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偏食家のためのレストラン

henshokuka no tame no restaurant

  • 紙書籍【PR】

表題作偏食家のためのレストラン

友光 祐大
27歳、料理人
柳井 千秋
27歳、不動産営業

あらすじ

元同級生・友光と偶然再会した千秋。料理人の彼になんでも希望する料理を作ると言われるが、千秋には愛ゆえの食へのこじらせが!?

作品情報

作品名
偏食家のためのレストラン
著者
海野幸 
イラスト
蓮川愛 
媒体
小説
出版社
二見書房
レーベル
シャレード文庫
発売日
ISBN
9784576250588

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5

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萌々

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中立

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趣味じゃない

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レビュー数
3
得点
55
評価数
11
平均
5 / 5
神率
100%

レビュー投稿数3

自分を大事にする極意

タイトルに惹かれ、蓮川先生の男前攻め×美形受けの表紙に「これは間違いない!」と期待値が高まり楽しみにしていた一冊です。
男前攻めが美形受けにご飯を食べさせる設定、大好きです。

攻めが優しく細やかに受けの「今食べたいもの」を聞き取りして丁寧に作ってくれる描写に、カチコチだった受けの頭と心が柔らかく変化していくのがよく分かりました。最高すぎるよな、このレストラン。

それを受けて、食への意識や習慣が自然と変わっていった受けは柔軟だと思います。時には失敗したり恐れたりしながら、ひとつずつ攻めと共有して歩みを止めぬ成長物語としても素晴らしかったと思います。

表紙絵からは攻めが男っぽさ全開だったので俺様攻めかなぁ(ウキウキ)と思っていましたが、包容力たっぷりで優しく見守り寄り添ってくれる男前攻めでした。
令和の攻めは押しつけすぎない、こういうタイプが多い気がしますね。

「偏食家」というキーワードを「偏屈」のように無意識に捉えてしまっていたのですが、受けの正しい食事へのこだわりは、攻めと関わる内に柔軟に解れていったし、むしろ真っ直ぐで芯があってピュア。
決して拗らせてしまった偏屈な人ではありませんでした。

こだわりの原因も、受け個人の経験としては辛くてそれを捨てられない気持ちもよく分かりますが、家族間の愛情のかけ方や伝え方、そしてすれ違ってしまう経緯に納得のいくものでした。
BLによくある悲惨なエピソードではなくて、地に足の着いたリアルさを感じ、それが良かったと思います。

今作で大切なのは「身体の声を聞く」ということ。
慌ただしい日常の中でうっかり忘れがちになってしまうその行為の大切さを思い出させてもらいました。
こちらを読んでから、「何を食べたい?」と食だけでなく、「何が着たい?」「何が飲みたい?」と自分に聞いてる私がいます。
その時々の自分の小さな望みを満たすこと、大切ですよね。

また、受けが実家に戻ったシーンで「自分の気持ちを言葉にして伝える」大切さがよく伝わってきました。受けの一歩の勇気に拍手を贈りたいし、それを次に攻めとの関係にも活かした受けが素晴らしかったと思います。
実家のシーンは受けの気持ちに思わず共感し、泣いてしまいました。家族の温かさが良かった。

共感しすぎて、告白シーンも受けと一緒にウルっと来ました。
受けが全く気づいていなかった攻めの距離の詰め方と下心に気がついていたのに(笑)
咄嗟の攻めの行動に対する受けの溢れた想いの描写がもう…!

攻めが終始受けのためを思って行動し、なんなら受けのために◎◎になった想いの深さが良かったです。2人の恋の行方も最後まで楽しく読むことができました。

自分を大事にする極意が詰まった素晴らしい作品だと思います。是非。

3

沁みる。考えさせられる。盛大にお腹が空き、心いっぱい満たされる物語

海野幸先生の新刊、お豆腐が繋ぐ恋物語を読んだのは
つい先週のことだと思うのですが、
続けてこんなに素敵な物語が読めるなんて、本当に感激です。

先月の「社長!」シリーズ新刊も、お豆腐のお話も、
そしてこちらのお話も漏れなく全て最高オブ最高だったのですが。

特にこちらの一冊は、刺さって刺さってしかたありませんでした。。
受けの経験が昔の自分の境遇と重なるところがある、というのと、
”甘くて甘い元同級生攻め”が萌えのど真ん中すぎて。


まず、蓮川愛先生のイラストが、神がかっています✨
表紙の千秋(受け)が持っている、大きなくまさん。

こちらが可愛くてそして気になりすぎる!!
…でも、なんでくまなの?

と疑問に思いつつ読み始め…


読んで納得!
まさにまさに、あの”森のくまさん”の歌詞にあるように、
道に迷った女の子を優しく導いてくれる
”くまさん”そのものの攻めでした。

なんて優しくて、ストレートで、包み込むような愛なんだ...
書きながら思い出し泣きしそうです。


物語の主人公は、不動産会社営業マンの千秋(受け)。
「正しい食事」をすることを己に課し、
昼食はいつも決まった定食屋の「A定食」と「B定食」を日替わりで。

それが”正しい食事”だから、好きではない生野菜、サラダを
機械的に口へ運ぶ。

正しい食事ではないから、間食はしない。
会社の飲み会、忘年会にも参加したことはない。

と、かなりこだわりの強い、驚きの食生活を送る人物です。

そんな彼がある日偶然、高校の元同級生・友光(ともみつ←名字です・攻め)と
再会。
料理人をしているという友光に頼み込まれ、
なんと流れで「偏食家のためのレストラン」というコンセプトの
練習台になることになるのですがー

と始まる、元同級生との再会ものです。


序盤〜中盤にかけて、千秋の独白やセリフの中に
何度も繰り返し出てくる「正しい食事」という言葉。

この言葉と、彼の持つ異常とも言えるほどの厳しい食事ルールから、
食に関して何らかのトラウマを持っているんだろうな、ということは
想像していたのですが...

もう、この千秋の”心の傷”となっている出来事、
小学校時代の体験が昔の自分と重なる部分があり、
身につまされてしまって......ホロリと涙が出ました。

(自分の場合は千秋とは違い、ストレスから拒食
→あばら骨が見えるようになってしまい、
それについて色々言われ…...というものだったのですが;)

一番デリケートになる体型についてのストレートな一言、
しかもそれを、好意を持っていた相手からかけられてしまう、
という出来事の衝撃たるや。。

自分が容姿について悩み、苦しかった時期のことを思い出し、
苦しい思いでページをめくりました。

そして意表をつかれたのが、
千秋の体重が増え続ける原因を作ったその裏に、
溢れんばかりの「家族の愛」があったこと。

なんとなく自分の中でもっとこう、
仄暗いトラウマ(家族から愛されなかった、というような)なのかな...
と想像していたため、それとは正反対の
愛ゆえに・愛があるのにすれ違ってしまう切なさに、
より胸を締め付けられました。

実の母親からの愛と、義父(母親の再婚相手)の母、
つまり千秋にとっての(血の繋がらない)祖母からの愛。

友光との週に一度の交流、そして風邪で倒れた友光を看病し、
自炊をしない千秋が初めて知った
”誰かのために料理を作る”行為に込められた思い、その手間と大変さ。

そこに気付いた千秋が友光の言葉に背中を押され、
5年ぶりに実家へと帰り祖母に「ありがとう」と告げるシーン。
…もう、ここ、夜中にひとりぐずぐずと泣いてしまいました( ; ; )

千秋と会話を交わしながら紅茶のカップを握る
おばあちゃんの手が、震えてるんですよね。緊張で。。

そんな祖母の様子を見て、昔の自分の言動を強く後悔し
言葉と態度で、感謝を伝えた千秋。頑張ったね…!
(もう誰目線か自分でも分かりませんが、褒めてぎゅっとハグしたい)

そんな千秋の変化・気付きが、不動産営業の内見での
一言に表れたシーンもまた、印象的でした。

キッチンの機能説明をするのではなく、
”こんなふうに明るい日差しの差し込む部屋で
みんなで食卓を囲めたら、幸せですよね”と自然とこぼれた言葉。

もう本当、序盤の無機質にも見える千秋からは
考えられないほどの変化じゃないでしょうか。


さらにさらにグッとくるのが、
千秋に気付きをもたらし、救いとなった友光の方もまた、
千秋によって救われているということ。

笑顔で自分の料理をやっとやっと(8年越し!)食べてくれた
ことで、料理人として仕事への意欲を取り戻すー

で、そこに萌えを畳みかけてくれるのが、
高校時代からずっとずっと、千秋のことを
”特別な目”で見てたんだよ、という友光の告白です。

もーーーーーこんなのって、こんなのって、運命だよね!
と夜中にひとり内心、萌え転がってゴロゴロしていました(*´◒`*)

二人が初めて抱き合う描写もまた、蕩ける甘さでした。

たった一人のために、じっくり丁寧に聞き取りをし、
メニューを決め、丹精込めて料理を作るように。
時間をかけて千秋の体も心も開いていく友光...好き...

”食べる”ということ。
何かを食べる時、そこには「作る人」の愛が込められている、ということ。

そんなことをあらためて見つめ直しながら、
お腹が空きすぎてマンゴーゼリーを食べてしまい、
罪悪感と共に「ま、いっか」「明日の食事で調整しよう」
と思えた夜でした(*´艸`)

3

人生のソウルブック

食事が本来どのような意味を持つのかということに気付かされた啓発的な側面と、家族との間に燻っていたわだかまりが解けていくヒューマンストーリーな側面とにアプローチしていく物語展開にただただ感動……
食事に悩みを抱える全世界の人たちにぜひ読んでもらいたい至高の一冊でした。


「正しい食事」とは、人によって捉え方が違うものです。
正しい、正しくないの概念は意識次第で変えられるということ、正しい食事と楽しい食事は違うこと。……ハッとしました。
海野幸先生の奏でるストーリーは、恋愛の枠外におけるお話の濃さもそれなりにあり、しかも話がめちゃくちゃ素敵なもんだから、ものすごい読み応えを感じます。
ストーリーの中に秘められたメッセージ性を強く感じる見せ場作りにも圧倒されました。

美味しくもない食事を、"正しい"からだと淡々と食する千秋。彼は私がこれまで出会ったことのないタイプのキャラクターでした。
少しクセのある性格で、何かを抱えているワケアリ感が妙に気になってしまうユニークな人物像。食べる楽しみやワクワク感のない規則的な食事の仕方には、病的なものを感じます。
千秋の場合、食事は"食べる"じゃなく、"摂取する"といった方が良いのかも知れません。食事行為に対する気持ちの温度感が一切感じられないんですもん。
そんな変わった食事をしている千秋の懐にそっと入ってくる同級生の友光の存在が素晴らしくて、食事に対するリスペクトがとにかくアツい。千秋に食事の大切さを教えてくれる我儘メニューの追求も、食への持論も、彼の発するセリフ一つ一つが沁みました。

食の大切さは家族の関係にも繋がっていき、千秋のトラウマの元凶にも迫っていきます。
千秋が"正しい"食事をするようになった経緯やトラウマ、母親への吐露、そして家族への感謝……千秋だけじゃない、千秋の祖母や千秋の母の想いも全部乗っかってきて、最後には涙がホロッと出てきました。
千秋の姿を通して見えてくる家族の真実の想いが優しくて、温かくて、食事が苦痛であったことの記憶が塗り替えられていく救済の側面には感動しかありません。

食の大切さが骨子にあるストーリーに、再会で芽生えていく想いとが掛け合わさって、最高の作品でした。
わたし個人の人生のソウルブックにしたいくらい大好きな作品になりました^ ^

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