新しいマークスには泣かされる 合田雄一郎にも泣かされる

マークスの山(下)

マークスの山(下)
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神3
  • 萌×22
  • 萌0
  • 中立0
  • しゅみじゃない0

160

レビュー数
3
得点
23
評価数
5
平均
4.6 / 5
神率
60%
著者
高村薫 

作家さんの新作発表
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媒体
小説
出版社
講談社
レーベル
講談社文庫
発売日
ISBN
9784062734923

あらすじ

殺人犯を特定できない警察をあざ笑うかのように、次々と人を殺し続けるマークス。捜査情報を共有できない刑事たちが苛立つ一方、事件は地検にも及ぶ。事件を解くカギは、マークスが握る秘密にあった。凶暴で狡知に長ける殺人鬼にたどり着いた合田刑事が見たものは……。リアルな筆致で描く警察小説の最高峰。
(出版社より)

表題作マークスの山(下)

レビュー投稿数3

やるせなさに涙があふれる

合田シリーズ第一弾の下巻。
もはや何と戦っているのか……という不条理の中で進められる捜査。押さえ付けられる現場と板挟みの上層部、さらに強大な権力の影。全ての描写が緻密で素晴らしく、よりスピード感の増した展開に目が離せなかった。

上巻から続き、合田視点と犯人視点が切り替わる。合田側では、じわじわと真実に迫っていき、点と線がつながりその先が見える興奮を味わえた。合田の苦悩がとても人間臭く、日々を必死に生きる一人の男として魅力的。
犯人側は、犯行そのものは描かれず、内面を深く掘り下げている。過度に寄り添い同情を誘うことはせず、淡々と書かれているのが良い。何らかの診断名が付きそうだが、そう単純な構造じゃなく、表現は抽象的。合田視点と緩急が付けられ、飽きさせない。

事件は後半にかけて一気に動き、相応しい場所で結末を迎える。結局この男の人生は何だったんだろうと涙があふれた。自分がなぜ泣いているのかも分からなくて、やるせないという言葉がぴったりかもしれないと思った。

BL的匂いは、合田が本気の弱音を吐く唯一のシーンが印象的。他にもささやかな(でも実は危険な)助けだったり、珍しくプライベートが垣間見れたりする。だが萌えだけを求めて読むと、この一作では足りないだろう。まあ先まで読んで、と言いたい。

今作は単行本から文庫化され、文庫が二社から出ている。高村薫さんの作品は、大幅な改稿後に文庫化されることが多い。以下は個人的な印象。
今作は読めていないが、他作品の単行本と文庫本を読み比べると、初出の単行本は展開に疾走感があり、勢いでぐいぐい読ませてくる。文庫版は特に人物描写に深みが増し、匂いも濃くなっている。ミステリとしての面白さやスリルを求めるなら単行本を推すが、人間ドラマやBLを期待するなら最新版の文庫を薦める。
ここらへんは好みの問題で、どちらも素晴らしく面白いことに変わりはないので、参考程度に。ちなみに私は新潮文庫で読んだ。ここに登録されている講談社文庫から改稿されているかは未確認。

1

匂い系としての楽しみ方

警察小説です。事件を通して捜査一課七係のまるで動物園のように個性豊かな捜査員達が魅力的でした。皆出世のために周りを出し抜こうとして仲間にも手の内を全て見せない。でも犯人とかキャリア官僚とか共通の敵に対する時だけ一致団結する所が面白かったです。

皆面白いあだ名がついてて、童顔なのにキレキレで仕事できるペコこと吾妻とか、ゲイの雪之丞とか、風の又三郎とかお蘭とか(森蘭丸からとったらしい)、同僚をあだ名で呼ぶ所はドラマの「太陽にほえろ」みたいです。しかし主役の合田雄一郎にはあだ名がない!「主任」とかなんの面白味もないです。嫌われてたのかな?

同じ高村さん作の「李歐」に比べたらBLっぽさは少ないですが、犯人の同性愛ベッドシーンはあるし、合田刑事と、元義兄弟の加納検事との関係が匂わせ感ハンパないので腐女子としての楽しみ方もあります。合田と加納は大学同級生で一緒に山に登ったりもする親しい関係だったけど加納の双子の妹と合田が結婚して義兄弟になります。親友と顔のそっくりな妹と結婚するなんて萌える!

妹は他に男を作り離婚しますが、合田と加納は相変わらず親しくて、合田は加納に合鍵を渡していて、いない間に部屋を片付けてもらい(奥さんか!)、「小生は…」から始まる文豪みたいな置き手紙もいつももらいます。プラトニックかつ高尚な関係。BL関係を超えてソウルメイト、ベターハーフ、お前は俺の半身だ!みたいな関係にも思えます。妹は「私より兄貴が好きなんでしょ!」なんて思ってたんじゃないかと妄想します。

この2人はお互いを最高に大切に思い合ってるのは間違いないけど男色関係なのかどうかははっきりしない匂わせ系なんですね。限りなく黒に近いグレーです。お互い「お前の事を1番わかっているのは俺だぜ!」っていう感じはすごく伝わってくるんですけどね。

非BLとはいえ所詮私腐女子なんで男2人で狭いベッドをギシギシ言わせて合体してるような話の方が好きなのでそろそろガチBL小説が読みたくなってきました。こういうソウルメイトみたいな関係もそれはそれで萌えますけど…やっぱりお前ら早く結婚しちゃえYO!って思っちゃいますね。腐女子なんで。

0

ミステリーとして読む小説ではない

「マークスの山」下巻。

警察を嘲笑うかのように犯行を重ねる殺人鬼〈マークス〉。四方八方からの妨害で遅々として捜査が進まない刑事たちですが、徐々に事件の真相が明らかになっていきます。私立大学理事長、建設会社社長、弁護士、検事…。各界を代表する男たちが大学時代に結んだある盟約が連続殺人を呼び寄せたのか?一方、3年周期で訪れる〈明るい山〉と〈暗い山〉に苦しむ青年・水沢はある行動を取っていて…。
事件を追う刑事・合田雄一郎と都会でひっそりと暮らす青年・水沢裕之、二つの視点で進んでいた物語は、水沢の恋人が銃弾に倒れたことを契機につながります。

実は「マークスの山」は直木賞のみならず、1994年度の「このミステリーがすごい!」国内編第1位に選ばれた作品でもあります。しかしミステリーとして優れているかと言えば疑問符が。殺人事件の真相は陳腐だし、殺人鬼〈マークス〉の犯行動機は明確にされていません。また物語の構成上、〈マークス〉の正体は上巻の段階で明らかにされているので犯人が誰かというドキドキ感はありません。つまりミステリーとしての楽しみは皆無。ミステリーを期待して読むと辛いものがあります。ではどこを評価すればいいのか。私はこの本を一般視点から「警察小説」、腐女子視点からは「匂い系小説」として傑作だと思いました。

まず「警察小説」として優れていると思った点は、リアルな警察内部描写と警察という特異な世界で生きる人間の心理描写です。上巻の感想でも述べましたが、同じ犯人逮捕という目的に向かいながらも一枚岩ではない警察社会が描かれていました。彼らが昼夜問わず休日返上で捜査にあたるのは正義感からではない。「仕事」として熱と諦念を持って事件を追っているのだ、という刑事の心理も硬質な文章で綴られます。合田は捜査情報の共有ができない状況に苛立ちながらも、そんな警察内部の事情を諦念を持って受け入れています。合田含め警察のあり方に否を唱える刑事はいません。正義感や正しさだけで突っ走るドラマや小説では決して描かれない、リアルな警察の姿です。
しかし架空の物語としての面白さも忘れていません。物語の終盤では合田と警察組織が対立し、あたかも〈マークス〉の抱える〈暗い山〉のように、合田の前に組織という〈山〉が聳え立つのです。どうやって合田は〈山〉に挑むのか?嘘で固められた小説の枠組みの中だからこその展開で、リアリティと嘘が上手く融合しています。

次に「匂い系小説」という面からの楽しみもありました。合田と義兄・加納祐介の関係性が興味深いのです。加納は義兄という名称に拘ったり、情報を流して合田を陰で助けたりといろいろするのですが、合田に対してどのような感情を持っているのかは具体的に描写されていません。合田も現在の状況や離婚に苦悩し、加納に対しても思うところがあるようなのですが明示されていません。しかし意味深な台詞や場面、二人の結びつきが強いと感じさせる部分もあって、読者としては二人の間に語られていない何かがあることを強く感じさせて、もどかしかったです。
合田と加納、お互いへの感情は一体どんな言葉で表せるのか?海岸で貝殻を拾うかのように、少しでも二人の関係を読み取ろうと物語の隅から隅まで味わって読む楽しみがありました。はっきりとした答えは最後まで出ませんが、読者によって多様な解釈が可能です。著者が意図していませんが、読者は様々に妄想してしまう。これこそ「匂い系小説」と言われる所以でしょう。

この小説をミステリーという視点からみたらつまらない。警察小説として読んだだけでは物足りない。腐女子視点があるからこそ楽しめました。下山(読了)は大変でしょうが、腐女子の方にこそ広く読んでいただきたい本です。

6

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