イラスト入り
木原作品は本当にハズレがないですね。購入するときに迷う必要がない数少ない作家さんです。
「片思い」
読み始めてすぐに、頭の中を「ツンデレ」という単語がぐるぐると・・・(笑)
高校来の付き合いである三笠に結婚すると告げられて激しく動揺する吉本。彼は三笠のことを密かに好きだったわけですが、三笠の結婚の決意表明後、七転八倒しながらも素直になれない吉本の様子がいじましくもかわいらしい。素直になればいいのに、できるものならそうしたいのに、それまでの態度とプライドに邪魔されて、何とか絞り出した苦肉の策も、三笠の鈍感(無神経?)の前にはあっさり玉砕して、さらには親友の門脇にまでばらされてしまいます。その辺の追いつめられっぷりが容赦ない(笑)
そんなに重い作品ではなく、安心して読める作品ではありますが、吉本のツンデレ加減がピリッとしていて、やるなと思わせてくれました。
「恋は盲目」
前述の二人の数年後。会社のイベントに参加した彼らを吉本の部下視点で書いてあります。見事にバカップルで楽しい作品。吉本ってあんなに神経質でキーキー言ってたら禿そう(笑)そしてまた、あれだけキツい態度だけどメロメロなのがかわいい。三笠も分からないと言いながら、大事なことはちゃんと理解しているあたり、お似合いカップルでした。
「あのひと」
動的な三笠×吉本とは対照的に、植物的な松下と門脇のお話。まずは門脇視点のこのお話でした。
冒頭ですぐに松下が門脇に思いを寄せていることはわかるのですが、あっさり振ってしまう門脇。その後も必要に迫られて松下との接点は続いていくのですが、非常に奥ゆかしく細やかな松下の気遣いに次第に心地よさを感じていきます。想いを抑えられなくなった松下はなし崩しに門脇を抱いてしまいますが、そこでも遠慮なのか同情なのか、はっきりと拒めなかった門脇はずるずるとその関係を続けてしまいます。いつまでたっても恋というものがピンとこない門脇に、この人たち一回離れないと無理なんじゃ?と思ってたら案の定松下から切り出されます。それでも淡々とした門脇に、この話大丈夫なんだろうか?と不審に思い始めたころに物語が動くのです。
この辺のさじ加減がいつもうまくて、だからつい気持ちよく読まされてしまうのです。そこからの門脇が本当に良かった。
「それから」
今度は松下視点で。「あのひと」でも植物的で静かな二人の関係性はとても心地よかったのですが、こちらはさらにしっとりと落ち着いた繊細な雰囲気で、この空気感に対しての神評価です。
ともに人生を歩み始めた二人に松下の妹が介入してくることで起こる小さな波紋の影に静かで穏やかな二人の間にある隠されたものが見え隠れして、門脇がこの上なく魅力的です。松下に門脇がこのように見えていたのかと思うと松下の執着にも納得です。門脇が女神です、ほんと。このタイプにときめかないおじさんはいないんじゃないかと思うような、しっとり和風美人といった感じ。この二人にはビルエヴァンスが似合うなぁと思いました。
「同窓会」
相変わらずどたばたとした三笠×吉本。かつて思いを寄せていた同級生との再会した彼らの胸の内がほほえましい。相変わらず体で仲直りで、どうということもないありふれた短編なんだけれど、そこに潜ませてある心情の描き方に味わいがあります。
「おかえり」
早々に同窓会を辞した門脇のその後。相変わらず松下は病弱です(笑)今度は門脇の兄弟とのかかわりが出てきます。
いつか、一人になった門脇が松下の遺した本に囲まれて、弟妹達に支えられた穏やかな最期を迎えることが予想されて、ちょっと切なくもよいラストでした。
静と動の2カップルのお話で、どちらも付き合っているのだけれど、片思いのように自分一人が相手を思っているのではないかという錯覚と感覚を軸に、統一感のあるお話でした。分厚いだけに、レビューも長くなってしまいました。
タイトルの「片思い」。ビブロス版では、三笠×吉本の話のタイトルで、松下×門脇の「あのひと」とは、別冊になっていたとのこと。
対照的なカップルの話ですが、一冊になったことで、「片思い」が全編を通した大きなテーマになっていると感じました。
片思いは、告白して相手が答えたら終わるものと思っていましたが、そうではないのですね。
三笠と吉本は付き合い始めてからも喧嘩が絶えず、三笠は門脇に呟きます。
「俺はどうして智(吉本)のことがわからないんだろ。好きなのに、どうしてかな」と。
門脇も思いが通じない不安を松下に吐露します。
「神戸に来る前、俺は先生の傍に行けば、単純にすべてうまくいくと思ってた。けれど現実は少し違ってた。どうしてわかってもらえないんだろう、伝わらないんだろうと考えているうちに、思いだけが一方通行で、まるで片思いしているようだったから」
付き合って傍にいるのに気持ちが通じないのは、一人の時より辛いですね。
両想いなのに片思いという状態から、どうやったら本当の両想いになれるのか?
その答えは、松下が勇気を出して門脇に言ったセリフにあると思いました。とても素敵です。
「言葉をため込まずに、なんでも言ってください。怒っても、怒鳴ってもいい。僕が泣いたり、不機嫌になっても気にしないで。不都合なことは二人で話し合って、改善策を考えましょう。僕は君とずっと長く続けていきたい。」
臆病で言葉も下手な松下が、初めて心をさらして門脇と向かい合ったことで、やっと二人の本当の両想いが始まった気がします。
松下の妹が二人の関係に激怒したおかげですね。雨降って地固まる。困難を乗り越えてこそ、関係も深まるというものです。
三笠×吉本は、さんざん喧嘩をした後、一緒に暮らし始めます。
「一人になりたいときでも三笠がいるってことだから…俺、疲れるかもしれないけど、試してみようと思う。今でも喧嘩ばかりしてるし、続かないかもしれないけど」と、吉本が覚悟を決めたことで、こちらも本当の両想いが始まったに違いありません。
きっと片思いは突然両想いに変わるのではなく、気持ちが通じ合う両想いが少しずつ増えていく中で終わるような気がします。
その後は、吉本が三笠の仕事を助けるようになったり、門脇は弟妹に応援されて松下を母に紹介したりと、末永く幸せに暮らしそうです。片思いは完全に終わったみたいで、ハッピーエンディング。よかったです。
それにしても、登場人物たちの涙にときめきました。片思いの涙はイイですね!
特に、神戸への誘いを門脇に断られた松下が、目尻に一瞬だけ見せた涙の気配が切なくて。
本当は臆病で泣き虫なのに、懸命に自分を抑える松下をとても好きになりました。
口絵も素敵ですね。物語中に描写されていた松下の寝癖もちゃんと描かれていて、可愛いです。
暇つぶしにアニメイトに寄って、買った本でした。
この本厚い。二冊分くらいある!
裏表紙を読んでみて、レビューも良さそうだったので読んでみることにしました!
面白かった!
二組のカップルのお話なのですが、どちらも切なさあり萌えありでよかったです!ストーリーもしっかりと読ませる内容であり、飽きずに読めました!
タイトルが片思いだったので、まさかハッピーエンドじゃないんじゃ…!?…とも読みながら心配したのですが、そんなことはなかったです。ちゃんとハッピーエンドでした(o^^o)
もし本屋に寄って、この本を買うか迷われたら、ぜひ買ってみてください!面白かったですよ〜!
木原音瀬さんの書く性格の悪いキャラは、最初は何この子?いくらなんでも酷すぎ…って顔しかめながら読むのに途中から可愛いとさえ思うようになるんだよなー。
吉本は自分の本質(隠れゲイ)を偽って他人を攻撃する典型的な嫌なヤツです。
三笠も三笠で真っ直ぐってだけで別にいいヤツではない。酔って吉本の誘惑に乗ってしまったことを無かった事にするくらいの狡さは持ち合わせてるし、まあ普通の男。
こんなね、とくに魅力も持ち合わせてない(ゴメン)2人なのに途中から幸せを願ってるんだよなぁおかしいなぁ笑。
人物描写、心理描写、展開の巧さが成せる技なんだろうなぁ。
三笠視点の数年後の話はあーハイハイ、ご馳走さまでしたねとしか言えない幸せっぷり。三笠は普段吉本にいくら罵倒されてもぜーーったい怒らないし負けてあげてるんだろうな、そんで夜は泣かせまくってるんだろうなっていうツンデレ受けカップルの正しい在り方がここに!って感じで面白かった。
電子で前編・後編を読んだ。前編は、仲良し三人組のうち二人がカップルになるお話。後編は出来上がったカップルの相談役になっている、もう一人の友人のお話。
作風を語れるほどの読者でもないのに、木原さんの作品を読んでるなーと強く感じた。特に前編!恋して汚くなる描写の人間らしさがすごくて圧倒される。心への刺さり度が神。
吉本と三笠のお話は、とにかく吉本の性格が悪い!気分の波が激しく、すぐヒステリーを起こすし、無駄なプライドが高い。でもそういう捻じれた心理描写が本当にすごくて、引き込まれるように読んだ。
印象的だったのは、吉本の中に女性嫌悪の感情が生まれる瞬間。実質ただの逆恨みだけど、人の心の動きとしての説得力がありすぎて、ただただ納得させられてしまった。
三笠は天然っぽいキャラで、突っ走って何かやらかしそうな雰囲気がある。吉本と本気でぶつかろうとしているときの言動は結構怖い。
それにしても激しいくっつき方で、ENDマークで安堵の笑いが漏れてしまった。最後まで吉本は吉本で。第三者視点の後日談でも相変わらずの二人で笑った。
後編は、前編で良いポジションにいた門脇と、講師の松下のお話。
17歳も年上の大人として見ると、“一度ヤっただけで彼氏面”状態になっている松下の行動は正直怖い。
門脇はノリ気じゃないし同情の方が上回っているようだしで、ハピエン展開は意外。欲を言えば、恋や愛に転じる門脇の心理描写はもう少し欲しかった。いきなりあんな重い告白をするキャラだったとは。
くっついた後は、家族問題が絡んでくる。門脇には随分と厚かましかった松下が身内にはグズグズと何も言えない様子に、しっかりしろと言いたくなる。兄妹の言い合いでは、両方に嫌悪感。どちらかというと松下の自己中の方が嫌かも。
妹はこれから先も家に帰れば兄に期待する母の一言一言に傷付きながら生きていくんだろうか。歪みの元凶が分かる描写になっているので、辛辣な言葉が飛び交うシーンも読みやすかった。
門脇家族の方は完全な雪解けもありそう。温かすぎてびっくりするくらいのほっこり展開。終わり方も希望の見える感じで、読後感も良い。
感じたものは萌えとは違うし、好きになれたのは門脇だけだし、誰にも共感できない。でも人の醜さもそのまま見せてくれる描写が素晴らしく、読み応えがある。十年後や二十年後に再読すればどう感じるのか、自分の感想に興味が湧く作品。