ボタンを押すと即立ち読みできます!
「この人きっと中二病なんだわ」と思っていいらしいです@あとがき
耽美でまとまってるかと思いきや、案外と幅広な気もする。
◾︎ヴィスコンティの映画のように
「ベニスに死す」を見たのがだいぶ前で記憶は曖昧ですが、タイトルとキャラクターの登場からもうソレですよね。BL(なのかこれ?)漫画には珍しい髭が、明らかにアッシェンバッハ。白塗りでこそなかれどこか滑稽で。本仁先生の、先生にしか描けない作品だぞ、という圧を感じる。
◾︎ロマンティック
「コンラート 自慰を見せてくれないか」「お前の恥部が見たい…」最初から濃すぎる、主×従モノです。ただ読み進めるうちに最初の濃さなどものともしないぐらいより一層濃くなります。ドス黒。こういう作品で黒すぎて逆にピュアな気持ちになる時もありますが、絵柄も相まって自分はそこには到達せず。「グラン・ギニョール」未読なので読まないとな。
◾︎浄められた夜
映画のようでもあるし、週刊誌の中程にある安っぽく下品な小話のようでもある。嫌いじゃないです。
◾︎ヘタリマ!
某国漫画ではなくヘタレなサラリーマンの略らしい。
連続で義兄弟…義兄弟モノと言い難いのはもっとパンチある設定がついてくるから。大丈夫、君らが末代だ。
秀州くんは「特命◯長只◯仁」的なキャラクターでそそられます。
◾︎コロシヤドロップ
面白さとダサさが混じり合う謎の空気。この並びで突然のコメディ…コメディなのかも疑わしい。
◾︎侵食する死のガスパール
ヘタリマ!の続きを小説で。雰囲気は少々違います。
大変読みやすいです。黒い塊の描写なんかは、漫画よりもむしろワクワクして好きだった。
萌〜萌2
短編集となります。
「ビスコンティの映画のように」
みそ汁の美味い家政婦(できれば美少年)
この文章のインパクトにおののき、そうしてやってきた美青年とのひと夏。
夏の暑さに浮かされるかのようにじっとりとした美しさとエロチシズム。
破綻するまでのほんのひと時を、汗ばむような熱量を感じながらノスタルジックな余韻に浸りました。
「ロマンチック」
見つめる視線、触れる指先。
日常そのものを官能的に見せびらかし、1ページ捲るごとに気持ちが昂ぶっていきます。
周囲の邪推と悪意に疲弊しながらも貫く愛の高み。
愛に殉教する2人が、清らかな気持ちを守る為に手放した理性。
ラストの絶望に甘く痺れてしまいます。
「浄められた夜」
行生、姉、その夫。
欲望をむき出しにする姉に支配され続けた行生が愛する姉の夫。
2年前に死んだ姉の影が未だまとわりつき、3人の歪んだ愛情と執着が、薄い膜の中で暴れ、いつ突き破ってしまうのかとホラーに近い空恐ろしさを感じました。
愛するが故に苦しみ続ける。
静かに狂気に飲み込まれていく2人の変わらない日常がより恐怖を感じてしまいます。
上記3編、タイトルに象徴される通り「美」を前にして、崇め、かしずき、蹂躙される悦びが詰め込まれていました。
そしてガラリと趣旨が変わり「ヘタリマ」
ヘタレな秀洲の、一歩踏み込もうとしないジレンマをもどかしく感じながらも、挑発し続ける夏津を守る健気さに胸がときめきます。
ほんわかタッチなせいか紫に凝り固まった思考がゆっくりとほぐされました。
「コロシヤドロップ」
ノンBL作品です。
時代を感じる作風ですが、ゆるいキャラたちのこれでもかと詰め込まれたぐだぐだ感にまったりと現実に引き戻され、ラスト。
「侵食する死のガスパール」
ヘタリマ続編の小説となります。
思いの外ちゃんと引き込まれてしまい、引き出しの多さにまだまだ次を楽しみできると思わせてくれました。
ヴィスコンティ作品は私の親世代の映画ですから、子供のころは存在すら知りませんでした。初めて意識したのは世界一の美少年ビヨルンアンドレセンを知ってからです。若い頃、ある出版社に出入りしていた時期があって、そこのバックナンバーでビヨルンの特集グラビアを見て「なんて綺麗な男の子なんだろう」と興味を持って、自主上映していた映画館を探し出して見に行ったのがきっかけでした。
・『ヴィスコンティの映画のように』
小説家の紫乃をアッシェンバッハ、美少年家政婦の三須をタッジオになぞらえた物語。究極の美の創造を追求していた芸術家のアッシェンバッハは、神が創造した完璧な美少年タッジオの前に、ただ見つめ焦がれることしか出来なかった。紫乃は三須に触れることで彼が望んだ美しい夏を壊して、その欠片で彼に傷をつける。
アッシェンバッハはタッジオの輝くような美しさを瞳に焼き付けて朽ちるように死んでいったけれど、紫乃は三須を失うことで人生で一番美しく忘れられない夏を手に入れたのだろうか…。
美少年とは耽美の代名詞のような存在です。美少女ももちろん耽美な存在ではあるけれど、美少女の未来には美しい女が存在して、美少年の先に存在するであろう美しい男とはイコールではないのです。人生のほんの短い刹那な時間にだけ存在する「美少年」。それはボーイソプラノが少女のソプラノとは一線を画するのと似ています。刹那で稀有だからこそより焦がれるのでしょう。
スペイン映画『バッドエデュケーション』の中で少年時代の主人公がムーンリバーを歌うのですが、私にとってどのボーイソプラノよりも忘れられない歌声です。
・『ロマンティック』
全編に萌えが詰まっています。「おまえのみだらな姿が見たい」という台詞や、彼だけが私を「コンラート」と呼べたというモノローグ。袖口に指をさし入れて、手首をなぞる仕草。そして極めつけは「お前の体に触れる者は皆殺しだ!」ですよ (*´д`*)ハァハァ
そして私にとっての個人的な萌えポイントは一人称「僕」です。←何度語ったことか(笑)須蛾子爵がコンラートに「(お前は)すべて僕のものだ」という台詞があるのですが、「俺のものだ」や「私のものだ」より100倍素敵に感じるのは私だけでしょうか…^^;
・『浄められた夜』
弟は義兄を秘かに愛し、姉は弟を渡すまいと義兄と結婚した。苦しみを消そうと姉を殺したことで、消えない姉の存在に苦悩する義弟の姿に義兄は己の欲望を満たす。姉もまた自分の存在を弟に焼き付けて、歪んだ愛情を満たして死んでいったのだろうか。
姉と弟に血の繋がりは有りません。血縁者の方がよりセンセーショナルになりそうですが、このお話にはその上を行く設定が用意されていました。みんな狂っているが、姉が一番恐ろしい。
・『ヘタリマ!』
ヘタレなリーマンが血の繋がらない弟にタジタジになるお話。
弟の夏津が美しい~ヾ(≧∇≦)ノ"これだけでご飯3杯行けそうです。美しい弟の意味ありげな視線にドキドキする兄とくれば、背徳的な物語を想像してしまいますが、なんと犬神や祟り神にまつわる伝承ものになっていくのです。本仁作品は一筋縄じゃいきません。巻末の『浸食する死のガスパール』は伝承部分をピックアップした短編小説です。
・『コロシヤドロップ』
凄腕なのに意気地なしな殺し屋のお話。怒涛の台詞で構成されたちょっとシュールなハードボイルド。
エアコンの代わりに窓を開けたら、蝉の声がわぁ~と入って来て、他の本を読んでも本仁先生の新刊『グラン・ギニョール』でいっぱいだった頭の中に「ヴィスコンティの映画のように」が浮かんできました。耽美には夏がよく似合います。
この一冊を開く事は、今となってはBL世界(特にコミック)でもあまり見られなくなった「ザ・耽美」を存分に堪能する時間を得ること。
「ヴィスコンティの映画のように」
『大募集!(一名)みそ汁の上手い家政婦(できれば美少年)』
この1ページ目からどうやって怒涛の耽美へなだれ込むのか見当もつかないはずなのに、応募してきた三須(みす)くんの憂い顔を目にした瞬間からページを手繰る手はもう止まらない。
多分40代後半の作家、宝条紫乃(本名)と三須くんの会話あるいは共有する芸術の知識は、読み手の私達にも緊張感を強いる。三須くんはその文学の素養で「あの」家政婦募集の貼り紙に純文学とプラトン的愛を読み取り、みずからをヴィスコンティ作「家族の肖像」のコンラッド(演ずるは美しきヴィスコンティの恋人ヘルムート・バーガー)になぞらえる…
だが、紫乃には三須くんの美化は重かったのか?
「僕は君の美しい夏を壊す 壊した夏の一片で 君の心に傷をつける」
「ロマンティック」
没落子爵とドイツ人執事の、清らかで痛々しく淫らで快楽にまみれた死。
子爵のいつも伏している視線、それでいてコンラートの手首に指を滑らせながら「食べたい…」と囁く時の眼。
二人の死のその時。二人きりのロマンティック。
「浄められた夜」
男、血のつながらない姉、姉の夫。
姉が自殺して、歪んだ三角形が行き場なく消える煙草の煙に形を変える。
義兄は知っている、行生が自分を愛し欲望を抱いていることを。死にまつわるクラシック曲が場面を彩る。ラヴェルのクープランの墓、Rシュトラウス四つの最後の歌、フォーレのレクイエム、シェーンベルク浄夜…
義兄は行生を「四つの最後の歌」のソプラノが響く中で誘惑する。義兄もまた、死にたいと苦しむ行生を見て昏く悦ぶ悪癖を抱いていたから…。
上記3点は、冒頭の作家宝条紫乃の初期純文学作品の題名と同じ、というひねった設定となっています。
「ヘタリマ!」
義理の兄弟もの。兄はオッドアイを持つ超能力者?弟の方が迫っている?
と思っていたら伝奇モノというか斜め上の展開になります。へ〜と驚く。
「コロシヤドロップ」
小心者の凄腕殺し屋のお話。BLではなくギャグ系?
「侵蝕する死のガスパール」
これは小説です。本仁戻さんは元々小説をお書きになっていたそうです。
設定は「ヘタリマ!」の兄弟二人。伝奇の部分を膨らませた、かなりのホラーテイストでした。グロい部分もあるけど、耽美臭もあって凄く面白い!
極限まで高めた抑圧と罪悪感を一気に解放し、
刹那の快楽へ至る物語という印象です。
兎にも角にも、これが短編であったのが幸いでした。
先生流の「耽美」は、なまじモノローグと絵が
結構濃くて、ちょっと酔いが回ってしまったのですよ。
しかし、このじりじりと身を焦がす淫猥さも嫌じゃないです。
美しくエロスを感じる人物達が際立っています。
本仁先生は、これぞ青春!な「DOG STYLE」から入ったので、
ふり幅の大きさに驚きましたが、
こういった嗜好性の強い物語が驚く程絵とマッチします。
その相乗効果が好きと嫌いの両方に跨っているのが、
諸刃の刃となるか否か。
以後、恐る恐る他作品も手に取っていく羽目になりそうです。