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表題作もうひとつのドア

三夜沢雅人,30代,建築家
村上広海,17歳,フリーター

あらすじ

―きみはこれからきっと幸せになれる。
生きる希望もなく、不幸に慣らされていた広海にそう言ってくれたのは、大きくてあたたかい手を持つ、三夜沢だった…。
理不尽な借金に追われる十七歳の広海は、バイト先に客として現れた少女とその父親・三夜沢と知り合う。
娘に冷たく見えた男にはじめは反発を覚えるものの、いつしか三夜沢の不器用なやさしさに惹かれ…。

作品情報

作品名
もうひとつのドア
著者
月村奎 
イラスト
黒江ノリコ 
媒体
小説
出版社
新書館
レーベル
ディアプラス文庫
発売日
ISBN
9784403520501
4.2

(57)

(30)

萌々

(15)

(9)

中立

(3)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
12
得点
240
評価数
57
平均
4.2 / 5
神率
52.6%

レビュー投稿数12

何度も読み返している本です

 最初に本が来たときは、あまりの薄さに驚きました。うわあ、薄い。こんな本を買うんじゃなかったと後悔しましたが、読んでみると、値段以上の価値があると実感しました。
 恋愛要素は、薄いですが、好きでたまらない人に告白されても素直に『はい』と言えないひねくれた性格の主人公が個人的にはすごく好きです。
 幼少期の虐待、トラウマなどから、ひねくれながら生きてきた主人公が、今まで自分が経験してこなかった明るいこと、楽しいことに触れていく様子で、さまざまな感情が浮かんでくるところが気に入って何回も読んでいます。
 BL小説というよりも、一つの小説としてとても素敵な物語だと思います。

7

やっぱスゴイと思った、月村先生。

この作品を読んで先生の力量にKOされてしまった。大衆ウケするエンタメ色は皆無ですが、物語をパーソナルなものとして受けとめるタイプの読者には強く響いてくるお話だと思います。

主人公は母親にネグレクトされた十七歳の広海。母親は既に他界しているが、ソリの合わない義父から、これまでかかった養育費と称して金を要求され毎月返済している。高校へは行かずバイトを掛け持ち、まるで借金返済のために働くだけの日々。バイト先のパン屋の客で小学生の女の子、美生(みう)の健気な姿に幼い頃の自分を重ね、広海は彼女のことを心にとめていた。

美生がホント、チャーミングなんですよね。孤独な広海は彼女の子供らしい屈託のなさに癒され、美生との出会いがきっかけで広海の世界が少しずつ開かれていきます。

広海の悲しいモノローグに何度も涙が出そうになっちゃって、移動中に読むのをやめました。多分、彼に共感する部分がたくさんあったからだと思うんですけど、不思議とイヤな気分にはなりませんでした。広海がネガティヴなままではなく、それまでに染み付いていた思い込みや考え方を別の見方で捉えられるようになっていく変化が描かれていて、わたしにはそこが一番、読んでいて励まされたところです。

たまたま某質問サイトで、読んだ小説の中で最も感動した作品としてこれを挙げられていた方がいらっしゃったのを見つけ、期待して読み始めましたが、すごくよくわかるような気がしました。

出版年からするに、まだJUNEの香りが微かに残る頃。主人公の自己確立と自己肯定、そして自ら幸せに生きていくための居場所を見出すまでが物語の核にあった頃の、ラブストーリーというよりかは愛情物語だと思います。

4

何度読んでも泣ける

月村さんお得意のグルグル後ろ向き思考の受けが主人公なんですが、あまりにも悲惨な生い立ち、境遇のために、ここまで後ろ向きでもしょうがないか、と思ってしまえるぐらいで、途中、何度も落涙しながら読みました。

月村さんの中では一番好きかな。
もうちょっとBLらしい方向に進んでもいいあたりで、それでもエロい方向にはいかないあたりが、月村さんらしくもあります。

ラストも、ハッピーエンドはハッピーエンドなんですが、まだ問題は山積みという気がしないでもないあたりが、やっぱり月村さんらしいかも(苦笑)

3

主人公の心理描写が丁寧

2001年発刊の作品。
古い作品だからそうなのか、濡れ場の描写に重点が置かれていない。
BLによくある官能シーン重点で延々とダラダラ続く凌辱シーン描写、ではなかった。
主人公の心理描写に重点が置かれているのがとても良かった。

主人公の広海の母は、一時流行った歌手で、最後は場末の酒場の歌手。
マネージャーの男と内縁関係にあり、広海は、二人からネグレクトと暴力を受けながら育つ。
中学生になると、広海の誕生日に母が自殺。
その後、広海を芸能界に売り込もうと母の愛人が借金をするが、計画は頓挫。
中学卒業後、自立して働きだすが、母の愛人にずっと返済を強要される。
生い立ちから、広海は誰も信用できない、誰も愛せない。
母の愛人へ渡す金を作ること、憎む事が生きる支えになっていた。

広海のバイト先のパン屋によく来る女の子・美生。
美生の父親との出会いが、広海の人生観を変えていく。
誰も信じられない広海が、初めて体験する親切と愛情に戸惑う様子が、切ない。

ハッピーエンド。読後感凄く良い作品。

0

他人から家族へ

愛に恵まれず育った苦労性の主人公に男前な社会人。
こういう歳の差モノは組み合わせとしてはある種のテンプレートにも感じますが、とても大好きな設定です。

家庭に恵まれず、学校にも通えず、狭いアパートで借金返済の為だけにバイトを掛け持ちする主人公・広海。
気が強い一面もありますが、思考はネガティブ。こういう鬱々した感じの作品、上手くやらないと健気さにほだされる反面、卑屈さが鼻についてしまう気もするのですが、このお話はそんなこともなく、只管広海の行く末や結末が気になって一気に読めました。

劇的な展開はないのですが、その分、広海の生い立ち、三夜沢と出会って変わっていく思考や、自分がこの先どうなりたいか、自分がいままでどこが駄目だったか、そんな内面が上手く整理されていて、素直に読んでよかった、面白かったと思えました。

愛情に恵まれなかった分、誰かに期待する事も信じる事も自分から誰かを愛する事もしなかった広海。親切は偽善ばかりと虚栄を張ってきたけれど、三夜沢親子と出会った事で自分を傷つけられないために誰も信じないと決めた虚栄心が誰かを傷つけると学びます。
過酷な環境で育った広海が、誰かに教わる事無く自分でそれに気づいた所にお決まりな展開で終わらない満足感を感じました。

本当は神評価を付けたいところですが。。。BLという要素があってもなくてもある意味で成り立ってしまうお話ではないかと所々感じたので星4つで。妻に先立たれ、男手一つで幼い娘を育てる会社員が、不幸な境遇の男の子と出会い、家族の交流を深めていってやがて家族になる…というハートフルストーリーでも成り立ってしまう気もしました。

4

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