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一穂先生の作品はもともと好きなのですが、
これはもうどうしようもない位好きっ!
3月に読んで、はやくも今年のベストが個人的には確定してしまった作品です!
幼なじみで、義理の兄弟で、同僚でもある二人。
海千山千、頭がよくって性格が悪くって口も悪い佐伯が、良時にだけ向けていた純愛。
長い年月、知っていて、でも知らないふりをして生きてきたバランスが崩れる…
初めて出会った小学生の頃、学生時代、同じ新聞社に勤めてから、
様々な過去のエピソードが現在と交錯して、行きつ戻りつしながら物語が紡がれる。
どのエピソードも目を見張るような大事件ではないが、鮮やかだ。
彼らの想いの歴史であるそんなエピソードの一つ一つが
どれほどお互いが特別かを物語り、読み手の胸に迫る。
想いが通じあった時に、いつも目だけが醒めている佐伯が眼差しで笑ったシーンが好き。
「ままならねぇ」世界で、駆り立てられるようにより先へより先へと生きて来た彼が
ようやく手にした本当に欲しかったもの。
そして、少しして良時が突然は気がつく(彼はちょっと鈍いのですw)、幸せなのだと。
今までだって決して不幸ではなかったけれど、「雨じゃない」と「快晴」が違うように
とても単純に違うもの、幸せ。
決して甘い話ではないのだが、こういうところで胸が一杯になる。
危ういけれど絶妙だったバランスは、実は3人で形作られていた。
それを潔く突き崩したもう1人の主役、良時の妹十和子がとてもいい。
彼女に生涯寄り添うと決めている家政婦の雪絵さんといい、
女性達の生き方にも心を動かされる。
脇役として出てくる人々にも、ちゃんと仕事があり家族があり人生のドラマがある。
そんな当たり前のことがきちんと描かれたり、
描かれなくてもそんな背景を感じさせてくれるのも
この作者の作品の感動が深い物になる要因だろうと感じます。
(そして、新刊「ステノグラフィカ」では脇役西口の人生も繙かれます。)
巻末の短編は「I L××E YOU」だけが受けの佐伯視点。
「off we go」「sofa so good」と、甘さ増量。
これからの二人がこんな風に一緒に生きていくんだろうなぁ、と
なんとも可愛い佐伯も垣間みられて、こちらも幸せ気分になれる小品でした。
※追加のコネタ
作中、佐伯が口ずさんでいるのはOASISの「Champagne Supernova」だと思われます♪
それから指輪のロシア語「орько」、頭の「г」が落ちちゃってますが、
いいエピソードですね。
ザグレブの失恋博物館にも行ってみたいし、二人の道中も読んでみたい〜
ナツッジのソファといい、レヴィ=ストロースといい、一穂先生は小物の使い方が上手いですね!
良時と密は小学5年の時に、密と十和子の入院先の病院で出会います。
それ以来3人は幼馴染となるのですが、
家が近所でも学校が同じでもない3人は、
密と十和子が同じ病室で数カ月共に闘病生活を送った、というただそれだけの繋がり。
だけど、出会った時から良時と密はお互いに特別な存在でした。
自覚はなかったけど・・・
いや、密は自分の気持に気付いていたのかもしれません。
密が退院する前、
「いい人生って何だと思う?」「十和子が急にかわいそうになって・・・」と言う良時に、
「ずっと遊んでようぜ。俺とお前と静、三人で」
密は、自分へ人生へ、挑戦のように宣言の様に、言い放ちます。
これは良時目線の良時と密の話ですが、
本当は十和子が主人公では?と思えるほど、十和子の存在は大きいです。
生まれた時から人並みの生活が出来ないほど体が弱った十和子。
壊れ物の様に、家族に大切に育てられた十和子を、
初めて人並みに扱い、知恵も授けた密。
十和子が家族の様に密を愛したのは、自然な成り行きだったのでしょう。
十和子が良時に離婚の本心を語る場面は、切なくて泣きそうになりました。
子供のころはいつでも側に良時と密が居てくれる事が当然だった十和子。
それが二人の就職が決まった事で、一人取り残される怖さを知ることになる。
そんな時に、密は十和子に「大人になってからも一緒にいるための特別な約束」をくれる。
聡い十和子は、密が良時が、本当は誰を想っているのか当人たち以上にわかっていた。
それなのに、その「約束」にすがりついてしまう。
いつまでも三人で居るために。娘の幸せを心から願う母親を安心させるために。
心からお互いを想い合う三人の、長い長い三角関係。
三人ともがやさしすぎて、相手を思いやりすぎて、本当に全編通して切なかったです。
人生の折り返しを過ぎてから、やっと自分の心に正直に生きる事を選択した三人。
十和子に背中をおされ、長年の気持ちを確かめ合った良時と密。
最後に、良時が「俺は今、幸せなんだな」と急にはっきり自覚したところは、
胸にずきんと来ました・・・
なんか、しみじみとした感慨が残る作品でした。
一穂作品の中でも最も好きな一冊です。
やはり佐伯という人物の強烈な魅力が大きいですが、
文章や物語の構成も素晴らしい。
四十代半ばの幼なじみ男女三人。
根の深い三角関係の正体を、過去-現在をオーバーラップしながら徐々に解き明かし、ある一点で爆発してまた穏やかな日常に戻る…という構成に大変引き込まれます。
この繊細な物語世界を、
三人のうち最も鈍感でまとも(に見える)良時の視点で描いている点が絶妙。
もし十和子や佐伯視点であったら、
聡すぎる彼らの心象世界はあまりに感傷的すぎて苦しかったかもしれません。
少し鈍い良時視点だからこそ、十和子と佐伯の秘めた思いが本当にさりげなく伝わってきて、相手に気取られないよう努力する彼らの健気さに心打たれます。
例えば、互いへの呼び方。
十和子は兄・良時を、佐伯を真似て「良時」と呼び、
十和子と佐伯の夫婦は、互いを名字で呼び合います。
呼び方一つとは言え、「いびつな三角関係」を少しでも正三角形に保ち三人でいられるための、佐伯と十和子のさりげない努力であるように思えるのです。
そんな努力が水面下で行われてきた関係は、
佐伯が偶然出会った良時の前妻と夫を、激しく罵倒したことで終わりを告げます(酷すぎるけどスカッとする…w)。
あまりの罵詈雑言に圧倒されると共に、いつも飄逸とした佐伯が、良時のためならこんなにも激昂できるという事実に胸を打たれます。
佐伯は、
病弱な子供時代から、ある種の切迫感を感じさせるほど貪欲に知識を吸収し続け、「ままならない」境遇と戦うように世界中を飛び回ってきた。
彼がようやく良時という「行き着くところ」を得て見せる穏やかな表情に感動すると共に、遅れて来た初恋を噛み締めるように幸せそうに過ごす二人を愛おしく感じます。
そして十和子。
二人の関係は、良時の妹で佐伯の妻のこの女性なしには成立しません。
恋愛感情とは違う大きな愛で佐伯を愛し、佐伯と良時のため離婚を切り出す。
傍から見ると悲しい人生かもしれないが、
彼女は彼女で離婚により自分の道を行く自由を得たように思えます。
佐伯と良時を送り出すことは辛い選択でも、
十和子もまた打算的に結婚を承諾した負い目から解放され、綺麗な子供時代の思い出を取り戻すことができた。
今後は何にも縛られることなく、自分の道を歩んで欲しいと思います。
雪絵さんが言うように、彼女は小さくとも確固たる自分の世界をもつ、聡明な一人前の女性なのだから。
大阪本社での佐伯の様子(『is in you』)、同僚から見た二人(『ステノグラフィカ』)、同人誌での様々なエピソード等、様々な人物の視点・時間軸を通じて、これからも永遠に続いていくであろう物語。登場人物全ての人生が愛おしい、本当に大好きな作品です!
再読です。昔読んだときは、主人公三人の誰にも感情移入できぬまま、さらりと読了、そのままほぼ忘れかけてました。なぜ再び手に取る気になったかというと、前段の「is in you」をこのほど初めて読んで、超絶頭よくて体弱くて仕事ができて素行の悪い佐伯というとんがったキャラにやられてしまったから。こちらでの佐伯は主役ではなく当て馬、しかも日本に愛妻がいながら香港で男の「現地妻」をかこってるという、BLの王道からも大手を振って転げ落ちているような役どころ。なのにその存在感はあまりに鮮烈で、正統派いいやつの主役である攻めをかすませるほど。でもって、その余韻の濃厚なまま本作を読んだらあら不思議。再読でこれほど印象が百八十度変わる作品は珍しい。そのくらいハマってしまいました。
「ずっと遊んでようぜ、俺とお前と静、三人で」11歳の密(=佐伯)は高らかに言い放ったけれど、そういうわけにはいかないことくらい、三人の中でとびぬけて聡い彼が気づいてなかったはずはない。たとえ風にも当てられぬほど病弱で、病院と自宅を往還するだけの毎日でも、こどもにだけ許される自由って、確かにある。大人になってしまったら、ただ一緒にいたい人と一緒にいるだけなのに、そこにはきちんとした「理由」が要るのだ。十和子と良時は兄妹だからいい。密と十和子には、男女だから「結婚」という方法があった。では密と良時には? 幼友達で、同僚で、十和子を介せば義兄弟。いろんな言葉で二人の関係性を言い表すことはできるけど、そのどれもが決定的な「理由」にはなってくれなかった。
実際、二人はそれぞれに、あがいてみたりもしたのだ。良時は無自覚で、密は確信犯という違いはあれど。同じ新聞社に同期入社しながら、海外の支社局を転々として凄腕の外信記者として名をはせる密と、ほぼずっと内勤の良時。長男のくせに初任地の金沢で料亭の一人娘に惚れられてあっさり入り婿になるという良時。「おまえなんかどこへでも行っちまえ(=off you go)」そんな捨て台詞を投げ合って、まるで互いの磁力から、無理にも遠ざかろうとするみたいに。「ままならねぇな」時折密の漏らす呟きは、良時に向けてか、自分の心に対してか。
そうして一定の距離を置くことで、あやういながらも絶妙のバランスで保たれてきた三人の関係が、20年という時がたったいまになって、あっけなく崩れ去る。妻に去られた良時、ずっと病弱な十和子の身だけを案じてきた母の死、そして密の帰国。いろんな枷や重しや境界線が取っ払われて、改めて良時と密はふたりきりで見つめあう。よく知っているようで実は知らない相手のことを。そこで「行って」と背中に最後のひと押しをするのが十和子の役目だった。
二人の初めての夜は、知り合ってからだと実に30年越し、さぞ感動的であまあまなものになるかと思えばさにあらず。普段温厚な良識人で、不倫の揚げ句身ごもった妻に別れを切り出された時でさえ激高することのなかった良時が、香港での密の男関係を聞かされて逆上し、いつになく荒々しく迫ってるし。密は密で、もとより腕力では良時にかなうべくもないけど、その気になれば一撃必殺の毒吐きで、瞬時に良時を萎えさせることだってたやすいはずなのに、終始ほとんどその口を開かない。「やらせろ」にも「密」と繰り返し名を呼ぶ声にもかたくなに口を結び、ただ良時の激情に身を委ねる。普段あれだけ饒舌で毒舌な彼だからこそ、その沈黙が純情の証しのようで萌えました。
一夜明け、我に返ってわたわたする良時を残して、涼しい顔で大阪出張に出る密。ここで「is in you」の時間軸とリンクしてるんですねえ。それにしても密ってばとことん人が悪い。今やわが身に現在進行している大事件で手一杯で、一束にちょっかいかけたり圭輔を報復人事で遠くに飛ばしたりする算段なんてできっこないくせに、行きがけの駄賃で、ちょいと嫌がらせだけはしとくか、みたいな。相変わらず圭輔のことは「大嫌い」と言ってはばからない密だけど、絶対それだけじゃないよね。圭輔って良時と同じ匂いがするもん。素直ですこやかで、過不足なくいろんなものが備わってて。いびつな自分を自覚すればするほど苦しく妬ましく、でも焦がれずにはいられなかった相手。あと、肝心なところで少し鈍感なのも、いかにも育ちのいいボンボンにありがちな弱点だけど、そこは苦にしてないようだしね、密も、一束も。
青石ももこさんのイラスト、「is in you」の高校生が主役の時はすごくハマってたのですが、本作では正直かなりの違和感が…。絵柄が綺麗で爽やかすぎて、40過ぎのオッサンの草臥れた色香みたいなのが感じられないんですよね。でも表紙の構図は神でした。
この本読むに当たって、前作になる「is in you」に佐伯っていたっけ?
と、佐伯の事を全く思い出せなかったのですが、、、。
そして、佐伯の方が攻めだって、なんとなく思いこんじゃっていて、読んでいても良時のイメージが全然定まらない。
で、「is in you」を改めて読み直してみて、
「佐伯」と「密」。
理由はこれか!
「佐伯」は攻めで、「密」が受け。
「is in you」でなんとなく腑に落ちなかった「佐伯」の背景も、「off you go」で細かく語られるし、「佐伯密」の物語として読むなら、「is in you」と「off you go」はぜひ続けて読む事をお薦め。
この本単独だと「萌2」かなと思ったけど、前作を読み直して、+1の「神」