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Q&Aで話題になりましたので、以前自分のブログにアップしたレビューを転載させていただきます。
「窮鼠はチーズの夢を見る 」「俎上の鯉は二度跳ねる」をまとめてのレビューになります。
(結構危険意見なので、以下、地雷発動ご注意!)
もしも、自分の彼氏にゲイが真剣に惚れてしまったら?
を、想像すると女性としてはかなりの恐怖だと思う。
もしも、自分の彼氏にゲイが大真面目にモーションをかけてきたら?
これはもう太刀打ちできないんじゃないかなあ。
だって、テキは男性の心をよくわかっているだろうからかゆいところに手がとどくようであろう、性的快感もよーくわかっているだろうから至れり尽くせりだ。
はっきり言って勝ち目がないんじゃあないか?
ま、男性の大半は遺伝子レベルで「ホモが嫌い」らしいので、こういう心配は現実にはあまりしないと思う。
だが、女性とゲイが恋愛で同じ土俵に立つことを仮定すると、相当のド修羅場が展開されるであろうことが想像できる。ストーリーテリング的にはおいしい展開だ。
しかし、私が知る限りBLで、こういう作品はたぶんほとんどない。
BLの読者の大半が女性なので、女性がリアルに戦慄してしまう作品は、なかなか書けないのではないだろうか。「あったら、おもしろいだろうに」と、常々思ったいたら、「窮鼠はチーズの夢を見る 」「俎上の鯉は二度跳ねる」 を読んだ。
まさにそういう作品である。
この2冊はBLとして評価が高かったのだが、「BL」と言い切っちゃっていいのかは、ちょっと疑問だ。
BL=女性向けの同性愛ファンタジーと定義するなら、その範疇を越えてしまうのだ。
初出はレディコミだったそうだ。
主人公・大伴は、ノンケであるが、女性関係が来るもの拒まず去るもの追わずで、2冊のコミックスの中で都合4人の女性と関係している。妻・不倫の同窓生・元カノ・職場の部下の新人OL。「女性のテキ」呼ばわりされておかしくない状態である。
しかも彼なりにはそれぞれの女性に誠意をもって対応しようと努力しているところが非常にタチが悪い。
女性キャラがたくさん出てくるということは、どの女性キャラも魅力的に描かれており、相当にしたたかだ。
彼に恋するゲイ・今ヶ瀬と直接対決するのは、元カノの夏生だけだが、彼女が大伴に復縁を持ちかけるところの台詞
「…ちょっと長いケンカが終わったって考えない?」
上手すぎて思わずのたうちまわってしまったくらいである。
ゲイの今ヶ瀬は大伴の大学時代の後輩で、調査会社の調査員。大学時代は大伴に切ない片恋をしていたが、大伴の結婚後の女性問題を「奥さんにバラシますよ」とネタに関係を脅迫してくる。
脅迫から始まった大伴と今ヶ瀬の関係は加速度的に進んでいき、「まだ、この上ヤバいレベルがあるんかい?」と、次へ次へと進んでいく。
登場人物の誰もが善人でも悪人でもなく、「この人が唯一の運命の人」というBLのお約束はまったくない。
最終話まできて、
「結局、恋愛って何なんだろう?」
との命題にまでたどり着き、それでもまだまだ人生は続いていく予感をさせて終わるラストに、感動を覚えた。
こういう話は純文学のジャンルになるかなと思っていた私を、軽く裏切ってくれた。
私がBLにハマるきっかけとなった作品。
新装版にはレビューしてなかったので、しておこうかなと思って。
この作品、携帯の電子書籍サイトからも購入してるし、旧版も新装版も買ったし、ホント何種類買わせるんだよぅ!と思います。(自分がやったことですがw)
なにげなく読んで、めちゃくちゃハマったんだよね。
BLにまったく耐性がなかったこともあって、私は恭一の反応は当たり前だと思いながら読んでいた。のちにBL界にどっぷり足を踏み込み「BL界でのノンケはやすやすと男に落ちる」ことを知り、恭一の腐女子人気の低い訳が分かったような気もしたけど。
もちろん私も心情的に強烈に今ヶ瀬に惹かれた。心から彼を応援し、彼のために心を痛め、彼のために泣いた。でも客観的に見れば、今ヶ瀬という男は「妻帯者に横恋慕し、脅して関係を強要する」人間なのだ。
かたや恭一は、「妻がいながらも、ふらふらと愛なき不倫を繰り返す」人間。
まあどっちもロクな人間じゃないw
ただ(これもBLをたくさん読むようになって分かったんだけど)、今ヶ瀬の悪行の動機は「恋愛感情」なんだよね。腹黒なのも粘着なのも恋ゆえ。だから多くの腐女子は今ヶ瀬を許し、いや、許すも許さないも最初からなくて、それが動機なら(あえて極論すれば)「善」なんだろうなと。
BL界における恋愛感情は正義なのだ。そしてそれは、目に見えないBLルールだったりする。
翻って恭一が流され侍をやってる理由に「愛」はない(厳密にいえばあるんだけどね)。でもそれは「悪」なのだ。だから人気がないんだろうなと。
私はそんな恭一が好き。
恭一の柔軟さが好き。彼は相手しだいでどんな形にもなる。だからといって自分がないわけじゃない。
本質的な部分で強靭な優しさや寛容さを持っている人だ。
続編の『俎上~』も含めて、恭一は繰り返し今ヶ瀬に重要な言葉を投げかけるんだけど、本質的な部分を今ヶ瀬は分かってなかったように思う。
このへんのズレの描き方、読めば読むほど秀逸で、水城せとなさんの神っぷりが出てると思う。
『俎上~』の恭一の最後のほうの言葉は、今ヶ瀬に理解してもらうことへの諦めのように感じる。分からないなら分からないでいい、でも俺は分かってるし、分からないお前をまるごと愛してやろう、という決意だろうなと。
やっぱ気合いはいって書くと文字数が足りなくなる。
ともふみさんとは好きな作家さんの趣味が本当に似てますもんね。つまり解釈の仕方も似てるんじゃないかなとじつは私、勝手に思ってたりしますw
そのうち私もレビューしますが、交渉人シリーズの新作のともふみさんのレビュー、めちゃくちゃ頷きながら読んでました。もどかしく感じた部分がまんま同じだったもんで。
『窮鼠~』は数年前、ハマった直後にありとあらゆるサイトやブログで他の人の感想を読み漁ったんですが、恭一のあまりの人気のなさにへこんだ記憶がw
恭一、大好きだ!
もちろん今ヶ瀬も大好きだ!
なにより水城せとなさんが大好きだ!
こんばんはむつこさん。
作品&キャラへの解釈にびっくらこくくらいシンクロ……というか、うまく言葉にならなかった部分を文章にしてもらえてスッキリ。ありがとうございます。10回くらいボタン押して、レビューを以下同文に直したい勢いでまるっと同意!
同じく恭一の人間性が好きです。やっぱり少数派なんですねー
ズレを抱えたままの平行線なラストも、リアルな分重みがあってめちゃくちゃ好きです。
ああ~早寝するつもりが、レビューに触発されてひっぱりだしきて読んでしまったじゃないですかww
◆あらすじ◆
人あたりが良くてモテるけれど、いつも相手に流されるばかりで、自分から相手を求めたことがない大伴恭一(30歳)。
そんな大伴が、7年ぶりに再会した大学の後輩・今ケ瀬渉(28歳?)に大学時代から好きだったと告白され、浮気をネタに脅されて、関係を迫られるハメに。
同性愛なんて到底考えられないはずなのに、何故か今ケ瀬との関係にも居心地の良さを感じ始める大伴。
妻・高校時代の憧れのマドンナ・一番長続きした元カノという最強とも言える女たちと、ゲイの今ケ瀬を天秤にかけながら、「流され侍」・大伴が、同性愛、ひいては愛情というものの本質と向き合います。
◆レビュー◆
初出はレディコミ誌という、異色BL。
テレビをつければギター侍が残念な世情を小気味よく斬り捨てていた、あの頃の作品です。
少女マンガ的な画風が苦手で敬遠していた作品なのに、読み始めたらあっという間に魅了されていました。
私の手許にある本は、なんと新装版の16刷! でも、これだけ多くの人に読まれているのも納得です。
この作品の受け・大伴は、ある種の残念な男の典型のような人物。
大伴と同じような残念さを持つ男って、結構多い気が…ひょっとすると彼は、残念な男の典型というよりも、男というものが本質的に持っている女にとって残念な特性を、凝縮したようなキャラなのかもしれません。
大伴を通して男の本質に鋭く斬り込んだところに、この作品の面白さがある気がします。
この作品の中で、大伴の心理を容赦なく暴いていく役目を演じるのは、今ケ瀬です。
今ケ瀬は常に大伴自身よりも先に大伴の心理を読み、それを明快な言葉で読者に伝えてくれます。
「「駄目」って言う割に貴方はいつも無防備だ (中略)それってもしかして貴方なりの「YES」なんですか?」
という調子。
恋をして相手の気持ちが見えなくなる…というのが恋愛ものの定石だとすれば、今ケ瀬はかなり定石破りのキャラ(自信家キャラはベツモノとしてwです)だという気がします。
恋の当事者の心理の解説は、普通なら彼の相談相手などが担う役割。
そういう第三者的な役割も果たしつつ、一方で恋の当事者として大伴の煮え切らない態度に苦しむ今ケ瀬は、一歩間違えば自己矛盾を起こして分裂してしまいそうなキャラなのですが、逆に今ケ瀬のそんな危うい二面性こそが、他にない魅力に思えてしまう。
そこは水城さんの類いまれなバランス感覚のなせるワザでしょうか。
レディコミ作品という成り立ちのせいか、一般的なBLに比べて同性愛のハードルが高いのも、この作品の特色。
今ケ瀬は、大伴は本来女性のもの、仮に自分が大伴と恋人関係になれたとしても、それはあくまでも一時的な関係…と「弁えて」いるんですよね。
とても雄弁な今ケ瀬ですが、彼のスタンスはあくまでも待つ身なんです。
言ってみれば愛人体質。そんな今ケ瀬がけなげで、BLに慣れきった私には新鮮。
そして、それが愛情なのかどうかも分からないままに、今ケ瀬に対する執着心に目覚めていく大伴も、いつしか愛おしく思えてきて。
初めて自分から求めることを知った大伴も、そんな大伴の態度に、ますます深みにハマっていく今ケ瀬も、エロい。ものっそいエロいです。
非常にセリフが多い作品ですが、とにかく言葉のひとつひとつが磨き上げられたように的確で洗練されてることに驚かされます。
マンガというよりも、シナリオ。
絵も魅力的なんですが、圧倒的に言葉が光を放っている、マンガとしては稀有な作品だと思います。
惜しむらくは受けであってほしかった今ケ瀬が攻めだったという・・・
でも・・・あー、なるほど。
というわけで、私と同じ不満を抱いた方には、ぜひ続編「俎上の鯉は二度跳ねる」を読むことをお勧めします。勿論そうでない方にも。
ジタバタふらふらする恭一の往生際の悪さは、昔読んだ時はたちの悪い単なる優柔不断ぶりに映って仕方ありませんでした。
俎上の鯉での恭一の台詞に「俺がどんな思いでいたのかゲイのお前には絶対にわからない」とあります。(続編とはいえ違う本から抜粋するのは邪道だとは思いますが、新装版ということでご容赦を)
恭一が今ヶ瀬に落ちるのが当然と思い込んでしまってる自分の感覚が、いかにBLファンタジーに首までどっぷりつかっていたかちょっと冷水を浴びせられた気分でした。
ノンケの男が同じ男と付き合うということの重大さを、わかっているようでわかっていなかったなと。
ましてや経験をつみ自己の価値観をしっかり築いている30代でもあります。
これまでのように、付き合ってみれば好きになれるかもしれないという単純な話ではありません。
価値観が大きく変わるということ、自分の土台さえ揺らぐようなアイデンティティーに関わることだということ。
そう思えば、(性的な接触に嫌悪感がないのだから素質はあったとしても)恭一の悪あがきはしごく当然の反応なのかもなと思い至りました。
対する今ヶ瀬、実はずいぶん身勝手な男だとは思いますが、やっぱり愛おしい。
何とか恭一の隙間に入り込もうと必死なところ、強気なのに繊細なところ、クールに見えて感情的なところ、何より好きだという気持ちに正直なところがとても好き。
私はどっちかというと(悪い意味で)恭一タイプなので、自分の感情に正直な今ヶ瀬に惹かれる気持ちがとても分かります。
絶対に恭一は今ヶ瀬に流されてるんじゃなくて惹かれてるんだと思う。
もしも二人のうちどちらかが女だったら、この話は成り立たないだろうなとか考えたりします。(成り立つ話には、もちろん例外もあれどあんまり萌えられない)
逆に言えば男同士ということにこそ意味があり、それが私がBLに求める醍醐味でもあります。言わば原点のような位置付けの内容なので、どうにも手放せないシリーズです。
それはそうと、何度読んでもタクシーの運ちゃんの胸中が気になって気になって!
これは、私が初めて読んだBLです。本当に切なかった。今ヶ瀬の大伴に対する見てて可哀想なくらいの重い恋情に胸が痛かったです。
優柔不断な大伴と重い今ヶ瀬って、端からみたら、ベストカップルなんですけど、なかなか上手くいかない(そこがいいんです!)。ゲイとノンケの恋愛の難しさを感じました。
大伴の(つまりノンケの)、男性同士の恋愛の世界に入ってしまうことへ怖さや葛藤がとてもよく描かれていると思います。すごくリアルなゲイ×ノンケのお話です。