電子特典&カラーイラスト付き
こちらは4つの話が収録された短編集で、記憶が薄くなった頃合いを見て読み返してしまう作品です。
●「猫、22歳」「猫、35歳」
ポルノ作家で志朗の叔父の昇平(攻め)と、猫のようになってしまった昇平の甥の相田志朗(受け)の、手にした愛の行く末を見守るラブストーリーでした。ガチの叔父と甥です。冒頭のインパクトでもうつかみはOKでした。
●「皿の上の明くる日」
ゲイがばれて学校を辞めた元教師の尾張創(おわりはじめ・受け)とふらふらしていたら創にナンパされたシリアルキラーの三田村晴美(攻め)の、とある冬に二人の男が出会って別れた話です。
こちらはBLとして楽しむというのもありましたが、それ以上に自分の中の倫理観や正義感と何度も照らし合わせて考えさせられた作品でした。確かに、どれくらいの日数を過ごしたかはわからないけれど、2人で過ごした時間というのは幸せがあって愛もあって、癒しがあったと思う。けど、三田村はサイコパスなシリアルキラー。当事者じゃないから想像するしかないですが、遺族にとっては犯人なんて胸糞以外の何物でもないだろうし、世論ももちろん「とんでもない奴、許しちゃいけない、死刑だ」的な流れになるんだろうな、と想像する中で、「自分だけはあなたのことを愛している」って気持ちを否定することは私はできないな、と思ってしまいました。
●「男と男と蚊帳の中」
ケガで引退して現在引きこもり中の元プロサッカー選手の睦郎(攻め)と、睦郎の部屋に通って世話をしているプロサッカー選手の奥村圭の、ライト共依存ラブストーリー。攻めも受けもガタイがいいです。引き込もってひたすら筋トレに勤しむ理由、かいがいしくお世話をする理由。お互いに対する感情がむき出しで、体当たりで。しっかり伝わってきました。
●「戦争は平和」
こちらはBLというか哲学として面白かった作品。「なぜ戦争は無くならないのか?」という百人いれば百通りあるような命題の解答例の一つですよね。擬人化ってパワーすごい。皮肉が効いてる。最後の1コマは誰がウマいことを言えと、とツッこまざるを得ませんでした。
インパクトのある描写、表情、セリフ、ストーリー。表題作は2話ありましたが、他は1話完結。どの話も一冊まるっとで作るのは無謀なお話だなと思いました。
もちろん「考えるな、感じるんだ」で読んでもいいし、とことん突き詰めて考察するのもアリだと思います。
とても面白い作品集でした。
柳沢先生作品を読むのは「俺が君を殺すまで」に続き2作目です。
俺が〜もそうでしたが、設定というか発想が独特で私には難解なところがありました。
□表題作
どういうオチかと思いましたが「この猫被りが」でおあとがよろしいようで…となりおもしろかったです。
人間なんて猥雑なもの、としながら、老い、才能、死、受け継ぐことなど、2人の間で愛情があるからこそ生まれるものというお話かなと解釈しました。もっと深く複雑かもですが。
□皿の上の明くる日、
難しかったです。私の場合、わかった気になってはいけないような気がしました。
晴海が殺人をしたことに理由はない。
言葉には嘘が入る。そこから生じる意味は面倒。
生きることや死ぬこと、善悪などに意味があるのかと問いかけられているようでした。
そんな晴海が死なないでと言ったのが創で。それが愛であると。
愛し愛される人でも相応の罪を犯せば死刑になる。こらは「俺が君を殺すまで」でも描かれたテーマかと思います。
□戦争は平和
いろんな思想が擬人化されているのがおもしろい。
戦争と平和は同一人物? 裏表…戦争があるから平和が存在する…悪があるから善があるのか、苦があるから幸があるのか、など思いますね。
「人権」が「戦争」に死んでくれと言うのが皮肉だとわかります。
「正義」が「俺の戦争が…」と嘆き、好きなんじゃんと言われるのがおもしろい。戦争は正義をかざすものですもんね。正義は戦争によって大義名分になる。正義によって戦争が起こる。
柳沢先生の他作品も読んでみたくなりました。
◆猫、22歳(表題作)
猫っぽいとかじゃなくて、本当に猫なの!?と驚かせてくれた導入でした。四足歩行し、にゃあとしか鳴かず、用の足し方すら分からなかった志朗。けれど、ある日彼は普通の人間に戻る。そういうことだったのか、と納得すると同時に、その思い付きと行動力に再び仰天させられます。叔父の昇平のことをよく理解しているんだなぁと。それから2人が少しずつ歳を重ねてからの日々も描かれていて、ほのぼのとした日常を楽しめました。
◆皿の上の明くる日
連続殺人犯の晴海と、そうとは知らず彼をナンパしてしまった創。私はこの作品が一番お気に入りです。晴海は創の前では狂気を一瞬も見せることなく、ただ、見ず知らずの相手と性交できる軽い男という風に映る。ゲイである創を初めて受け入れてくれた男。2人は確かにこの短い間に、心を通わせていたんだなぁと。晴海が捕まったことに驚いても、彼に面会し、また会おうと叶わない約束すら交わしてしまう創。被害者達には悪人でしかない晴海ですが、創にとっては確かに大切な人間なのだなぁと思いました。
◆戦争は平和
概念と哲学も取り入れた作品で、斬新でした。確かに、平和であっても人は誰かをいじめ、差別し、人権を奪ったりもしますね。戦争中だからこそ、平和のありがたみを痛感し、それを心底望み、味方の間では一致団結できるというのにも一理あるかもしれません。それでも簡単に殺し殺される世界は真っ平ですが、愚かな人間と、戦争は切っても切り離せないものなのだと見せつけられました。
なんとも複雑な気持ちになる短編集だった。
表題作とその後のふたりを描いた 「猫、35歳」は、叔父×甥という私の大好きなカップリング。
まるで猫のようになってしまった甥を引き取った叔父さん。ファンタジーというか、狐憑きのようなものを想像したのだが、実は甥っ子は叔父に想いを寄せていて、こうでもしなきゃ叔父さんは手に入らなかった、とのたまうなかなかの策士。ガッツリ絡みのシーンがあるので、近親もの無理な人は無理だと思うが、私はめっちゃ萌えた。
続きの「猫、35歳」でガラリと絵柄が変わって、完全に男性向け作品のような雰囲気になってるのがびっくりする。年齢差のあるカップルって好きなんだけど、そんなふたりの闇に切り込んだ作品。当然歳上が先に老い、歳下が置いていかれる訳で…。すべてを悟り、飲み込んでいるような甥の表情、言葉に胸が詰まる。ラストシーンはどのようにも解釈できるので、単純に死ネタとは言い切れないと思う。
「皿の上の明くる日」
これはかなり重い話。よしながふみ先生の「本当に、やさしい」を思い出した。どちらも考えさせられる作品なのだが、こちらは殺人犯の動機がなんだかよくわからなくて、なんとも言えない読後感。「はじめちゃんは死なないでね」というセリフ、やはり受けに恋をしたから、受けのことは殺さなかった、ということになるんだろうか。恋をして、体を重ねても到底理解しえない関係が悲しい。
残り二作品は一転して軽い気持ちで読めるお話で、重い気分が若干浮上する。
この作者さんは正直絵柄も独特で萌えにくいのだけど、ストーリーもキャラもしっかりしていて、描きたいものがはっきりと伝わって来るので、どのお話にも引き込まれるものがあり好感触。
皆さんレビューされているように好き嫌いが分かれる作品だと思います。私は残念ながら、趣味じゃないよりの中立です。でも、神評価の方が沢山いて、好みって人それぞれなんだなと感じます。
そんな私が唯一面白かったと感じたのが表題作の『猫、22歳』『猫、35歳』でした。
同じカップルの22歳の時と35歳の時のお話です。ともにえっ?!と驚かされる事があり、35歳の話は果たして最後は35歳なのか…。驚き系の話なのでネタバレは極力避けたいのでこれ以上は書けませんが、とにかく面白かったです。
全体的に萌えなかった原因として、絵のタッチが力強いことでした。版画とか筆ペンで描いたかのような黒っぽい線とか、リアルな影の付け方とか男性向けの大人の漫画みたいな印象を受けました。同じ内容でももっと線の細いふにゃふにゃしたイラストなら猫の話もかなり違うものになったのだろうなと思います。