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表題作運命ではありません

門脇楡
29歳,澄と同社のAI開発責任者
御影澄
23歳,マッチングアプリ運営会社広報

その他の収録作品

  • それでも、運命ではありません
  • おりこうではありません(あとがきに代えて)

あらすじ

恋愛経験ゼロの澄がマッチングアプリに“運命の人と”診断されたのは、
先輩社員の楡(男)だった。
半信半疑で、ゆるいおつきあいをするうち…?

作品情報

作品名
運命ではありません
著者
一穂ミチ 
イラスト
梨とりこ 
媒体
小説
出版社
新書館
レーベル
ディアプラス文庫
発売日
ISBN
9784403524509
3.7

(128)

(33)

萌々

(55)

(24)

中立

(8)

趣味じゃない

(8)

レビュー数
18
得点
465
評価数
128
平均
3.7 / 5
神率
25.8%

レビュー投稿数18

攻めの魅力がさっぱりわからない





表題作+SS「それでも、運命ではありません」どちらも受け視点

婚活アプリの会社で広報を担当する御影澄(受け)は夢見がちで少女漫画が大好きなJKのような恋愛を夢見ています。
ある日いきなり社長に呼び出されて、運命レベルのマッチング相手が見つかった
と言われ、紹介されたのがAI開発責任者・門脇楡(攻め)。
驚き拒否る澄は、結局言いくるめられお試しでということで付き合うことになのですが、この門脇という男、見目はいいのですが、「天才となんとかは‥」を地でいくようなふわふわとしたつかみどころのない変わった人でした。
いつも平熱がないみたいなのに時々出る熱を垣間見ることによりそのギャップで門脇のことが気になっていく澄。
運命レベルのマッチングだといって付き合い始めたけど、恋愛をするとみんなおかしくなるのがわからないとか人を好きになりすぎるのもよくないからあんまり好きにならないでとか言い出す門脇が何を考えているのかがわからないままお試し続けていき、ある日突然お試しは終わりといって終わってしまうのです。


話の中で何度も台詞とかシチュエーションのたびにこれはどの漫画のこのシーンって話になるのが面白く、よくこんなに漫画の題名とシチュエーション考えるなと感心しました。

表題作はずっと攻めの気持ちがわからなくて、澄は門脇のことをクレープを焼く鉄板みたいに流れて蒸発してしまうと表現してたけど、読んでいるときはベールの向こうをずっと覗こうとしてる感じがして、ずっとモヤモヤしていました。
ただ、門脇のひょうひょうとした話に対する澄の軽快な返しは漫才のようで面白かったです。でも、このやり取りの中でどうして澄が門脇を好きになったのかはよくわかりませんでした、
車の中で吐いても怒らないっていうのは一見優しいような気がするけど、その実その車をあっさり廃車にしてしまう執着のなさというのが門脇の一番の欠陥部分でその部分が解消されない限り二人は付き合うレベルにはなれなのではないかと思います。

そんな門脇が澄と付き合うようになってどう変わっていくのかというところが、楽しみではあったと思うのですが、澄視点なためほとんどわかりません。
門脇の母親の行動に対する好奇心でマッチングシステムに手を加え澄に近づくのも、目的も果たし澄のことを思って手をはなすのも、すごく勝手で腹がたちました。振り回すだけ振り回しておいて、相手を思っての行動だからといって澄を傷つけていい理由にはとならないと思います。生い立ちとかは気の毒だとは思うけど、それは澄には全く関係のない話
で、他人の心を振り回していいことにはならないと思いました。

せめて、門脇視点の心境の変化や澄への想いが読めたら、あるいは澄を振り回しただけのざまあな展開があったらもう少しもやもやも収まったと思うのですが、結局澄だけがしんどい目にあっただけのような気がしました

でも、話自体はお互いの家族がうまく絡んでよくできていたと思います。
特に、妹と澄の幼馴染・公のカップルの結婚まで順調そうに見えて波風たってまた元サヤになってという流れの中で澄が自分の気持ちに気が付くところはすごく切ないけど澄の気持ちを後押ししているのがうまくできてると思いました。
そして、話にキーになる部分を知っていた澄の母親。
門脇の両親も強烈でしたが、澄の母親も随分と個性的でした。とはいえ、彼女のおかげですべてのピースが埋まって二人がうまくいくきっかけになったことはよかったと思いました。


後半のSSは元カノの登場で澄の心がかき乱される話です。
元カノに再会して、もう彼女とはなんともないけど、二人ともがAIという同じ研究に従事していることで話している内容が一ミリも理解できないことに劣等感を覚えたりする澄が切なかった。
で、今回もやっぱり門脇が勝手でした、

昔の実験を知られたくないからと口止め料代わりに働かされ、忙しすぎて会いたいのに会えないのは気の毒だけど、自業自得だと思ました。
結局、最終的に全部ばらされてるんだから、仕事を引き受けた意味は全くなくなってしまって、なんの事情も知らないで会えない日が続いて、いろいろ思い悩んだ澄が可哀想でした。
ひと月も切ない思いをしたのに、澄も自分で言ってるけど一瞬で許される門脇をずるいと思ったし、もっと反省して欲しかった。
終始一貫して、攻めの勝手さに振り回されてモヤモヤしっぱなしでした。
せめて澄がもう少し抵抗して門脇を困らせ、焦らせてればこんな読了感ではなかっ
たと思うのですが、私としては澄に対してもいらいらもやもやしてばかりで疲れました。
ただ、これは私が受け視点で書かれていてそちらに感情移入して読んでしまったのでこういう感想になってしまったのだと思います。

18

「運命の相手」って…?

一穂さんの新刊ということで楽しみに待っていました。どこかで読んだことあるなあ…、と思ったら、雑誌『小説Dear+ Vol.66 2017ナツ号』に収録されていたお話でした。

ネタバレ含んでいます。







主人公は新人リーマンの澄。
彼は好きなものを登録するとAIによるマッチングでぴったりな相手を見つけてくれる、というアプリを運営する会社の広報で働いている。
ある日社長に呼ばれていくと、そこにはマッチングアプリで見つかったという、澄の「運命の相手」がいて…。

というお話。

そのお相手は門脇さん。
澄の会社のAIの開発を担当している。
大学生のころから会社に入り浸り、現在では会社のブレインともいえるAI開発にかかわっているということはさぞかし優秀なのだろう…、と思いつつ、この門脇さんという男性がちょっと変わり者。そんな門脇さんと澄との恋の行方は―?

澄は女性陣たちから人畜無害、と言われてしまうくらいの男の子。ちなみにDT。
漫画家をしている母親の影響もあってか、少女漫画を愛読し、いつか漫画のヒーローのように女の子をエスコートしたい、という願望を持ちつつ、門脇さんに良いように丸め込まれていく。

一応澄も抵抗はするのですよ。
するのですが、門脇という男性が飄々としていることもあってか、二人のやり取りが非常にコミカル。二人の掛け合いが、まるで漫才のよう。

序盤はコメディ調で進みますが、そこで終わらないのが一穂作品ならではか。

少しずつ見えてくる門脇さんの過去が、なんとも切ない。

そしてそこから一気に怒涛の展開へ。
門脇さんの過去。
マッチングアプリで澄と門脇さんが「運命の相手」と言われたからくり。
そして門脇さんと、澄との、意外な接点。

主人公は澄で、彼視点でストーリーは展開していきますが、彼の目を通して見えてくる「門脇」という男性がとにかく魅力的でした。

彼を形成してる「過去」はある意味壮絶で、でもその壮絶さに負けない強さを彼は持っている。
そして、何事においても執着することがなかった彼が、唯一執着したものはー。

コミカルにテンポよく進むストーリーですが、そう見せかけたその裏の壮絶な人間関係の描き方のなんとうまいことか。一穂さんならではの巧みさで、二転三転するストーリーに引き込まれます。

後半は門脇さん浮気疑惑、のお話。
澄は門脇さんのことが大好きで。
でも、体温が低いように見える門脇さんも、しっかり澄のことが大切なんだなあとわかる描写に萌えが滾りました。

基本的に悪い人は出てきませんし、ほっこりほのぼのなお話でした。

梨さんのイラストがストーリーにぴったり合っていて、そこもよかったです。

9

受けの属性は「善良受け」で

これって、一穂カラーともいえる善良受け作品の中でも、かなり究極な善良受けだった。
いや、だって、いくらマッチングアプリのAIが選んだ確率百万分の一の運命の相手だからって、同性の先輩社員に引き合わされて無碍にしきれないって、御影くん善良さにも程があるだろうよって話です。
でも、その善良な御影が、右往左往しながらもちゃんと相手のことを考えて、自分の感情にも向き合って生きている所がいいのよ。
で、そんな善良な御影に対しての、攻めの門脇が、また、極端な感情足りてるのか足りてないのかわからないキャラクターで(これも、これはこれで一穂カラーと言うか)御影君、それでいいのか、大丈夫かって心配しながら読み進めた。
でも、ちゃんと最終的にはネタばらしされて、冒頭の伏線も回収して、しれっと収まっちゃう。
この、拍子抜けする感じのハッピーエンドが味なのね。

9

ストレンジ・ラブ

一穂先生、叙情派みたいに言われているけれど、
イエスノーは爆笑→キュンだったし、実はトリッキーだよねぇと思うことが多い。
(褒めています!)

流れに乗って読んでいるうちに、え〜そう来たか!というのを自然に受け入れさせられ
ちゃんとジワッと切なかったりキュンときたり、でも読み終わると暖かい、
新しい仕掛けもさりげなく自然に取り込んで、違和感なくその世界に入れる
そんな作風が定着しつつあるのだけれど、これもまたそういう作品でした。

             :

主人公・御影澄は、AIによる婚活サイトの会社に勤める23歳と10ヶ月。
趣味は少女漫画を読むこと、JKみたいにピュアに恋に憧れる恋人なし青年。
会社の商品であるマッチングサイトに登録したものの、
実際には結婚なんてまだ考えられない彼は、ある日社長室に呼び出される。
俺何かしたっけ?と不安になりながら出向くと、
そこには社長と共に汚らしい風体の男が待っている。

社長が厳かに(?)告げたことにはマッチングサイトが
澄に「運命レベル」の相手が見つかったとはじき出したらしい。
え〜!ビックリ……と思っているとさらなる爆弾投下!
なんとその相手は、社長にそれで電車に乗るなと言われたそこの小汚い男
我が社のAI開発責任者の門脇楡氏だというではないか?!え〜!!

             :

テーマは流行のAIか!と思いつつ読み始め、着地点は……
純文学に近かった『meet, again』から8年。
レビュータイトルにした『ストレンジラブ』は澄が勤める会社の名前だが、
『meet,again』でも印象的なモチーフだった映画『博士の異常な愛情』から取られている。
(原題はDr.Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb)

後半の展開は、え?あ〜?あ〜〜!と言ったミステリー小説の醍醐味的な感じで
これは是非読んで頂いて味わって頂きたい。
時々挟まる架空の少女漫画のエピソードが、コミカルで可愛らしい薬味。
(タイトルがまたいかにもで可笑しい。)


この「運命の相手」の門脇楡氏。
澄がクレープの丸く平らな焼き器になぞらえた、フラットさ、
出会いこそ匂いそうに小汚かったが、お風呂に入って整えればシュッとした美形。
ちょっと(かなり?)不思議で個性的な彼の、背景と過去。
そんな楡に澄は、振り回され腹を立てながらも少しずつ惹かれ、
本人が感じていなかった痛みを感じ、自分ではコントロールできない気持ちを抱く。
澄の素直さに「自然」が分からなかった楡もまた惹かれていっていると思ったが……


脇役の個性が際立ち味わいと世界を広げているのもいつも通り。
特に、澄の幼なじみで妹・真子の婚約者・公の
「運命なんて、真子を傷つけていいほど大層なもんじゃない」
という台詞はグッとくる。


水槽みたいに青い春の夜の人恋しさ、窓ガラスを流れ落ちる雨……
イマドキで理系っぽい設定なのだが、そこに挟まれる繊細で美しい情景の描写と
そこから自然につながる物語の巧さは流石。
梨とりこさんの絵は、表紙よりも中の挿絵や特に口絵がいい。

             :

書き下ろし『それでも、運命ではありません』は、
春を待つ2月、出会ってから10ヶ月、順調に付き合いの続く二人。
ご多分に漏れず、少女漫画よろしく、すれ違いと浮気疑惑が発生し……
すごく人間らしくなっている楡にニヤニヤ。
最後はこれまた少女漫画っぽい図で、ニヤニヤ。

ここで重要な脇役(?)は、キャベツについていた青虫です。

7

脇キャラも良いです

AIによるマッチングアプリの広報にて働いていて、澄もそのアプリに登録しています。ある日社長に呼ばれていくと、「運命の相手」が見つかったと言われます。その相手が開発者でもある楡という男性でした。何故男と反抗するものの、最初に同姓を拒否するという項目のチェックを入れなかったからと言われ、お試しで付き合い始めます。

澄は戸惑いもあるし運命の相手として信じられないと思っていたものの、楡のマイペースに振り回されています。一緒にお弁当を食べたり、お弁当を作ったり、澄は母親の関係で少女漫画が好きなのですが、一緒に映画を見に行ったりもします。
澄も楡の事がよく分からないけれど次第に気になっていきます。それでも澄には何か引っかかるようで、楡の事をクレープを焼く時の機器に例えていますが、分かるような分からないようなと思いました。

何故、楡と澄が「運命の相手」としてマッチングされたのか、運命の相手なのに楡は澄に「あまり俺の事を好きにならないで」と言い振り回すくせに、楡は澄の体に触れていきます。
それなのに、家族と顔を合わせた後に楡は澄に別れを切り出します。その後分かる家族の背景は予想外でした。

物語は結構淡々と進んでいくのですが、文章や言葉選びが綺麗です。普通なら淡々と進んでいくと飽きてしまうのですが、そう思わせないです。
BL作品ですが、幼馴染で澄の妹の婚約者の公が言った「運命なんて、真子を傷つけていいほど大層なもんじゃない」という言葉が一番良かったです。

家庭環境などの背景面で普通とは違うからこそマイペースである楡が存在しているのではありますが、共感するには難しい面もありました。それでも全体的に面白い作品でした。

7

この作品が収納されている本棚

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