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僕は誰かと、抱き合ったこともなかった。
母親から愛されることをひたすら望むも、
弟ばかりを溺愛する母からは酷い言葉しかもらえず、心に深く傷を負ったニコ。
彼が家族も故郷も捨て、死に場所を求めて彷徨ったあげく辿り着いたのは、
窓から大きなキリストの像が見える街、
そして、怪我をしたニコを助けてくれた、食べ物屋を営むエリという男。
この物語、時間が前後して進んでいくのがとてもいい。
話は、ニコが家を出てから3年後、
ニコが住んでいる街に、ニコに会いに弟がやって来ているところから始まります。
弟を返して…唆しているいるのは分かっています…と、
心ない手紙を何通も何通も執拗にニコに送ってくる母親。
その手紙にニコが深く傷ついていることなど知らず、実の兄であるニコに執着し、
どうしてようもなく好きだ…と言い、家へと連れ戻そうとする弟。
その弟の前でおチャラけた態度を見せ、
抵抗できないように縛ってニコとセックスをしたと話す、エリ。
肝心のニコの気持ちがどこに向いているのか、
それがよく分からない状態で物語は過去へ戻り、
それぞれの気持ちが少しずつ紐解かれ、明らかになっていきます……
軽い態度を取りつつ、既婚の熟女にメロメロになりつつ、時々冷めた目をしつつ、
ニコの世話を焼くエリがとても素敵でした。
甘やかして囲うのではなく、1人でも生きられる環境と整え自信を持たせてあげること、
自分だけでなく、他の人からもニコが愛されるようにしてあげること、
楽しい時間を共有し、そしてニコが望む愛を示してあげること……
そういう愛情を3年という時間をかけてゆっくりと示しているエリに、
わたしの心は掴まれました。
抱きしめられる温かさを知らず、
愛情を受けることに慣れていないニコが、
そんなエリに思いっきりツンな態度を示してしまうのも、とても可愛い。
兄への想いが報われない弟は少々可哀想だけれど、
ニコがそうだったように、弟もまた違う形で報われる日が来るんだろう…
人は愛を求める生き物、
求めるからこそ傷つき、絶望に襲われることもあるけれど、
それを癒すのもまた愛情……だからこそ人生には希望があり、きっと美しいんだ。
わたしにはそれが、7年をかけて描かいてもブレない真理のように思えました。
なかなか本が出ない河井さんの新刊。
7年かけてまとまったそうだが、一貫した絵と作風に改めて
独特の魅力を持った作家さんだと思わずにはいられない。
仄暗くて繊細な魂の痛みを描かせたら、絶品の河井作品。
中二病とも言える世界観だが、一人一人のキャラに透明感があって、
脆そうに見えるけれど細くて折れない芯がある感じがいい。
舞台は、南米のどこか。
巨大なキリスト像がある街に北の国からたどり着いた、ニコ。
母親に愛されない痛みを抱えて、生きていることに迷いながら日々を過ごすニコ。
エリに拾われ、神様の見える街で月日が流れ、
暖かな周囲の人と触れあいながら、心の傷にようやくかさぶたが出来た頃、
遠い故郷から母に溺愛されてされている弟のウィルがやってくる……
回想場面が多く舌足らずな感じや、まとまり切らない感じもあるが、
その切なさに惹き付けられ読まされる。
結局最後まで母親との関係はなにも変わらない。
痛みは痛みとしてそこにあり続ける、
ニコにとっても、ウィルにとっても。
でも、ニコが大らかだけれど真摯に生きるエリに出会い、
包まれ愛されて、ウィルを見送った後にようやく自分の悲しみに慟哭するさまに
私も泣かずにはいられなかった。
河井さんの描く、命を燃やすようなH場面が好き。
本当に可愛くてエロティックで、ジワッとしながらキュンキュンとする。
最初、訪ねてきた弟とカップルなのか……?近親相姦もの……?
と思ったことを、ここに白状致します。ざんげ。
弟もお兄ちゃんを愛しているんだけれどね……w
*毎度おなじみの蘊蓄タイム
舞台となった巨大キリスト像のある街について、
作者はリオではなくて南米の架空の街と言っている。
この巨大キリスト像、ブラジルリオデジャネイロの物が世界的に有名だが、
実は他にも何カ所かにある。
まずは、南米ボリビアで3番目の都市コチャバンバ(Cochabamba)。
こちらの像は本体の高さが34m、台座を含めて40mと、
リオのコルコバードの丘のキリスト像(本体30m/台座含む38m)よりも大きい。
ポルトガルのリスボンにも、コルコバードに触発されて作られたという像がある。
これはキリスト像自体は28mだが、門の形の高い台座の上に立つ。
更には2010年高さ36mのキリスト像が、
ポーランドのシフィエボジン(Swiebodzin)に登場した。
巨大な神の像がトレードマークの、とある外国の町の物語。
「求めよ、さらば与えられん」
という聖書の言葉が引用されていますが
描かれるのは、報われないと知りながらも愛さずにはいられない、切実な人びとの姿です。
故郷を捨て、異国の地で語学で生計を立て生きるニコ。
彼の、傷ついても傷ついても母親の愛を諦めきれない姿がとても切ない。
子供の頃から、勉強して成績を上げても、働いて母の日にプレゼントを贈っても、母の愛を得ることはできなかった。
故郷から訪ねてきた弟・ウィルには
もう母には見放されていると達観してみせるけど、
母から手紙(ウィルを返せと責める内容)が届く度
本当はどうしようもなく傷ついている。
忘れてしまえば楽になれるのに、
生きている限り愛を求めずにはいられない。
ラストの叫びには母親を憎み愛し続けたニコの想いが込められていて、胸が一杯になりました。
ニコがそんな風に感情を吐露することができたのは、エリという男との出会いが大きかったんだと思います。
ニコがこの国で独り立ちできるようさりげなく手を貸し、
辛いときは手料理や抱擁で慰めてくれる。
母性と父性の両方を備えた、でも決して押し付けがましくない接し方に、大きく温かな愛を感じました。
過去―現在の時間軸の移動や、弟の視点を通して
二人の関係が明らかになっていく展開がとても良かったです。
家族以外の他人とそんな温かな関係を築けたことで、ニコは母親への愛をやっと口にできたんだと思います。
かつて世界の全てだった母親のことはこれからも忘れられないだろうけど、人は前に進まなければならない。
それは、弟のウィルも同じです。
大きくなったら、兄をお嫁さんにする。
そんな一言が引き金となり、母は兄に冷たくなってしまう。
自分のせいで癒えない孤独を抱えてしまった大好きな兄は
今では別の男と幸せに生きていて、
惨めな自分は、その憎い男に優しくされて
不覚にも心が動いてしまう。
そんなウィルの切ない失恋物語としても
読むことのできる作品でした。
人と新たな関係を築くことの怖さと楽しさ。
人生のタフさと、それでも愛さずにはいられない人間の姿。
物悲しく美しい物語に、いつまでも余韻が残ります。
コミカルな会話や、外国の町らしい洒落た雰囲気も良いけど
何より一途な愛がとても心に響く作品でした。
◆余談◆
連載ペースがゆっくりな河井さんの作品が、7年の時を経てちゃんと完結したことにも感動w
この調子で『青春花心中』や『王子と乞食』もお願いします!
相変わらず、河井英槻さんの漫画は秀逸です。
BL漫画を読んでいるというより、ティーン海外文学を読んでいるような気分になりました。
舞台・年代・環境もはっきりしていなくて、ただどことなく近代的でない土壁の建物・陽だまり・青空から絵本のような印象も受けます。
最初は兄弟モノ??と思って読み進めたのですがそんなこともなく…主人公の相手として登場する人物はしっかりしたキャラ設定があるにも関わらず、どことなく第三者風。カップリングとして萌えるかどうかは人によるんじゃないかなあと思います。微笑ましい2人だったけど、カップリングとしてはすごく好き!って感じでは自分はなかったです。
どっちかっていうと保護者や恩人といった感じですね。
自分を拾って、新しい人生を与えてくれた人。この人のおかげで今生きようと思えるということは恋愛以上の感情を相手に持っているんじゃないでしょうか。
ただ、主人公のニコの境遇がほんとに可哀想で、可哀想な子供の設定に弱いので釣られて何度も泣きそうになりました。辛い思いをしてきたニコがこうしてまた人生を歩き出している様を丁寧に描いていて、この先自分の足で歩いて大事な人もできて幸せになれそうな結末を見られたので安心ですが、もう少し弟とのわたかまりを丁寧にほどいていってもいいんじゃないかなあとも思ったり…。
恋愛というより半分は家庭内愛の話でしたね。ただ弟があんなにニコが好きだといってる感情がちょっと伝わってこなかったです。母親から疎まれてると知っていたのに、激しい愛情をニコに持ってるのにどうして何もしてこなかっただろ。今迎えに来てもちょっと遅かったんじゃないかなあと思うし「大丈夫だから家に帰ろう」というのも無責任な気がしました。
それにしても、河井さんの描くキャラクターの涙はほんとに綺麗で可愛いですね!
人間の感情の落とし所を描くのがとにかく上手い先生です。
逃げてきた先で幸せになれるかを探しているさみしさものがなしさがずっとあるような気がして、人間はさみしいという感想を常に抱いてしまう。作風がどれも好きですがこの作品は終わり方も含めてすごくおすすめしたいです。