電子限定描き下ろし付き
藤× 升麻
高校時代からの付き合いの升麻と藤のお話。
一冊で、高校時代から10年間にわたる
2人の関係がしっかり描かれていて、
読んでいるだけですごく心地良い気持ちになるのだ。
帯の「穏やかな生活、切ない過去、幸せな2人」、
まさにそのまま。
2人はほんわか穏やかな生活を送っている。
何か特別なことがなくても、
真っすぐに愛し合って、
ただ一緒にいるだけで最高に幸せ。
過去には切ない出来事もあったりして、
その分、その幸せがもっと輝いて見える。
バーで働いている升麻は、
元ホストだったりちょっとチャラっぽいけど、
年下の藤の面倒をちゃんと見てくれる。
藤は書道の先生で、
大人っぽい雰囲気を漂わせているけど、
升麻の前では甘えん坊な一面も見せる。
エッチシーンは多くない、
激しいイチャイチャも少ない。
それでも、
軽いチューをしたり、
升麻が藤の頭を撫でたり、
藤が升麻の肩に頭を乗せたりするなど
さりげなくて仕草や、
やり取りのセリフや、
デートの場所と食事を決め方も、
2人の間にある特別な空気感や愛情が溢れていて、
すごく胸キュンとするのだ。
高校生時代の純粋さと
2人きりの書道部での絆がプラスされて、
彼らの関係がより一層際立っている。
「切ない過去」が
あまり明確に描かれてなくて、少し物足りないかな。
升麻の心細い理由や、藤の苛立ちとか、
空白期間での2人の心理や葛藤に
もっとスポットが当てられてたら、
さらに切なさを感じられたかもしれない。
升麻の帰る場所はいつもずっと藤だけ。
愛しさも、喜びも、悔しさも、心の痛みも、
全部分かり合えて、
お互いを一番可愛い存在として、
大好きな気持ちを大切にして、
これまでの10年間は、
これからの無限を見えてくるもので、
和やかで幸福感いっぱいの余韻に浸っている同棲物語でした。
高校時代からの付き合いで今は同棲している藤と升麻。
ほのぼのとした雰囲気のふたりですが、ここに至るまでの道のりがずっと穏やかだったわけではなく…
好きという気持ちだけではどうにもならない現実を受け止めきれなくなった升麻が一方的に別れを告げた過去もあったりして。
藤のことを好きだからこそ別れを選んだ部分があるで升麻のことは責められないけれど、急に連絡も取れなくなって途方に暮れた藤を思うとすごく苦しくなりました。
別れていた期間は8年という長い時間でしたがその間もお互いに相手への想いを募らせていて、その純愛っぷりにたまらなくキュンとしました。
それぞれに葛藤したり消化できないモヤモヤもあっただろうけど、時間が経つほどにそれも愛に変わっていったんだろうなと感じてすごく幸せな気持ちになったのでした。
現在のふたりの暮らしを追いながら過去の様々なエピソードが回想シーンとして描かれているので、現在と過去のどちらの気持ちもよくわかるような展開になっていてすごく読みやすかったです。
最初の告白シーンを再現しているところはくすぐったい気持ちにもなりましたが、当時の甘さに今も浸れる関係ってめちゃくちゃ素敵だなーとほっこり。
表紙にもなっている描き下ろしのエピソードがものすごく好きでした…!
ふたり暮らしの日々はゆるめで、それほど大きな波もないけれど。
こんな何気ない日常こそ彼らの守りたい場所なんだよなーというのが伝わってくるような、とてもあたたかいお話でした。
書道家・藤×バー店長・升麻
高校時代に1年程度付き合って、8年後に藤が升麻を探し出し、再会。復縁。同棲。
1話が短い上に、ものすごく盛り上がったりはしないので、雑誌掲載時は少し物足りなさを感じていたのですが。
一冊にまとまって、10話プラス書き下ろしを読むと…良いです。とても、良いです。
ひたすら淡々としています。別れも再開も。それぞれ内に抱えた激しい気持ちはあるはずなのに。丸ごと受け入れ、昇華してしまえる信頼関係なのか、愛情なのか、が互いにあるというか。
こと細かく、いちいち説明してくれてないんです(笑)汲み取れよ、という圧力を感じるほどに、まー淡々と、穏やか。
もちろんセックスもしてるけど、日常のセックスです。ラブホも行くけど、恋人の普通です。
気負いも何もなく、自然で。LGBTQでごちゃごちゃしてる昨今ですが、こんな風景が当たり前になれば良いな、と思います。
好きな人同士が一緒に暮らすのって、こんなに温かくて幸せなのね、と改めて感じました。
それから、コミコミさんの書き下ろしがまた良かった。ただの日常会話。ほんとにただの日常会話。狙ってない感じがすごく良い。
家族(夫)大事にしよう、と思ったよ。。
世先生の作品を読むとなんだか胸がぽかぽかとします。
ごく普通の日常が描かれているのだけれど、普通だからこそじわじわと心にポッと絶妙な温度のあたたかさが広がっていく。
幸せという言葉を極力使わずに多幸感に満ちあふれた日常を描くのが本当にお上手だと思います。
今作もとても心地良い小さな幸せが詰まっていました。
藤と升麻は同棲を始めて2ヶ月の恋人同士。
読者が知っていることはそれだけです。
生活のリズムも職業も異なる2人の穏やかでありふれた生活をゆっくりと追いながら、合間合間に2人の出逢いと過去がほんのりと香る。
推しCPを眺める壁か観葉植物になりたいなんて言葉がありますが、この作品はまさしくそんなスタンスで読み進められる作品かもしれませんね。
もう既に付き合っている2人の日常が描かれているだけで、特別大きな出来事は何も起こりません。
でも、ただ目で追っているだけで「ああ、これはいいなあ」と感じるものがある。
ありふれた普通の日常が一番幸せなのかもしれない。
そんな気持ちになる素敵な1冊です。
あまり多くを語らないこのスタイルが私は好きでした。
だって、彼らが感じている僅かな不安も幸せも愛情も信頼も十分すぎるほどに伝わって来るものですから。
書道家の若菜、バー勤務の升麻が、現在付き合って同棲しているところから話が始まる。
過去に高校1年の若菜と高校3年の升麻が付き合っていたことが根底にある2人。
一度別れた事がある2人だが、再会して現在に至る。
生活時間は合わないけど、それでも一緒に居られるときは、のんびり幸せな時間を過ごし、ふたりの関係を必要とあれば明かして、堂々としている。
別れていた間の事はあまり詳しく描かれていない。でも、あえて描いていないのであって、現在の若菜から感じる不安感で伝えようとしているのが、世先生のすごいところだと思います。
そして、人物が発する言葉が、時折心に残る。言葉の選択がとても良くて、作品自体も好きだなぁと毎回思います。