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今までの佐田作品に比べると痛さダークさが随分穏やかです。
ものすごいトラウマとか、近しい人物が若くして死ぬとか、病的にストーキングされるとか、そういうことはありませんので、今までダークな作風かと佐田作品を敬遠していた方にも入りやすいと思われます。
しかし、やはりしっかり切なくて今回も泣かされてしまいました。
「ボーダー」
高校時代の同級生で友人の渡部と環。卒業以来、環が距離をおいているようで疎遠になっていて、環の居所を探していた渡部が、環があるゲイバーで働いてることを知り、会いに行くところからお話は始まります。
環はゲイバーで働いていて、高校時代からすでに渡部に思いを寄せていてゲイですがビッチなどとはほど遠いです。
地雷になりそうかなぁと思う要素は特になかったように思います。
二人の間のやりとりだけじゃなくて、渡部の職場である高校でのエピソード、家族の話がストーリーに深みを持たせています。
気持ちのすれ違い、ゲイであることへの葛藤、体を重ねることで環に惹かれていることをはっきり自覚していく様子…とても切なくて引き込まれました。
『自分の境界線は自分で決める』すごく印象的なセリフでした。
「揺れる境界線の上」
表題作「ボーダー」のカップルの共通の友人で、ゲイ嫌いな佐々木が受になる話。
お相手は佐々木の従弟の国見。国見は昔から佐々木に恋心を抱いていて佐々木も薄々気づきながらも気づかないようにしていたけれど、ある年末諸事情から佐々木が国見の家に転がりこむことで、今まで保っていた関係が崩れます。
人を選ぶかもしれない要素を列挙しておくと…
・佐々木はバツイチで風俗通いが趣味
・最初の絡みは一歩間違えたら強姦…テープでグルグルに拘束
・剃毛プレイ・放尿?シーンがある
・AVを見るシーン、デリヘル譲とラブホでプレイしたという描写がある
・回想で、学生時代に国見が当時の佐々木の彼女を嫌味で寝取った上に佐々木が事後を目撃
こんな感じでしょうか…
これでも既刊作品に比べるとかなりマイルドですw雰囲気的にもダークさはあまりないかと思います。
家庭の事情や周りの目、気づかないフリをしてきた自分の気持ち
佐田作品はBLドリームじゃなくてリアルな部分もまざまざと見せつけられる感じで、それでストーリーに深みが出ていてやっぱり好きです。
既刊作品で挫折した方にも、一度挑戦してもらいたい…切ない系が好きな方にはぜひおすすめしたい作品です。
佐田三季先生の作品は初めて読みました。すごく良かったです。特に表題作の「ボーダー」はとても気に入りました。すごく素敵なカップルで、あっという間に読んでしまいました。特にゲイの環の繊細さ、吹っ切れた後のノンケの渡部の強さ、すごく響きました。
「ボーダー」と、書き下ろしの「揺れる境界線の上」のカップルは別なのですが、友人同士であり、世界は繋がっています。なのでボーダーの渡部と環が「揺れる境界線の上」に出てきてくれて本当に嬉しかったです。
佐田三季先生の作品、もっと読んでみたくなりました。
◆あらすじ◆
高校教師の渡部(30歳)が、男子生徒に告白され、
「考えたことがないなら、一度、考えてくれませんか。男もだいじょうぶか。」
と言われて、男同士のセックスを試してみることに。
トライアルの相手は、高校時代の友人でゲイの環(30歳)。しかし、意外なことに環とのセックスは快くて――という、「ボーダー」。
スピンオフ的位置付けの同時収録作「揺れる境界線の上」は、渡部・環の共通の友人でゲイフォビアの佐々木(30歳)が主人公。
佐々木を子供の頃から想い続けてきた従兄弟の国見(29歳)と、ひょんなことから一線を超えてしまいます。
国見から見た、佐々木が渡部と環の関係を必要以上に嫌悪する理由とは――ゲイフォビアとゲイもまた表裏一体という、意外な真理を突いた作品です。
◆レビュー◆
ノンケがゲイに、そしてそれを非難していたゲイフォビアまでが、ミイラ取りがミイラ式にゲイの側へと転んでしまう――一体、ゲイとノンケの境界線って何なのか、それは思っているほど堅固な壁ではないのかも?
「ボーダー」=境界線というタイトル通り、そんなことを考えさせられる作品です。
そもそもゲイフォビアのはずの佐々木の趣味というのが風俗通いで、好みのプレイはエネマグラを使っての前立腺マッサージって・・・あれ?なんだかホモセとの共通項が。このプレイ、普通に女性とやることじゃないですよね。
女に関心がなく、男の教え子に告白されちゃう渡部にしても、もともとそちらの芽はあったような。
自称ノンケの男性の中には、向こう側の世界へと飛び越えられる潜在的な可能性を秘めている人も意外に多いのかも。
ただ、彼らが境界線を越えることを阻むのが、「常識」と周囲の偏見。
親が望む形での幸せな姿を見せてやれない苦しみ、ノンケだった相手をそんな苦しみに落としてしまう、ゲイの側の罪悪感・・・そんな、同性愛のマイナス面もしっかり描写されています。
ノンケがゲイに、という展開は、BLでは当然すぎて今さら感さえありますが、この作品が一般的なBLと一線を画すのは、同性愛の美化・讃美を一切志向していないこと。
その上で、ゲイとノンケという二つの生き方の間で揺れる男の葛藤を、より生々しく、赤裸々に炙り出そうとしている点です。
どこまでリアルと言えるのかはともかくとして、少なくともBLらしからぬ顔を持ったBL、と言えるんじゃないでしょうか。
佐田さんの文体って、いわゆる流れるような美文とは対極で、すごく粗削りな印象なんですよね。それだけに、作者の想いをぎゅっと絞り出したような、熱いものを感じます。
読み始めはとっつきにくいんだけれど、この文体がまたこの作品のテーマとすごく相性がいいんだろうな。
そもそも万人受けなんて全く眼中にないというか、むしろ目指す方向性はBLのボーダー?という気さえしてしまう独自路線・・・大ヒットはしないかもしれませんが、好きな人にはたまらない、異彩を放つ作品だと思います。
骨のあるBLが読みたい気分の時にお勧め。
佐田さん一年半ぶりの新作、待ってました!
今回私的には地雷がないので、じっくり時間をかけて完読しました。
「ボーダー」と「揺れる境界線の上」二つのカプの話ですが、どっちかっていうと、「揺れる境界線の上」のほうが好きです。
あらすじ読むと佐々木は嫌なやつだなと思い、性悪受けが好きな自分は「揺れる境界線の上」を読むのが結構楽しみにしていました。そして期待通り面白かったです。
前職が倒産してエリート人生から転落し、元嫁と両親から邪険にされ、辛くてやってられなくて、そのやるせない思いを晴らすように佐々木が風俗通いという趣味に走ってしまいました。
佐々木は従弟の国見が自分に対する想いを知りつつ、国見を牽制して見て見ぬ振りをしてきました。しかしある日風俗ネタで国見を牽制しようとしたが、牽制(むしろ挑発?)が導火線になってしまい、国見の抑えきれぬ思いを誘爆しました。国見のヤンデレぶりは見どころです(笑)。
佐々木のゲイ嫌いの原因が分かった瞬間、あっこいつもただの素直になれない哀れなやつだなぁって苦笑しました。でも自分の心に正直に生きて行くことがとても難しいですね。世間体とか、人の目とか。欲しいものは手に入れないからと、早々に潔く諦めたほうが楽ですが、その代わり失うことも多いです。
佐々木の心の中にずっと大きな穴があいて、他人を、多分自分も愛せなかったです。でも国見なら、きっと、その大きな穴を塞いでくれると思います。
「ボーダー」は……嫌いじゃないですが、環のあなたのために身を引くという思考にイラっときました。せっかく好きな人が振り向いてくれたのに、一番欲しいものを手に入れたのに、なぜこうもあっさり渡部を諦めるのか理解できません。しかも二度も勝手に消えるとか。悲劇ヒロインじゃないですからもうちょっと頑張って欲しいですね。
でも渡部は好きです。多分佐田さんの作品の中で一番性格がよくてかっこいい攻めだと思います!是非是非読んでみて比較してみてください!
佐田さん、初読みです。
アワードノミネート作品でしてので、ちょうど良いタイミングでした。
表題作の方は雑誌掲載のため、書き下ろしよりも短いです。
表題作と書き下ろしではカップルは別物となっております。
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攻めの渡部は、ガタイの良いノンケで30歳。
人当たりが良い、社会科の高校教師。
受けは涼しげな顔立ちの持ち主で、区役所を退職し現在はゲイバーで働く環。
渡部とは元同級生。
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中学・高校と友人として過ごしたふたりの、八年ぶりの再会。
そこからふたりの止まっていた時間が動き出します。
それは渡部が友人から環の職場であるバーを聞き、訪ねたことがきっかけでした。
環は初登場時の印象と違って、意外に口が悪くスパッとした男性でした。
そしてそんな男前な環が渡部に対して、自分の性癖を恥じているということが感じ取れるシーンがかなり序盤にあるのですが、そこが堪らなく切ないです。
そして渡部は犬です、ワンコです、大型犬です。
これもまた意外でした。
走り寄り、顔を舐め回す。
でもこれって、心がこもらない本能だけであったら向けられた方は虚しいですよね。
視点は終始渡部なのですが、渡部の一挙手一投足に浮き沈み傷つく環の様子がありありと伝わってきます。
『ゲイ』という自分の性癖を否定はしないし出来ないけれど、ノンケである渡部は結婚して家庭を持つといういわゆる世間一般の『普通』が出来る男で、それを自分が邪魔してはいけないと思っているし、環自身が渡部をそこまで完全には引きずり落とせないと決めている感じなんですよね。
ものすごく環にとっては、渡部がキラキラした犯せない存在なのだなあと。
ノンケの世間と身近な人間への葛藤と、ゲイの悲しいまでの遠慮がうまく組み合わさった作品でした。
つらいBLで確かノミネートされていましたが、痛くはないなあと思いますよ。
理解されることをつい望んでしまう欲と、理解されないことでの失望とが書かれていますが、でもラストのおさめ方はなんとも言えない余韻があって良かったです。
書き下ろしの『揺れる境界線の上』はなるほどのタイトルですね。
ノンケとゲイの境界線。
受けは本編のふたりの友人・佐々木、30歳。
そして攻めは、佐々木の従兄弟の国見で29歳です。
や、しかし読んでビックリ、あの佐々木ですか!?という感じです。
しかも、まさかの受け?やー、度肝を抜きました。
佐々木はノンケで結婚していたこともありますし、風俗大好き。
本編ふたりをノンケにしようとデリカシーなく風俗へ誘い、極めつけにゲイを馬鹿にしていました。
まあ、実際は佐々木みたいな思考というか価値観の人間はその辺にゴロゴロいると思いますよ。
そういう人間の方が多いはず。
そういう価値観を『当たり前』だと決めつけている人間をメインに書くって、佐田さんもOK出した編集さんもすごい。
もちろんホモフォビアの人が出てくるBLもありますけど、文体のせいかすごくリアルな人間として書かれていて生々しいのです。
こういうのは作家さんご自身のスタイルでしょうね。
そんなわけで佐々木がねえ…と思っていたら、最初は無理やりでした(苦笑
しかし風俗で鍛えられているせいか中が気持ち良すぎちゃうし、風俗防止に剃毛させられちゃうし。
違う意味で本編よりも濃い展開となっておりました。
家庭内のトラブルで子供の頃に祖父の元へ引き取らた国見にとって、自分の世界を180度変えたのが佐々木だったわけですから、執着も半端ないんですよ。
これは本編カップルも負けますね。
佐々木も佐々木で後半は見ないふりをしてきた自分の心に対峙しなければならなくなり、気の毒といえば気の毒でしたね(苦笑
それこそこういうのは環が渡部へ願っていた、気づかなければ『普通』でいられるというやつです。
ラストには本編カップルもゴタゴタと絡んでくるわけですが、その時の渡部がね。
環といるようになって強い人になったなあと、なんだかお母さんのような気持ちになりました(苦笑
やっぱり個人的には、本編カップルの方が葛藤まみれの卑下まみれで可愛いかな。
人間臭いです。