イラスト付
レビュータイトルどおり、そして先生ご自身があとがきで書かれているとおり、「恋にセックスは必要か」という問いに切り込んだ(しかし決して尖った作品ではなく、あくまでも優しい…・:*+.)お話でした。
以下、ネタバレを含んだ感想レビューとなります。↓
ちょっとした誤解やすれ違いはあれど、本編の中で特に大きな事件は起こりません。
付き合って1ヶ月になる二人の描写から、二人の出会いアピソード。
そして主に攻めの熱意で「体の触れ合いなし」の合意のもと恋人同士になるまで→付き合い始めたそれからの二人ー
受けである瑞希の視点に、時々攻めの黒川の視点も交えながらふんわり、ふんわり進んでいく物語です。
天使のような人間離れした美しさを持つ受けの顔に一目惚れした黒川 × 幼少期からその容姿のせいで怖い目に遭い、成人男性恐怖症のゲイ、瑞希。
作中で瑞希が悩む、
恋人から突然求められなくなったら、それは心が離れていっている証拠。
じゃあ、一方が「やりたい」と思えば、それは本気で求めている/求められている、ということになるのか?
心と心の結びつきは、所詮肉体関係には勝てないのか?
そんな問いを読み、自分自身も真剣に考えてしまいました。
本編の中で瑞希は自然と黒川に身を寄せ、一緒に抱き合い、一緒に寝て、自分からキスをし、もっと触れ合いたいと感じ、体を「重ねてもいい」ではなく、「重ねたい」と感じるようになります。
最終的に体を繋げることにはなるのですが(BLですし、物語が動かないとお話にならないので、そりゃそうかなとは思いますが)、もし万が一、彼が黒川に対しても恐怖症の症状を完璧に取り除くことができず、最後までずっと体を許すことができなかったとしても。
黒川から瑞希に注がれる愛は変わらなかったんじゃないかな、と。
恋に恋する乙女のような、希望的観測で笑われてしまうようなものかもしれませんが…(;'-' )そんなふうに思いました。
唯一の正解を求めるのではなく、自分ならどう感じるだろう、どう行動するだろうー瑞希に、また黒川の立場に自身を重ね合わせ、じっくりと考えさせられる、良質な作品でした。
“階段を上がる前に振り返ると、踵を返した彼が、キャップをしっかりとかぶるのが見えた。黒川が隣にいなくなったから。ぎゅっと胸が苦しくなる。やっぱり今からでも駆け戻り、「きみの家に泊めて」と請いたい。
恋をしていると思った。”
トラウマや傷心にじっくり向き合う甘々が読みたくてこちらを購入、ドンピシャで最高でした。とは言え深層まで深入りせずに読みやすくBL。美しく人馴れしない野良猫のような瑞希が笑うたび、心を許す度にえも言われぬ幸福を感じる千里の、焦れ焦れ甘々繊細プラトニックラブ。
触れるたびに相手の存在の尊さを感じたり、キスをすれば何日もニマニマしちゃうような、高校生みたいな(それよりも尊い)恋愛をする大人たちが素敵過ぎました。
特に千里の、出会いから瑞希に恋してプラトニックラブに落ち着くまでがしっかり書いてあるので理解しやすいし、どれだけ瑞希を大切にしているか伝わるし、瑞稀が愛おしく感じれます。
性嫌悪を持つ瑞希の自己嫌悪や大好きな千里への申し訳なさといった心の機微が、シンプルな言葉で重層的に書かれていて、著者も性欲と愛の折り合いを考えながら(きっと悩みながら)お話を書かれている様子を感じました。
瑞稀を気遣わせないように配慮する千里の気配りや愛の言葉は端的で甘くて、悪く言ってしまえば何でも分かってくれている優しい空想の存在です。みんなこんなふうに優しくされたかったし愛されたかったよねという権化の様な、けれど大なり小なり誰もが持っている自己嫌悪なりコンプレックスを包む様な細やかな優しさで、泣けました…
ベッドシーンも、あまあまで良かった。
「……ここも、かわいいかたちになってきた……」とか、もう二人の台詞が甘々実況系で悶えました。すぐに挿入ではなく後日談(何日もかけて)でやっと繋がるというのも、激甘ノックダウンでした。この配分はこの作品にとても合ってます。
まだまだセックスは怖い瑞希が、千里の自慰を目撃した上でその後手を繋こうとするシーンも、意志と欲を千里と繋ごうとしている決意の様で、とても良かった。
今作では顔が美し過ぎるからこその男性恐怖症(そしてその顔だからこそ千里が気にかけるきっかけになったとも言える)でしたが、普通の人のそういった話や心理がもっと読みたいです。
瑞希が普通の顔だったなら文中のようにいきいきと生きれたかも知れないけれど、同じように嫌悪を持っていたなら救われただろうかと考えてしまいます。
イラストは瑞希が特別美しい顔に見えないし、文と挿絵のタイミングが個人的に好みではなく(絵が文の展開より先に出る)あー…となりながら読みました。サブカプもちょっとうざかった…
カフェでバイトをしている黒川さんと、
保育士をしている瑞希のお話です。
黒川さんと付き合っている瑞希。
美少年の瑞希は昔のトラウマで成人男性が苦手です。
顔を見られるのが怖く、いやらしいことも嫌いなまま大人になります。
そういう事情がある瑞希とゆっくりと進んでいくお話で、
黒川さんの紳士具合がとてつもなく凄かったです。
瑞希のことが好きで仕方ないのがこちらまで伝わってきて
キュンキュンしながら読みました。
最初から最後まで紳士で王子様みたいな黒川さんと
トラウマを克服しようと頑張る瑞希。
ふたりのお話を読むことが出来て良かったです。
最初から最後まで甘々なので、
波乱な展開をお好みの方には物足りないかもしれません。
でも、私はふたりのゆっくり進んでいく恋のお話が読めて幸せでした。
作者さんのテーマ、恋にセックスは必要か。
そうですよね、なんとなく小説では最後の数十ページ辺りにきて、こちらも良かったねとなって読み終わりますが。あえてこのテーマ。考えさせられます。
このテーマで書くためなのか主人公瑞希が気の毒な人で。人並みの幸せを妨げるほどの美貌。勝手な異常者の言い分。男性恐怖症で見られるのも触るのも目が合うのも怖くて、いつもフードで顔を隠して。
そんな瑞希の顔に一目惚れする黒川。
黒川が丁寧に丁寧に瑞希にアプローチを続け。王子様か!ってくらい紳士で。
外見が本人の枷になってこんな怖がりで純粋で可愛い瑞希が好きだって。
そんな黒川に恋をしてお互い大好きを捧げあって。
瑞希は触れ合いやセックスできないことを引け目に感じて…。でも黒川のいつまでも待つしできなくてもいいとの台詞や、ぐわーってくる瞬間が来たらって言葉も。素敵です。
瑞希が心から黒川の言葉や気持ちを信じられて、恋愛初心者でも卑屈になりすぎず、黒川の言うことを受け止めて。その瞬間が来てから少しずつ彼と繋がる準備が始まるのも良かったです。
なんというか瑞希も黒川も現実感がわかないような。いえ、小説だから当然なんですが。
黒川は本当はどんな人なの?瑞希のために演じてるのか、瑞希を好きになって自然に瑞希が安心して好きでいてくれる態度をとるのが苦じゃなくなったのか。
恋にセックスは必要か、丁寧に書かれたお話でした。
心から愛し合う恋人たちに肉体的な繋がりは必要なのか?
あまり昨今のBL小説作品では見かけないテーマに惹かれました。
高校生でもなく、大学生でもない。
けれど、じれったいくらいにあまりにもピュアなお話。
社会人の大人同士が、直接的には触れ合わずに、言葉と仕草で少しずつお互いへの小さな「好き」の気持ちを積み重ねて、2人で大きくふくらませていく様子が両視点で丁寧に綴られています。
もう既にお付き合いをしている恋人同士のお話なので、全体を通して空気は甘く優しいもの。
ここまではよくあるお話ですよね。
今作が他作品と異なるところといえば、やはり性描写がきわめて少ないというところでしょうか。
というのも、その美しい容姿もあってか、受けの瑞希が過去に大人の男性から受けた性的な欲望を向けられたトラウマを根強く持つ"男性恐怖症のゲイ"なのです。
いやはや、これはなかなかに生き辛かろうな。
それゆえに、恋愛どころか日常生活ですら危うい部分が多々あったりするわけなのですが…
瑞希の恋人である黒川がなんとまあ出来た人で。
いえね、もろもろを必死に我慢をしたり、欲望を隠そうとしたりと、ごくごく普通の28歳男性な部分だってあるんです。
でも、大人の男性に恐怖心を抱いてしまう瑞希をひたすら大切に、繊細なほどに心から愛でてやまない姿がなんだかとっても良いのです。
「好き」の気持ちと器の大きさで言えば、それはもう瑞希に惚れ込んでしまった黒川の方が圧倒的に大きいので…
恋愛初心者な瑞希が、恋焦がれたり、時にはぐるぐると悩みながら、少し大人な恋人・黒川相手にどう変化していくのかが見どころかなと思います。
こういうテーマの作品って、なんだかんだでサクッと色んな意味で繋がっちゃったりするものだってあるじゃないですか。
そんな中、こちらの作品は本当にゆっくりと丁寧に、心の深い部分まで想い合う2人の恋愛が描かれています。
波風はあまり立たないですし、ある意味単調といえば単調なんです。
けれど、優しい気持ちと好きを持ち寄る2人をじっくりと読みたい時にはぴったりかも。
萌萌と萌で迷ったのですが、今回はこちらの評価に。
ちょっとサブキャラクターの出張り方が気になってしまって。
カフェの店長とその恋人のキャラクターが作品の雰囲気に合ってはいなかったかも。やや蛇足に感じました。