂いを漂わせた職人×死の匂いが嗅ぎ取れる料理人のカプです。受けの月島りくさんは、いつからか、人の「死の匂い」を嗅ぎ取れるようになってしまった。それは微かな甘い匂い。死の匂いを漂わせる人が命を絶ったり、心や感情を殺したまま生きていたりと、極力関わらない様にしていた。そんな時、お店の改装工事をしてくれた職人の佐埜さん。
まるで太陽を思わせる生命力溢れた鍛えたれた肉体を持つ、攻めの佐埜さんだが、何故か死の匂いを漂わせていた。関わってはいけない。そう思っていた月島さんだったが、佐埜さんがお店に客として来店して以降、徐々に交友関係を築いていくのだけど…。

今作のメインとなる死の匂い。何故、いつから、月島さんが死の匂いを嗅ぎ取ってしまうのか。死の匂いがどう言った存在なのか、月島さんの過去なども併せて色々と詳しく書かれていますので、読み応えや物語りに引き込まれること間違い無しです。
ですが、「死の匂い」なので言葉の通り、そう言ったシーンが度々ありますので、苦手な方は用心してください。個人的に、自ら死を選ぶシーンは辛くて痛々しくて、読んでいて目に涙が溜まりました。

他にも、心を痛めてしまった母親が月島さん自身を全く見てくれなくて、それどころか月島さんが、自身の兄である月島そらさんを演じ続けている姿はとても不憫で心苦しいです。そして死の匂いを漂わせてる佐埜さんの過去も現在も辛くて、脇役キャラの義弟の存在感が凄まじいです。めちゃくちゃ嫌な奴ですね。


肉体的にも精神的にも、少し重く暗い物語りではありますが、月島さんと佐埜さんが徐々に距離を縮め、自分の為にも相手の為にも少しずつ変わろうと進もうとする姿に胸がジーンとして、救済し合う2人の関係に目頭が熱くなりました。
個人的に、年下の佐埜さんが年上の月島さんに、時折タメ口で接する、一瞬で距離が縮まったり佐埜さんの素顔がチラッと見える瞬間が好きです。

少し辛くて重い展開もありますが、救済し合う2人が幸せになる行く末を見届けてください。是非とも読んでほしいです。

2

この作品が収納されている本棚

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