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沙野先生にしては少し回りくどいというか、説明的な文章が多く、読むのに苦労しました。
あとがきを読んで納得。デビュー3作目の作品を文庫化したとの事。
エロシーンもいつものいやらしさが感じられずさらっと終了。
そんな時代のお話でした。
ですが、攻めの魅力がたっぷりとあり、これはこれで楽しめました。
丁寧語(攻)は結構、萌えます。
終始、シリアスで暗いシーンばかりが続くのですが読後感はよかった。
最後、二人が幸せになる予感がたっぷりとあり、明るい未来で終わりました。
SSの二つもよかった。また読み返そうと思います。
5年だって文庫化で再販なんて、結構短いスパンかも知れませんね。
舞台は上海、黒社会の幹部で、二大組織の一つ千翼幇総帥の次男の攻め様と
子供たちに武術を教える受け様との互いの傷で出来た空洞を埋めるような愛です。
受け様は貧しいながらも子供たちに武道を教えながらたった一人の肉親の妹と
二人で生きて来たのです。
しかし、黒社会の黒爪幇の人間で緋牡丹の刺青のある男に妹が殺されたことで
仇を討とうとし、逆に命を狙われ重傷を負いながら逃げた時に攻め様と知り合う。
マフィアから逃げたつもりが別のマフィアの世話になる事に・・・
自分を助けた攻め様の素性を思い出し、助けられたお礼も迷惑をかけた侘びすら
言えない程、黒社会の人間に憎悪をむき出しに、しかし威圧的なオーラに蹴落とされ
妹の事を話してしまうが、そこで攻め様に手助けをしてやると、その代償は受け様の
身体だったのです。
妹への復讐を叶えるために攻め様と共にいる事になるのですが、身体の関係を
持ち始めて、その時だけは妹を失った苦しみから逃れられる受け様。
そして次第に妹の事より、攻め様の事を考える時間が多くなってくるのです。
でも、攻め様も受け様よりも壮絶なトラウマ的な過去があるんですよね。
その時の出来事で、攻め様はどこか感情が麻痺して、心の一部が死んでいるのです。
重症度は攻め様の方が断然重いのです、人を思いやる気持ちも愛する気持ちも
全て失ってしまったような攻め様で、己自身でさえ大事に出来ない感じなんです。
でも、受け様と出会った事で、攻め様にも変化が、そして受け様は悲しむ事すら
出来なくなった攻め様の代わりになると、泣けない攻め様の為に涙するのです。
二人を不幸にした相手組織の人物は深い関係に有る事も解ります。
むしろ出会うべくして出会った二人のようでした。
甘さよりも切なさや痛みが前面に出ているお話ですが憎しみや悲しみを乗り越え
前に進んでいくような話でもありました。
妹の自殺の原因が、黒社会組織「黒爪幇」(ヘイツァオバン)の人間によるものだという事実を知った蒼(ツァン)は復讐を誓います。そして偶然出会った「黒爪幇」と敵対する組織「千翼幇」(イーチェンバン)の幹部であり、貿易会社のトップを務める零飛(リンフェイ)が蒼の復讐に手を貸すことになります。蒼は零飛のお気に入りとして秘書にさせられ、身体までもいい様に扱われてしまいます。始めは復讐を手助けしてもらうために仕方なく身体を繋げていた蒼でしたが、次第に零飛が自分に飽きてしまう事を恐れるようになります。
蒼と零飛は復讐と利害関係の一致で繋がっている関係なのですが、その後蒼は徐々に零飛に惹かれて行きます。前半の展開は、復讐をモチーフにした作品の中では比較的王道パターンという感じの流れだったので、あとはどういうきっかけで蒼が恋人へ昇格するかだな…と思っていたのですが、中盤で零飛の過去のトラウマが明きらかになることで王道パターンの中に一味違った展開が加わってきます。
肉親を亡くした傷を抱えているのは蒼だけではなく、零飛も過去に同様の経験をしており、二人は同じ闇を抱えている同士だったことが分かります。復讐を手助けする代わりに身体の関係を続けそのうち愛情が芽生えて…という、ある程度予想できる馴れ初めで終わらず、零飛の過去のトラウマを絡ませたことで蒼に惹かれっていった理由に説得力が出ていたと思います。
また第一秘書として零飛をずっと支えてきた張(ジャン)の存在もいいアクセントになっていました。零飛には義兄がおり、弟の出来の良さに嫉妬を感じ常に零飛に対しては横暴な態度を取るのですが、いつでも義兄を追い落とせる立場にありながら理不尽な命令にも一切逆らわない零飛に張はもどかしさを感じ、それではいけないと言い続けて来たのですが、結局は零飛を変えることは出来ず後から来た蒼にその役を奪われてしまいます。結局張は零飛の中に踏み込むことが出来なかった訳ですが、それは闇を抱えている者(蒼)といない者(張)の違いという形で書かれていて、そこでも更に蒼を印象づける効果になっていました。
同じ闇を抱えた二人が一緒になるということでしたが、過去に縛られたままでお互いの傷をなめ合うような閉塞的な関係で終わるのではなく、二人ともちゃんと次の一歩を踏み出すような変化をしているので、むしろ前向きで明るい印象のラストになっていました。一捻りある展開により読み応えが感じられましたし、セリフは常に丁寧語なのにドSオーラがムンムンという零飛(零飛様!と思わず呼びたくなる)のキャラも素敵で楽しめました。