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木原音瀬さんの作品ですが、痛いとか胃がキリキリするとか、そういうのじゃないです。し、しかしコレは…めちゃくちゃ普通、普通だけど普通じゃない。
なんじゃそりゃ、ですが、この受けのオジサン、おじさんなんです。BL小説に出てくる場合「オジサマ」なはずなんです(笑)
決して社長でも士業でも医者でも大富豪でも、そして組長でもない!
仁賀奈は51歳の経理部部長。いやぁ、自分より歳下なんですが!確かに周りはこういう感じが普通かも。鈴木ツタさんのイラストが秀逸。
しかし攻めの福山はなぁ。何がどうなってこうなった!
この物語で一番は、仁賀奈が福山をふる、というところ。流されて、それでも好きな人を思い続けていて、なのに福山との関係もずるずると続けていた。それを終わりにするためにキッパリ別れるんですが、福山の方は遊びから始まったのに仁賀奈に愛情を持つに至ってしまった。その歪な、常識的には逆だろ?って思う状況をうまく組み立てられていて、それがこの作品の肝なんだろうなぁ。
福山がクソカスな男であるところも。痛い目に遭ってる時には、ざまみろと思うんです。それが50過ぎのおじさんに真面目に愛を感じちゃうところがね。
最後は良かったやん、て言ってしまう不思議。
ま、仁賀奈もそこそこくわせモノですが(苦笑)
そして熱のある、燃え上がる愛情じゃなく、ゆっくりとした好き、という気持ちが芽生えるシチュエーションがストンと腑に落ちるのが良かった。
この後の同人誌をどうしても読みたくなったなー。
50歳のおじさん受けに興味があってもなくても最後までしっかり読める作品。
おじさんがストライクゾーンにない私は木原先生作品のおじさんに何度も夢中になってきましたが、やっぱり今回もでした(笑)
ずっと独り身だった仁賀奈が若い男に偽りの愛を囁かれ本気になったところで手酷くフラれたらどうしよう…年下に弄ばれるおっさんが可哀想すぎる…なんて初期の私はビクビクしていましたが、違いました。
まったくの逆でした。
でも自分から誘った待ち合わせをわざとすっぽかしひたすら待ち続ける仁賀奈を観察していた福山のことは忘れない。ほんとそういう性格悪いとこ好き←
それにしても、仁賀奈の本心には驚かされました。
でも言われてみれば確かに…な点がそれとなく散りばめられていても、それを受けた福山視点がうまい具合にぼかしていていやそんなまさか状態でした。
さすがです。
これまた先生らしさあふれる作品なので、そこ目当ての方は満足できると思います。
いいなぁ、年齢差のある恋愛やバディものが大好きなので凄く楽しませて貰いました。
映画でよく見かける歳の差の恋愛ものの多くは、歳上が歳下の美しさや才覚に惚れるものが多いと思います。この作品はその逆、歳下が不覚にも歳上の同性、しかも同じ職場で、しかもイケオジでもなくこれといった特徴のないおっさんと…⁉︎それがどういう風の吹き回しで好きになって、どう展開するのか設定で既にワクワクしました。
見た目どこまでもパッとせずハッキリと自分の意見を言わず誰とも関係を持ったことの無い50代の仁賀奈。遊ぶつもりが自分の方が夢中になってしまい、大火傷をして弱る30代の福山。
それぞれ情けない人間の様子を容赦なく炙る木原さんの筆力が本当に好きです。惨めで情けなくてもその人が愛おしいし、好きになってしまうと情けなくて惨めになってしまう恋愛、おっさんが相手の作品だろうが純粋さが堪りませんでした。
仁賀奈が入院した時のエピソードなんていじらしくて切なくて泣けました。自分からの物だと知れば受け取らないが、彼女からの差し入れなら喜んで気持ちも和むだろうと、福山に今までなかった他利的な考えがようやく生まれてきた兆しが見える。ついでに社長妻に「彼が今好きな人がいるなんて嘘です」とまでは言わないところ彼らしい(笑)
“ たとえそこに真実がなくても、思い込みでも、自分が贈ったものを大切にしてもらえるなら、それで少しでも気持ちが和むなら、あげた意味があると自分に言い聞かせた。
花束を喜び、嬉しそうに顔を近づける仁賀奈を想像する。もしかしたら、自分よりも愛されて幸せにされるかもしれないと思うと、途端に息苦しくなった。花になりたいなんて馬鹿みたいなことは思わない。だけど一度くらい本気で好きだと想われてみたかった。”
福山の自己中心的な傲慢さに「痛い目見ろー!」と思いながら読み進めるのですが、彼のそんな面がどんどん埋もれ、余裕がなくなっていくのが面白いです。嫌な主人公だったはずなのに、福山目線の仁賀奈の恥じらいや丁寧な受け答えに「いいわ…」と思わず共感しちゃうし、追い詰められれば「がんばって…(もうどうしようもないとは思うけど…)」と応援してしまいます。情けなくても自分をさらけ出すって王道だけど一番強いし感動します。
そして挿絵がお話のタイミングやイメージととても合っていて素晴らかったです。
あとがきも笑いました。「おじさまが好きです。数年前からその兆候には気付いていたのですが…」
住宅リフォーム会社に勤める30歳のゲイ・福山は、ある晩、酔った勢いで、20歳も年上の経理部長・仁賀奈と関係を持ってしまいます。仁賀奈はゲイでない上に童貞。主導権がある心地よさと、ウブな仁賀奈が見せる反応が新鮮で、福山は仁賀奈にどんどんはまっていきます。携帯電話を買い与え、部屋も自分好みのお洒落な家具に変えさせ、強引に仁賀奈のアパートに同棲を決め込みます。
ところが、社長夫妻が離婚の危機に陥ると、仁賀奈は福山に別れたいと言い出します。自分は社長の妻を学生時代から好きで、今は支えてあげたいのだと。福山と寝たのは可哀想だったからだと。ショックを受ける福山。自棄になり男漁りをしますが、やっぱり仁賀奈を忘れられなくて。社長夫妻がよりを戻したと聞き、風邪で寝込む仁賀奈の見舞いに行くと、社長の妻が訪ねてきて、福山は嫉妬から仁賀奈の気持ちをばらしてしまいます。決定的な決裂。体調が悪化し入院した仁賀奈を福山は見舞うことも出来ず、でも何かしてやりたくて、身の回りの世話をしている社長の妻に毎日見舞いの品を託します。
やがて退院した仁賀奈が、今度は風邪で寝込んだ福山を訪ねてきて‥。
福山がどんどん仁賀奈に夢中になっていくのが、読んでいて楽しくて。俺は遊びだけど向こうは本気でさ、なんてゲイバーのマスターに話すのが、また可笑しくて。イケメンのモテ男が、地味なオジサンに恋するなんて、すごく夢があります。
誕生日に花束と携帯電話をプレゼントしたり、部屋を模様替えしてやったりと、福山はかなり甲斐甲斐しいです。携帯ショップで親子に間違われたのが愉快だったからと、福山がベッドの中で仁賀奈に「お父さん」とからかうのは、酷いと思いましたが。これでは、本気ではないと仁賀奈に思われても仕方がありません。
でも、仁賀奈も福山のことを結構好きじゃないかなと思いました。福山の誕生日を夜になって思い出してマンションまで走ってきたり、キスをせがまれたら首に両腕を回して口づけたり。少しも好意がなかったら、できないと思うのです。
だから、別れ話で揉めたとき、仁賀奈が「私は福山さんのことを好きではありません」と言ったのが、信じられなくて。長年の片思いにとらわれて、自分の気持ちに気付かなかったのでしょうね。
最後の最後、仁賀奈が福山の見舞いに来て、互いに気持ちをぶつけて、やり直すことになったときは、本当によかったと思いました。この時の二人のやりとりが、心が震えるほど切なくて。
仁賀奈の言葉は感情が抑制されていますが、だからこそ隠れた想いの強さを感じます。「私はいつも気づくのが遅い。」「毎日届けられる福山さんの気遣いが、嬉しかった」。ウブで情熱的なことは言えないけれど、そういう不器用なところが福山にとって、たまらなく良かったのでしょうね。
たくさんの恋愛経験がある福山が、仁賀奈に縋って「ここで死ぬ」という場面もドキドキしました。恋愛って、本気になればなるほど、不器用でみっともなくなるのかもしれないなあ、と思いました。きっと、そういう恋の方が、そつない恋よりもずっと記憶に残る気がします。自分を振り返ってもそう思います(笑)。
仁賀奈の趣味はバードウオッチング。福山と仁賀奈が二人で野鳥を見に山に行く場面が、とても好きです。鳥がなかなか姿を現さないので、仁賀奈が草の上に寝転んで待機。一緒に横になったら眠ってしまった福山を仁賀奈が手を握って起こすのですが、仁賀奈の穏やかな優しさが感じられて、心が温かくなります。きっと二人は、こんな風に自然体で寄り添っていける気がします。
福山は仁賀奈と話したくて鳥の本を買うのですが、好きな相手の好きなことに関心を持って世界が広がるのが、とても素敵だなと思いました。
タイトルの「Now Here」は、今ここに、という意味でしょうか。ラストで固く結ばれた福山と仁賀奈のことでもあり、二人の末長い愛も感じられる、素敵なタイトルだと思いました。
普通、年下攻め×おっさん又はオヤジ受けのお話しを描写する場合、どんなに攻めと受けの歳が離れていても、それ(年齢)がハンデにならないくらい"光る何かを持っている受け"という風に描写されることが多いと思います。
何故ならそういう設定がないとどう頑張っても、年若い男と中年男(いや、ここではあえて半世紀男と言わせていただきます)が恋愛に発展することなんて、あり得ないですから。
でもですね、本作の受けはその"光る何か"が微塵もないんですよ。
もういっそ、別作品のオヤジ受けの爪の垢でも煎じて飲ませたいくらい、魅力がない。
仕事ができるとかこの上なく優しいとか、顔立ちが整ってるとか攻めに対して一途だとか、はたまた攻めとは幼少期からの繋がりがあるとか……
そういったものが、一ッッッッ切ない!!それどころかマイナス点ばかりである!どうやってもこの二人は恋愛に発展しようがない!!以上!!っていう、二人がですよ。木原マジックにかかると恋愛に、なるんですね〜…これが。
福山は、遊びで始めたはずの関係に知らず知らずのうちに本気になってるんですけど、その流れに不自然さもなく…
自分自身、いつのまにか、なんの魅力もない仁賀奈に、福山同様グイグイ惹きつけられてるんですよ。
ぶっちゃけ仁賀奈(受)なんて、道端の小花どころか、枯れ草ですよ枯れ草。他の人だったら目に留めるどころか踏んでることにも気付かないような枯れ草男に、夢中になって愛を捧げる福山(攻)が途中、滑稽で滑稽で………めちゃくちゃ美味しい展開でした。不憫攻めは良いなあと再認識。
そして、終盤になって完膚なきまでに叩きのめされる福山は哀れですらあります…ホロリ
序盤の福山は確かに嫌な奴だったのに、途中から福山を全力で応援したくなっているミラクル。
ほんと、自分は不憫攻めが好きなんだったんだな〜と思いました。
先の方もレビューで仰っているように、木原節が炸裂しています。
未だ嘗て、受けのことを
シーラカンス男
仏壇に飾られる落雁みたいに食欲をそそらない中年男
などと表現したり、攻めが受けを抱いた後に
「俺から半世紀の匂い、しない?」
などと言って馬鹿にするような作品があっただろうか。いや無い。
常人では思いつかないような表現の多様さ絶妙さに、自分は絶対、作家にはなれねえなあ。と唸った一作でもありました。