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表題作生田さんちのこめ王子

生田数多、百姓・農家、30歳
龍川万里、失業したばかりの青年、22歳

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

就職が決まったばかりの会社が倒産し、ヤケになった万里は田んぼに自転車ごと飛び込んだ。
泥まみれの万里を助けてくれたのは、田んぼの主でクマのような大男・生田だった。地元の農業を活性化したいと頑張っている生田に万里は地元の宣伝マスコット天気アイドル「こめ王子」になってほしいと頼まれる。
農業に何の興味もないけれど、万里は就職が決まるまでならと王子のバイトを引き受けた。
「王子」として生田と過ごす農家な毎日はけっこう楽しい。
しかし生田がガチムチ好きなホモだと知ってしまう。偏見はないけど、万里は生田が気になって……。

(出版社より)

作品情報

作品名
生田さんちのこめ王子
著者
さとみちる  
イラスト
草間さかえ 
媒体
小説
出版社
蒼竜社
レーベル
Holly Novels
発売日
ISBN
9784883864195
3.3

(32)

(3)

萌々

(17)

(4)

中立

(3)

趣味じゃない

(5)

レビュー数
13
得点
98
評価数
32
平均
3.3 / 5
神率
9.4%

レビュー投稿数13

お米の王子様

お米と恋の成長を見守るのどかな1冊でした。
草間先生の挿画も作品の雰囲気とぴったり。
架空の米どころが舞台となっているのも新鮮でしたし、想像していたよりもしっかりと農業に関しての描写があります。この切り口は面白いなあ。
田舎の風景と季節の移ろい、手作りの料理、収穫したての食べ物の美味しさが伝わる文章が素敵でした。
真夜中に読むのはおすすめ出来ません。
もれなくお米が食べたくなりますから。

ひょんなことから「こめ王子」として、米作りを素人目線で見て学び経験し、世の中に発信することになった万里。
全編受けの万里視点で進むので、ちょっと彼の子供っぽさと年齢にそぐわない行動の奇妙さにはもう少しなんとかならなかったのかな…と思うところがあり…正直受けにはそこまで愛着がわきませんでした。
どちらかというと、食に助けられた自分が出来ることはないのか?地元の農業の活性化をはかるにはどうしたら良いのか?と考えるに至った攻めの方が好みだったかもしれません。

劇的な恋が描かれているわけでも、大きな出来事があるわけでもなく、お米と農業に真剣に向き合う青年たちの日々が描かれています。
決して派手ではないのがこちらの作品の良さなんですねえ。
彼らが奮闘する町おこしならぬ農業おこしは、現実世界ではなかなかこんなには上手くはいかないのだろうなと思いつつ、前向きに少しずつチャンスをものにしていく彼らの姿は読んでいて気持ちが良かったです。
周囲の人々との付き合い方も無理がなく、ほどよくリアル。

肝心の恋愛面に関しては薄めかなと思います。
でも、序盤から数多→万里への好意はダダ漏れな気が。
非常に甘めでしたので、これは攻め視点も読んでみたかったかも。
あっさりと描かれていましたが、写真を並べるって結構キているような…攻めのトラウマと過去部分の明かし方がやや性急だったのも残念。
キャラクターは良かったのですけれど、もうひと萌えほしかったです。
個人的には恋愛面よりも、農業初心者マークの万里の目線で語られる農業を介しての新しい発見や楽しさ、面白さの方に魅力を感じました。
穏やかでほのぼの。そんな言葉がぴったりな、田舎ののどかな風景が楽しめる1冊です。

0

さとさんらしい

会社を辞め実家へ戻り農業を営む30歳の数多と、新卒で就職した途端に倒産→無職の憂き目にあった万里。
そんな万里がやけになって数多の田圃へ自転車でダイブしたところを助けられ、お詫びに農家PRの為にこめ王子というゆるキャラ的な役割を引き受けることで進むちょい地味なお話です。
ただ、ちょいちょい挟まれる話(自分が撮った万里の写真をいくつも枕元へ飾る数多とか、数多がたった一人で大きな一軒家で暮らすことのちょっとした寂しさとか)が個性的でホロリとさせられ、その辺りはさとさんらしいなあと感じます。

もともと数多はゲイという設定なのですが(でも好みはガチムチ)、万里へその辺りを気持ち悪くないかと気遣ったり可愛い可愛いと褒めちぎっていたり、矢印は最初からかなり万里へ向いています。
ですのでノンケの万里が数多への恋心を実感すれば両想いなのですが、でもこれは後半でしたね。
大きな出来事はないものの、万里の歳の割に擦れてない素直な性格も良いですし数多もゴリ押ししない良い男なのでホンワカしたお話でした。

2

稲と一緒に実っていく恋心

癒し系BLとでもいいましょうか、何ともふわふわした男の子が主人公です。
最近、任侠やら執着やらSMやらを読んでいたので落差が激しいけど、私は楽しく読みました。

主人公の龍川万里は、やっと就職した会社が1ヶ月で倒産して、ヤケを起こして自転車で田んぼにダイブ。その田んぼの持ち主の男性、生田数多(あまた)に助けてもらって、話も聞いてもらって、就職決まるまででいいから村おこしのアイドル「こめ王子」になって地元の農産物のPRブログをやって欲しい、と依頼され。
万里は22才の設定だけどかなり子供っぽい。
自信なさげにはじめた田植えの手伝いや畑仕事、草刈り、毛筆でのブログ、それら全てを、まるで夏休みにおばあちゃんの田舎に来た小学生みたいにキラキラと体験していく感じに描かれている。
ブログやポスター、フリーペーパーなどで「こめ王子」に反響が出始め、「会社」からは必要とされない自分と、多くの人に慕われ、何より数多から求められている「こめ王子」としての自分を天秤にかけた時、万里は「こめ王子」に専念することに決める…
見ようによっては、褒められて気分のいい方に流れている、とも見えてしまうけどね。
数多も素直な万里が可愛いんでしょうね、いつもストレートに感謝の気持ちなどを言葉でちゃんと伝えて、とても素敵な人です。騎士っぽいかも。
ノンケの万里が、頼れる数多に好意を抱くのはともかく恋愛感情まで、というのは少〜し無理めな展開とも言えるけど、いざHとなると、これでなかなか自然な積極性もありつつの健全男子でありました。
数多も万里もいい人で、友達のカメ(♀)もいいキャラで、農業おこしも順調で、あ〜良かった、という読後感の一冊です。

3

農業系スローライフBL

田舎で農業を営むトラウマ持ちゲイな攻と、就職難の末にやっと就職した会社が倒産し、途方に暮れていたところを攻に拾われて地域興しのこめ王子になった受の、ハートフルなハッピー農業ライフものです。
受の一人称なのですが、正直なところ一人称を書くには作者の力不足を感じずにはいられません。
が、勢いがあるのでそのあたりを無視できたら最後まで一気読みです。

前作も里山体験ものでしたが、今回はさらにパワーアップした本格農業BLです(笑)
離農によって過疎化していく田舎町を何とかすべく、こめ王子というプロジェクトを立ち上げて就農者を増やしたり地域興ししたりする話なんですが、なんちゃって田舎体験したい方にはおすすめです。
コメディとシリアスの中間という、なんとも言えない中途半端感がありますが、ガチムチで面倒見のいい攻と、少し天然入った素直受という絶妙に癒されるカップリングに、読んでてほっこりしました。
穫れたて新鮮野菜や、てりてりねっちりな炊きたてご飯がやたら出てくるので、深夜の飯テロ具合もなかなかのもの。

この作品で描写される田舎がどの程度かは分からないですが、結構真面目に農業について書かれています。自然災害、虫や病気はガン無視なので、実際にはこんな甘いもんじゃないですが。
ご近所付き合いや、田舎の嫁姑問題なんかもちょろっと出てきたりして苦笑い。
その辺はマイルドに濁されているので苦痛は感じませんが、実際の農村の閉鎖的で保守性の高い、噂がひとっ飛び感もないので妙に明るく不自然なのが現実味に欠けてます。

大自然の中で人間の原始的な営みをしながら、攻と受が徐々に近づいていく様子は、作物の実りの過程を見ているようで楽しかったです。
年の差があるので受の素直っぷりが遺憾なく発揮されていて、ふたりで仲良く百姓やる姿は微笑ましい。桃色シーンも恥じらいと開けっぴろげ感が絶妙で、もの凄く萌えました。
この受本当に真っ直ぐで可愛い。考えなしで我儘なところがあるので、好き嫌いが激しく分かれる性格ですが、甘やかされた末っ子なんてこんなもんだと思うと、それすら可愛い。
そして攻が格好いい。セレブ攻がスポーツジムで作り上げた人工的な腹筋もいいですが、力仕事で自然と割れた腹筋攻のなんと眩しいこと! 

あー楽しかった。
PCだスマホだラインだに疲れてる方はぜひどうぞ。
はぜ掛け米うめ~ってなります。

3

純情キラキラこめ王子の成長記録

先日相撲部の受けのBLに出会って驚きましたが、コメ作りがメインとなったBLも初めてです。
農園が舞台だったり農家出身の主役はいましたが、それでもおしゃれな感じだったり小奇麗な感じなので、どっぷり農作業で泥まみれになっての田植えや地味な日々の生活の中からボーイズにラブが生まれて来たのは新鮮でした。

苦労して入った会社に入社からひと月で倒産という憂き目にあった万里が、自棄になって自転車ごと田んぼに飛び込むというおちゃめな純情青年がとっても面白かったです。

地域と農産物のPR用のアイドル「こめ王子」にというのがホントにありそうです。先細りの農村や町おこし企画が楽しそうです。妄想掻き立てられるような王子ならぬ男カップルだったら、見に行くなり農作業のお手伝いに行き野菜ゲットのイベントにも行ってみたいですね。

実はゲイでしたと言う生田さんも、全くそんな気のなかった万里も農作業や町起こしイベントを企画していく中で、お互い意識しながらも最後まで告白しないで終わりなんじゃないかと思うくらい何もありません。
かっこよくて憧れのお兄さん的な感じで仄かに目覚めてしまいましたという結末かと思いましたが、何とかぎりぎりで万里の踏み出した一歩で告白&両思いにこぎ着けたときには、やっとだよーっとほっとしたものです。

万里の家族からは理解が得られそうですが、田舎の農村でどんなふうにゲイカップルが暮らしていくのか見守っていきたいような気がします。

2

気持ちよく読める農業もの

入社直後に会社倒産してしまった万里、
自転車で田んぼにダイブしてしまったところ出会ったのが、
その田んぼの持ち主の生田。
「こめ王子」にスカウトされ、一緒に働くうちに農業に目覚め、
稲や野菜が育つと共に、生田との関係も育っていき……

風が感じられるような田舎の風景、
生田の農業へのまっすぐで前向きな思い、
やがて万里もその思いに共感し、やりがいのある仕事と恋人を得る。
巡る季節の中での、土と植物に囲まれた穏やかな日常の積み重ねで語られていく、
終始爽やかで明るく、生き生きとした気持ちのいいお話でした。


台風の最中、止められたにも関わらず田んぼを見に行ってしまったり
22歳?にしては考えの浅い万里に、呆れながら読んでいたものの、
ゲイだと分かっている生田が自分に寄せる好意がよく分からないところなど、
単にまっすぐ幼くピュアなのだなぁ、と思える可愛らしさがある。
この王子をどう感じるかは、そこがこの本の評価の分かれ目かも。

王子といわれるような美青年なのに、こういうタイプってオバサマ受けしても
案外同世代の女の子からは本気でモテたりしなさそうだから
恋愛と人生の機微が分かるのは、今後の生田の教育次第でしょう(笑)


「農業による地域の再生」というBLでは珍しいテーマを扱っているのも面白い
周囲の人々の様子は時折描かれるくらいだが、それなりに葛藤や難しさも匂わせるが、
それらは隠し味程度で、平和な田んぼのそよぎが感じられるような作品になっている。

あー、しかし、田舎って概して保守的なもの。
このホモカップルは、今後無事に田舎で受け入れられるんだろうか〜?
とか、現実的な心配をするのは野暮というもの?


5

中学生男子の日記を読んでいるよう

しゅみじゃないを付けてしまいました。

オープニングのエピソードから無理で…。
うぅ、ごめんなさい。

就職した会社が1ヵ月でつぶれてしまった万里(受け)。
田舎の一本道を自転車で走りながら、他人様の田んぼにそのままダイブします。

???
「は?」と思ってしまった…

これが、職を失って自暴自棄だとか、
思いつめての自殺未遂だったらまだ分かるのです。

ヘラっと笑って気持ちよく、綺麗に苗が並ぶ田んぼに
自転車のまま飛び込んで、田んぼをグチャグチャにしてしまいます。

人様が丹精こめて作った田んぼを壊すことへの配慮のなさ、
感傷にひたっての子供っぽい行為が全く受け入れられず、怒りすら感じました。
…たった8頁で脱落した自分にショックorz

その後、キャンペーン大使としてこめ王子のバイトを始める万里ですが
就職活動と並行していたにも関わらず、就職することをやめて、
こめ王子の仕事を続けることを選んでしまうのです。

そして家族を含め、周りがそれを暖かく受け入れるのですが、
私には、万里の将来を思い、唯一反対した母親が一番まっとうな人間に思えました。
ですが、その母親はどちらかというと口うるさいヒール役として書かれており、何とも違和感…。

こめ王子はどこへ行ってもチヤホヤされ、ルックスを称賛され、そりゃ仕事は楽しいでしょう。
でもそれで本当に良いの?
なにか、自分の考えがあって、親と本気でぶつかったり苦悩したりして、葛藤の末、あえてその道を選んだというしっかりしたエピソードが欲しかったです。
私には、就職を捨ててこめ王子を選んだ万里が、ラクな方へラクな方へと流されているよう見えてしまいました。

早合点で思慮が浅く、考えなしに行動する万里ですが(逆に言うと純粋で行動力があり正義感が強い)、それが可愛くてたまらない生田(攻め)。
はっきり言って甘やかしすぎです。
約束を破った時などは、頬を小さくぺちんではなくて、ブっ飛ばすくらいの熱い思いが欲しかったですね。
惚れた弱みに翻弄されすぎです。

それから興がそがれたのは、生田が自分の過去を、超長ゼリフで事細かく説明するくだり。
え?自分で言っちゃうの?
と、本気でびっくりしました。
万里目線の一人称のため、ストーリー上避けられない展開だったのかも知れませんが、回想でもなんでもなく、自ら話して聞かせてしまうのはどうか。
過去を自分から喋るようなキャラには見えなかったのですが…。

全般的に、この作家さん、人物に喋らせ過ぎの傾向があるような。
万里の性格も、生田のセリフの中で表現されることが多く、こちらが自然に気づいたり、感じたりする余裕があまりなかったです。
分かりやすくて良いのかもしれませんが、私はもっと、仕草や細かいエピソードなど、行間から自由に感じ取りたかったなぁと思います。

また、前述のように文章が一人称“僕”の、万里視点で書かれているため、中学生くらいの男の子の日記を読んでいるような気分でした。
とにかく幼かった。

田舎の風景描写は風の匂いまで伝わって来そうだったし、農家のおだやかな雰囲気はとても良かったです。
知らなかったことや勉強になったこともあって、そういう意味では楽しめました。

6

主人公を受け入れられるか

趣味じゃないに限りなく近い中立です。

お話は寂れていく農村を立て直そうと頑張る生田(攻)と、そのイメージキャラクターに抜擢された万里(受)のお話なのですが、私はどうしても万里が受け入れられなくて困りました。
最初の数ページで脱落しかけたといっていいくらいです…

このお話に限らずですが、年齢よりも子どもっぽいキャラクターというのが苦手です。
ただ思考が子どもっぽいだけならなんともないのですが、万里は行動力のある子どもっぽいキャラクターなので始末に負えない。
会社の倒産に困り果てて気分良く他人の田んぼに自転車ごと突っ込む!?とか、感情にまかせて手をばたつかる!?とか、挙句の果てに田んぼが心配だからと台風の中、生田の目を盗んで田んぼに突撃して死にそうになる!?とか。
(念のためですが、こうして亡くなる方を非難しているわけではないです。
 駄目だと言われてるのにこっそり~との合わせ技に撃沈しました)
いまどき小学生でもそこまで馬鹿じゃないでしょう…と言いたくなる言動についていけません。
しかも万里目線の一人称なので余計にしんどい。

ただ、生田のキャラクターはとても好きです。
心の奥底に傷を負ってはいるんですがそれを押し隠して大人な振る舞いのできる人。
万里に対してもなにも無理強いさせることはないし、本当に自立した人だなぁと。
あと脇のキャラクターもみな光っていて嫌味なくてよかったです。

この本、真夜中に読んでたんですが、途中途中炊き立てのご飯が食べたくなって困った(笑)
美味しそうなんですよ、ご飯とお味噌汁が。

万里というキャラクターは受け入れられなかったんですが、万里の心の中で綴られる言葉は好きでした。
独特の比喩というのでしょうか。これがさとみちる先生の持ち味なのかな?

あ、あとお仕事BLというほどお仕事ものではないと思います。
ほっこり静かなお話をお探しの人向け。

4

癒し系こめ王子

こめ王子の素直な性格と、短文で丁寧に描かれている農村の描写と、草間さかえさんのさし絵と、全てが相まって癒されました。

一気読みではなく毎日少しずつ読み進め、その世界にじんわりと浸っていました。

前作に比べればラブが多めですが、それでも薄めです。

前作も好きでしたが、今作も楽しみました。今後ものんびりと書いていただきたいですね〜。

4

癒しを求めて

今日もまた似たようなデスクワークで一日を終えてしまった。
せめて物語の世界でだけでも美しい自然と温かい人の心に触れられたら…(深刻すぎ?)
そんな気分の時にうってつけの超癒やし系・ほのぼの農業BLです。


ほっかほかのご飯、移り変わる四季の風景、手塩にかけて育てる作物……
万里や数多と一緒に農業生活を追体験しているようなとても楽しい気持ちになれます。
農業もルーティーンタスクには違いないのですが、
季節の移ろいや田畑の様子、育っていく作物の様子が生き生きと描かれていて、
日々の営みの中にも新鮮なおどろきや喜びが感じられ、飽きさせません。


冷静になってみると、
新規就農も「こめ王子」プロジェクトもこんなに上手くいくケースは稀なのでしょうが、
「美味しいごはんや野菜を人々に届けたい」
というまっすぐな想いが実を結ぶ優しいストーリーが心地よく、素直に物語に入ることができました。

また、ガチゲイで元リーマンの数多の人物像や、就活と農業とで揺れる万里の心理など、
虚構の中にもある程度の現実性があり、ファンタジーすぎない点がいいです。

一つ気になったのは、ほぼ二人のやり取りで物語が進行し、
それ以外のやり取りはサラッと流されているため、
田舎の人々との横のつながりがあまり直に感じられなかったこと。
語り手の万里にとって、それだけ数多の存在が大きいということなのでしょうが。
二人の交流中心のため、恋がゆっくりじっくり育つ様子が分かりやすかったのは良かったです。

現実のコメ問題や
SNSやイメージキャラクターによる地域復興活動に
俄然注目したくなるような、
癒やされると同時に現実の時勢を意識させてくれるような作品でした。

6

農業の不思議な魅力

とにかく草間さんの挿絵が作品に合いすぎてます!
田んぼを舞台に稲を育てながら二人の仲も育まれていく
ご当地キャラ誕生ストーリーです笑

農業って目立たない職業だけど、ご飯が食べられるのは
百姓の方たちのおかげだよね…なんてちょっと考えちゃう作品でした。

「挿絵が草間さんで、こめ王子だと!?」こりゃ面白そうだと…
初読みの作家さんでしたが、手に取って大正解でした!
ガチムチ好きのゲイ:数多さん×成長するこめ王子:万里くん
本編を読後、特典ペーパーで攻めの数多さん視点を読めばさらに
萌えっときちゃいますよw
近ごろ、ご当地キャラが注目されているから今が旬!?なBLかも…

7

水面に揺れる稲を見た(気がしました。)

タイトルが地味スキーの心をくすぐったのと、イラストが草間さんということで購入しました。

爽やかな風に吹かれてキラキラと水面と稲が揺れる、
そんな農村の5月を思わず思い浮かべる出だしでした。

と言ってもその爽やかな田んぼにダイブする主人公の万里。
どうしたんだ!(笑)ヤケになっていたからってそんなコントみたいなことをする万里はかなりお笑いのセンスがあると思いました。

この作品、読めば読むほどイラスト担当の草間さかえさんの漫画で読みたかったと思ってしまう内容でした。
だって!自転車で田んぼに突っ込んでる万里が見たい!
3羽のカモを抱いている万里が見たい!!
万里の創作書道が見たい!
数多の作った味噌汁とご飯と煮物と浅漬が見たい!
数多の漢(おとこ)らしい作業姿が見たい!
などなど、とにかくコミックでそういう場面、見たかったな~と思える記述がいっぱいでした。

そういえばあの合鴨たち、その後、料理にされてしまっていました・・・
そ、そこは見たくないかも~。

受けも攻めもほのぼのとした雰囲気で良かったです。
でも攻めの数多が万里の写真をこっそり自分の部屋に並べまくっているところはちょっと怖かったですw
と言っても「執着」は攻めに限る私としては、執着攻めなところが多少あってもむしろ美味しいと思えたので大丈夫でした(笑)

女の子のキャラクターも邪魔をするとか病んでる系とかじゃなくて、ちょっと個性的ではありましたけど、人の良い子で好感が持てました。

攻めはガチゲイの人で、ガチムチが好きなはずなのに、天然乙女な受けのことは中身が気に入って好きになったという。そこのところが面白かったです。

ほのぼの農村のほのぼのと萌えるお話、地味スキーさんにはお勧めです。
あとは農村のリアル事情等をあまり考えると面白くなくなると思うので、
ほのぼのとした雰囲気を楽しむくらいの気持ちで読むと良いかな~と思いました。

なぜか味噌汁とご飯が食べたくなりました。
日本のコメ、大切にしよう。

10

明るい農村

大好きな農業従事設定で、イラストが草間さかえさん、もうお話にピッタリでした☆
作者さんのデビュー作品は、やはり自然を背景に切な痛い壊れた恋がやっと再びスタートラインに戻れたかな?という感じのちょいラブ薄目の作品でしたが、自然背景や心の機微がとても心を打つ作品でした。
今回も、農業従事者の減る一方の農村地帯が舞台で、
そこを盛りたてようとする農家の男に声をかけられた失業したばかりの青年が、「こめ王子」にスカウトされ、一緒になって農作物を育てて行く中ではぐくまれていく気持ちが、稲の収穫と共に実りを迎えるという、とてもさわやかで前向きなお話でありました。

舞台となっている地方が黒姫川が流れる流域の肥沃な土地ということで、新潟?佐渡?いずれにせよ、米どころである土地であることは間違いないようです。

何十社も受けては落ちて、やっと大学卒業際に決まった就職先が1カ月で倒産。
失業してしまった青年・万里がヤケになって自転車で突っ込んで落ちた田んぼの持ち主が生田数多(いくたあまた)。万里の姿を見た数多に、まず家の農作物を売る為のPRの仕事をしてほしいと「こめ王子」にスカウトされる、それが出会いの始まりでした。

この万里がとても素直で柔軟な性格のキャラクターでした。
物語は万里の一人称”僕”で進行します。
こめ王子を引き受けたのも、最初は就活の合間にバイト的に時給をもらえるという都合のよさが優先したからなのですが、数多と一緒に農業をするうちに、そしてそれの魅力を知るうちに、更に数多の人間性を知るうちに、この「こめ王子」を、農業を職業とすることを選択します。
更に、数多がゲイであることも早々に彼の幼なじみのカメラマンによって知らされるのですが、万里は偏見を持ちません。
数多の好みがガチムチだと聞いたからかもしれないのですが。
仕事をしていく中で、四季の移ろいと共に万里の心が作物と同じように育って行く様が見えます。
そして、彼はとても潔かった!
PR活動が波に乗り、こめ王子ジュニア(笑)まで作ることになった時、そのメンバーに覚えた心の痛みを素早く嫉妬と察知して、自分の気持ちを認めて行動させる。
もうっ!この万里の存在自体が農作物のようで、稲穂のようで、好感度が高い青年です。

数多について、彼はとてもエネルギッシュです。
しかし、ギラギラしているのとは違う。
以前は会社員だったのですが、ブラック企業であった為に精神的にも追い詰められて壊れる寸前?心が壊れて、この実家である家に戻ってきたのです。
両親は海外へ移住して、祖母も亡くなっています。そんな家にたった一人で住んでいる。
作中、万里が見つけてしまうのですが寝室の枕元に並べられた万里の写真。
ちょっと執着を感じてゾっとするのですが、そんなそぶりは日頃全然ありませんでしたし、万里もいい風にとって、彼も寂しいのだととってあげるのが救いかな?と思いました。
彼なりに悩んだりもしたようですが、それでもちゃんと仕事をこなし、目的の為にまい進する姿はとても男らしいと思います。
農作業ってとても疲れると思うのに、PRの為の作業もこなして本当、偉い!
彼もまた、好感度の高い人なんですよ。

そんな、いいな~と思える主人公達が繰り広げる物語だからどっぷりと話しにつかれます。
作中でとてもいい表現だと思ったのが、二人で温泉に行った時に言った万里の言葉「数多さんは木みたいだと思った」というそれなのですが、
木の年輪を見ると、そこには折れたり病気になったりして年輪が曲がったり変色している箇所があって、だから心に傷を持つ数多もそうなのだと。
ああー、この子いいこというな♪
そして気持ちを伝える時も、その好きの意味をきちんと触って欲しいとか触りたいと思ったりは好きな人でないと思えない。それをやっていたってことは好きだったんだって事に気がついたと。
もうね、万里の言葉に胸がギュっと掴まれます。気分は数多ですよv

5月に出会って収穫までの約半年。
それでこんなに「こめ王子」の成果があがるのか?とか色々リアルを持ちだして考えるより、彼等の行動を彼等の心を素直に受け止めて、この一冊の中に春と夏と秋を体験しました。
心があったかくなって、応援したくなる。
そんなとても優しいお話は素敵でした。

12

この作品が収納されている本棚

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