おまけ付きRenta!限定版
男の子たちの恋愛ではなく、その根底にあるような人と人とのつながりを描いているように感じました。
「十識」って名前、なんだかとても素敵ですね。
終盤に彼が人を監禁するに至った経緯…というか彼の過去が明かされるのですが、一回目の読了時にはいまいちピンときませんでした。特別インパクトのある過去ではなかったからかもしれない。むしろ多くの人が共感できるのでは、とも思えます。
けれど繰り返し読んでみると、序盤での心ちゃんの言葉がじわじわと刺さります。(このときの彼女の淡々とした表情がまた良いのです)
ほんの少し思ってしまった十識の過去に対しての「そんなことで?」という思いは、彼女の言葉に帰結していきました。インパクトがある必要はなかったんですね。
唯くんのプロポーズ(?)も素敵。ぜひ読んでほしいです。そのほか、キャラクターたちのふとした表情(むっとしていたり驚いていたり)などがとても魅力的です。
ちょっぴり話がそれますが、こういう作品こそ音声化されてほしいなあと個人的には思います。
エロエロないわゆる “ボーイズラブ” を否定したいのではなく、耳でもこの作品を感じてみたいなあ…と。役者さん方の力が試される…!みたいな。(何様)
十識と唯くんには「一生やってろ」な関係をこれからも続けていってほしいです。
淡々としたお話なんですが、読み終わった後しばらく動悸が治まらなかった…
電子で買った事を本気で後悔した一冊。。
紙媒体での買い直しを本気で悩んでます_:(´ ཀ`」 ∠):_
この物語自体が、十織が書く
ひとの現在も過去も許すようなやさしい話でした。
皆それぞれ傷を抱えて、病み方もそれぞれで、だからこそ寄り添う事の難しさや、理解する事の難しさがある中で、誰かの中に自分の居場所を望む事が出来るという事の奇跡がとても美しかったなぁ。
自分の心に負担をかけて、物語を紡いできた十織が、穏やかな幸福の中であたらしい話を書けるようになって本当に良かった。
フリーターでその日暮らしをしていた唯(ゆい)はある雪の夜、道端で一人蹲っていた男、十識(としき)を家まで送り届ける。
帰ろうとする唯だが、十識に強引に引き止められ、気付けば朝まで酔い潰れてしまう羽目に。
今度こそはと唯は家を出ようとするが、外へ出るための扉には固く鍵がかけられ、背後には嬉しそうに笑う十識。
「俺、監禁が趣味なの」
それは他人をこの家に閉じ込めようとしてきた、十識のおかしな趣味。
家から出られない代わりにここでは好きなように過ごしていい。
食事も寝床も確保された魅力的な生活に唯は一も二もなく承諾し、二人の奇妙な共同生活の幕が上がった。
真っ白な装丁の表と裏に空いた鍵穴のような丸い円。
そのなかに浮かぶ二人の人物が今回の主人公、十識(表)と唯(裏)です。
小説家だという十識はどこか掴みどころのない人物で、出会ったばかりの唯にも遠慮なく抱きついたり触れてきたり。けれど時折垣間見える、彼のなかの心の傷痕。
初めて出会った時のような、一人静かに閉じこもっていく危ういその姿に、唯は心の内で十識を放っておいてはいけないと感じます。
唯の方はずっとあてのない生活を送っており、色んなことにいい加減。こだわりや執着もあまりない希薄な人物です。
そんな唯にはかつて、ふとしたことで親しくなった友人(同級生)を喪った経験がありました。
最後に話した時、普段は強がっていた友人が漏らした心の叫び。
あの時、友人の言葉をもっとちゃんと拾ってやれていたら、あんな結末ではなく、何かが違っていたのでは……。
友人が空けてくれた両耳のピアスの穴。塞がらないようにそれ埋めてくれるピアスは死んだ友人と唯を繋ぐ大事なものでした。
しかし十識から突然、それを捨てられないなら出て行ってくれと言い渡されてしまいます。
どちらも選択できずに戸惑う唯を置いて、十識は黙って家を出て行きます。
外へと続く扉の鍵は開けたまま。
誰もいない家で一人きりなった唯は、自分が十識との生活を大切に思っていたことに改めて気が付きます。
自分たちの出会いを、この頼りない繋がりを、いつか「会えて良かった」と思えるようなものにしたい。
何事にも希薄であった唯は、今まで望むことのなかった未来を思い描くようになります。
別々の孤独を歩んできた唯と十識ですが、物語の軸となるのは十識の抱え続ける憂いです。
小さな頃からずっとずっと一人きりでいた十識。ひどく臆病で不器用な子どもだった十識は、友だちや家族との触れあい方も知らず、誰からも温もりも得られず、自分が居る意味なんてないのだと本気で思っていた。
そうして孤独のまま大人になった十識は、自分の存在を受け止めてくれる誰かがやって来ることを望んできました。
それは身勝手で、我が儘で、絵空事のような願い。
やろうと思えば、自分自身で孤独の世界から飛び出すことだってできたかもしれない。
その鍵(可能性)はいつだって十識の手のなかにあった。
しかし十識は自らの世界に閉じこもることしかできませんでした。
鍵の束を握りしめ、誰かの訪れによって扉が開かれることだけを頼りに生きてきた。
十識自身、自分がどうしようもない人間だとわかっている。
それでも、こんな自分の姿を知っても尚、それでもいいと、手を差し伸べてくれる誰かが現れるのを待ち続けていました。
幼いころから空いては広がり続ける深い孤独。穴だらけの心を、傷だらけの過去を、まるごと満たして掬いあげてくれるような、そんな誰かを。
そして、唯との出会いにより、十識の願いは叶うことになります。
けれども、自分を受け入れてくれることばかりを必死に望んできた十識には、扉の先の世界(未来)を思い描くことができません。
自分が本当に欲しかったものは、ずっと望んできたものは果たして何だったのか。
途方に暮れる十識の傍で、唯はある言葉をかけます。
それは閉じた世界から出て、新たな生き方へ進むための鍵。
二人が「ともに暮らす」ための小さな一歩でした。
今作は少し短めのお話ではありますが、唯、十識の人物像が物語にとてもよく染み込んでおり、物語の終幕には二人の言葉が優しく胸を伝ってきました。
人のもつ様々な心情を細やかに掬いあげるymzさんの今作もまた、素敵な仕上がりとなっております。
ただ同じ場所に居るだけではともに「暮らす」とはいえないでしょう。
少しずつでもいい、お互いの孤独が交わるように、悲しみも、喜びも、傷痕も、時間も、同じ屋根の下で、同じ食事をして、分かち合えたら、支え合えたら、笑い合えたら、それはありふれた、けれどかけがえのない「暮らし」となるのではないでしょうか。
二人分の孤独がひとつに溶けあうとき、描き下ろしの二人の部屋は柔らかな風が吹き込み、優しい温もりを感じました。
ymz先生ならではのお話です。
不思議な設定を受け入れられるかどうかが、好みの分かれ目かな、と思います。
私は、最近ymz先生作品を一気読みしてまして。こちらは、順不同の最後に読みました。
作画はラフ。だけど好きです。柔らかな光も、冷たい光も両方読み取れる。いつも、光と影の使い方が上手いな~と感動しながら読んでしまいます。
さて、キーリングロック。監禁ですが、うーん、軟禁くらいですよ。出ようと思えば出れちゃう。なのに、監禁した男、十識の世界に紛れ込んでいるような。監禁された男の唯も、相当面白いなぁと思います。
住むところ食べること寝床が保障されている十識の部屋。別に、暴力なし。セックスなし。
話は大半室内と過去の2人。
なんと云うか、この2人の出会いは多分必然だったのでしょう。過去の2人の後悔と、満たされない気持ち。ひとつひとつ解して、恐る恐る近くなる、で、互いを必要だと思う関係になるまで。
十識も、唯も変わっているんです。だからこそ、世間とズレもあったのでしょう。だけどズレも一周すると、符合するんだな…そんな不思議な気持ちになる読後感です。
舞台上の少人数の劇をみた気分です。
ymz先生作品は、なんだかんだ追っちゃいます、私は。